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第四章 夢を見つけた

11、大杉ナニガシ

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夕食後、櫻は浅草橋からの帰りの車中を思い出していた。



「櫻さん、今日1日はどうでしたか?」
「先生、私咲穂とも言いましたけど、勿体無い体験、感謝してます。」
辻が櫻の体を引き寄せる。
「あなたとずっとこうしていたいけど、、、僕は実際のところ、葛藤もしてるんですよ。」
「葛藤?」
「僕も言った通り、君はどんどん成長している。僕なんて手の届かないところに行くんじゃないかってね。」
「先生の先になんて行くことできませんよ。」
「さてどうかな。ここに新聞がある、ちょっと読んでみるか?」

その新聞には、群馬の鉱山で大量の病気が流行っているということだった。
そこにデモで参加するたくさんの若者。何人か寄稿していたが、女性の姿や書面は見られなかった。

「実際読んでみて、私もデモに参加したいと思いました。」
「やっぱりね。。。。僕はあなたにこれを見せるべきか迷ったんですよ。」
「でも、私は自由に動ける身じゃないし、ここに行くこともできない。。。」
「その葛藤を君に生まれてしまうこともかなしいし、大杉ナニガシの文章を読んで、君が心を動かされることがわかったからね。」
「大杉さんて?」
「世間を賑わせてる賑やかしかな。」
「にぎやかし?」
「まあ、彼も思想を持って生きている。僕とは自由を求めるということでは一緒だが、自由の方向性が違う。僕は僕個人の自由。彼は世の中の自由さ。」
「世の中の自由。。。」
「ほら、もう気になってる。」
「先生!すぐ嫉妬するなんて先生らしくないですよ。」
「そうだね。。僕もちょっと世の中が傾いてきたから、おかしくなってるのかもしれない。でも、本当に君を縛るような自由を取り上げるようなことはしたくないんだ。」
不意に櫻が抱き合ってる辻の頭を撫でた。
「ご安心ください。私はまだどこかへ飛び立つなんて考えていません。」
「ほんとダメだな。ありがとう。頭を撫でられたなんて、母親ぶりだよ。」

そのまま、二人は抱き合ったまま、望月邸へと向かった。
言葉は要らなかった。
でも、実際櫻の心の火がついたのは事実だった。



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