上 下
222 / 416
第十三章 養女になる準備

16、トモヨと百貨店にて

しおりを挟む
望月組からアグリたちはトモヨのまつ、百貨店へと向かった。

「お母様、遅くなってすみません。」
「長かったから、心配したわ。」
「あの、お父様からお母様に。」
「あの人が?」

トモヨは渡された箱を開けた。
そこにはベッコウのかんざしが入っていた。

「ああ、そういうことね。」
「お母さん、お気に召しませんでした?」

「ううん。まだ、ボケてないと思ってね。」
「どういうことですか?」
アグリが聞いた。

「私が嫁に来た時に、初めてあの人に買ってもらったのがベッコウのかんざしだったのよ。」
「ああ、それで。」
「もう、私の髪の毛は短くなってるのにね。」
「お母さんの髪が短くなってること、お父様が多分ご存知じゃないですよ。」
「え?」
「もう、10年前で、東京で髪を切ったでしょう?」
「ああ、そうだった。」
「お母さんが洋髪で洋装してるなんてお父様には想像がつかないかもしれませんね。」
「そうだね。私はできるだけ目立たないように生きていたしね。」
「でも、今のお母さんなら、お父様とうまく行く気もしますよ。」
「私は、もう東京の生活に慣れてしまったからね。」

櫻はやりとりを聞いていて、とても切ない気持ちになった。
トモヨの中には光太郎がいることを感じ取ったかだった。
好きだけど、一緒にいいられない。
そういう状況が起きてしまったのは詳細はわからないが、夫婦が離れているのはとても悲しかった。

「ああ、櫻さん、あんたには世話をかけたね。」
トモヨが櫻に話しかけてきた。
「いえ、とても素敵な会社でいい場所でした。」
「そう?大きいだけが売りだと思っていたけどね。でも、櫻さんみたいな若い人がいい印象を持ってくれるように会社も変化しているのかもしれないね。」
「大きくて、素敵でびっくりしましたよ。」
「じゃあ、写真でもあったら見てみたいね。」
「そう言わずに、今度は行ってみましょうよ。」
「さあ。どうかね。」

光太郎は東京に来てみたいと言っていた。
その時、二人は再開するのだろうか。
櫻は二人がいい形で再会できることを祈るばかりだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

召し使い様の分際で

BL / 連載中 24h.ポイント:1,718pt お気に入り:6,046

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:58

好きなんです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

王子×悪戯戯曲

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:231

生真面目君主と、わけあり令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:675

この島に優しい風が吹きますように

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:15

処理中です...