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第十三章 養女になる準備

21、辻からの相談1

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ある日、出版社に向かう車内で辻から櫻に相談があった。

「櫻くんにちょっとお願いというか、できるかどうか相談なんだ。」
「はい、先生なんですか?」
「あと少しで養女になることはわかっているよね。」
「はいもちろん。」
「それでなんだけどね、何か習い事を始めることはできるかな?」
「習い事?」
「そう。令嬢がしそうな。」
「先生、それ本気ですか?」
「うん、馬鹿げてることは百も承知だよ。」
「本当は先生は私にどうして欲しいんですか?」
「迷ってる。」
「迷ってることお願いしてるんですか?」
「こうなるから、いうの嫌だったんだ。」
「先生らしくないですね。」
「うん。僕はちょっと風来坊で生きていたからさ。こんなこと提案するのは矛盾してるってわかってるんだ。」
「でも?」
「養女に入る前から肩書きのようなものをつけておいた方が後々いいと聞いてね。」
「それって?」
「たとえば、お琴とかお茶とか、ハイカラだとピアノとかね。」
「私が通ってこなかった道ですね。」
「聞いて見てどう思った?」
「私、働くのが本当に好きで、今も学校も楽しですけど、本当にフルタイムで働けるようになったらどんなんいいかって思うんです。」
「うん、そう思う、僕も。」
「だから、今でも足らないって思ってるんです。でも、習い事をすると、働く時間が減りますよね?」
「そうなんだ。」
「でも、その習い事をする価値はありますか?」
「価値は人それぞれだからね。ただ、うちの親父がそこにこだわる可能性がある。」
「お父様が。。」

そう言うと、櫻はしばらく考えてしまった。
辻と将来一緒になりたい。でも自分のしたいことをどこまで優先すべきなのだろうかと。
そう言うことも含めて自分らしくありたい。でも、意固地になることが正なのかどうか判断がつかなかった。
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