ダレカノセカイ

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episode.22

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 後日談。
 俺は小都市から大都市にかけての全都市を周り、奴隷の獣人達を解放した。
 大陸の外へ行き、他の大陸に奴隷として捕まってる獣人達を助けに行きたかったが、大陸の外には行けなかった。
 俺はこの世界の人間じゃない。だから第4階層と同じく、決まった場所でしか行動出来ない。行動範囲に制限がかかって、どうしようもなかった。
 俺は今いる大陸の全ての獣人達を助け、城塞都市に案内した。
 ラドラ達の顔を見るなり、全獣人は安堵すると同時に緊張の糸が切れたように眠りについた。ラドラ達に他の大陸へは行けない理由を説明したら、ラドラは「ガハハハハッ!セン、感謝するぞ!」と俺の両肩を力強く揉みほぐして笑った。ブラドナは「救われた全獣人を代表して言わせてちょうだい。セン、ありがとう。あなた達がいなかったら、わたし達は何も出来ずに滅びを待つだけだったわ。セン、あなた達には感謝してる。あとの事は、わたし達に任せなさい」と涙を流した。ロナードは「この恩は一生忘れません。もしセン達に危険が及んだ時は、私達が助けに行きます。絶対に力を貸します。全ての問題の後処理が終わった暁には、恩を返しに必ずセン達の元へ行きましょう」と俺に握手を求め、固い握手を交わした。
 大陸を回ってる時に1つ気掛かりな事があった。それは小都市大都市に関わらず、そこに住んでる人々が救出劇の後半辺りから誰1人としていなくなったのだ。ここの城塞都市から出て行った人々の姿も見なかった。一体、どこに行ったのだろうか?そう頭に過ぎった。消えた人々の事が気になるが、他の大陸へ行けない以上、あとはラドラ達にバトンタッチするしかなかった。

 そして俺たちは今城塞都市を後にしようとしてる。
 城塞都市の大門には、数多くの獣人達から獣人との共存を受け入れた人々が見送りに大勢来てる。
「ガハハハハッ!セン!また会おうぞ!」
 ラドラが俺に右腕を伸ばす。
「ああ。ラドラ、元気でな」
 俺は右腕を伸ばし、ラドラの右腕と力強く組む。ガッシリとお互いの腕が絡み合う。
「ガハハハハッ!我は元気だ!」
 ラドラと目線を交差し、俺たちは組んだ腕を解く。
「まさか、こうして人間と手と手を取り合える日が来るとは……不思議なものですね。分かり合える日は一生訪れないと思いましたが、セン達のおかげで共存出来る未来へ進めそうです。セン、そしてセンの仲間達に心から感謝を。ありがとうございました」
 ロナードが右腕を伸ばしてくる。
 俺はラドラの時と同じ動作をする。
「俺たちも少なからず貢献したと思うけど、その後お互いに手と手を取り合えたのはロナード達が一歩前に踏み出したからだと俺は思うよ。だから今ある全てはロナード達が自分達の足で進んで、選び決めた道だ。その道は間違いじゃない。俺はロナード達やニヒル達の姿をこれまで見て、そう今なら言える。こっちこそ、ありがとう。元気で」
 俺はロナードとハグを交わした。
「そうよ。そうよね。わたし達の選んだ道は間違いじゃないわよね。わたしもそう今なら思えるわ。ましてや、あのラドラが人間と飲み交わすなんて夢にも思わなかったから正直この道は正しい選択だったと心底思えるわ。センやトオヤマ達には感謝してもしきれない恩をたくさん貰ったわ。この恩は決して忘れない。奴隷で苦しい想いを日々積もらせた仲間達を助けてくれて、ありがとう。ホントにありがとーねー!」
 ブラドナが両腕を伸ばして来たかと思えば、勢いよく俺を抱きしめる。両腕が背中に回り、俺を力一杯に抱きしめるのが体感で分かる。
「どういたしまして。ブラドナ、元気でな」
 ブラドナのもふもふな体毛を全身に味わい、このまま体毛の温かさに包み込まれていたい。そう強く思うが、俺には元いた世界に仲間達全員で帰らないといけない使命がある。
 俺はブラドナから解放され、遠山達のいる元に戻る。
「トオヤマさん、あのアンダーグラウンドでの戦いを通し、未熟者であったとボクら一同痛感させられました。ボクらはまだまだ未熟者の域で止まってますが、これからもっともっと強くなります!ラドラ様達と共に今度はトオヤマさん達を守れるだけの漢になってみせます!」
 リコノスケが遠山と握手を交わす。
「自分が未熟者だと自ら気付くことができたのであれば、リコノスケ達は強くなれるだろう。その気持ちを忘れずに今後精進してくれ。私も今回の戦いを得て思う事は数多くあった。リコノスケが今より数倍成長するのなら、私は今よりも更に数倍成長してみせる。私は守られるより守る存在でありたいからな」
「トオヤマさんには負けます。でも!ボクは守られる存在ではありません。ボクらはトオヤマさんの仰る通り、守られるより守る存在になってみせます!そしていつか、トオヤマさんを越える獣人の中の漢になってみせます!」
「ああ。楽しみにしてる。その時は一緒に肩を並べて戦おう。今からでも、リコノスケの成長はもちろん、他の同志達が目覚しく成長を遂げる未来が楽しみだ。どんなに強い敵が相手でも、生きていさえすれば、もっと強くなれる!無駄に命を散らさない。これが私とリコノスケとの約束だ」
「はい!お漏らしするくらい強い敵が相手だろうとボクは生きてみせます!無駄に命を捨てたりはしません!トオヤマさんのその言葉、今胸に刻みました!」
「よし。なら私との約束は守れるはずだな。リコノスケ達の武運を祈っている」
 遠山はリコノスケやリコノスケの周りに控えている若い獣人達を一人一人しっかり目と目を合わせ、最後に頷き、後ろを振り返る。
「では行くとしよう」
 俺たちは遠山の言葉に頷く。
 ラドラ達と目が合う。
 ラドラ達は頷き、「さらばだ!」と別れの言葉を送ってくる。
「またな!」
 俺は手を振り、城塞都市がある反対方向へ振り返る。
 振り返った先には、硝子の扉がある。
 この世界ここには存在しない扉。
 この扉の先に宝物殿があるのか。
 俺は次に進む意思を示した際に出現する扉へ視線を向け、一歩進む。
 遠山達は全員、扉をくぐった。
 俺も扉の先へ最後の一歩を踏み出そうとした――その時、
「シンドウセン!」
 ニコルの声が耳に届いた。
 俺は後ろを振り返る。
 振り返ると同時にニコルの顔がすぐそこにあった。
 チュッ。
 ニコルの唇が俺の唇に当たる。
 柔らかい感触が唇に伝わる。
 俺は目を丸くさせ、心の底から驚く。
 ニコルが接吻キスをし終え、顔を離す。
 [称号:接吻受けし者 獲得]
 ニコルの頬が赤い。耳が真っ赤だ。
 俺も頬が熱くなるのを感じる。
 ニコルとどう顔を合わせていいか、よく分からない。
 奴隷解放に専念していて、ニコルとあの日以降会う暇はなかった。ニコルと会うタイミングが出来ても、俺が酒場『今夜はココット』に顔を出すとニコルはカウンターの奥に引っ込み、それが何度もあって会えずにこの日まで時間は経過してた。最後の最後まで会えずにこの世界を後にするのだろう。そう予感してたのに……今目の前にニコルがいる。
 俺は覚悟を決め、前を向く。
 ニコルは顔を真っ赤にして言う。
「私決めたよ。私はシンドウセンがこの世界から消えて、何処にもいなくなっても、この気持ちは捨てない。あなたがこの世界から別の世界に行ったとしても、私はシンドウセンとまた必ず会えるって信じる。もう会えない。そう誰かに言われても、そうあなたに言われたとしても、私は諦めない。好きって気持ちをそのまま貫く。シンドウセンが何処にいても、私はシンドウセンを愛してる。だから、あなたにキスしたの。これは私の覚悟であり、決意よ。この決意はどんな事があってもブレないから。シンドウセン、私は今キスした事を謝るつもりはないからね。……ただそれだけ。シンドウセン、もういいよ。ほら、行きなよ」
 ニコルは顔を俯かせ、俺の体を後ろに押す。ニコルの力は弱い。俺は後ろに押されようとその場から動かない。
 このまま、何も言わずに行くなんて出来ない。
「ニコル、ありがとう。俺の右眼に合わせて眼帯を作ってくれたこと、今でも凄く嬉しい。ニコルに今他になんて言ったらいいか、俺は分からないけど。これだけは言わせて。俺を好きになってくれてありがとう。その気持ちを大事にするって決意してくれてありがとう。俺はニコルに何もしてやれないけど、もし次にニコルに会える時があったなら……もう一度会いに行く。その時にまだ俺の事を好きでいてくれたなら、今度はちゃんと返事を返すからな。俺は今こんな事しか言えない。それでも……俺を愛してくれてありがとう」
 俺は涙の大粒をポロポロと零し出すニコルの両目を両手で拭った。
 ニコルの涙は拭っても拭っても、溢れ出す。この涙は嬉し涙なのか?それとも悲しい涙なのか?俺には分からない。
 ここまで俺を想ってくれる人は初めてだ。もし元いた世界で会えていたなら。俺は……。
 [称号:ブレブレくん 獲得]
 [称号:グラつく男に乾杯 獲得]
 ニコルを今すぐ抱きしめたい。そう思うのは罪だ。ニコルに重い十字架を増やすようなものだ。ニコルと次に会える保証なんてない。保証がないのに俺は、もう一度なんて言ってしまった。
 俺は未練タラタラだな。ニコルを好きになれそうな気がし始めてるのに……もうこのままお別れかよ。俺はどうしたら……。
 俺の中にポッツンと迷いが生まれる。
 [称号:迷走者 獲得]
 このまま残ればいい。
 元いた世界に戻らないのですか?
 天使と悪魔が耳に囁くような心の声がした。
 [称号:天使と悪魔の囁き受けし者 獲得]
 今、二択選択出来る。
 1つ、ここに残る。
 1つ、元いた世界へ戻る。
 [称号:天秤にかけた者 獲得]
 迷いが俺の足を止めて離さない。
 前に進むか。後ろに進むか。どちらかを選ばない限り、足は動かない。そんな気さえする。
 [称号:未選択者 獲得]
 [称号:行動出来ぬ者 獲得]
 本来の目的が見失われる――そんな時、
「何迷ってるの!シンドウセン!あなたの元いた世界に戻りたいって気持ちはそんな程度だったの?違うよね?私が涙を流してるからって、ここに残ったりしないよね⁇私は残ってくれるなら、どれだけ嬉しいか……嬉しさの度合いは計り知れない。けどね、私が泣いてるから嫌々残るつもりなら、私から願い下げだよ!私が好きになったシンドウセンは自分の選択を後悔しない人。自分の決めた道を正しく進む人。人の気持ちが分かる人。人の痛みが分かる人。優しさだけじゃ、誰も救えないって分かってる人。シンドウセンは誰かに左右されるほど、柔じゃないでしょ⁉︎私が好きな人は迷ったりしない。行くなら行く。残るなら残る。ハッキリ決められる人。今のシンドウセンは私の知るシンドウセンなんかじゃない。シンドウセン、私の涙一つで覆せない気持ちがブレる男だったの⁉︎」
 ニコルの言葉が、俺の迷いを打ち消す。
 [称号:選択者 獲得]
 [称号:決定者 獲得]
「そうだよな。俺じゃないよな。俺にしてはグラグラ迷いっぱなしだよな。ニコルに言われて気持ちが固まるなんて、俺の元いた世界に戻る気持ちはその程度だったのかよって感じだよな。あれだけ覆せないって言っておいて、この程度じゃー俺もまだまだみたいだ。ニコル、ありがとう!ニコルの言葉で吹っ切れた。ニコルの想いに危うく残ろうとしてた。俺は行くよ」
「そうそれだよそれ。私が好きになったシンドウセンは今のシンドウセンだよ。うん。私の想いが強すぎて好きになってくれたのは凄く凄く嬉しい。でも本気で好きになるか迷う程度だと私もまだまだだよね。私も次にシンドウセンと会う日までに今よりもっともっと美を磨くから心してて。次に会う時はシンドウセンから好きだって言わせてみせるからね!」
「おう!それまでに俺も、私の好きになった新道千はこんな人じゃないって次に会う日までに言われないようにもっと強く!どんな事があっても揺れ動かない芯を持った男になる!」
「よっしっ、ならシンドウセン!私と会えるその日まで、死んだらダメだからね!絶対だよ!」
「ああ!任せろ!」
 [称号:2人の誓い 獲得]
 [称号:ニコルに愛されし者 獲得]
 涙を流しながらも必死に笑うニコルの笑顔を一目見て、俺は扉をくぐった。
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