ダレカノセカイ

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episode.39

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「はっ!」
 黒岩は目と口を大きく開ける。
 隣に立った美男子は口元を緩めた状態で、黒岩に軽く頭をペコリと下げる。
「おはようございます」
 え?と困惑する黒岩。
「私は……」
 記憶が飛んでるのか?
 記憶を手繰り寄せようとする。
「起きましたか?」
 黒岩が今目を覚ましたかの如く、美男子は振る舞う。
「……寝た覚えは……」
 眉間に皺を寄せ、黒岩は記憶を思い出そうとする。
「寝ていましたよ。ついさっきまで」
 美男子は皺を寄せた部分に人差し指を当て、ニコリと微笑む。
「……そ、そうだった気も……」
 眉間に皺を寄せるのを止め、美男子の言う通りだったと黒岩は頷く。
 今の黒岩は先程と違って、興奮してもいなければ、理性を失った状態でもない。素に近い状態の黒岩だろう。
「では話に戻りましょうか。彼の名は新道千。歳は16。帰還者の中で、唯一270を越えてる者です」
 美男子は俺に左手を向ける。
 黒岩は美男子が左手を向けた――俺のいる――方向へ顔を向ける。
 黒岩と目線が合う。
「なんと……それは素晴らしいじゃないですか。他の帰還者は?」
 黒岩は興味津々の顔で、俺以外の遠山達へ視線を向ける。
「彼らは全員170越えですね。1人は神を冒涜する治癒力を手に出来る逸材ですよ」
「なんと⁉︎それは事実なのでしょうね?」
 疑いの眼差しを向ける黒岩の顔に美男子は顔を近づけ、
「ぼくが言っているのですよ?」
 声のトーンを1つ落として、ハッキリ告げる。
「そ、そうでしたそうでした」
 黒岩は頭からダラリと汗を流す。
 黒岩は汗を白衣の袖で拭い、美男子に問いかける。
「……して、第7スポットに向かわせた人数は……はて?何名だったでしょうか?」
「ぼくにそれを聞きますか?ぼくに聞くのはお門違いですよ?……ここに人数を記した資料が落ちてるじゃないですか」
 美男子は床に落ちた1枚の資料を拾い上げる。
 資料にざっと目を通した美男子は、黒岩へ資料を渡して言う。
「29名と書かれていますよ」
 黒岩は美男子から資料を受け取る。
「ありがとうございます。……29名でしたか。帰還者は一二三……8名ですか。29名中8名帰還するとは……素晴しいですね。あの怪物モンスターがひしめく迷宮界で、第1調査隊として送り込んだ最低限の人数で帰還したのは今までに例がない。実に素晴らしい成果と言えるでしょう」
 黒岩はニッコリ笑みをこぼし、自らの両手で拍手する。それをすぐ隣で見た美男子は黒岩へ囁く。
「彼らを置いてけぼりにしてしまっていますし、2人の会話はこのくらいにしましょうか」
 ゴクリ。
 黒岩は喉を鳴らす。
「わ、分かりました」
「では彼らも困惑してるようですから、手っ取り早く説明して上げてください」
 美男子は黒岩の両肩に両手を置き、俺たちへ『お待たせ』と目線を送ってくる。
「お待たせしまた。今から賢治によるお話……君達が向かった迷宮界についての話が行われますよ」
 美男子は不敵に笑う。
 再び、黒岩はゴクリと音を鳴らす。
「帰還者のみに教えなくてはいけない話を今から話させてもらいます」
 黒岩は机に置いてあった短い棒を手に取る。大聖堂内に設置された椅子を自らの手で運ばず、指揮者の如く棒を振る事で意のままに操る。
 その場から宙を浮いた椅子が、俺たちの真後ろまで運ばれ、ゆっくりと着地して置かれる。
「座ってください」
 美男子が右手の手のひらを向けて、俺たちへ座るように促す。
 俺たちは横長の椅子に腰掛けた。
 黒岩は棒を左から右に振る。
 左から右に丸い球体――薄っすら青い――が、6つ出現する。
「迷宮界は貴方達も知っての通り、私達が住んでいる世界とは異なる世界……所謂異世界と繋がっています。迷宮界には様々な種類があり、《無制限界》《限定界》《制限界》《神判界》《無差別界》《特殊界》といったものがあります。今私共が把握してる種類はこの6種のみで、それ以外にもあると結論付けております」
 6つの球体それぞれに赤・青・黄・緑・紫・白色の文字が浮かび上がる。 
 どれも今黒岩が言った種類の言葉が、文字となって表れてる。
 凄いな。
「貴方達が向かった第7スポットが、どれに属しているのか?私は今すぐに教えてもらいたい。新道千君を含めた皆さん、ゆっくり深呼吸をして目を瞑ってください」
 黒岩の言葉を聞き、俺は右にいる遠山に尋ねる。
「どうする?」
 遠山は前を向いたまま、簡潔に答える。
「ここは従うべきだろう」
 遠山の発言を聞いた千葉が、俺の左から前屈みになって遠山へ視線を向ける。
「目瞑るとか、やばくない?」
「変なことされたりして?」
 遠山の右に座る戸倉が、不安になる発言を口にした。
「おじさんに変なことしても、いいことないよ」
 守山の声が聞こえる。
 右奥へ視線を向ける。
 守山は右端に座ってた。
「僕も男だよ。モリケンと同じで変なことされても、得な事はないよ。これ絶対だから。食べても美味しくないよ?男だから脂しかないよ。火で焼いても、絶対に美味しくないからね!男だから」
 守山の左に座る天音。
 おいおい。男って……確かに見た目はボーイッシュだから男と勘違いされそうだけど。やたら男って主張するな。
「君達を害するものはないですよ。目を瞑ったところで、怖い事はありませんよ。もし怖い事があるなら、ぼくと戦った時に既に殺されてるはずですよね?」
 顔を見合わせて話す全員を眺め、美男子は核心を突いた。
「そうだ。あの時、我々は彼と戦って分かったじゃないか。我々は彼に今も生かされている。我々が言う事を聞かなければ、いつ殺されても文句は言えないぞ。みんな、従ってくれ」
 遠山は必死に言い、全員がそれに同意して頷く。
 俺は深呼吸して、ゆっくり目を瞑る。
「皆さん、その状態で第7スポットでの出来事を思い出してください。ゆっくり深呼吸しながら、ゆっくり思い出してください」
 俺は黒岩に言われた通り、深呼吸と同時に記憶を掘り起こす。
 白い世界。そこにあった大鳥居を。
 大鳥居をくぐった先に暗黒騎士がいたこと。
 暗黒騎士に殺されたこと。
 アイラと出会った時のこと。
 不老不死になったこと。
 ネクロマンサーと戦ったこと。
 人喰いの屋敷でのこと。
 フリー達との戦いを。ミナミが俺にミサンガをくれたこと。
 ラドラ達との出会い。ニコル達との出会い。殺戮仏との戦い。革ジャン仮面との戦いで、敗れたこと。
 グリムとの出会い。全てを思い出す。
 思い出してみると本当に色んな事があったな。出会いもあれば、別れもあった。本当に今この瞬間も、生きていられるのは奇跡のようなものだ。
「はい。ありがとうございます。皆さん、目を開けてください」
 俺は目を開ける。
 目を開けると視界の端々に個々の大きさは大小あったりするが、球体が無数に浮かんでる。
 球体には、映像が流れてる。
 俺は大きめの球体へ視線を向ける。
 そこには俺しか知らないはずのアイラと最初に出会った光景が映っている。
「これは投影か?」
 俺は俺しか知らない光景が球体に映っているのに驚き、自然と口に出た。
「新道千君、素晴らしい。そうです。今この場に広がってる全ての球体に貴方達が第7スポットで経験したありとあらゆる情報が視覚化しているのです」
 黒岩は全ての球体を眺めるのを止めず、俺の言葉に反応して褒める。
「きゃーー‼︎」
「ちょっとーこれーー⁉︎」
「うわーーー⁉︎」
 千葉と戸倉と天音が叫ぶ。それは悲鳴に近い叫びだった。
「ん?どうしたんだ?」
 俺は3人が見ている方向へ視線を向ける。
 そして見た。見てしまった。
 裸で温泉に浸かったり、下着姿の光景を。
「っ⁉︎」
 俺は咄嗟に目を覆う。
「すまん」
 遠山が謝る。
「これは⁉︎」
 仁が叫ぶ。
「何見てんの!葉山さんの変態!」
 パチン!
 千葉が隣で声を上げるのと同時に引っ叩かれた音が耳に聞こえた。
 あ、仁さん叩かれたな。
「ふぅふぅふーーん。おじさん、何も見てないよ。なーんにも見てないよー」
 守山の声も聞こえる。
 守山さん、そのふぅふぅふーーんって絶対見てるよな?絶対見てる人の態度だよ⁉︎それ⁉︎
「これは失敬。女性陣の恥ずかしい映像は全て遮断しましたので、ご安心ください」
 黒岩の言葉を耳にし、俺は目を覆った手を退かす。先程まで投影されていた絶対に見てはいけないNG集の球体は黒く染まって、何も映し出してない。
 まだあったらどうしようとドキドキ感が半端なかったが、ホッと一安心する。
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