95 / 419
第六章 愛を確かめ合う関係
13、櫻を深く想う夜
しおりを挟む辻は家に帰ってから、あの小説が来月、誌面に載った時のことを考えていた。
櫻とのことはエッセイとして書くつもりはない。
しかし、読んだ女性が羨むような人生を歩んでいることを櫻に知ってほしかった。
「ただいま」
玄関で父が帰ってきたようだ。
「おかえり、父さん」
ああ、と一言言うと、父はすぐに自室に行ってしまった。
夕飯は接待で済ませてきたのだろう。
家で食事をするのは母が出て行ってから常に一人だった。女中は女中部屋で食べるので存在は感じるが会話をしながら食事をしたことがなかった。
学校での昼食は楽しかった。学友と弁論したり、時には慰め合ったり、学校というところのありがたみを感じた。
それもこれも、辻財閥というレールが用意してくれたもので、辻はそのことに感謝していた。
櫻が女学校で浮いていることを最初に指摘した時に、彼女はそれを必死に隠そうとした。人は異分子を排除したがる。
彼女の容姿が淡麗な部分も、貧相な召物も、学業ができる部分もみんなの反感を買うものになっていた。
辻は彼女に学友ができつつあることを聞いて、嬉しくなった。
理由も自分が作った絡繰クラブに櫻を誘ったということで、自分が櫻の後1年半の学生生活を学友と楽しく過ごせるようになるのは本当に望ましいことだった。
未来には貧富の差で学業ができるできないが決められないようにならないでほしい。
しかし、自分の分析ではやはり金の集まるところに教育はかけられて、どんなに生まれが優秀でも育ちが貧しければ、上の学校にいくことは難しいという論文になった。自分が未来を変えることはできないのだろうか。今までは自分だけ、楽しければそれでいいと思っていた。しかし、櫻といることで櫻との未来、いや櫻と言う人物と近い人間が幸せになってほしいと心から願う。
あれだけ自由自由と言っていた自分が、他人の幸せを願うなんて本当に驚きである。
もちろん、まだ自分は自由主義者であって、他人をどうこうしようなんて思っていない。
作品に込めた思いは、16歳の少女が精一杯生きて、人生を楽しむことを櫻を含めわかってほしいからだ。
特に続編は考えていない。そこも、自分の自由だ。でも、櫻が望むなら書いてみたい。もちろん、作者は秘密にして。
自分がもう一度筆を持つなんて思ってもみなかった。
それだけでも未来は変わっている。櫻という愛おしいあの人を思いながら、辻は絡繰研究の論文を進めた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる