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第十章 冬休み 旅行に出る

12、仙石原にて

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2人は途中、一泊してから仙石原についた。
昼間についたのだが、曇っていて、ススキ野原が寂しげに見えた。

「ねえ、辻くん。」
「どうした?」
「前にね、僕、ここにきた時、秋だったんだ。」
「ああ、あきはススキが綺麗な時期だね。」
「そう。ススキが光って見えた。今は物憂げだね。」
「君の心証を写しているのかもしれないよ。」

2人は、宿に行ってみた。

「あらあ、今日はこちらはいっぱいでねえ。」
「なんとか一部屋ないですか?」
「うーん。ずっと使ってない部屋だから、掃除もしてないし。」
「いいです。掃除します。」

その当時、仙石原は一軒宿だったのでそれは必然だった。

「じゃあ、お客さん、割引するから、この掃除用具でお願いしますね。」

さすが正月休み。旅館は混み合っている。

「さあ、どんな部屋なんだろうね。」
「僕、掃除するの結構好きなんだ。辻くんは?」
「僕も結構。人の家にお邪魔すると大体掃除してる。」
「似たもの同士だね。」

部屋に入ると、少し、カビ臭い匂いがした。
すぐに、窓をあけ、はたきをかける。
「結構、誇りがあるね。」
「掃除しがいがあるってものだね。」

掃除をしながら辻は思ったのだが、今の望月にはこう言った労働が気分を変える意味でもいいのではないかと考えた。

「ねえ、辻くん。」
「どうした?」
「僕ね、この部屋が綺麗になっていく様がとても気持ちがいいよ。」
「それは同意見だね。」
「とっても綺麗にして、美味しい夕飯を食べたいね。」
「そうだね。」

夕飯までに部屋は綺麗になった。と言っても古い部屋なので少し寒い。

「お客さん、ここまで綺麗にしてくれて。」
女中も驚いたようだった。
「夕飯はいいもの持ってきますよ。」

粗末な部屋だったが、夕飯んは老舗のとても美味しいものが出た。

「労働の後のご飯は格別だね。」
「ああ、東京に帰る前にいい体験をしたね。」
「僕、家に帰ったら掃除をルーティーンに入れようかな。」
「家事は女がするっていう時代は終わると思うんだ、望月くん。」
「どうして?」
「カラクリが助けになって、男性も女性もみんなするようになるとね。」
「君は突拍子もないことを言うけど、聞くとなるほどと思うね。」

一通り、夕飯を食べて、ロビーに行った。
「あ、写真ハガキ売ってるよ。」
望月が嬉しそうに言った。
「ああ、よかったな。」
望月はススキ野原の葉書を買った。

「これで、ここから葉書を出すよ。」
「うん、それがいい。」

旅はもうすぐ終わる。そのハガキが大阪に着く頃にはまた忙しくお互い働いていることだろう。
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