ダレカノセカイ

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episode.32

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「へぇーこんな展開もあるんですね。正直思いもしませんでした。君が自決を選択して、喜んでるとばかり思っていた凄腕の男性もまた自分の命を投げ打ってまで、君を守ろうとするとは……漢ですね。日本男子にここまで他人に命を賭けれるとは思いも及びませんでした。仲の良い男同士だからこその友情とでも言うのでしょうね。本当に――」
「黙れ‼︎‼︎」
 守山は全身を震えさせ、両眼からは涙を流す。肩が激しく上下して、嗚咽が聞こえる。
 美男子は首を緩め絞めていた天音を用済みになった途端にその場で投げ捨てる。
 守山は天音の死を直接見て、号泣している。今も天音が投げ捨てられた光景を目の当たりにして、守山の中の憤怒が爆発する。
「おじさんは……お前を!お前だけは、おじさんの命を賭けてでも殺す‼︎ハルくんを……ハルくんに死の選択を選ばせたお前を刺し違えても、殺す‼︎‼︎」
 守山の両眼に狂気が宿る。
 光剣の一部分が闇に染まる。
 光と闇が混ざり合い、光は闇に飲み込まれる。
 光剣は闇剣に変化する。
 守山の変身状態時の美少女の真っ白な髪が黒く染まり出し、真白いワンピースが端から黒一色に途端に変わる。
 ほんの数秒で、美少女の守山は黒髪の真黒ワンピースに姿形を変貌させる。
「殺す!殺す‼︎殺す‼︎!殺す‼︎‼︎殺す‼︎‼︎‼︎」
 守山は地面を蹴り、道路を吹き飛ばす。
 美男子の目の前に姿を現した守山は、2本の闇剣を疾風怒濤で繰り出す。
 ズババババババババ‼︎‼︎
 守山の疾風怒涛の連撃が、美男子を徐々に後ろに押す。
 守山は両眼を真っ赤にさせ、赤い血の涙を流している。
「殺す‼︎殺す‼︎‼︎殺す‼︎‼︎‼︎」
「へぇーなるほど。光と闇を融合するかと思えば、復讐心に飲み込まれて光を闇に全部飲み込まれてしまったんですね。光と闇を融合出来ていたら、もう少し良い勝負が出来たでしょうが……残念です」
 美男子は刀一本で、守山の全ての攻撃を防ぎきった。
 守山の両腕は限界を超える疾風怒濤の連撃を放ち、ボロボロだ。両腕の至る所から血が大量に流れる。
 容量限界キャパオーバーに到達した守山は「殺す‼︎」を何度も口ずさみ、両膝を地面に着ける。
「終わりで――」
「殺す‼︎‼︎‼︎‼︎」
 美男子は両膝を跪かせた守山に最後トドメの一撃を放とうとした――その瞬間、守山は限界を超えた力で美男子の腹に2本の闇剣を突き刺した。
 そう俺には見えた。だが、違った。
 俺のいる位置から見れば、刺したように見える。けれど、違う位置から見れば、腕と胴体との間に2本の闇剣が通ってるのが誰の目から見ても一目瞭然で分かる。
「……君に理性があったら、ぼくに致命傷を与えられたかもしれませんね。ゆっくり眠りなさい」
 ズバッ!
 守山の頭が地面に堕ちる。
 直後、守山の元に戻った体が地面に力無く倒れ伏した。アスファルトの地面に赤い血が異様に広がる。
 仁も、天音も、守山も、美男子に殺されてしまった。
 残りは俺を含めた4人だけだ。
 遠山は放心状態から元に戻ったものの、戻った瞬間に天音と守山の死を見せられて涙を流している。
 戦闘の放棄。思考の放棄。それをしてしまった遠山は顔に下に向け、
「私は……なんてことを……仲間が死ぬのを黙って見てしまった。私が動けたら、私があの場に行けていれば……私は私を許さない。だがそれ以上に私はお前を許されない!」
 両手で顔を覆い、すぐさま顔を上げて涙を拭う。
「許さん!お前だけは許さんぞ‼︎」
 無防備な姿の遠山は白銀の鎧を再び装着し、美男子の元に一蹴りで辿り着く。
 美男子の間合いに入り、
「《闇の奏刃蓮華》」
 全力で白鴉を振り回す。
 美男子は遠山の白鴉を難なく捌き、
「仲間の死で目が覚めましたか?ですが、残念でしたね。一足先に何人もの仲間が死に至りました。もっと早く目を覚ませば、仲間を助けられたというのに……白銀の方は現実逃避されてありましたね。白銀の方が現実逃避しなければ、違った結末があったかもしれませんね?」
 遠山を挑発する。
「黙れぇえぇえ‼︎」
 遠山の白鴉が、美男子の刀が、無数の斬撃となって交錯する。
 2人を取り巻く周りに斬撃で生み出された縦長い傷が無数に付く。
 2人の周り360°に花びらでも咲いたんじゃないか?そう思えるだけの数の斬撃痕が跡を残す。
 遠山は美男子を過激な斬撃で凌駕する。かに見えたが、反対に美男子は遠山の斬撃を一身に受け止める。
「怒りや憎しみをどれだけ力に変換したところで、ぼくには敵いませんよ。もう全ての剣戟を見切りました」
 一方的な展開に見えた無数の斬り合いで、遠山に軍配は上がる事はなかった。
「まだだー‼︎」
「眠ってください」
 ズバッ!ズバッ!
 遠山の右腕と右脚が斬られた。
「……まだ……まだ終わらせない!」
 遠山の失った右腕右脚を補うように白銀の鎧とは、また別の鎧が装着される。
 次の鎧は白銀とは表裏一体と言える黒金だった。
 黒金を装着した右腕右脚の動きが、他の箇所よりも速い。動作は軽やかで、無駄がない。俺の左眼で見る遠山の右腕右脚は、最初っからそこにあったかのように違和感一つなかった。
「へぇーここに来て、まだ隠した力がありましたか。……なるほど、そおいう事ですか。白銀よりも能力の桁が違いますね。馬力が違えば、運動能力パーフォマンスも桁違いに上がってるでしょうね」
 さっきとは動きの違う遠山の動きにも、余裕でついていく美男子。
「楽しいですね。もっと白銀の方と戯れていたいところですが……限界がきてしまったようですね。残念無念また来週……とは言いませんよ。白銀の方は今ここで殺すのですから」
 美男子が振り上げた刀が、俺の左眼では見えない速度で遠山を斬った。
 ズバッーン!
 遠山は辛うじて避けた。
 遠山には美男子の一閃が見えていたのか?俺には全く分からない。
 辛うじて避け、致命傷を避けた遠山だったが左腕左脚がない。
 左腕左脚は美男子に斬られた。
 遠山は前方に力無く倒れる。
 そう美男子も、俺も思った――その時、
「この一振りで終幕フィナーレだー!」
 バランスを崩した態勢を強引に立て直し、遠山は最後に振り絞った力を白鴉に乗せて放つ。
 美男子は目を少し大きく開けた。
 美男子の刀と遠山の白鴉が激突した。
 2人の一撃が軋め気合い、拮抗する。
 遠山は美男子の反応を窺うことなく歯を食いしばり、鬼の形相で最後の一滴まで出し尽くす。
 豪快な一歩を踏み出した。
「達人の域に達しましたか」
 直後、拮抗は崩れた。
 最後の最後で足場の悪い場所に遠山は躓き、右手に握られた白鴉を手元から離してしまう。
 遠山は倒れながらも、まだ諦めてなかった。
 右手がないものを探す。
 右手にあるべき白鴉を探し、掴もうとする。
 手元から離れ、再び握られようとする白鴉。その光景を見かねた美男子は白鴉を足で蹴り、遠山から離れた大空へ舞い上げた。
 遠山の両眼が虚ろに変わる。
 遠山は力無く頭から地面に激突した。
 頭から血が流れ、意識を失ったのか?遠山の全身を守る鎧は瞬時に消えてしまう。
「最後の刀気は実にいい線を行っていましたよ。ぼくが相手じゃなければ、きっと今の一撃で葬れたでしょうね」
 ズン!
 無防備な遠山の体。
 微かに呼吸の音がする。
 遠山の命を繋ぎ止める心臓。
 その心臓を一突きする。
 微かに聞こえた呼吸音が消える。
 美男子は心臓一突きトドメを刺し、刀を心臓の部分から抜く。
 遠山の辺り一帯に赤い血が流れ、広がる。
 遠山まで、美男子に殺されてしまった。
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