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第十三章 養女になる準備

2、辻との会話

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放課後、いつのように車に乗り、辻と櫻は語らった。

「あの、先生。」
「どうしたんだい?」
「実は、旅行に行くことになりました。」
「おお、それは。誰と行くのかな?」
「アグリ先生とその家族です。」
「望月も?」
「あ、望月さんはわからないから人数に入れてません。」
「いいなあ。僕も行きたいなあ。」
「先生とも行きたいんですけど、これはあぐり先生のプレゼントなんです。」
「プレゼント?」
「4月になったら望月の家を出る可能性が高いから、そのお別れに。」
「アグリくんも粋なことをするね。」
「お嫁に出すみたいな物だから、妹と思ってる私と旅行したいって。」

辻は優しく笑った。
「アグリ君は君に夢中なんだね。」
「え?」
「アグリ君がここまで弟子に入れ込んだことなかったからね。」
「それは辻さんの伝手だからじゃないですか?」
「ううん。君の心から出る魅力がそうさせるんだよ。」
「私、魅力なんてないですけど。」
「少なくとも、君の周りの大人は君の才能と魅力に夢中だよ。」
「そんなふうに言っていただいても、私はまだ全てが中途半端で。」
「君が中途半端と言っても、他の人がしないことを君はいっぱいしている。それを自惚れてもいいと思うよ。」
「恐縮です。」


「で、旅行はどこに行くんだい?」
「群馬の伊香保というところです。」
「ああ、僕が少し前の旅行で行ったところだよ。」
「どんなところなんですか?」
「君は今までどんな温泉街に行ったことがある?」
「地元の秩父には温泉があるのですが、ほとんどが一軒家で、温泉街は初めてです。」
「旅館に入る前から心が躍るよ。」
「そうなんですか?」
「本当はどんなところか説明したいところだけど、初見で見た方が感動すると思うから控えておくよ。」
「ずるい。」
「え?」
「先生はたくさん旅行にいってるから、そういうこと言えて。」
「じゃあ、僕と一緒になったら頻繁に行こう。」
「約束ですよ。」
「ああ、僕は旅がライフワークでもあるからね。」

辻はアグリとの旅行を本当に喜んでくれた。
櫻は旅行一つでこんなになることを心から嬉しく思った。
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