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第十三章 養女になる準備

27、辻とのおしゃべり

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ノア先生と出会ってから、櫻はたくさんの刺激を受けた。

出版社に出社する社内の中で辻と会話を始めた。

「先生、私、ノア先生と出会えて本当に良かったです。」
「そうだろ?」
「最初、先生の愛人かと思いましたよ。」
「異国人の愛人、欲しいね。」
「冗談言わないで。」
「ああ、冗談だよ。愛人作っている暇はないよ。」
「ノア先生、急いではいけないって言ってました。」
「急いではいけない?」
「そう。生き急いでは。」
「そうだね。彼女から見たら、僕らは生き急いでいるように見えるかもね。」
「ノア先生、辻先生のこと、ジュンって言ってましたよ。」
「そうだね。フランスではジュンと言われていたよ。」
「フランスでもイタリアのように生き急がないんですか?」
「そうだね。土日はしっかり休むし。まあシエスタはないけど、お昼休みは長いかもしれない。そして、夜は大体宴だよ。」
「毎日、宴で大丈夫なんですか?」
「食べるものは簡単だよ。フランスパンとチーズにワインとかね。時々肉もあるけど。みんなで芸術とか文化について語り合ったりして、そのうちに音楽を弾く仲間がいたりね。」
「ピアノですか?」
「ピアノもだけど、ギターとかトランペットとかね。」
「知らない楽器です。」
「今度、銀座にお店があるから、坂本と一緒に見てみるといいよ。」
「どうして坂本さん?」
「坂本は趣味がギターなんだ。」
「すごいですね。」
「実は坂本も外国にいた時代があってね。それでうちの親父が誘ったんだよ。」
「じゃあ、外国語も?」
「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ?」
「知りませんでした。」
櫻がそういうと、運転席の坂本から声がした。

「お話の途中に割り込むのも憚られましたが。」
「あら、坂本さんすみません。」
「私の英語はネイティブではありません。しかし、社長の外交相手は外国の方も多いので多少は嗜みます。」
「坂本さんが英語ができると知っていたら、たくさん教えていただいていたのに。」
「いえいえ、私は学校の教師ではありませんし。よく女学校でお勉強なさってください。」

坂本はまたゆっくりと車を発車すると、会話から離れた。

「まあ、日にちを合わせてみるといいよ。」
「あと、先生、聖書について勉強したことは?」
「ある程度はね。」
「何を読めばいいですか?」
「原書がいいね。英語のままの方が頭に入るよ。」
「じゃあ、そうしてみます。」
「どうして?」
「ノア先生に名前の由来をきいたら、聖書をきちんと読んだら、教えると。」
「うん。読んでおいて損はないさ。」

忙しくしてるのは自分自身だった。一つひとつをこなしながら、進んでいこうと思った櫻だった。
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