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episode.28
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刀を振り下ろした人物は、振り上げられた白鴉の勢いを利用して、宙を一回転舞い、5メートル後方にあるジープの真上に降り立つ。
「……なぜ、貴方が……ここに⁉︎」
ジープの真上に降り立った人物を視界に入れ、額から血をダラダラと流した草加部は叫ぶ。
「現場の方々が一斉に出て行くものですから、ぼくの出番があると思いましてね。彼方のジープで見学させて頂きました。色々と楽しむに事足りる現場を見せられ、ついつい出てきてしまいましたよ。草加部隊長と部下の方々、この場で死にたくない方だけ即時帰投してください」
「っ!」
草加部は青々した表情で立ち上がり、近場のジープに乗り込む。周りで倒れ伏して動けずにいた軍服の男達も、その発言を受けたら真っ先にバッと立ち上がり、体を無理矢理動かすようにぎこちない動きでジープに乗り込んだ。
10数台のジープのエンジンがかかる。道路を塞いだジープが一斉に外側の端から急転回し、回れ右で全てのジープが視界から消える。
この場に残った軍服の男は1人としていない。ジープが1台あるだけで、他には殺風景な景色が広がるだけだ。
俺は草加部をはじめとした軍服の男達を瞬時に移動させた人物へ視線を向ける。
[対象:■■■■ LV■■■ 推定脅威度:不明]
そこには刀を右手に一本握った得体の知れない美男子がいた。歳は10代後半。肩まであるんじゃないか?と思える長髪の黒髪はポニテールで結び、右目は黒眼、左目は蒼眼。羽織もの――その下には漆黒スーツが見える――を羽織ってる。
「なにっ⁉︎」
「嘘でしょ⁉︎」
「なんでノイズ走るん⁉︎」
「重要な部分がノイズで聞き取れなかったー⁉︎」
「これやばいって……こんなこと初めてだよ」
「ノイズがやばいっす!あの男、何者っすか⁉︎」
「ザーザーうるさいね」
千葉達も同じく聞き取れなかったらしい。俺は2度目だが、このノイズが良い知らせとは思えない。1度目が苦汁を舐めさせる結果だったからこそ、2度目の今回もまた同様に違いない。あの草加部達を発言一つで動かせる相手だ。最初っから本気で飛ばす必要がある。
「遠山、あれはやばい相手かもしれない」
「なんとなくだが……今の一振りで相手の計り知れなさは分かったつもりだ。あの者達を潔く引かせるとなれば、相手は同じ側の人間で間違いないだろう。それに言いかけて言えなかったが、私達と同じ同等の強さを誇る存在も向こう側にはいるかもしれん。……そう言おうとして、私達の目の前に噂をする前に同等の相手かもしれん存在が現れたというわけだ」
俺が警告するまでもなく、遠山は拉致した側に俺たちと渡り合える存在がいる可能性まで考慮していた。今視界の先にいる相手が計り知れない存在と判断している以上、遠山は油断しないはずだ。周りにいる千葉達も、俺と遠山の雰囲気を読んで警戒態勢に入ってる。
「あの者達を引かせたお前は何者だ⁉︎」
遠山は叫ぶ。
「ぼくですか?ぼくが何者か知りたければ、ぼくに勝ってください」
美男子はジープを踏み台にズドン!と音を上げ、一瞬で遠山と俺の間合いに入る。
俺は左拳を握りしめ、殴ろうとするが、「新道、私に任せろ!」と遠山が闇を纏った白鴉を振るう。
「《闇の斬撃》」
「へぇーそんな技を使えるんですね。ためになりますね。ありがとうございます」
美男子は軽く白鴉を捌き、遠山の溝に鞘を直撃させようとする。
「《闇の防壁》」
ズン!
直撃する寸前に闇一色の防壁が出現し、遠山を皮一枚隔てて守る。
「へぇーまだありましたか。これは潰し甲斐がありますね」
ビシッ!
防壁に亀裂が入る。
亀裂は瞬く間に全体に広がり、バリィーン!と粉々に砕け散る。
「――なにっ⁉︎」
「次はどんな技を見せてくれるんですか?今物凄く楽しみなんですよ」
スッ!
白鴉を抜くと同時に現れる白鴉。
白鴉が遠山を狙った美男子の顔に研ぎ澄ました翼を広げ、一直線に飛んだ。
「――っぶないですね」
美男子は顔だけを後ろに反らし、白鴉を難なく避ける。
白鴉が少しの時間だったが、遠山の態勢を立て直すには十分な時間を生み出す。
「《闇の奏撃》」
俺は初めて見る技。それが美男子を真下から斬りつける。
「へぇーまだそんな奥の手を持ってましたか」
そう思った時には、美男子は2メートル後方に後退していた。
見えなかった。
この俺の眼で見ても、確認する事は出来なかった。
「素晴らしいですね。潰し甲斐があるのは、やはりとてもいいですね。ぼくがあのまま、そこにいれば、ぼくは斬られていたでしょうね」
美男子の蒼眼が蒼い炎をボッと燃え上がらせて、顕現させる。目の外まで漏れ出す蒼い炎。
何をするつもりだ?
美男子は刀を鞘に収め、右目を閉じる。左眼から今現在進行形で、蒼い炎が広がりを見せる。
「遠山、気をつけろ!こいつ、何かする気だ」
「それは私でも分かる。何か分からないが、まずいのは変わりない」
遠山は生身の身体を一瞬で、白銀の鎧に変える。
あの時、見た姿だ。
俺は遠山のこの姿を見るのは、2度目だ。
遠山の姿は、まるでヒーローものに出てくる格好良いヒーローそのものだ。
「へぇーまだ隠し持ってましたか。人は見た目で判断してはいけませんね。その鎧は、ぼくの一太刀を受けて、しっかり防げるでしょうかね?楽しみですね」
そう発言した刹那、美男子は視界から消えた。
「っ⁉︎」
スパッ!
消えたと思った矢先、何かが斬られる音が耳に届いた。
俺は隣にいる遠山へ視線を向ける。
「遠山⁉︎」
「「美紅人⁉︎」」
「遠山くん⁉︎」
遠山の左腕が空中を舞う。
「あれ?斬った感触はあったのに不思議ですね?骨を断つ感触はありませんでした。……元々なかった腕だったりします?」
美男子は遠山のすぐ側にいた。
いつ刀を鞘から抜刀したかも、確認出来なかった。
まるで、あの時の革ジャン仮面のようだ。
美男子は左腕があまりにも気になったのか?空中から地面に落下するのを左手で掴み取り、自らの手で確認し終えると宙に放り投げる。
「そおいう原理でしたか。なるほど。やはり世界は奥が広いですね。ぼくの知らない事が、まだまだたくさんあるようで楽しみが膨らみますね」
美男子は目で追うには素早過ぎる斬撃を披露し、遠山の左腕を塵同然に斬り捨てた。
「……なぜ、貴方が……ここに⁉︎」
ジープの真上に降り立った人物を視界に入れ、額から血をダラダラと流した草加部は叫ぶ。
「現場の方々が一斉に出て行くものですから、ぼくの出番があると思いましてね。彼方のジープで見学させて頂きました。色々と楽しむに事足りる現場を見せられ、ついつい出てきてしまいましたよ。草加部隊長と部下の方々、この場で死にたくない方だけ即時帰投してください」
「っ!」
草加部は青々した表情で立ち上がり、近場のジープに乗り込む。周りで倒れ伏して動けずにいた軍服の男達も、その発言を受けたら真っ先にバッと立ち上がり、体を無理矢理動かすようにぎこちない動きでジープに乗り込んだ。
10数台のジープのエンジンがかかる。道路を塞いだジープが一斉に外側の端から急転回し、回れ右で全てのジープが視界から消える。
この場に残った軍服の男は1人としていない。ジープが1台あるだけで、他には殺風景な景色が広がるだけだ。
俺は草加部をはじめとした軍服の男達を瞬時に移動させた人物へ視線を向ける。
[対象:■■■■ LV■■■ 推定脅威度:不明]
そこには刀を右手に一本握った得体の知れない美男子がいた。歳は10代後半。肩まであるんじゃないか?と思える長髪の黒髪はポニテールで結び、右目は黒眼、左目は蒼眼。羽織もの――その下には漆黒スーツが見える――を羽織ってる。
「なにっ⁉︎」
「嘘でしょ⁉︎」
「なんでノイズ走るん⁉︎」
「重要な部分がノイズで聞き取れなかったー⁉︎」
「これやばいって……こんなこと初めてだよ」
「ノイズがやばいっす!あの男、何者っすか⁉︎」
「ザーザーうるさいね」
千葉達も同じく聞き取れなかったらしい。俺は2度目だが、このノイズが良い知らせとは思えない。1度目が苦汁を舐めさせる結果だったからこそ、2度目の今回もまた同様に違いない。あの草加部達を発言一つで動かせる相手だ。最初っから本気で飛ばす必要がある。
「遠山、あれはやばい相手かもしれない」
「なんとなくだが……今の一振りで相手の計り知れなさは分かったつもりだ。あの者達を潔く引かせるとなれば、相手は同じ側の人間で間違いないだろう。それに言いかけて言えなかったが、私達と同じ同等の強さを誇る存在も向こう側にはいるかもしれん。……そう言おうとして、私達の目の前に噂をする前に同等の相手かもしれん存在が現れたというわけだ」
俺が警告するまでもなく、遠山は拉致した側に俺たちと渡り合える存在がいる可能性まで考慮していた。今視界の先にいる相手が計り知れない存在と判断している以上、遠山は油断しないはずだ。周りにいる千葉達も、俺と遠山の雰囲気を読んで警戒態勢に入ってる。
「あの者達を引かせたお前は何者だ⁉︎」
遠山は叫ぶ。
「ぼくですか?ぼくが何者か知りたければ、ぼくに勝ってください」
美男子はジープを踏み台にズドン!と音を上げ、一瞬で遠山と俺の間合いに入る。
俺は左拳を握りしめ、殴ろうとするが、「新道、私に任せろ!」と遠山が闇を纏った白鴉を振るう。
「《闇の斬撃》」
「へぇーそんな技を使えるんですね。ためになりますね。ありがとうございます」
美男子は軽く白鴉を捌き、遠山の溝に鞘を直撃させようとする。
「《闇の防壁》」
ズン!
直撃する寸前に闇一色の防壁が出現し、遠山を皮一枚隔てて守る。
「へぇーまだありましたか。これは潰し甲斐がありますね」
ビシッ!
防壁に亀裂が入る。
亀裂は瞬く間に全体に広がり、バリィーン!と粉々に砕け散る。
「――なにっ⁉︎」
「次はどんな技を見せてくれるんですか?今物凄く楽しみなんですよ」
スッ!
白鴉を抜くと同時に現れる白鴉。
白鴉が遠山を狙った美男子の顔に研ぎ澄ました翼を広げ、一直線に飛んだ。
「――っぶないですね」
美男子は顔だけを後ろに反らし、白鴉を難なく避ける。
白鴉が少しの時間だったが、遠山の態勢を立て直すには十分な時間を生み出す。
「《闇の奏撃》」
俺は初めて見る技。それが美男子を真下から斬りつける。
「へぇーまだそんな奥の手を持ってましたか」
そう思った時には、美男子は2メートル後方に後退していた。
見えなかった。
この俺の眼で見ても、確認する事は出来なかった。
「素晴らしいですね。潰し甲斐があるのは、やはりとてもいいですね。ぼくがあのまま、そこにいれば、ぼくは斬られていたでしょうね」
美男子の蒼眼が蒼い炎をボッと燃え上がらせて、顕現させる。目の外まで漏れ出す蒼い炎。
何をするつもりだ?
美男子は刀を鞘に収め、右目を閉じる。左眼から今現在進行形で、蒼い炎が広がりを見せる。
「遠山、気をつけろ!こいつ、何かする気だ」
「それは私でも分かる。何か分からないが、まずいのは変わりない」
遠山は生身の身体を一瞬で、白銀の鎧に変える。
あの時、見た姿だ。
俺は遠山のこの姿を見るのは、2度目だ。
遠山の姿は、まるでヒーローものに出てくる格好良いヒーローそのものだ。
「へぇーまだ隠し持ってましたか。人は見た目で判断してはいけませんね。その鎧は、ぼくの一太刀を受けて、しっかり防げるでしょうかね?楽しみですね」
そう発言した刹那、美男子は視界から消えた。
「っ⁉︎」
スパッ!
消えたと思った矢先、何かが斬られる音が耳に届いた。
俺は隣にいる遠山へ視線を向ける。
「遠山⁉︎」
「「美紅人⁉︎」」
「遠山くん⁉︎」
遠山の左腕が空中を舞う。
「あれ?斬った感触はあったのに不思議ですね?骨を断つ感触はありませんでした。……元々なかった腕だったりします?」
美男子は遠山のすぐ側にいた。
いつ刀を鞘から抜刀したかも、確認出来なかった。
まるで、あの時の革ジャン仮面のようだ。
美男子は左腕があまりにも気になったのか?空中から地面に落下するのを左手で掴み取り、自らの手で確認し終えると宙に放り投げる。
「そおいう原理でしたか。なるほど。やはり世界は奥が広いですね。ぼくの知らない事が、まだまだたくさんあるようで楽しみが膨らみますね」
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