【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めの

文字の大きさ
上 下
25 / 26

さよならの代わりに

しおりを挟む
 広間に悠々と入ってくる王の姿を見て、人々は踊りをやめて頭を垂れる。
 私もロイド様の横で頭を下げながら、内心でアランの魂胆に呆れていた。

 夜会に王をお招きすることはそう多くはない。
 なのにわざわざお招きしたということは、きっと王の前でロイド様と私に恥をかかせようと企んでいたのだわ。
 残念ながら、アランの思惑どおりにはならなかったけれど。

「みな、楽しんでいるところだろう。頭を上げておくれ」

 その言葉に皆が姿勢を正す。

「国王陛下」

 アランが媚びるように陛下にすり寄ろうとしたその時、

「おお、ロイドではないか!」

 陛下は、笑みを浮かべてロイド様の方にやってきた。

「そなたの素顔は久しぶりに見たぞ。相変わらずの男ぶりだな」
「は……、もったいないお言葉でございます」

 ロイド様が恥ずかしそうにはにかむ。
 陛下とロイド様の親密な様子に、人々がどよめく。
 かくいう私も驚いている。

 陛下が、にこにこしながらお話を続けられた。

「昔はよく王宮に遊びに来てくれたのにのう。そなたの父の死後は、なかなか領地から出てこなくなってしまったゆえ、ひそかに心配していたのだ。だが、杞憂だったようだな。こんなにも美しい妻を迎えるとは。あらためて、結婚おめでとう。ロイド、クララ」
「ありがとうございます、陛下」
「ありがとうございます……!」

 陛下からの言祝ぎに、私たちも心から感謝の言葉を述べる。

「そうだ、そなたが献上してくれたロヴァリア豆だが、成長が早く、味もよく、大変素晴らしい。知ってのとおり、今年は小麦が不作の地域が多い。ロヴァリア豆が救世主となるやもしれん。よくやってくれた」

「私一人の力ではありません。我が領民たちの協力と、そしてクララがロヴァリア語の文献をあたってくれたおかげで、生育に成功したのです」

「そうであったか。よき民と妻を持ったな、ロイド。クララ、そなたもまた我が国の救い主だ」

「そのような過分なお言葉をいただけて……、これほど光栄なことはございません」

 感激で目を潤ませた私の肩を、ロイド様が優しく抱いた。

「ええ、自慢の妻です」
「仲睦まじくて何よりだ。明日、二人で王宮に来てくれ。ロヴァリア豆について詳しく聞きたい」


 和やかに歓談する私たちをアランが赤くなったり青くなったりしながら見ているのが、視界の端にちらっと映った。

 何もかも裏目に出てしまったわね。
 かわいそうな人。

 私の胸に憐れみがよぎり、同時に自嘲が込み上げて来た。

 この人に恋をしていた私は、幼く、人として未熟だったのだわ。

 私はもう目が覚めた。

 願わくは、アラン、あなたもいつか目を覚ましてくれますように—— 


 さよならの代わりに、胸の奥でそう祈った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。 しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。 夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。 危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。 「……いつも会いに来られなくてすまないな」 そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。 彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。 「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」 そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。 すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。 その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。 ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。 魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。 そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。 ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。 妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。 侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。 しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

処理中です...