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第七章 新しい夢探し
4、編集社での初仕事
しおりを挟むお昼から戻ってきたタイピストたちに櫻は紹介され、歓迎された。
「まだ女学生なんでしょ。タイピストもいいわよ。」
ベテランタイピストと見える、若い女性がアドバイスした。
その当時、タイピストは1番憧れる職業の一つとされていて、彼女たちはその誇りを身に纏っていた。
「さあ、江藤さんは校正だから、ちょっと見てもらいたい原稿をチェックして。」
渡されたのは一編の小説だった。
「婦人の友でも小説載せるんですね。」
「今までもいくつか載せてきたのよ。この作品が好評だったら続編を描いてもらうつもり。」
「通り美智子さんてまだ無名の方ですね。」
「うん、私のちょっとした知り合いでね。とてもいい作品だけど、書き間違いとか何かあったら私に渡して。」
櫻は早速その作品を読んでチェックした。
直す所はなさそうに思えた。それよりも、そこに描かれている少女、いや女性が自分と似通っていて、とても共感した。
そして、感動した。こんな小説を書ける人物と話をして見たいとも思った。
「富田編集長、特に直すところはなさそうです。」
「そう、よかったわ。ではタイピングに渡すことにするわ。来月号の目玉にするから急ぎでね。」
「編集の立場でこんなこと思っていいのかわかりませんが、感動しました。こんな小説を書く人とお会いしてみたいと思いました。」
「そうね。いつか連載されることになったら、あなたにも紹介できるかもしれないわね。」
その後も、他の記事の校正をした。時々間違った送り仮名などもあったので、それを赤鉛筆で直しながら、この雑誌のレベルの高さを思った。
「編集長、3つの記事を訂正させてもらいました。」
「ああ、ありがとう。江藤さん、早いわね。」
「いえいえ、私、勉強する時間があまりないから早く読む癖がついてるんです。私自身の仕事もきちんとできるかわかりませんが。」
「ますます、あなたに他の仕事も任せてみたくなったわ。今週はとりあえず、校正を頑張ってみましょう。」
仕事をしている間、集中していたが、ふと、窓から外の景色が綺麗に見えた。
東京湾が見える。
前に、辻と浅草橋に行ったことを思い出した。
あれは隅田川だったが、ここも少し似ていた。
水のあるところに、なぜか自分は縁がある。
秩父のあの荒川もこの東京湾につながっている。
この大海に自分は一歩足を踏み入れたのだ。職業婦人になるべく、それを頑張りたい。
今は仕事を頑張って、成長することに力を入れようと、櫻は思うのだった。
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