ダレカノセカイ

MY

文字の大きさ
上 下
31 / 67

episode.30

しおりを挟む
「もうやめてくれー‼︎」
 天音が叫んだ。
 銃声が響く。
「凝りませんね?何度も、ぼくは見せましたよね?銃弾を受け止めては地面に捨てる姿を……それなのに同じ過ちを繰り返すとは情けないですね。そこの男性も飽きました」
 美男子が消える。
 俺は夏奈華を一点に見つめ、両手を伸ばす。
「……そ、んな……ななか……夏奈華‼︎」
 俺は夏奈華の元に駆けつける。
「汝の姿をおじさんの姿に宿せ!《魔装変身オジリティーン》‼︎」
 守山の声が耳に聞こえる。
 声がする方向へ視線を向けたい気持ちはある。でも今はそれどころじゃない。
 俺はうつ伏せに倒れた夏奈華を両腕で抱き寄せ、右手で体温を感じる。
 冷たい。
 冷たくなっていってる。
 俺は全身に嫌な汗が流れ出す。
「夏奈華⁈夏奈華⁉︎おい起きてくれよ⁉︎なぁ、夏奈華返事してくれよ‼︎⁉︎」
 夏奈華の頬を何度も触り、温かい熱が冷めるのを感じた。
 夏奈華は血を口から流し、両目は虚ろだ。
「……そんなこと……あってたまるか!……夏奈華!起きてくれよ!夏奈華!なぁー返事してくれよ‼︎⁉︎」
 俺は夏奈華の冷たくなる一方の体を力強く全身で抱きしめた。抱きしめて、俺の体温で夏奈華の冷たくなる体温を上げる。上げているはずなのに夏奈華は目を開けない。
「千葉……さん……千葉さん‼︎夏奈華を……夏奈華に回復をー‼︎」
 俺は千葉のいる方向へ顔を向ける。
 千葉は戸倉に付ききりで、俺の言葉に返事してくれない。
「そんな……そんなのありかよ⁉︎……千葉さん!千葉さん‼︎」
 俺は千葉の元に夏奈華を連れて行く。
 その際に右肩に顔が乗った夏奈華がボソッと呟く。
「……おにぃ……ちゃ……ん……生きて……」
「夏奈華⁉︎おい、夏奈華‼︎⁉︎俺は生きてるぞ!だから返事してくれ‼︎なぁーもう一回だけ……頼む‼︎夏奈華、返事してくれー‼︎⁉︎」
 俺は千葉の元に辿り着く。
 千葉は戸倉に全魔力を集中していて、他の人に回復を回す力はないと言われた。戸倉に集中して、俺の顔は一切見ない。
「そんなのありかよ⁉︎夏奈華が、夏奈華が瀕死なんだぞー‼︎⁉︎」
 俺は地面に寝かせた夏奈華を見つめたまま、大きく叫んだ。
 そして千葉は俺の方に顔を向かせ、
「夏奈華ちゃんは……もう死んでる」
 見ようとしなかった現実を突きつける。
 千葉の言葉が頭の中をぐるぐると回る。
 頭がどうにかなりそうだ。
 夏奈華が死んだ?ありえない。
 夏奈華はまだ生きてる。死んでなどいない。
「俺は……俺は……」
 両手を強く握りしめ、道路の硬いアスファルトに拳を振るう。
 ズン!
 アスファルトの地面に亀裂が入る。
 許せない。
 夏奈華の言葉が頭に何十、何百、何千となって同じ言葉がリピートされる。
『お兄ちゃん、生きて』と。
 俺は夏奈華の隣に漆黒スーツで、ぐっすり寝かせていたグリムを寝かせる。
 あいつだけは許せない。
 あいつは俺が倒す!
 俺は自分の足で立ち上がる。
 後ろを振り返ると天音が、美少女に変身した守山が、仁が美男子と戦っている。
 美男子は3人を相手取り、俺のいる方向は視界に入ってない。
 行ける!
 俺は全開でアスファルトを蹴った。
 コンマ数秒で、美男子の背中に一撃が放てる距離に間合いを詰める。
「この一撃で終わりだ!」
 俺は叫び、左拳に全神経を研ぎ澄まして放った。
 ブォーン!
「――見えてますよ。敵の後ろを狙うとは卑怯と言えますが……一撃を振るうと同時に声を上げたので卑怯とは呼べないですね。あのまま叫ばなければ、もしかしたらもしかしたかもしれませんよ?」
 風を、空気を、空間を、俺の放った風圧のみで捻じ曲げる。それだけの威力があったのに関わらず、美男子は髪の毛一本も風圧に流されず、今立ってる位置から飛ばされる事もなかった。
 俺の全神経を注いで放った一撃は、美男子に届かなかった。あっさり避けられた俺の一撃。俺は地面に足を着く前に「少し邪魔ですね。少しくたばっててください」と美男子が放った足蹴りをもろにダイレクトにど真ん中に受けた。
「――がはっ⁉︎」
 美男子の足蹴りは重い一撃だった。
 俺は軽々と後方に吹き飛ばされる。
 空中で勢いを殺せず、そのままガードレールに背中から衝突する。
 ガタン‼︎
「くはっ⁉︎」
 俺は体内の空気を吐き出してしまう。
 力が入らない。
 力が出ない俺は力無く、地面にお尻を着いた。
 両脚に力が入らない。
 両腕にも力が入らない。
 力のベクトルが、まるで制限されたかのように1ミリも体を動かせない。
 動かない俺の体。
 ガードレールが背もたれとなる。
 身動きが取れない状況で、俺の左眼だけが美男子と3人の戦いを視野に映す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

従者が記す世界大戦記

わきげストレート
ファンタジー
世界中で戦争・紛争が巻き起こる時代、大国の聖女を連れ出して逃げた騎士がいた。聖女は戦争の原因となっていた『不老不死の秘法』を握ったまま、自国の騎士に連れ去られたのだ。聖女の行方は誰も知ることはなく、奇しくもそこから各地で戦争が沈静化していくのであった。 時は流れ、各国は水面下にて聖女と共に失われし『不老不死の秘法』を探し求めていた。今まさに再び世界は大戦争へと動き出そうとしていた。

永遠の誓い

rui
恋愛
ジル姫は22歳の誕生日に原因不明の高熱に倒れるが、魔女の薬により一命をとりとめる。 しかしそれは『不老不死』になるという、呪われた薬だった。 呪いを解く方法は、たったひとつだけ……。

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...