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第八章 遭遇

10、櫻、未来への野心

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櫻は週末、一人で勉強をしていた。
夏休みということで、女学校から夏休みの宿題は出ていたが、それはとっくに終わらせており、アグリから借りた英語の辞書などを使って読み途中の海外の女性誌などを読んでいた。

そこには、力のある女性たちが困難に立ち向かって圧力にも負けず、世の中を変えようとしていた。

櫻は何故か、その行動に無性に心が駆られた。
世の中を変える。そんなこと自分にできるのだろうかと。
女性運動家はまだ日本では珍しい。
それに近いものが平塚らいてうである。
彼女の書くもの、全てに力があった。
自分と平塚の違いはやはり、財力だと思った。
自分には後ろ盾になってくれるパトロンと知り合う上流階級にいない。
しかし、こんな自分でも変われる。そう、辻はいった。
私らしい職業婦人になって、この世の中を変えたい。女性が生きやすい世の中にしたい。

そういう考えを思うようになったのも、全て辻の影響だ。
辻は運動家ではない。文筆業もおやすみだ。
しかし、彼は櫻を全身全霊で支えようとしている。
彼を一緒になれたらどんなにいいか。そう櫻は考えていた。

英語の執筆は全てをうつすことはできないが、心に残る言葉だけノオトに書き写している。
「女性よ、今たち上がる時だ。私たちは無力ではない。」
誰が書いた文章かわからなかったが、とても印象に残った。
女学生で16歳という私がこのさき力を持って戦っていきたい。
自分で文章を書けたらどんなんにいいだろう。
来週の火曜日に編集部に行けることが楽しみだ。その前に月曜日、淳之介の家庭教師もある。
家庭教師というのを実際にして見ると、自分の不得意さなどを是正しなればと思うこともあり、教師という職業にも興味はある。
未来は無限に広がっている。辻にこのことを早く話したい櫻だった。
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