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episode.38
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「揃いましたね。では行きましょうか」
美男子は目を開け、大きめの扉を軽々と開く。
扉が開くと同時に扉の先の景色が、俺の視界に入る。
そこは大聖堂内――深い縦横長の構造――だった。
天井はない。天井がない代わりに見えてはいけないもの。幽霊の類が浮遊している。それが何処までも、何処までも至る所にいる。
大聖堂内の入り口から奥まで、黒い柱が無数にそびえ立つ。真っ白な大蛇が下から天高くまで、螺旋の如く巻いている。柱は均等に造られておらず、ぐちゃぐちゃに近かったり遠かったり、はたまた柱が縦並びに連続していたり、横並びに壁の如く機能していたり、全体的にアンバランスだ。
そんなアンバランスの中に横長い椅子が、開けた空間に設置されてる。
美男子は大聖堂の中に足を踏み入れ、進む。
俺も美男子に続き、大聖堂の中へ足を踏み入れた。その瞬間、空間が捩れるような錯覚を覚える。
「な、なんだ?」
俺は小さく呟いた。
「これはあれや、あれやで」
グリムが俺の言葉に反応する。
「異空間や!それも外との時間概念を捻じ曲げるほどのえげつない力やでー!」
「異空間……まじかよ」
美男子は振り返り、グリムへ視線を向ける。
「よくご存知ですね。小動物にしては博学ですね。その知識を何処で身につけられたのですか?」
「そうやろ!なんてったて、わいはな!第117迷宮界の宝物殿を守護してたさかい。予備知識くらいはバッチリ習得してるでー!」
俺の左肩で、えっへんと胸を張るグリム。
第117迷宮界って言葉は、めちゃくちゃ気になるな。
「そうでしたか。あの迷宮界の守護者とは……喋れる守護者もいたのですね。まだまだぼくの知らない事だらけで、ワクワクが広がりますね」
美男子は不敵に笑い、前を向く。
大聖堂内の奥――祭壇――まで行くとそこには一度見た事がある。もっと言えば、俺の脳裏に刻まれている人物がいた。
「賢治、数日ぶりですね。見てください。君が送り出した迷宮界調査隊が調査だけに留まらず、迷宮界から帰還しましたよ」
祭壇の左右には縦長の机――茶系の高さのある――が置かれ、そこで書類や資料の類を眺めていた人物――黒岩賢治――が振り返る。
美男子の顔を確認した黒岩は白衣をバサっとはためかせ、体ごと俺たちのいる方向へ向かせる。
「数日……此方に引きこもりっきりで、最後に会った日から一二三……2週間経過していましたか。また悪い癖が出てしまった。それは前夜、報告に上がって聞き及んでます」
黒岩は祭壇の左側の机に几帳面に置いて並べた数多くの資料の中から真新しい資料を取り出す。
両手に握った資料をパラパラ捲る。
「あれ?もう知ってありましたか。それは残念です。賢治を驚かしてやろうと思っていたのに……先を越されてしまいましたね。……まぁーそれはそれでいいでしょう」
美男子は黒岩の反応を確認して両手を合わせ、
「賢治の送り出した栄えある帰還者を連れてきましたよ」
俺たちに向けて両手を広げる。
資料をパラパラ捲るのを止めた黒岩が、俺たち一人一人を舐めるように頭から足先までを見る。
「聞き及んでいましたが、いい。実にいいですね!第7スポットを帰還した者達を直接見るのとデーター越しで見るのとでは、雲泥の差がありますねー!」
黒岩は資料を右手に握り、両腕を豪快に真上へ伸ばし、興奮した声を荒げる。
鼻息がフーフーと言って、声と肩を並べるほどに荒い。
「私の目では見れない領域に皆さん到達されているじゃ、あ~りませんかー!実にいい!実にすっ~ばらしい結果と言えますねー!」
「賢治には見えないでしょうね。賢治のレベルは1桁なんですから、見る事は絶対に不可能ですよ。彼ら全員170はありますから。そこの眼帯の子なんて、272を超えてますからね」
黒岩は目を見開く。
「なななな~んと⁉︎すっ~ばらしいですねー‼︎えーっと彼は……彼の名前は……」
黒岩は手元に持っていた資料を捲り、俺の顔を見ながら資料を次々と捲って行く。
「それじゃないですか?」
黒岩の隣に肩を並べた美男子が、捲り上げた資料の中から1枚を取り出す。
美男子は取り出した1枚を黒岩に手渡し、「どれどれ~」と興奮止まずに上から中間辺りまで目を通す。
「ななななななぁ~んと‼︎新道千君、16歳ですかー⁉︎若い。実に若々しい~ですねー!新道千君、君は新道千君で間違いなぁ~いー⁉︎」
黒岩は右腕をゆっくり上に上げ、頂点に達し終えるとビシッと右手を俺に向ける。
どうする。返事をするべきか?
返事をするべきか?しないべきか?考えてる最中、俺の考えとは裏腹に左肩に乗ったグリムが言う。
「あんはん、何言うてるんや!あんはん、わいの隣にいはる兄貴をどなたと心得てるんやー⁉︎兄貴はな、新道千兄貴で間違いあらへん!子分のわいが保証してもええ!」
おいおい、言っちゃったよ。
グリムそこは俺に一言、確認してくれよ。
俺の心とは逆の行動をグリムは取ってしまった。
胸を張り、両腕を組んだグリム。
左肩という短い足場に二本足で立ったグリムを目の当たりにした黒岩は、
「ななななななぁ~~んとー‼︎喋る動物まで、いいいいいぃるではなぁ~~いかー⁉︎」
両手に持った資料を全部放り投げ、黒岩はグリムを両手で掴みかかろうとする。
「あかん!あかんでー!そんな汚い手で、わいに触るのはご法度やでー!」
グリムが黒岩に警告する。
警告を受けた黒岩は、
「こここここここの動物はぁ~~⁉︎いいいいいぃった~~いー⁉︎」
度を超えた興奮で理性を失い、グリムの警告が黒岩の耳に入ってない。
「あかん!それ以上近づいたら、あかん!あと一歩近づいたら、わいの一撃喰らわせなあかん!ホンマにど突くでー!ど突かれてええんかー⁉︎」
グリムに黒岩は触れようとした瞬間、
「はい。一旦落ち着きましょうね」
後ろでクスクスッと笑いを我慢出来ずに腹を抱えていた美男子が峰打ちすると同時にツボを押し、瞬時に黒岩の目を覚まさせる。
美男子は目を開け、大きめの扉を軽々と開く。
扉が開くと同時に扉の先の景色が、俺の視界に入る。
そこは大聖堂内――深い縦横長の構造――だった。
天井はない。天井がない代わりに見えてはいけないもの。幽霊の類が浮遊している。それが何処までも、何処までも至る所にいる。
大聖堂内の入り口から奥まで、黒い柱が無数にそびえ立つ。真っ白な大蛇が下から天高くまで、螺旋の如く巻いている。柱は均等に造られておらず、ぐちゃぐちゃに近かったり遠かったり、はたまた柱が縦並びに連続していたり、横並びに壁の如く機能していたり、全体的にアンバランスだ。
そんなアンバランスの中に横長い椅子が、開けた空間に設置されてる。
美男子は大聖堂の中に足を踏み入れ、進む。
俺も美男子に続き、大聖堂の中へ足を踏み入れた。その瞬間、空間が捩れるような錯覚を覚える。
「な、なんだ?」
俺は小さく呟いた。
「これはあれや、あれやで」
グリムが俺の言葉に反応する。
「異空間や!それも外との時間概念を捻じ曲げるほどのえげつない力やでー!」
「異空間……まじかよ」
美男子は振り返り、グリムへ視線を向ける。
「よくご存知ですね。小動物にしては博学ですね。その知識を何処で身につけられたのですか?」
「そうやろ!なんてったて、わいはな!第117迷宮界の宝物殿を守護してたさかい。予備知識くらいはバッチリ習得してるでー!」
俺の左肩で、えっへんと胸を張るグリム。
第117迷宮界って言葉は、めちゃくちゃ気になるな。
「そうでしたか。あの迷宮界の守護者とは……喋れる守護者もいたのですね。まだまだぼくの知らない事だらけで、ワクワクが広がりますね」
美男子は不敵に笑い、前を向く。
大聖堂内の奥――祭壇――まで行くとそこには一度見た事がある。もっと言えば、俺の脳裏に刻まれている人物がいた。
「賢治、数日ぶりですね。見てください。君が送り出した迷宮界調査隊が調査だけに留まらず、迷宮界から帰還しましたよ」
祭壇の左右には縦長の机――茶系の高さのある――が置かれ、そこで書類や資料の類を眺めていた人物――黒岩賢治――が振り返る。
美男子の顔を確認した黒岩は白衣をバサっとはためかせ、体ごと俺たちのいる方向へ向かせる。
「数日……此方に引きこもりっきりで、最後に会った日から一二三……2週間経過していましたか。また悪い癖が出てしまった。それは前夜、報告に上がって聞き及んでます」
黒岩は祭壇の左側の机に几帳面に置いて並べた数多くの資料の中から真新しい資料を取り出す。
両手に握った資料をパラパラ捲る。
「あれ?もう知ってありましたか。それは残念です。賢治を驚かしてやろうと思っていたのに……先を越されてしまいましたね。……まぁーそれはそれでいいでしょう」
美男子は黒岩の反応を確認して両手を合わせ、
「賢治の送り出した栄えある帰還者を連れてきましたよ」
俺たちに向けて両手を広げる。
資料をパラパラ捲るのを止めた黒岩が、俺たち一人一人を舐めるように頭から足先までを見る。
「聞き及んでいましたが、いい。実にいいですね!第7スポットを帰還した者達を直接見るのとデーター越しで見るのとでは、雲泥の差がありますねー!」
黒岩は資料を右手に握り、両腕を豪快に真上へ伸ばし、興奮した声を荒げる。
鼻息がフーフーと言って、声と肩を並べるほどに荒い。
「私の目では見れない領域に皆さん到達されているじゃ、あ~りませんかー!実にいい!実にすっ~ばらしい結果と言えますねー!」
「賢治には見えないでしょうね。賢治のレベルは1桁なんですから、見る事は絶対に不可能ですよ。彼ら全員170はありますから。そこの眼帯の子なんて、272を超えてますからね」
黒岩は目を見開く。
「なななな~んと⁉︎すっ~ばらしいですねー‼︎えーっと彼は……彼の名前は……」
黒岩は手元に持っていた資料を捲り、俺の顔を見ながら資料を次々と捲って行く。
「それじゃないですか?」
黒岩の隣に肩を並べた美男子が、捲り上げた資料の中から1枚を取り出す。
美男子は取り出した1枚を黒岩に手渡し、「どれどれ~」と興奮止まずに上から中間辺りまで目を通す。
「ななななななぁ~んと‼︎新道千君、16歳ですかー⁉︎若い。実に若々しい~ですねー!新道千君、君は新道千君で間違いなぁ~いー⁉︎」
黒岩は右腕をゆっくり上に上げ、頂点に達し終えるとビシッと右手を俺に向ける。
どうする。返事をするべきか?
返事をするべきか?しないべきか?考えてる最中、俺の考えとは裏腹に左肩に乗ったグリムが言う。
「あんはん、何言うてるんや!あんはん、わいの隣にいはる兄貴をどなたと心得てるんやー⁉︎兄貴はな、新道千兄貴で間違いあらへん!子分のわいが保証してもええ!」
おいおい、言っちゃったよ。
グリムそこは俺に一言、確認してくれよ。
俺の心とは逆の行動をグリムは取ってしまった。
胸を張り、両腕を組んだグリム。
左肩という短い足場に二本足で立ったグリムを目の当たりにした黒岩は、
「ななななななぁ~~んとー‼︎喋る動物まで、いいいいいぃるではなぁ~~いかー⁉︎」
両手に持った資料を全部放り投げ、黒岩はグリムを両手で掴みかかろうとする。
「あかん!あかんでー!そんな汚い手で、わいに触るのはご法度やでー!」
グリムが黒岩に警告する。
警告を受けた黒岩は、
「こここここここの動物はぁ~~⁉︎いいいいいぃった~~いー⁉︎」
度を超えた興奮で理性を失い、グリムの警告が黒岩の耳に入ってない。
「あかん!それ以上近づいたら、あかん!あと一歩近づいたら、わいの一撃喰らわせなあかん!ホンマにど突くでー!ど突かれてええんかー⁉︎」
グリムに黒岩は触れようとした瞬間、
「はい。一旦落ち着きましょうね」
後ろでクスクスッと笑いを我慢出来ずに腹を抱えていた美男子が峰打ちすると同時にツボを押し、瞬時に黒岩の目を覚まさせる。
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