3 / 6
4.開幕
リアルとアナザー
しおりを挟む
深呼吸をして目を開いた時、柊は既に大剣を振りおろす直前であった。
「……っ!?」
攻撃をした側の柊の腕に微かな痛みが走る。
大剣を躱した恒星が柊の腕に剣を叩きつけたが、大して効いていない様子だった。
(硬い…あの筋肉、まるで鉄の塊みたいだ)
柊は恒星を振り払おうと腕を払ったが、それよりも早く恒星はその場から離れ、今度は横腹に剣を打ちつける。
その次に左足、さらに左腕に連撃を入れた。
攻撃を受ける度に反撃をするが、先程よりも数段素早くなった恒星に当たる事はなく、その全てを尽く躱された。
「くっ…なんて速さだ」
(攻撃を躱すのは訳ないが…どうする。あの鉄のように硬い体は一体どうすれば…)
少し助走を取り鳩尾を剣で突いてみるが屈強な体に弾かれてしまう。
(クソが!! だったら…)
柊の手前で地面を滑るような形で近づき、両脛を剣で撃ちながら股の間を潜り抜け、さらに両膝の裏を撃った。
「ぐっ……」
両足への集中攻撃でさすがの柊もたまらず両膝をついた。
恒星は滑った姿勢からそのまま後ろ向きでハイジャンプし、首筋と顎に渾身の一撃を入れる。
頭に強い衝撃をくらって脳震盪が起こったのか、柊はその場に倒れ込んだ。
(よしっ!! ってやばい、着地のことまで考えてなかった)
高く飛び上がりすぎて体勢が崩れ、着地に失敗する。
頭から落ちた際に負った怪我で流れ出した血によって片目は開くことが出来なくなっており、立ち上がるのもフラつきながらようやくといった様子であった。
「ようやく……ようやくこの手でお前を…」
ゆっくりだが確実に一歩一歩、柊へと近づいていく。
しかし、その足取りは次第に怪しくなり、しまいには倒れてしまった。
(あれ? おかしいな。体が……動かない。くそっ、両親の仇が目の前にいるんだぞ。這いつくばってでもいい、とにかくアイツを……)
━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━
芝生に血の跡をつけながら這って柊の元へ行き、近くに来ると剣を支えにしてゆっくりと立ち上がった。
(やっとだ。父さん、母さん、見ててくれ。俺が今ここでコイツを…)
「殺す……!?」
ボソッと出た自分の声で寝起きの状態から我に返った。
(夢? だとしても、どこから気を失っていたんだ)
ベッドから起き上がり自分の体を確認する。
腕にはギプス、頭には包帯が巻かれており、出血はすでに止まっていた。
しかし、出血した量が多かったのか、ベッドの傍には輸血用の器具が置かれていた。
「おぉ!! 気が付いたか恒星。しかし寝起きの一言が殺すとは、ずいぶんと?物騒だな」
恒星が起きるのを待っていた恒人が声をかけた。
「えっとー、それは……ぐえっ!!」
上手い言い訳が思いつかず困っていた恒星に、いきなり小柄な女の子が抱きついてきた。
「お兄様!! こうしてまた会えるのを心待ちにしておりました。あの日からずっと…」
「だ、誰? というか、ちょっと…苦し、い」
少女の力が以外にも強くて片手じゃ抜け出せず、恒星は苦しそうにしている。
「恒、嬉しいのは分かるが離してあげなさい。このままではまた気絶してしまうぞ」
「すみませんお兄様!! 大丈夫でしたか?」
恒人に注意され、恒は慌てて恒星から離れた。
「けほっ、けほ。大丈夫…だけど、君は?」
「えっ?」
恒星からの質問が意外だったのか、恒はキョトンとした顔をする。
「あぁ、そうでした。嬉しくてつい、忘れてしまっていました」
恒は姿勢を正して恒星に向き直り、スカートの裾を摘んで軽くお辞儀をした。
「改めまして、私は恒。お兄様の妹の恒でございます」
「いや、恒。そこまで改まらなくとも……まぁよいか。それより、恒星よ。先のあの行動、ちゃんと説明があるのだろうな」
恒人は恒星に、何故いきなり柊を襲ったのかの説明を求めた。
(俺がなんでアイツを殺そうとしたか、だって? そんなの決まってる…)
「あいつが俺の両親の仇だからだ」
「仇?何を言って…いや、まて。まさか、取り違えたのか」
恒人は何かを考え込み、ぶつぶつと呟いている。
(取り違えた?さっきから一体なんの話をしているんだ)
「お父様。お兄様が困っています。まずは状況を説明してあげてはいかがですか?」
「あ、あぁ。しかしどこから説明したものか」
鎧の二人組に出会った時から何一つとして状況を理解できていない恒星は、一から全て説明してくれとお願いをした。
「まず説明する前に、君には一つ知っておいてもらうことがある。それは、君がいた世界と今いるこの世界は別の世界だという事だ」
「それはつまり、ここは小説とかによくある異世界って事か?」
「異世界…というよりかは、パラレルワールドの方が近いだろう」
(異世界とパラレルワールドの違いがよく分からんが、まぁいいか)
「2つの世界はそれぞれ君がいた世界、今いる世界と呼ばれていて、2つの世界には同じ人間が存在する可能性があるのだ」
「それじゃあさっきの取り違えたっていうのは…」
「あぁ、概ね君が今想像した事で合っているだろう」
(今の説明とこれまでの出来事で何となく事情は読めた。きっとリアルで会った由宇奈はアナザーの由宇奈と別人なのだろう。だとすると、今大事なのは…)
「俺は元いた世界に返してもらえるのか?」
恒人は険しい表情で考えた後、口を開いた。
「結論から言えば、NOだ。だが、別に手段がないわけではない。返そうと思えばすぐにでも君を元の世界に帰す事は出来る」
「じゃあなんで…」
「民のためだ。人はいつ死ぬか分からん。無論、我もだ。我が死んだ時の後継が居なければ民は不安になってしまうだろう。民を安心させるためにも君にはここに残ってもらいたい」
恒人は話の流れからそれとなくお願いをしたが、元の世界に帰る手段を知らされていない恒星からしたらそれは、半ば強制に近いものであった。
「ここに残って俺に貴方の息子として王子の代役をしろって事ですか?」
「正直に言うとそうだが、悪い話でもないだろう?それとも何か元いた世界での心残りがあるのか?」
(心残りか……家族はもういないし、あの一件以来友人とも疎遠になってる。確かにリアルで王子として過ごすのも悪くないのかもしれない。けど…)
「お兄様!」
一度恒星から離れた恒が今度は腕にしがみついた。
「恒も久しぶりにお兄様と一緒に過ごしたいです。お兄様は嫌…ですか?」
恒が目をうるうるさせながら上目遣いでお願いをする。
「はぁ…わかったよ。こっちの俺が見つかるまでの間だけ、代役を任されてやるよ」
(仕方ない。こっちの世界でやりたい事も出来たし、それが終わるまでは王子の代わりとしてこっちで生活するか)
こうして恒星の王子代役としての日々が始まった。
「……っ!?」
攻撃をした側の柊の腕に微かな痛みが走る。
大剣を躱した恒星が柊の腕に剣を叩きつけたが、大して効いていない様子だった。
(硬い…あの筋肉、まるで鉄の塊みたいだ)
柊は恒星を振り払おうと腕を払ったが、それよりも早く恒星はその場から離れ、今度は横腹に剣を打ちつける。
その次に左足、さらに左腕に連撃を入れた。
攻撃を受ける度に反撃をするが、先程よりも数段素早くなった恒星に当たる事はなく、その全てを尽く躱された。
「くっ…なんて速さだ」
(攻撃を躱すのは訳ないが…どうする。あの鉄のように硬い体は一体どうすれば…)
少し助走を取り鳩尾を剣で突いてみるが屈強な体に弾かれてしまう。
(クソが!! だったら…)
柊の手前で地面を滑るような形で近づき、両脛を剣で撃ちながら股の間を潜り抜け、さらに両膝の裏を撃った。
「ぐっ……」
両足への集中攻撃でさすがの柊もたまらず両膝をついた。
恒星は滑った姿勢からそのまま後ろ向きでハイジャンプし、首筋と顎に渾身の一撃を入れる。
頭に強い衝撃をくらって脳震盪が起こったのか、柊はその場に倒れ込んだ。
(よしっ!! ってやばい、着地のことまで考えてなかった)
高く飛び上がりすぎて体勢が崩れ、着地に失敗する。
頭から落ちた際に負った怪我で流れ出した血によって片目は開くことが出来なくなっており、立ち上がるのもフラつきながらようやくといった様子であった。
「ようやく……ようやくこの手でお前を…」
ゆっくりだが確実に一歩一歩、柊へと近づいていく。
しかし、その足取りは次第に怪しくなり、しまいには倒れてしまった。
(あれ? おかしいな。体が……動かない。くそっ、両親の仇が目の前にいるんだぞ。這いつくばってでもいい、とにかくアイツを……)
━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━
芝生に血の跡をつけながら這って柊の元へ行き、近くに来ると剣を支えにしてゆっくりと立ち上がった。
(やっとだ。父さん、母さん、見ててくれ。俺が今ここでコイツを…)
「殺す……!?」
ボソッと出た自分の声で寝起きの状態から我に返った。
(夢? だとしても、どこから気を失っていたんだ)
ベッドから起き上がり自分の体を確認する。
腕にはギプス、頭には包帯が巻かれており、出血はすでに止まっていた。
しかし、出血した量が多かったのか、ベッドの傍には輸血用の器具が置かれていた。
「おぉ!! 気が付いたか恒星。しかし寝起きの一言が殺すとは、ずいぶんと?物騒だな」
恒星が起きるのを待っていた恒人が声をかけた。
「えっとー、それは……ぐえっ!!」
上手い言い訳が思いつかず困っていた恒星に、いきなり小柄な女の子が抱きついてきた。
「お兄様!! こうしてまた会えるのを心待ちにしておりました。あの日からずっと…」
「だ、誰? というか、ちょっと…苦し、い」
少女の力が以外にも強くて片手じゃ抜け出せず、恒星は苦しそうにしている。
「恒、嬉しいのは分かるが離してあげなさい。このままではまた気絶してしまうぞ」
「すみませんお兄様!! 大丈夫でしたか?」
恒人に注意され、恒は慌てて恒星から離れた。
「けほっ、けほ。大丈夫…だけど、君は?」
「えっ?」
恒星からの質問が意外だったのか、恒はキョトンとした顔をする。
「あぁ、そうでした。嬉しくてつい、忘れてしまっていました」
恒は姿勢を正して恒星に向き直り、スカートの裾を摘んで軽くお辞儀をした。
「改めまして、私は恒。お兄様の妹の恒でございます」
「いや、恒。そこまで改まらなくとも……まぁよいか。それより、恒星よ。先のあの行動、ちゃんと説明があるのだろうな」
恒人は恒星に、何故いきなり柊を襲ったのかの説明を求めた。
(俺がなんでアイツを殺そうとしたか、だって? そんなの決まってる…)
「あいつが俺の両親の仇だからだ」
「仇?何を言って…いや、まて。まさか、取り違えたのか」
恒人は何かを考え込み、ぶつぶつと呟いている。
(取り違えた?さっきから一体なんの話をしているんだ)
「お父様。お兄様が困っています。まずは状況を説明してあげてはいかがですか?」
「あ、あぁ。しかしどこから説明したものか」
鎧の二人組に出会った時から何一つとして状況を理解できていない恒星は、一から全て説明してくれとお願いをした。
「まず説明する前に、君には一つ知っておいてもらうことがある。それは、君がいた世界と今いるこの世界は別の世界だという事だ」
「それはつまり、ここは小説とかによくある異世界って事か?」
「異世界…というよりかは、パラレルワールドの方が近いだろう」
(異世界とパラレルワールドの違いがよく分からんが、まぁいいか)
「2つの世界はそれぞれ君がいた世界、今いる世界と呼ばれていて、2つの世界には同じ人間が存在する可能性があるのだ」
「それじゃあさっきの取り違えたっていうのは…」
「あぁ、概ね君が今想像した事で合っているだろう」
(今の説明とこれまでの出来事で何となく事情は読めた。きっとリアルで会った由宇奈はアナザーの由宇奈と別人なのだろう。だとすると、今大事なのは…)
「俺は元いた世界に返してもらえるのか?」
恒人は険しい表情で考えた後、口を開いた。
「結論から言えば、NOだ。だが、別に手段がないわけではない。返そうと思えばすぐにでも君を元の世界に帰す事は出来る」
「じゃあなんで…」
「民のためだ。人はいつ死ぬか分からん。無論、我もだ。我が死んだ時の後継が居なければ民は不安になってしまうだろう。民を安心させるためにも君にはここに残ってもらいたい」
恒人は話の流れからそれとなくお願いをしたが、元の世界に帰る手段を知らされていない恒星からしたらそれは、半ば強制に近いものであった。
「ここに残って俺に貴方の息子として王子の代役をしろって事ですか?」
「正直に言うとそうだが、悪い話でもないだろう?それとも何か元いた世界での心残りがあるのか?」
(心残りか……家族はもういないし、あの一件以来友人とも疎遠になってる。確かにリアルで王子として過ごすのも悪くないのかもしれない。けど…)
「お兄様!」
一度恒星から離れた恒が今度は腕にしがみついた。
「恒も久しぶりにお兄様と一緒に過ごしたいです。お兄様は嫌…ですか?」
恒が目をうるうるさせながら上目遣いでお願いをする。
「はぁ…わかったよ。こっちの俺が見つかるまでの間だけ、代役を任されてやるよ」
(仕方ない。こっちの世界でやりたい事も出来たし、それが終わるまでは王子の代わりとしてこっちで生活するか)
こうして恒星の王子代役としての日々が始まった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる