ダレカノセカイ

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episode.29

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「……強い……まさか、ここまでの相手とは……」
 遠山は片膝を着き、美男子を一直線に見つめる。そんな遠山の元へ千葉が駆けつけ、「闇回復魔法《闇治療ダークヒール》」を発動して傷の手当てを始める。
「へぇーそこの女性は素敵な力をお持ちのようですね。それはまさに神をも冒涜する力……と言っても、まだまだ序の口程度の力しか発揮出来ていませんが、ゆくゆくはその領域に踏み入れるでしょうね」
 美男子は遠山の方向へ、ゆっくりと歩みを進める。千葉の目に恐怖が宿る。
 まずい!
 俺が美男子と遠山との間に割り込もうとした――その時、
「美紅人に何してんのよ!闇魔法《ダークサンダーボルト》」
 バリバリズドーン‼︎
 上空から闇の雷撃が堕ちた。
 美男子のいた地点の道路が割れ、コンクリートが飛び散る。
 蒸気が立ち込め、美男子の姿が確認出来ない。だけど、美男子の放つ存在感は消えてない。
「へぇーこれは凄い……近代の電気マッサージと同様の効果がありますね。全身の灰汁と凝りが取れたようです。そこの女性は闇と雷を自在に操れるんですね。闇を纏った雷撃は通常の3倍は威力を増してましたよ。ただぼくを倒す想定で放ったのなら……今の1000倍は軽く超える必要がありますよ?」
 蒸気を一振りで払い除け、美男子が姿を現わす。髪の毛一本乱れはない。黒焦げた部分も、千切れた箇所も、羽織にはない。
「はぁ?ありえないんですけど⁉︎闇魔法《ダークサンダーボルト》」
 バリバリズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドーン!
 戸倉は遠山の隣に立ち、闇魔法を連発して放つ。
 俺は左眼で、ありえない光景を目撃してしまった。
 全ての闇魔法をその身に受け、防御の『ぼ』の字もしてない美男子の仁王立ち姿を。それに相反し、道路はごっそり削り取られ、中央に大きな穴が空いた。
 中央に穴は空いてるが、中央の更に中央の真ん中の位置には美男子が立ってる。その場の真下だけが穴が空いてない。若干削り取られてるだけで、他に損傷の類は見られない。
 美男子は辺り一面に生じた蒸気を先程と同じく一振りで振り払った。
「これはこれで電気マッサージとして楽しめますが、1000倍の威力を楽しみに待ち続けていようと似たり寄ったりの威力に変化の色はありませんでしたね。そこの女性には、いささか飽きました」
 スパッ!
「あぁあぁあぁあああああ‼︎」
 右方向から戸倉の悲痛の叫びが響き渡る。
 またしても、見えなかった。
「ちづー‼︎⁉︎」
「「「戸倉さん⁉︎⁉︎」」」
 俺は右へ左眼を向けた時には、戸倉の両脚が地面に落ちていた。戸倉は両目を白目剥かせ、全身をガクガク震えさせて倒れる。
「《闇の奏撃くそっー‼︎》」
 遠山は白鴉を右手で全力で振り上げ、戸倉の両脚を切断した美男子を遠去ける。
 戸倉は地面に力無く倒れ、痙攣を起こしてる。
「そこの女性には飽き飽きさせられました。悪いですが、もう片方の女性の素敵な力を飛躍させる礎になってください」
 美男子はガードレールの真上に両足を着け、千葉に刀を向ける。
 千葉は遠山の回復を途中で止め、今現在進行形で戸倉の切断された両脚を切断口に繋ぎ合わせ、元の状態に戻す為に集中して尽力する。
「《闇の超斬撃波よくも!よくもこんなことを‼︎》」
 遠山は斬られた左腕を自身の所有するユニークスキルで復元したのか?不確かだが、元通り戻った両手で握り締め直した白鴉を全力で振るう。
 白鴉の刀身に纏った巨大な闇が音速を超える速さで、美男子に牙を剥く。
「へぇーまだ戦う気力がありましたか。しかし、残念です。同じ人物が放ったのかと疑いたくなるほど、自身の怒りや憎しみを触媒に威力を増幅させた絶大な技と言えど、ぼくを殺すに足る力ではなかったようですね」
 ズッ!
 ガードレールにいる美男子は避けず、刀一本で斬撃波を右斜め後方へ捌き飛ばした。
 捌かれた斬撃波が琵琶湖に衝突する。
 ズバーン‼︎
 琵琶湖の水飛沫が山のように立ち上がる。
「なっ⁉︎……そんな馬鹿な……」
 遠山はその場で固まる。
 思考が追いついていないのだろう。
「今の技が通用しないと判明したら、もっと絶大な技を次の一手に持ってくる……そう楽しみに待っていたというのに思考停止に陥られましたか?白銀の方はここで、ご退場していただきましょう」
 美男子が足に力を入れる。
 遠山は放心状態に近い。
 遠山の全身を包み守る白銀の鎧が、スッと消え去る。それが意味するものは、戦闘の放棄。思考の放棄と言えた。
 まずい!
「やめろ!」
 バン!
 天音の声と同時に銃声が響く。
「参りましたね。現代の銃器は一通り覚えてたつもりでしたが……知識の中にあるのと少し差異がありますね」
 美男子は足に入れた力を解き、その場で銃弾を左手で受け止めていた。
 嘘だろ?そう思いたいが、全力の俺も美男子と同じようにやろうと思えば出来る。だから美男子のその行動に驚きはなかった。
「黙れ!」
 バン!ズバン!バン!
 天音は叫び、ライフルの引き金を引くのを止めない。
 銃声が何度も響く。それと同じく、美男子は銃弾を器用に掴んでは地面に落とし、掴んでは落としを繰り返す。
「へぇーなるほど。分かりました。そこの男性の腕が凄腕なんですね。現時点で学んだ知識を上書きする必要がありますね。凄腕の域に達せば、通常よりも速く弾道は飛ぶと学ばせてもらいました。凄腕の上に闇の弾丸を使えば、更に弾道の速度は増す。ぼくの知らなかった世界はまだまだありますね。特に君達は闇の力を共通して使えている。君達の中に闇の根源がいるのは間違いなさそうですね」
 美男子は俺を含めた全員を1人1人ずつ確認し、一瞬のうちに姿が消える。
「またか⁉︎」
 俺は叫び、周りを見回す。
「いない。何処に⁉︎」
「真上ですよ。殺気を出さないと気配に気づけないんですか?」
「お兄ちゃん⁉︎」
 ドン!
 背中を誰かに押される。
 声の主は、夏奈華だ。
 ズン‼︎
 後ろから何かが飛来し、道路に強烈な亀裂が走る。
 俺は美男子の声を真上から耳にしながら、前方に押し倒された。
 地面に倒れ、俺はすぐに起き上がって後ろを振り向く。
「……そんな……うそだ……」
 夏奈華は地面に倒れてる。
 道路に赤い血が広がる。
 うつ伏せの状態で、夏奈華の表情は確認出来ない。
 夏奈華の隣に涼しい顔をした美男子が立ってる。
「もうやめてくれー‼︎」
 天音が叫んだ。
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