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第三章 愛の確認
1、辻の取り合い
しおりを挟むアグリと会ったあの日、辻に宣言したあの日から、櫻は今まで以上に学校も、仕事も熱心に打ち込んだ。
学校で、櫻がイキイキしているのをみて他の生徒はなぜか面白くなかった。
今迄奨学生でどこか遠慮がちにしていた櫻が、キラキラしているのだ。
しかしここは銀上女学校。生徒を蔑ろにしたなんて噂が立ってもそれは生徒にとって、マイナスなのだ。
同じ葉組の生徒たちは、少し櫻のことを邪魔に思っていた。
「ねえ、江藤さん、お話があるの。」
クラスの華である坪井なつみが、話しかけてきた。
「あなた最近、とても楽しそうじゃない?何かあって?」
「え?あ、何も。。あ、勉強や生活をもっといいものにしたくて、私なりに、足掻いているのです。」
「でもねえ、そんなに楽しそうにしてられては、こちらもねえ。」
「楽しいのに、つまらなそうに生きろ、と?」
「そんなこと言ってないじゃない?そう言うことじゃなくて、分を弁えろってことよ。」
櫻は悲しかった。誰にも迷惑はかけていない。でも、楽しそうにもしていてはいけないなんて。
「ねえ、そんなこと江藤さんに言ってどうなるの?」
上野和枝が、横から入ってきた。
「江藤さん、勉強が楽しくて仕方ないってこの間も言ってたわよ。でも、いろいろ忙しくて絡繰クラブにも入れないってね。坪井さん、あなたは絡繰クラブに入って、先頭切ってるじゃない。辻先生ともいい感じだし。」
「そうよ。私が1番辻先生と近いの。でも、学校を出たら辻先生にはもっとライバルがいる。すぐにお嫁になんか行けないのよ。」
すると櫻が口を開いた。
「私ができていることじゃないんですけど、皆さんももっと自由に生きたらいかがですか?両家のお嬢様なんだからしたいことをもっと主張しても。。。」
「あら、あなた口を開いたかと思ったら随分と大きなこと言うのね。そう、私たちは自由よ。あなたと違ってね。」
「そう、その通りです。貧しい私なんてあなた方に及ぶことはないのです。だから、私のような底辺の人間は放っておいてくださいませ。」
上野和枝が応戦する。
「そうその通りよ。江藤さんが坪井さんに及んでるわけでもないのに、イライラしたもの負けじゃない?」
そう言われると、櫻も少し悲しくなった。
「そう、そうね。私ったら、ちょっと言い過ぎたわ。江藤さん、これからも頑張ってお勉強なさって。」
坪井はそう言うと、後ろに集まっていた仲間の元に戻った。
上野が小さい声で言う。
「あなたが最近、生き生きして見えたのは本当よ。だから、あんまり目立ったのよ。」
「はい、、、気をつけます。」
なんと生きにくい世の中だろう。頑張って楽しくて生きているのに。それを否定してくるクラスメイト。
でも、上野が助けてくれるとは思わなかった。
「上野さん、ありがとうございました。助かりました。。」
「あなたが絡繰クラブに来ていたら、それはもっと大騒ぎになったかもしれないわね。辻先生が好きそうなタイプだもの。」
ぎくっとした。
「いえいえ、辻先生なんて私の手の届く方ではありませんから、、ご安心を。」
廊下では、密かにそのやりとりを辻が聞いていた。
自分が出て行ったら、櫻の立場を悪くすることをわかっていたので、廊下の端で本を読みながら聞いていたのだ。
なんと不自由な学校なのだろう。櫻の羽ばたきをここまで否定するなんて、と思う。
しかし、不自由な中で生きてきた彼女たちは、生き生きとした櫻を嫉妬下のは間違いないだろう。
百貨店からの帰りの車内で、辻はいう。
「お昼のやりとり、偶然聞いてしまったのですよ。」
「先生、私、自由に生きたいだけなのに。」
「いいんです。あなたが自由なのは本当だ。僕は羽ばたきたつあるあなたをみていると嬉しいし、でも、僕からも飛んで言ってしまうんじゃないかってね。」
「先生、私、大切なもの、全部失いたくないんです。お仕事も、勉強も、先生も。先生、、、、、」
辻が桜をギュッと抱きしめた。
「あなたは僕をおかしくさせます。こんなペースにさせられるなんて。愛おしいすぎる。。」
唇が重ねられた。二人はお互いを思いながら、口付けを続ける。
「櫻さん、僕たち、キッスをせずにはいられませんね。」
急に英語で言われたので、恥ずかしくなってしまった。
「せんせい!」
「君とずっとこうしていたい。」
そして、もう一度、唇を奪い合う二人であった。
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