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第三章 愛の確認

8、ウェルカム 新しい家

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食事が始まった。
どうやらあぐりの家族と弟子たち全員がテーブルに席があり、櫻にも用意されていた。
「今日もみなさん、お疲れ様。いつも夕食を用意してくれる皆さんも、お店で残業してくれていた皆さんもありがたいわ。冷めてしまう前にご飯と行きたいところだけど、今日から弟子入りする江藤さんを紹介するわ。江藤さん、自己紹介して頂戴。」
「は、はい。江藤櫻です。まだ女学校3年ですが、あぐり先生とご縁があり、弟子入りさせていただくことになりました。なんでもいたしますので、どうぞよろしくお願いします。」
「そう、なんでもして欲しいところだけど、夏休みまでは学校があるから、朝の食事と学校後の仕事と夕食の用意をお願いね。」
「はい、承知いたしました。」
「あ、後、ちょっとお話ししたいから、夕食後に私の書斎まで来ていただけるかしら?」
「わかりました。でも、書斎の場所は。。?」
「あ、この食堂の奥にサンルームがあるでしょ。その奥。」
「では、夕飯の片付けが終わりましたら向かいます。」

その後、歓談しながら夕飯は始まった。櫻がこの間のお客様だったことも皆覚えており、辻のことを聞いてくるものもいた。しかし、辻から関係を疑われてはいけないと言われていたので、櫻は辻は先生で自分の職業見学に付き合ってくれただけと言っておいた。
意地悪な弟子がいたらどうしようと不安だったが、アグリの弟子は皆素直で、裏表がない闊達な集団なのであった。
そう言うことも、櫻には新鮮だった。ここの弟子たちのキラキラした羨んだりしない気持ちは、自分たちは銀座の選ばれた職業夫人なんだという自信から来ていると桜は思った。それを証拠に、辻のことを聞いてきた他は、あまり櫻の過去や学校のことを聞いてこなかった。他人の噂話より、自分がどう成長するかが興味があるようだった。

夕食は滞りなく終わり、櫻も夕飯の片付けを手伝うと、あぐりの書斎へ向かった。

「今日一日お疲れ様でした。緊張したでしょう?」
アグリから優しい言葉をかけられた。
「忙しかったですが、こちらの家に来て、本当に良かったです。皆さん優しくて、ますます修行に励みたくなりました。」
「まあ、本格的な修行も夏休みからってことで。あなたにはこれからの仕事内容と辻さんから預かった手紙を渡したいからお呼びたてしたのよ。本当は接客のところも手伝って欲しいところだけど、うちのお客様には銀上女学校の生徒も多いの。もしあなたが働いているのを見たら騒ぎになるでしょう?だから申し訳ないのだけれど、事務所で経理と雑務をやってほしいの。」
「経理はこの間、百貨店でもさせていただいていました。書類仕事はもっとやって見たいと思っていたところです。」
「そう言っていただけると助かるわ。まあ、他の子もいきなり表には出さないんだけどね。あなたの部屋を案内してくれた大久保さん、あの人にも今は書類仕事してもらってるの。まず弟子に入ったら、この家のことと、お店のシステムがどうなってるかを知って欲しくてね。ああ、話が長くなってしまったわ。辻さんからのお手紙わたすわね。」
アグリから手紙を受け取った。
「こちらで読んだほうがいいですか?」
「そんな無粋なことしないでいいわよ。私は自由恋愛には賛成よ。でも、あなたたちは公表できる関係じゃないから、この家に来てより気をつけなきゃいけないわね。」
「アグリ先生、ありがとうございます。私、少しでも力になれるように頑張ります。」
「ここを我が家だと思っていいわよ。私は弟子もみんな家族だと思ってるの。改めて、我が家へようこそ。」
「本当にありがとうございます。私、本当に嬉しくて、、、、」
櫻は泣いてしまった。感動の涙だ。
「そこまで嬉しがってくれるとは本当にありがたいわ。でも、辻さんとのこと、注意しなきゃね。」
「私、全部この手から離したくないんです。今この幸せを、、、。」
「明日から、もっと忙しくなるわよ。でも、私は味方だから。忘れないでいて。」

辻からの手紙を手に、あぐりの書斎を後にした。そして櫻は自室へと嬉しい気持ちで向かった。



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