ダレカノセカイ

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episode.26

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 俺は戻ってきた。

 自分のいるべき世界に。

 ここに来るまで、長い道のりだった。
 目的地ゴールに辿り着くまでに何人も、俺と同じ状況下の人達が死んでいった。
 ここに来れたのは、本当に奇跡だ。
 アイラの血器に選ばれなかったら、俺はここには一生戻って来ることは叶わなかっただろう。
 本当に巡り合わせに感謝だ。
 最初は正直不安だった。
 このまま元いた世界に戻れないんじゃないか?こんな訳の分からない場所で、俺は一生帰れないのかもしれない。そう頭に過ったりした。何度もあった。
 俺には遠山がいた。
 俺には遠山達という掛け替えのない仲間がいた。
 不安な状況の中、遠山というリーダーがいて、頼りになる仲間達がいたから辿り着く事が出来た。
 心底心強かったと心から言える。
「みんな、戻ってきたな!」
 俺は青い晴天の空に両腕を掲げる。
 右手にはグリムが握られてる。
 晴天の空へ掲げられても、グリムはぐっすり眠ってる。
 グリムに太陽の日差しが差し込む。
 温もりに包まれ、「すーはーすーはー」と眠り心地良さそうに熟睡中だ。
「ああ。とうとう我々の最終目標だった〈元いた世界〉に戻って来る事が出来た。同志諸君、ここまで良く共に頑張ってくれた!」
 遠山は両目から涙を流し、眼鏡を外して涙を拭う。
「うちら、美紅人についてきて正解だったじゃん。美紅人がいなかったら、うちは日本ここに戻れてなかったと思う。美紅人や新道くん、ここにいる仲間ズッ友がいたから、うちはこうして戻れたじゃん。ホントにありがとう。まじのまじで、サンキューじゃん!」
 千葉は頭を下げる。
 隣に立つ遠山――涙を流す顔――を二度見して、貰い泣きして泣き出す。
 遠山は千葉に対して、「まひろ、ありがとう」と伝えて拍手を送る。
 遠山の拍手を見た全員が、千葉に「ありがとう」と伝えると同時に感謝を込めて拍手する。
「そうだし!うちも同類だし!うちなんて、最初泣き叫んだり、縮こまるしか出来なかった。美紅人や新道くんには凄く最初の頃は迷惑かけたと思うし。うちにしては弱腰だったって今振り返ったら思うし。やべーうち、あんな状況になるとテンパるんだって……めちゃくちゃ今回の一件で痛感させられたじゃん。ガチのガチで、正直戻って来れるとは思ってなかったから、今目ん玉にゴミが入って目の中の液体が流れてるだけで、これは涙じゃないから……液体だから……美紅人、新道くん!みんな、みんな、ホント!マジサンキュー!ありがとう!」
 戸倉は両目からポロポロと涙を流し、戸倉自身は液体と言ってるが、あれは間違いなく涙だ。涙が頬を伝って零れ落ち、戸倉は顔を上に向かせる。
 遠山が戸倉の言葉を聞き、千葉の時同様に「ちづ、ありがとう」と拍手を送る。
 泣きじゃくる千葉も含めた全員が、戸倉に「ありがとう」と温かい拍手を送る。
「新道先生!俺ら、帰ってきましたね!今更ですが!謝らせてください!俺は最初の頃、千葉や戸倉と同じでした!何も出来ず、仲間が死んでも反撃にも出れず、動いたら殺されると足がすくみ、全く動けませんでした!賢さんが殺された時も、俺は族長さんとこにいて何も出来なくて……族長やエルフの皆さんがいるところに敵が攻めてきそうな時も、俺には無理だと内心思ってました!……あの時、新道先生が来なかったら、たぶん俺はここにはいなかったと思います!あの時から俺は少しでも変わりたいと強く思いました!その気持ちに火をつけてくれた新道先生!新道先生がいなかったら、俺は変われずに今も震えてたでしょう!新道先生の絶え間ない特訓トレーニングのおかげで、今があります!俺は日常生活に戻っても、新道先生が呼べばすぐ駆けつける所存です!いつでも駆けつけますんで、後で連絡先教えてください!本当に皆々様!新道先生!ありがとうございやんしたー‼︎」
 仁は頭を深々と下げる。
 仁さんらしい挨拶だ。
 千葉と戸倉に拍手を送ったように全員が恒例の如く、「ありがとう」と温かく盛大な拍手を送った。
「えーっと、今さっき仁君の話で、おじさんの話がちらっと出てきたけど、おじさん、今ここに生きてるよー。死んだけど、転生して戻ってきてるからねー。そこだけは言い忘れないでねー。言い忘れるとそのまま死んだ事に話が集結して流れそうで怖いから。……おじさんこと守山賢は一度は死に新たな力を手に入れて戻ってたけど……おじさんも第2階層まで、仁君と同じで全然動けなかった。あの時は魔法使いでテンションが上がったものの、ゾンビとかがうじゃうじゃ出てきて、もうそれどころじゃなかった。今でも思い出すと少しちびりそうになるくらい、やばかったと記憶してる。新道くんや遠山くんの2人がいなかったら、おじさんはあの場でゾンビに食らわれてたか?おじさんとしては嬉しいご褒美魔法使いに丸焼きにされてたか?のどっちかだとおじさんは今考えるとそんな結末が想像出来ちゃうなー。おじさん、活躍したい活躍したい言いながら全然活躍すら出来ずに一度死に最後の最後で、機会チャンスという名の人生やり直しワンチャンを神様に頂きまして、どうにかこうにか新道くん達のお役に最後は立てて、結果的には活躍出来た上に凄く安心と手応えを感じてます。おじさんは元いた居場所に戻っても、この姿ではたして家に帰れるのか?職場にこの若さのおじさんが行って戻れるのか?全く予想つかないけど、おじさんは今まで通り、平穏な生活日常に戻るだろうと予感してます。また何処かで会った時というか、またこのメンバーで月に何回かは会いたいなー。ダメかな?いい?全然OK?みんな、頷いてくれてありがとう。これで、おじさんは今後楽しみが1つ増えました。みんな、ここに来るまで本当に色々とあったけど、ここに来れたのはこの場にいる全員がいたからだとおじさんは思う。だから、このメンバーでなら何だって乗り越えられる!おじさんは思います。これまで、ありがとう!これからも、よろしく」
 守山も両目から涙を流して、鼻から鼻水をドバドバ垂れ流して、号泣する。
 全員が守山の話を聞き、しみじみした雰囲気に一時はなったが、今では全員明るい雰囲気で「ありがとう」と長く温かい拍手を送る。
「僕は皆と違って、元いた世界に戻れた事をあんまり喜べない。まだ想像すらしてなかった世界で色々な冒険をしてみたかった。でも現実はそうはいかない。始まった冒険には終わりがつきもの。僕らの長い旅は終着点まで来てしまった。僕は新道や遠山やモリケン、皆と出会えて昔の僕では考えられない経験を沢山積む事が出来た。僕は皆との冒険の中で、昔の僕の殻を破り捨てられる旅が出来た事を心から感謝してる。元いた世界では僕が僕たらしめる柵が付いて回ると思うけど、僕は僕で頑張る。皆とまた会えるのを楽しみにして、僕はこれからを生きていくよ。新道、遠山、モリケン、3人は僕の中でヒーローだ。これからも3人はそのままでいてね。モリケンは仕事先が見つからない時は、後で連絡先教えるから電話して。……みんな、お疲れ様。そして僕をここまで連れて来てくれて本当にありがとう」
 天音は涙を一粒零し、グスグスと泣き声を出しながらグッと堪えてる。
 全員が何度も頷き、天音に「ありがとう」と伝えながら拍手を送る。
 天音がどうして男みたいな髪型や話し方でいるのか、結局知る事は出来なかった。天音が話したくないなら話さなくていい。そう言ったのは俺だ。まだこれから先、人生は長いんだ。また今後も全員で会う時にいつか、その話を聞ければいい。
 俺も全員が言い終えた後に「ありがとう」を天音に伝えた。
「ななかね、お兄ちゃん達やお姉ちゃん達が言ってること、よく分からないけどね。もう怖い化け物がいないのは、ななか分かるよ。……あとね、あとね。お兄ちゃん達とお別れしなくちゃいけないのも、なんとなくわかるんだ。ななか、さびしいよ。もっと、お兄ちゃん達と一緒にいたい。……なんで?どうしてなの?ななか、ずっとお兄ちゃん達といたいのに……さびしいよ。……え?また会えるの?いつ?いつ会えるの?……いつでも会えるの?……うれしい。ななか、お兄ちゃん達といつでも会えるなら、さびしくない。ななか、お兄ちゃん達とバイバイしても、かなしくないよ。……だって、ななかとお兄ちゃん達はいつでも会えるんだもん。さびしくない。ななか、泣かないで会えるのを楽しみにしてる。お兄ちゃん、いつもありがとー!だーいすき!とーやまのお兄ちゃん達とお姉ちゃん達、今までありがとー!また会おうね!ななか、みんなが好きだよ!」
 夏奈華は全員とハグし合う。
 遠山達は夏奈華へ「夏奈華ちゃん、よく頑張ってくれた。ありがとう」と感謝を伝え合う。
 夏奈華は全員から感謝の言葉とハグを受け終え、最後に俺のところに真っ直ぐ走って飛んで来る。俺は夏奈華を受け止め、「俺の方こそ、夏奈華ちゃん、ありがとう」と伝えて抱きしめる。
 全員が夏奈華に優しい拍手を送った。
「同志達各々で想うところも大きく違うだろう。ここまで辿り着くのに6人もの同志達を失った。今持っている力があれば、それを未然に防ぐ事は容易に可能であっただろう。でもそれは過去の出来事……今目の前で起きている出来事ではない。過去の出来事を変える事は現実的に不可能だ。だからこそ、我々は失った同志達の分まで生きなくてはならない。今こうして現実に戻って来ても、まだまだ問題点は山積みだ。軍服の男はもちろんだが、黒岩賢治といった謎が残っている。奴らが組織的に組んでいるのか、そうでないのかは今現在情報は余りにも少なすぎて分からない事だらけだ。だがしかし、私はこれでも刑事の端くれだ。このまま奴らの横暴を見過ごすわけにもいかん!私はこのまま奴らの情報を追う。その上で、何かしらの情報を得られれば、すぐに全員に知らせる。全員、この場に携帯やスマホの類はないだろうがメモる事は可能なはずだ。覚えてる範疇で構わない。連絡先を互いに交換し合い、全員で情報を共有し合おう。何か問題が起きた時は、すぐに私が駆けつける。何か些細なことでも気付いたら、いつでも連絡をしてくれ」
 遠山の指示に従い、俺たちは紙切れに電話番号とメールアドレス、メッセージアプリのIDなどを記して互いに交換し合った。
 そして全員が全員、住んでいる地域が近い者同士で行動する流れになって、その場を解散しようとした――その時、
 黒いジープの車が道路の端から現れた。
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