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第八章 遭遇
7、いざ望月家へ
しおりを挟む翌日の11時過ぎ辻は望月邸を訪れた。
電話をしてからでもよかったのだが、自宅の電話は女中どもに聞かれてしまう。
リーン。
呼び鈴を鳴らす。
「はーい、どなた?」
アグリがでた。
「辻です。アグリさんにちょっと相談が。」
「私は今日も出勤じゃないから書斎で話しましょ。」
書斎へ通された。
今日は、リビングでトモヨと淳之介が語らっていた。
「あれ?辻さん、きてくれたの?」
可愛い淳之介から言われると嬉しい。
「ああ。ちょっとママに用事でね。」
「なあんだ。じゃあ、お話し終わったら、トランプしよう!」
「いいよ。ちょっと待たせてしまうかもしれないけど。」
トモヨが話しかける。
「ちょうどもうすぐ昼だから食べていくかい?」
「ああ、ありがとうございます。ちょっと先約があるので、昼食前には出ます。せっかくのお誘いすみません。」
「いいんだ。今度はきっちり食べにきてくれよ。」
望月家の皆は優しい。
書斎のソファに腰掛けて、開口一番、辻は話し始めた。
「それでね。もうアグリくんは相談受けてるかもしれないんだけど。」
「お父様の件ね?」
「ああ、すぐわかるから助かるね。櫻くんから相談されたから父にそれとなく聞いてみたんだ。」
「それで?」
「うん。半々かな。でも、僕の勘では父は櫻くんのことをもう調べ始めてる気がする。」
「どうしてそう思ったの?」
「資生堂パーラーで見習いさんのうち一人は聡明そうに見えたっていうんだ。」
「大久保さんは愛嬌のある顔だものね。利発そうなは櫻さんに違いないわね。」
「父はどんな受け答えするかを知りたかったのかもしれない。」
「でも、お父上、櫻さんを非難するようなこと言わなかったんでしょ?」
「非難も歓迎もどちらもないさ。でも、俄然、僕は櫻くんを立派な職業婦人にして父に紹介したくなったよ。」
「あら?不安から期待になったのかしら?」
「自分でもおかしいと思うんだけど、櫻くんなら父の想像を超えていけそうな気がするんだ。」
「うん。私、櫻さんは名を残す人になる気がする。」
二人で笑い合った。
「私は櫻さんがもっと新婦人社で働きたいなら、調整するわよ。夏休みももう少しだしね。もし望月洋装店での修行が減ったとしても弟子には変わりはないんだからね。」
アグリは本当に心が広い。いや、柔軟であると辻はつくづく思った。
このあとは淳之介とトランプをしたら、お弁当を持って櫻と昼食を明るく食べようと思った。
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