ダレカノセカイ

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episode.18.5

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「いつでもよいぞ」
「じゃー行くぞ!」
 俺は一蹴りで、アイラの間合いに入る。
「あまい」
「っ!」
 スパン!
 顎に右足が当たった。
 頭が揺れる。
「しっかり妾を見んか」
 ドッ!
 強靭な皮膚を破り、左足が俺の心臓を貫く。
 痛みが走る。だが、どうったことじゃない。
 血が口から吹き出そうと体に穴が開こうと、どうったことじゃない!
 スパン!
 右足が横顔に直撃する。
「っ⁉︎」
 そのまま俺は地面に倒れ、
「いやまだだ」
 地面に尻餅つくのと同時に早急に立て直し、
「この一撃で終わりだ!」
 アイラに渾身の一撃を振るう。
「力の入れすぎじゃな」
 アイラは俺の一撃を軽々と避け、左足を俺の右肩目掛けて降る。
 見える。
 これなら防げる。
 俺は右腕で防ぎ、視界の端から飛んできた右足を左腕で防ぎきる。
「あまい。両足塞いだから安心するとこではないわ」
 俺の両腕を踏み台に白鳥のようにアイラは飛ぶ。
 ゴン!
「がはっ⁉︎」
 弾かれた両腕で防げない俺の頭にかかと落としが入った。
 俺は地面に頭から倒れる。
 そう直感した俺は両手を地面に触れ、軽くひねり、竜巻ハリケーンを人災の手で発生させる。
 俺は竜巻ハリケーンと共に上空に上昇し、その勢いのまま急降下した。
「うむ。そうくるか」
 ガッ!
 アイラは正面から俺の全力のキックを受ける。
 やばい。
 そう思った時には遅かった。
 アイラは全力を受けても後退することは1ミリもなく、赤い眼が俺の瞳を見つめる。
「あっ!」
 体が一縮し、硬直する。
「一瞬が勝負の分かれ目である時もあるんじゃぞ」
 アイラは両足で俺の顔面に二撃加え、俺の意識を奪った。
「……ぐっ!まだ!」
 俺は背中から後ろに倒れる寸前で、意識を取り戻す。
 アイラに左拳を放つ。
「その意気はよし!」
 左拳はボッと一直線に伸び、アイラはスローモションの如く体を右斜めにして避ける。
 ドッ!
「あがっ⁉︎」
 左膝が俺の溝に入った。
 アイラはぐるっと回る。
 視界にアイラの右肘が見えた。
 ガン!
 顎に重い一撃が入る。
「くっ⁉︎」
 バランスが崩れる体を立て直そうと俺はするが、
「いや遅いわ」
 ガガガガガガッ‼︎
 更にもう一回転したアイラの左足が俺の頭、胸、腹部、両脚に連撃で入った。
 後ろに後退する事を許してくれず、俺は仰向けで地面に倒れた。
「次はもう来てると思え」
 ズゴッ!
「がはっ⁉︎」
 無防備な俺の腹にアイラの両膝が重力を帯び、重い一撃となって直撃した。
「なんじゃ?もう終わりか?」
 アイラは気絶しかけた俺にビンタを浴びせ、目を覚まさせる。
「まだ……まだ俺はこんなもんじゃない」
「そうか。なら妾にセンのこんなもんじゃないと言わせる根底の力を見せてくれんかのう?」
「ああ!」
 起き上がり際に左腕を後ろに下げ、勢いをつけた左拳を目に止まらない音速で放つ。
 ボッ‼︎
 左拳が、風圧がアイラを襲う。
「なんじゃ、まだまだじゃな」
 アイラは体を後ろに逸らし、
「こんなものもあるぞ」
 そのまま地面に両手を着き、その状態で左足をぐわっと伸ばす。
 見えてる。それなのに体がさっきの動作で、まだ対応出来ない。
 俺の上半身を一直線に通過し、左足の踵が顎を吹き飛ばす。
 ボキッ‼︎
 顎から頭の先端にかけて頭蓋骨にヒビが入り、砕け折れた。
 俺の体が宙を舞う。
 ぐるぐると視界が回る。
 不死身の特性が働く。
 頭の重症が治り始める。
「舞うだけとは……悠長な事じゃ。敵は待ってくれんぞ!」
 アイラが宙を舞う俺の真上――上空――に現れる。
 まじかよ。
 次の瞬間、
 ズドン‼︎
「がっはっ‼︎⁉︎」
 数回転したアイラの超絶決まった足蹴りが俺を地面に突き落とし、激突させた。
 血は口から吐き出され、飛び散る。
 身体が悲鳴をあげる。
 もう起き上がるな。そう頭から緊急警報が鳴る。
 俺自身も分かってる。アイラが俺より何倍も強く、計り知れない領域だと。頭では分かっているんだ。でも、それでも!男としての意地が俺を奮い立たせる。
 俺を助けてくれたアイラ。
 俺の憧れであるアイラ。
 俺を地の底から再び這い上がらせてくれたアイラ。
 俺の鍛錬に付き合ってくれるアイラ。
 俺がまだ見ぬ領域へ導いてくれる師。
 笑うと可愛いアイラ。
 色々な遊びを通して、色々な表情を見せてくれるアイラ。それを俺は知ってる。
 どれだけ俺を励まし、ここまで手を引いて来てくれたか。もう数え足りない。
 いつしか、そんなアイラを俺は好きになった。
 今では心から溢れ出す程にアイラを心の奥底から愛してる。
「まだ立てるんじゃな。手加減は加えたつもりじゃったが、それでも起き上がれんくらいの力で決めたつもりじゃったんじゃがな」
 アイラはそう言いながら、俺が立ち上がるのを信じてた。アイラが構えを解いていないのが、その証拠だ。
「これでも、俺はアイラに選ばれた男だぞ」
 口から流れる血を右手で拭う。
 口の中の血を吐き出し、
「時間を貰ったおかげで、もう全開に回復したからな!」
 地面を蹴る。
「うむ」
 ガッ!
「――まじかよ⁉︎」
 俺が地面を蹴るよりも早く、アイラは地面を蹴っていたのに今更気付く。
 アイラの右足が俺の眼前に出現し、元通りに戻った顔が風船のように破裂音を発し、バン!と吹き飛ぶ。
 視界は今見えない。
 それでも――
「っらぁあ!」
 俺は視界が見えなくとも、視界がブラックアウトする寸前まで見ていた光景を記憶に刻んでいた。
 記憶からアイラの位置を割り出し、左拳を振り切る。
「そうじゃ!それは正解じゃ」
 アイラに触れた感触はない。
 空振ったか。
 空振ったところで――
「俺は諦めない!」
 両拳で連撃を前方に放つ。
 怒涛の連打が虚空を空振る。
 手応えはない。
「見えぬなら、心で感じるんじゃ!」
 ドッ!
 左膝にアイラのどちらかの足が強く当たるのを感じ、俺はバランスを崩す。
 まだ完全とは言えない。だけど、視界が戻る。
 これなら――
「視界に頼っておっては目が潰れれば、お終いじゃぞと何度言えばよいのじゃ!セン!」
 俺の左肩に暴風が吹いた。そう思った瞬間、アイラの左足が真後ろから左顔へ飛んできた。
 ガッ!
「っ‼︎」
 左顔に痛みが走る。
「まだ終わりじゃないと知らんか」
 後ろ頭に強烈な痛みが走り、ガクンと頭が揺れる。視界が定まらない。
 真後ろから放たれた右足だろうか?
 俺は前方の地面に倒れるのを右足で踏ん張り、真後ろへ体を振り向かせる。
 右足が視界のすぐ先にあった。
「詰みじゃ」
「まだ!」
 俺は次の一手を打つなら、また視界を潰すと思っていた。だからこそ、左腕で防ぐ事に成功する。
「なんと――」
「っらぁあああ‼︎」
 左腕で防いだ右足を右手で思いっきり掴み、そのまま前に走る。
 アイラはそう来ると想定していなかった顔を見せる。
 ゴン!
 渾身の頭突きをお見舞いする。
 やったか⁉︎
 俺は顔を上げ、
「やるではないか。じゃが、詰めが甘いわ」
 アイラが俺の頭突きを両腕で防ぎきっていたのを目撃する。
 アイラの顔はニヤッと笑みがこぼれ、
「セン、お主の動きを賞賛し、目にもの見せてやるわ」
 俺の右手に握られている右足を猛烈な回転で振り払い、解き放つ。
 ズン!
 直後、真上の頭に重い一撃が入った。
 意識が飛びそうになる。そこをギリギリ我慢して踏み止まれた。
「まだ――」
 ドッ!
 アイラの右足から放たれたかかと落としが右肩を外し、俺の両膝を地面に着かせた。
 アイラはかかと落としで弾みを増し、更に高く宙を舞う。
 アイラの姿に見惚れた。
「トドメじゃ!」
 バガン‼︎
 竜巻の如く回転を上げ、竜巻を纏った左足が俺の頭を胴体から切り離した。
 くるくる回る視界。
 視界に頭を無くした俺の胴体が力なく崩れ落ちるのが見えた。
 アイラ、やっぱり強いな。
 視界はブラックアウトし、意識を失った。

 次に目を覚ますとアイラの顔が真上にあった。
「やっと起きたようじゃな」
 アイラが笑う。
 頭に柔らかい感触がある。
 これは膝枕か?
 視線を落とす。
 アイラの両膝が見える。
 間違いない。これは膝枕だ。
「なんじゃ?膝枕は性に合わんか?」
「いや全然……むしろ、ありがとうと言いたい!」
 頬が赤くなるのを感じる。
「じゃったら、膝枕をして正解じゃったわ。して、セン!お主はまだまだ妾に一撃も入れられんのう。対策は毎回考えておるのか?」
「考えてるよ。考えていて、あのざまだからな。やっぱ、アイラには全然勝てる気がしないな」
「勝てる気がせんでも、勝てる!そう信じんぬなら勝てるものも勝てんぞ」
「……だよな。頭では分かってるんだけど、いざ戦ってみるとアイラの実力を目の前で味合わされて、それどころじゃないんだよな。でも勝つ気で戦ってるからな!」
「センがそういうのであれば、そうなんじゃろ。しかし、妾が強くとも冷静に次の一手を読んでおるのは褒められる出来じゃった」
「ありがとう。俺に何度も心で見よって言ってくるアイラなら視界に頼りすぎてる俺の目をまた潰しに来るとあの時は読めたんだよな」
「うむ。しっかり学習してる証拠じゃな。何も考えておらぬ者なら、同じことの繰り返しじゃった。センは毎回妾と戦う毎に戦闘経験が増えておる。いずれは妾以上の戦闘センスを持つ男になるじゃろうな」
「まじかよ。それは楽しみだな!そん時は、俺がアイラを守る番だな」
「うむ。じゃが、それがいつになるかは妾でも分からぬ。妾を守ってくれる男になるのを気長に待つとするかのう」
「おいおい。気長に待たないでくれよ。俺は今すぐにも、アイラを守れる強さがほしいのに……アイラの事が好き過ぎて辛いわ」
「そうじゃったか……センはよく妾に好きだと言うておるが、あれは本心じゃったか。それはすまぬことをしたのう。センに今伝えるが、妾は妾よりも強い男しか好きになれんのじゃ。じゃから、今のセンに惚れる事は万が一にもない」
「……だよな。そうだろうなってのは……なんとなく分かってた。でも、それでも俺の気持ちはアイラに知っていてもらいたかった。だから俺もアイラに伝える。俺はアイラを超える男になる!そして誰にも負けない男になるからな!」
「そうかそうか。それは大層な宣言じゃな。じゃったら、妾はセンが宣言通りの男になるのを気長に待つとするかのう。……じゃが、他に強い男が現れれば、妾は其奴を選ぶかもしれんからな。セン、妾を満足させる男にはようなれ!」
「ああ!なってやる!なってやるとも!」
 アイラの膝枕から起き上がり、俺は高々と両腕を上げる。
「絶対になってやるからな!」
 俺は自分自身に刻み込む。
 アイラが惚れる男になる。
 アイラを超える男になる。
 アイラを守れる男になる。
 どんな強い奴にも負けない男になる。
 強く刻み込み、俺はアイラの方へ振り返る。
「こうしてる時間も惜しい。アイラ、続きをやろう!」
 アイラはクスッと笑い、
「お主は分かりやすい男じゃな。であるから、伸び代もある。心の強さも持ち合わせておる。経験を培い、実戦で精神と肉体を磨き上げれば……セン、お主は妾の知る誰よりも強い男になれる。今から始める一戦一戦、妾は手抜きを一切せんぞ。ちと本気でお主と向かい合う。嫌になっても、妾は途中で辞めんぞ。投げ出すなら今じゃ。じゃが、お主ならそれを越えられると妾は信じておる。では……始まりじゃ!」
 赤い眼から全てを跪かせる眼光が、空気を極限にピリつかせる独特な闘気を放つ。
「まじかよ。これだけの……力を持ってたのか。つくづく俺の実力の無さを痛感させられるな。でも俺は引かない!どんだけ打ち負けようと、どんだけ殺されようと、どんだけ心が折れそうになっても、どんだけ泣き叫びたくなっても、その全てを俺は超えてやる‼︎」
 直後、脅威という言葉を体現したアイラと俺は激突した。
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