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ロイド様の告白
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「すまない……。誤解させてしまったようだ」
ロイド様は、困ったようなお顔で、そう言った。
私とロイド様は、私の部屋のソファに隣り合って座っていた。
リズはお茶を入れるとすぐに出て行ったため、二人きりだ。
ロイド様は、言葉を探しながら、でも丁寧に話してくれた。
「確かに、ロヴァリア語のわかる人を探していた。
王の四十歳の祝いに参加したのもそのためだ。まずは王宮図書館員に声をかけようとして、あなたを見かけた。
……なんて素敵な人だろうと思った。
こんなに可憐で、それでいて知性のきらめきを感じさせる女性を見たのは初めてだった。
私は当初の目的も忘れて、ロヴァリア語についての会話に花を咲かせるあなたに見入ってしまった。こんな人が私の元で研究を助けてくれたらどんなにいいだろうと思った。
だが……、ある男が別の貴婦人を伴って現れた途端、あなたは悲しそうに顔を曇らせ、立ち去ってしまった。
その後は、あなたのことで頭がいっぱいで気もそぞろになってしまって……。結局目的も果たせないまま帰ってきた。
ドラヴァレン領に戻ってからも、あなたのことが忘れられなかった。
父母は早くに亡くしたが、私にはトドリや他の執事たちもいたし、寂しいと感じたことはなかった。研究に夢中で、誰かに心惹かれたことはなかった。
それなのに、あなたの姿が頭から離れない……。こんなことは初めてだった。
トドリに調べさせて、あなたはセラヴィエ伯の令嬢で、ノランサス伯子息と婚約していること、そしてあの時見かけたのがその男だとわかった。
私ならあなたにあんな悲しそうな顔はさせないのに——そう思ったら矢も盾もたまらず、ダメ元で求婚の申し込みをしていた。
だから——、」
ロイド様が言葉を切って、私をじっと見つめた。
「きっかけはロヴァリア語だったけれど、求婚したのは、あなたを好きになったからだ。
……ともに日々を過ごすようになって、あなたの優しさ、賢さに触れて、ますます好きになった。
私はこのように言葉足らずで、話もうまくない。面白味のないつまらない男だが、できればあなたにも私を好きになって欲しいし、好きになってもらえるように努力したいと思っている」
そこまで話したところで、ロイド様がもどかしそうに頭を掻いた。
「ああ、やっぱり、うまく言えないな……、どうだろう、私の思いは伝わっただろうか——え、クララ……!?」
どうしたんだいと、ロイド様がうろたえた声で問いかけ、私の頬を指でぬぐった。
その感触で、私は自分が泣いているのだと初めて気がついた。
ロイド様は、困ったようなお顔で、そう言った。
私とロイド様は、私の部屋のソファに隣り合って座っていた。
リズはお茶を入れるとすぐに出て行ったため、二人きりだ。
ロイド様は、言葉を探しながら、でも丁寧に話してくれた。
「確かに、ロヴァリア語のわかる人を探していた。
王の四十歳の祝いに参加したのもそのためだ。まずは王宮図書館員に声をかけようとして、あなたを見かけた。
……なんて素敵な人だろうと思った。
こんなに可憐で、それでいて知性のきらめきを感じさせる女性を見たのは初めてだった。
私は当初の目的も忘れて、ロヴァリア語についての会話に花を咲かせるあなたに見入ってしまった。こんな人が私の元で研究を助けてくれたらどんなにいいだろうと思った。
だが……、ある男が別の貴婦人を伴って現れた途端、あなたは悲しそうに顔を曇らせ、立ち去ってしまった。
その後は、あなたのことで頭がいっぱいで気もそぞろになってしまって……。結局目的も果たせないまま帰ってきた。
ドラヴァレン領に戻ってからも、あなたのことが忘れられなかった。
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それなのに、あなたの姿が頭から離れない……。こんなことは初めてだった。
トドリに調べさせて、あなたはセラヴィエ伯の令嬢で、ノランサス伯子息と婚約していること、そしてあの時見かけたのがその男だとわかった。
私ならあなたにあんな悲しそうな顔はさせないのに——そう思ったら矢も盾もたまらず、ダメ元で求婚の申し込みをしていた。
だから——、」
ロイド様が言葉を切って、私をじっと見つめた。
「きっかけはロヴァリア語だったけれど、求婚したのは、あなたを好きになったからだ。
……ともに日々を過ごすようになって、あなたの優しさ、賢さに触れて、ますます好きになった。
私はこのように言葉足らずで、話もうまくない。面白味のないつまらない男だが、できればあなたにも私を好きになって欲しいし、好きになってもらえるように努力したいと思っている」
そこまで話したところで、ロイド様がもどかしそうに頭を掻いた。
「ああ、やっぱり、うまく言えないな……、どうだろう、私の思いは伝わっただろうか——え、クララ……!?」
どうしたんだいと、ロイド様がうろたえた声で問いかけ、私の頬を指でぬぐった。
その感触で、私は自分が泣いているのだと初めて気がついた。
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