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第三章 愛の確認
6、叔父の厳しさ
しおりを挟むその日の櫻は多忙だった。学校から帰ったら、百貨店に行き、本日限りになることに皆が知っていたが残念がった。
「江藤さんがきてくれて本当にありがたかったから残念。。。また、いつでも帰ってきてね。」
同じ経理課皆が端々に言ってくれた。櫻はこの短期間でもここにいられて本当に幸せだと思った。
百貨店をさった後、辻の乗っていない車で上野の家に向かった。
そして、部屋の荷物を持つと、奥の部屋にいる叔父に挨拶に行った。
「おじさま、サクです。入ります。」
叔父は微妙な顔で櫻を招き入れた。
「今度はどんな魔法を使ったのかな。」
「魔法だなんて。私は働きたいのです。それに手助けしてくれるたくさんの人がいるのです。」
「私がそんな簡単な理由で、ああわかったなんて言う阿呆に見えるかね。これでも丁稚で長く働いてきた身だ。サク、お前には何か後ろ盾があるんだろう。」
「後ろ盾なんて。。協力してくださる方はいますけど、私の意思でこう動いているのです。」
「何も、私は働くことがダメだなんて言ってない。でも、お前が許嫁という身分ということは忘れちゃいけない。兄貴には電報を打ったよ。お前がうちではなくて他で奉公しながら学校に通うことを。そして夏休みに帰らないことをね。」
「父は私を迎えにくるでしょうか。」
「私は兄貴の性格を知ってるからね。ああ見えて、体裁には本当にうるさいんだ。丁稚だって、本当は兄貴にきた話だった。でも、家をつぐものが外へ出るなんてって、親を説得してね。あの時は、悔しかったよ。でも、結納金ももらってるんだ。もう逃れられないよ。」
「おじさま、運命って変えられるの、私おじさまから教えられたんですよ。秩父の農家の出で今は上野の菓子屋の主人なんて華麗な転身じゃないですか。」
「お前は本当の苦労ってものを知らないね。ただの丁稚で終わってたら、それは楽だったかもしれない。野心と言うものが私のこの地位を築かせたんだよ。でもこれは男だからしていいことであって、女がでしゃばっちゃいけない。ましてやこの結婚がご破産にでもなったら、お前の家自体どうなるんだ。」
「ちゃんと納得した形で私は働きます。結納金だってすぐに返せるよう努めるつもりです。」
叔父が、ふと目をふせた。
「まだ、近代化が進んだと言っても、帝都は江戸なんだ。昔ながらの考えの人の方が多い。その世の中でどうやって渡り歩くんだ。」
「私、誰かのためになんて生きません。自分のために。夢のために。望月洋装店ではきっちり修行してきます。」
「お前に何を言ってもダメなようだね。行くといい。でも、兄貴がお前に会いにくるのは止められないかもしれないが。」
「十分覚悟はしております。私は自分に恥じないよう、生きていきます。おじさま、帝都に出てきてから本当にお世話になりました。」
「お前は本当に意固地だね。お前と野枝が逆じゃなくて良かったよ。」
「本当にありがとうございます。では、失礼します。」
櫻は部屋を後にした。他の女中に挨拶をして、早々に田中家を出た。
家の前にはまだ車が止まっている。
(随分待たせてしまったわ)
車に乗車すると、後部座席には辻がいた。
「やあ!間に合ったね!」
「先生!」
「今日はちょっと残業があったから間に合わないかと思ったけど、どうにか間に合ったよ。」
「先生、、、叔父様からお小言を言われてしまいました。」
「そりゃあ、あなたは可愛い姪だし嫁入り前の大事な娘さんだからね。」
「私本当にこんなことして。父だってアグリさんの家に来てしまうかもしれない。」
「安心してください。何度も言っているでしょう。さあ、望月家へと向かいましょう。」
車が発進した。
「僕はね、あなたとともに生きていきたい。だから、どうしても許嫁には取られてはいけないのですよ。」
「先生、父をご存知じゃないからそんなふうに言いますが、結納金欲しさに娘を売る親ですよ。」
「少なくとも、お父様には君への愛情はない、と?」
「4歳から丁稚でしたから、ほとんど家の記憶はありません。結婚が決まった時、終わったともいました。」
「でも、あなたは勇気を出して、帝都に出てきたじゃあありませんか。僕はあなたの勇気がとても好きです。」
そういうと優しく櫻を抱きしめた。
「望月の家に着くまで、今日はずっとこうしていましょう。」
二人はお互いの鼓動が聞こえる距離で抱き合っていた。
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