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第十章 冬休み 旅行に出る

1、南へいこうか

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望月は東京駅で辻を待っていた。

約束していた、冬の旅行だ。
辻の職業が、教師になってしまったので、日数は少ないが、ぜひ行こうと言われた。
望月自身も書きかけの原稿をカバンにいれ、やってきた。

「やあ、望月くん!」
「ああ、辻くん、時間通りだね。」
「今回は短いから時間を無駄にはできないからね。」

2人は、南に向かうということしか決めていなかったので、切符をどこまで買うか話し合った。
「遠くなれば遠くなる程、面白いけど、帰るのも一苦労だ。名古屋なんてどうだい?望月?」
「ああ、名古屋は美味しいモノがたくさんある。いいね。いいよ。」

ということで、2人は名古屋への切符を買うことにした。

電車に乗車すると、ふっと息をついた。
「どう?今回はきちんと櫻くんに言ってきたの?」
「いや、アグリくんから伝えてもらうことにした。」
「あれ?珍しいね。」
「別に櫻くんに飽きたわけじゃないんだよ。安心してるんだ。」
「でもさ、僕たちの旅行中に他の魅力的な男が現れたりして。」
「まあ、魅力的な男が現れても、それは、それだよ。櫻くんは僕を見てくれている。」
「惚気るなあ。まあ、僕は2人目の子供が生まれる父親だけどね。」
「君だって、家庭に収まるタイプじゃないのに、今は家にいる。」
「うん。2人目の子供、なんだか本当に楽しみなんだ。淳の時なんて風来坊だったからね。」
「君が物書きになって、父親になって、2人目の子供の父親になるなんて十年間はいろいろあったね。」
「君が物書きにしたんだよ。」
「ん?」
「君がダダを書けっていうから、そこから始まったんだよ。」
「でも、その前から書いてたじゃないか。」
「うん、でも、職業にしようと思ってなかった。君のおかげだよ。」

2人はホームで買った駅弁と頬張りながら、外の景色を眺めた。
「海が見えるね。」
「ああ、松島を思い出す。」
「ぼくさ、アグリと旅行に行ったことがないから、今度誘ってみようと思うんだ。」
「君も、1人の女性を愛することになったのかい?」
「ガールフレンドはいるけどね。」
「望月はずっと風船みたいなんだね。」
「辻くんだって、風船だったのに。」

「だからこそ、旅行に出たんだ。」
辻は、自分が平凡な生活をしていることに、少し飽きていた。
うわついた自分がどこから出てきたのかと思った。
だからこそ、旅行に出ようと思ったのだ。もちろん、約束ではあったが。
ということで、電車は南を目指している。

2人は和やかな空気の中、冬の旅を楽しむことになる。
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