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第七章 新しい夢探し

10、望月家 夕食の宴

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店に出ていた弟子たちも帰ってきたので、夕飯を食べることになった。
「もう、辻さん、最近いらっしゃらないから望月邸飽きちゃったのかと思ったわ。」
トモヨは姑らしからぬ、若々しいことを言う。
「いえいえ、望月邸はトモヨさんあってのことでしょう。僕なんか借りてきた猫でいますよ。」
「口ばっかりね。ハハ。」

いわゆる長身の整った顔だちの辻は女性たちに人気だ。
しかし、彼特有の女性に緊張させない軽薄さが弟子たちには人気であった。
「さあさ、今日は辻さんが百貨店でお惣菜を見繕って、ご飯まで炊いてくれたのよ。存分に味わって。」
アグリが弟子たちに食すように促すと、皆浮き足だって、それぞれの惣菜をとった。
和食の惣菜もあれば、和食、珍しい洋食の惣菜もある。

「なんだか、ホテルに来たみたいですね。」
一人の弟子が言った。
「あらあなた、ホテルに行ったことがあるの?」
「いえ、お客様から聞いたんです。帝国さんではそう言うことをしてるって。」
「そうなのよ。我が家をこんなふうにしてくれて、辻さん本当にありがとう。」

櫻は末席でニコニコとしてその風景を見ていた。
辻は本当にすごいと思う。
人を幸せにする人というのはこういうことなんだなと思う。
その人と自由恋愛をしている自分は本当に幸せなんだと深々と感じた。

「ほら、淳之介くん、好きなものをとっていいんだよ。」
辻が促す。
「僕、迷っちゃうよ。ねえ、櫻先生、どれがいいと思う?」
「え!私、どれも食べたことがないものばかりで。あ、でも、このチマキは美味しいと思いますよ。」
「チマキって何?」
「中華の味をしたもちもちしたお米のおにぎりのようなものですよ。」
「わあ、それ食べてみる。」
美味しそうに淳之介が食べると、弟子たちもこぞって取って皆で笑い合って食べた。
「いやあ、本当に良かった。」
辻がポツリという。
「もう、いいところ、全部持ってちゃうんだものね。辻くんは。僕は父親だっていうのに威厳もなきゃ食べるしかないよ。」
「そうむくれるなよ。望月くんは今や文壇になくてはならない人物になってるじゃないか。」
「そうやって、こういうところで言うのもずるいね。そう、僕は売れつつある!」
みんながその言葉を聞いて笑い合った。
喜んでいる望月を見て、嬉しかったからだ。
楽しい夕食の宴はこうやって過ぎていった。
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