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episode.16
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敵の侵攻は激しい。
倒しても、倒しても……。
1体倒せば、2体増える。
2体倒せば、4体増える。
4体倒せば、8対増える。
敵は増える一方で、増殖したようにわいてくる。
絶望が視界に広がる。
自分達にも敵を倒す力は得られたが、この数を相手には……。
絶望を砕ける力は……敵を倒す体力はない。体力がなくなったら……。
「おらぁあ‼︎」
食糧庫に食糧を運び込むのを手伝ってくれた葉山は、丸太を力強く振り回す。振り回すといっても無作為に振るんではなく、しっかりと正確に敵の頭を狙って振るっている。
「抹殺」
「敵」
「抹殺」
「うるぁあ‼︎」
葉山は周りにいる殺戮仏【河馬】や殺戮仏【猪】を撃退し、
「テンソンさんら‼︎大丈夫っすか⁉︎」
自分達の心配をしてくれる。
自分以外の仲間へ視線を向けると他の4人は連戦に続く連戦で体力は底をつき、アントロは膝をついてる。ピーノは地面に倒れこむ。マノラは地面に座り込んでいる。トンザは口から唾液を垂れ流して、這い蹲る。
「大丈夫といいたいところだが……」
他の仲間達が動けない状況を見たせいか、自分もまたプッツンと糸が切れたように地面に両膝をつく。
「……くっ、ここまでか」
先ほどまでは自分自身を包み込んだ闇が無限に湧き出して、自分が身につけていない力を供給してくれていたが、使えば使うだけ体が軋み、もうボロボロで限界に近い。
「……もう体が……」
「……力が出ない……」
「……体力の限界に近い」
「……はぁーはぁー」
「……くっ、限界だ。……葉山お前だけでも仲間の元に向かってくれ」
自分達を必死に守って戦ってくれている葉山にそう告げると、
「なに馬鹿な事言ってんですか‼︎テンソンさんら、あと少しの辛抱って言ってるでしょうが‼︎今こうしてる間にも、新道先生がなんとかしてくれるはずなんっす‼︎」
葉山は自分達を殺しに来る殺戮仏へ丸太を振り回し続け、そう言う。
「しかし――」
「しかしもクソもないでしょうが‼︎テンソンさんらも見たと思うっすけど、新道先生が地上に向かったんですよ‼︎新道先生が地上に行ったってことは……うんらぁあ‼︎……もうすぐこの戦いは終わるはず‼︎だからテンソンさんらは寝てていいっすから、俺に任せてください‼︎おぉるぁあ‼︎」
「……恩人がここまで戦ってくれてるのに……自分は……何をしている」
頬を両手で強く叩く。
痛みが頬にジンジン伝わる。
目が覚めた。
絶望が今この瞬間も広がる。
それでも、自分達は――
「葉山!弱った自分の考えが間違いだった。今この状況で寝てるほど、ラドラ様から腑抜けた鍛えられ方はしていない‼︎」
もう体の限界はとうの昔に来ている。それでも今の今までやってこれたのは自分の信念に従っていたからだ。体がどんなにボロボロになろうと構わない。ラドラ様が今も戦っておられるかもしれないのに自分だけが寝てるわけにはいかない。
葉山の言葉で自分自身の体を奮い立たせ、心に戦う炎を灯す。
再び身につけたことすら記憶にない見知らぬ闇の力を身に宿し、両膝を地面から離して、二本足で立ち上がる。
「フンガァアア!」
アントロが叫び、槍を地面に突き刺す。槍を支えにして、自らの足で立ち上がった。
「テンソン、俺もラドラ様に腑抜けた鍛えられ方はしていない。まだやれる。まだ俺はやれるぞ!」
突き刺した槍を抜き、アントロは自らの胸をドン!と叩いた。
アントロの眼は、死んでいない。
「……うるさくて、ぐつぐつ寝ていられやしない!」
倒れ込んでいたピーノは両腕に力を入れ、体を起こす。
顔を上げたピーノも、アントロと同じ眼をしている。
「テンソン!お前らだけに背負わせるわけには断じて出来ない。私も、この通り。立ち上がって戦う力はある!」
震える両膝を何度も叩き、闇の力を両脚に宿して立ち上がる。
ピーノは2本の槍を両手で握る。
「フフフフッ」
すぐ側で座り込んでいたマノラ。
小さく笑い、マノラは「休憩は終わりだ」と呟く。
「フハハハハ!俺もやるぞ!ラドラ様の高笑いを思い出したら笑えてくる。このピンチでも、ラドラ様なら立ち上がる。腰を下ろしていい時は全ての決着がつくその時だな‼︎」
マノラの眼は闇を纏う。
闇が全身に燃え広がるように包み込み、マノラは大槍を振り回す。
「……ペッペッ……」
唾液を流したトンザは口内に残った唾液を全部吐き出し、地面に突き立てた右足をドシン!と音を立たせる。
「4人とも起き上がって、俺だけ起き上がらないわけにはいかないなー!よっこらしょ‼︎このまま最後まで立って最後の最後まで敵に食らいついてみせる‼︎葉山やテンソン達にいい格好はさせないからなー‼︎」
トンザは闇の力で尻尾の長さを3倍以上の長さに伸ばし、地面をバタンバタン!と叩き土煙を巻き起こす。
「……アントロ……ピーノ……マノラ……トンザ……よく立ち上がってくれた。……葉山には悪いが全員このまま寝て終わらない。自分達の問題は自分達で解決するぞ‼︎葉山や葉山の仲間だけに押し付けてられない‼︎ラドラ様から教わったクソど根性を今こそ見せる時だー‼︎」
自分は右手に持った槍を大きく掲げて伸ばす。
「「「「おおおおおおおお‼︎‼︎」」」」
自分に続いて、アントロ達も槍を天高く掲げる。
「テンソンさんら、後ろは任せたっすよ‼︎」
葉山は頷き、前だけ向く。
前方には計り知れない数の殺戮仏がいる。
後方には数は多いが、自分達なら一撃で倒せる殺戮仏の群れがいる。それは左右に広がる殺戮仏達と合流して行き、大群となって向かって来る。
「行くぞー‼︎」
それから15分後。
辺りから増殖して沸いて襲って来ていた殺戮仏の数は急激に減った。
自分を含めたアントロ達は今も自分の足で立ち、残り少ない殺戮仏を相手する。
葉山は自分達が相手する殺戮仏の数を更に減らす。自分達の負担があまりないように心掛けてくれているようで、葉山は漆黒の鎧を失ってもなお、殺戮仏を丸太一本で撃破する。
その姿こそ、まさにお伽話で聞かされた英獣。そのものであった。
自分が葉山へ視線を向けていると少し離れた先から人影が近づいて来る。その数は少数ではない。目で数えられない大多数の人影が此方へ向かってくる。
「葉山さん!」
葉山は声を聞き、声のした方へ視線を向けた。視線の先には目で見える距離まで近づき、接近する人影の顔や姿が視認出来る。
「……遠山さん!……それに他のみんなも無事だったんすね!」
葉山はトオヤマの姿を確認したことで安心したのか、丸太を杖代わりにして地面に突き立てかける。葉山の元へ駆け寄ってきたトオヤマ達とリコノスケ達。
「リコノスケ!」
リコノスケ達の姿を見つけ、自分はもう一歩も動かしたくない足に鞭を打ち、一歩一歩歩き出す。
「テンソン様」
リコノスケが自分の顔を見るなり、周りの仲間達も引き連れて飛んでやってくる。
「無事か?」
「はい。この通り、若い衆全員揃って無事です」
リコノスケは深く頷く。
「よくやった」
リコノスケの頭を優しく叩く。
リコノスケは自分やアントロ達の深手を負った傷を視界に収め、言う。
「テンソン様達は無理をされたようですね」
リコノスケは怪我は負っていないが、身につけた軽鎧は凸凹になってる。
他の若い衆達も、同じ姿だ。
怪我はしていない。
しかし、自分の知らない場所で殺戮仏と戦っていた姿が目に浮かぶ。
「無理をせずに寝ていたら、ラドラ様に顔向けは出来ない。リコノスケ達も頑張っていたなら尚更、寝ていては親衛隊としての名が泣く」
「今は一先ず休まれてください。まひろ様を呼んできますので」
リコノスケはそう言い、走り出す。他の仲間達も自分が無理に立っているのが見ていて辛いのか、辛そうな表情を見せる。
「わかった。少し横にならせてもらおう。だから辛そうな顔はするな。若い衆まで辛い顔をするのを見ると心苦しい」
そう伝えると周りのアントロ達も頷く。
「俺もそうしよう。テンソンの言う通りだ。全員笑え。槍が折れるまで戦ったのだ。辛そうな目で見られたら戦士としての恥のようなもの」
「心配してくれるのは嬉しい。恥ではなくとも、嬉しい気持ちはある。子供達が心配するとなれば、私は一休みさせてもらうぞ」
「フハハハハ。俺はまだやれるぞ。だが……若者に心配されているのに立っているわけにもいかないからな。休ませてもらうとしよう」
「倒せなかった敵をなぜか倒せるようになった。だがそれ以上に体はろくに動かせない。見栄を張っていても拉致はあかん。そうせざる終えないなー」
自分を含めたアントロ達は地面に体を預け、敵との戦いで使命を果たし終えた槍と共に横になる。
顔を横に向かせ、リコノスケがいる場所を見る。
「葉山さん、怪我してるじゃん。ちょっと待ってね。すぐ終わるから。闇回復魔法《闇治療》」
葉山は鎧が壊れるまで戦ったことで、体のあっちこっちに軽傷程度だが殺戮仏に怪我を負わされているようだ。それに気づいた葉山の仲間が魔法を発動させ、みるみるうちにかすり傷から軽傷までの怪我が綺麗に塞がっていく。
傷を治した葉山の仲間にリコノスケが声をかけ、
「まひろ様、テンソン様達にも治療をお願いします」
「うん。オッケー」
自分の元へ連れてくる。
リコノスケが呼んだマヒロは、自分の体を一目見て言う。
「うわーこれはやばいねー。相当無理したんじゃない?怪我ってより深手が多すぎ、うちがいなかったら終わってる案件じゃん。闇回復魔法《闇治療》」
自分達がなぜか使えた闇の力。
それと同じ闇が自分の体を包み込む。
「すまない。助かる」
全身の痛みが瞬時に消え、体が軽くなるのがわかる。
「この恩は忘れない」
自分を治療してくれたマヒロに感謝を伝え、起き上がる。
「はやっ!もう起きて平気なのは分かるけど、もう少し寝ててもいいんだよ?」
「自分はもう平気だ。他の仲間を頼む」
「ならいいんだけどね。じゃーちゃっちゃと終わらせるじゃん。闇回復魔法《闇治療》」
自分の体を労わるように葉山の仲間マヒロは言い、他の仲間達の治療を始めていく。
5分後。
葉山はもちろん、自分達は万全な状態に回復した。リコノスケ達はこの後もアンダーグラウンドに残る殺戮仏を倒し、ラドラ様達と合流すると聞いた。
自分を含めたアントロ達4人とも、このまま葉山の仲間と同行して先へ進むと決意を固めた。
「みんな、行くぞ!」
葉山の仲間であるトオヤマが叫び、
「よっしゃー!一丁やってやろうじゃん」
「障害物は全部壊して、どんどん行くよー!」
「新道先生!待っててくださいっす!」
「ラドラ様の元へ!親衛隊の名を轟かせるぞー‼︎」
「「「「「おおおおお‼︎」」」」」
周りのアントロ達も叫び、走り出した。
♦︎
地下から黒い化け物が姿を現したと思えば、1体で数十万の規模を誇る殺戮仏に殴りかかったのです。
私は黒い化け物が何者かは目撃した時は、一切興味はありませんでした。
しかし、黒い化け物が殴った殺戮仏が一撃で木っ端微塵に粉砕された瞬間、私は心の奥底から「ありえない」と叫んでしまいました。
実際に私が口にした通り、ありえないことなのです。私が作り上げた殺戮仏の全てに《光属性付与》《光・闇属性以外攻撃無効》が付け加えられています。この世界に住む獣人や人、その他の雑種共は光も闇も使えないこと。使用出来たとしても、攻撃系統の力は存在しない事を数年の下調べで既に熟知して知っていました。ハッキリ言って、この世界に私の作り上げた殺戮仏に勝てる者は1人としていない。私がこの世界の絶対君主。私こそがもっとも神に近い存在。この世界の全てを支配した私こそが神に等しい存在と勝ち誇っていたというのに……。それなのにこの世界に異端者がいたとは、今この時この瞬間まで私は把握出来ていませんでした。
本当に心の底から、ありえないと叫んでしまう事象が今まさに起こってしまったのです。心底、あの黒神が見せた悪夢を否が応でも思い出してしまいますね。
私は唇を噛み締めました。
唇からは私の体に流れる血がゆっくりと滴り落ちます。
私の眼に映る黒い化け物が何者かは、神に等しい私でも今現在把握は不可能です。難いですね。唯一分かってる重要な点は、あの黒い化け物が私が作り上げた殺戮仏を破壊出来る事だけでしょう。
他に黒い化け物が何かを掴めればいいのですが、見てるだけでは掴める気配は一向に無いでしょうね。さてどうしましょうか?あの黒い化け物は私が殺戮仏に指示を出さなくても、化け物自らが向かって破壊しに行ってますからね。このまま黙って見ていれば、殺戮仏が破壊されるのを見てるだけで終わるでしょう。沙門を動かすべきですかね?沙門を動かし、黒い化け物の情報を掴めればいいですね。いやそれだけではなく、黒い化け物の弱点も掴めれば尚良しです。
殺戮仏【巨人】の足元にいた沙門の半数以上が地下都市に降りている現状、今現在下に控えているのはエミリ君と沙門と呼んでも無能な人間達とあまり大差はありませんが、それ以外に当て馬はいませんしね。
私は急を要する際に使う異能《念話》を発動する。
(エミリ君、聞こえますか?)
心の中で念じること、数秒後。
『はい。僧侶様如何されましたか?』
エミリ君が私の念話に応じてくれました。
(すみません。エミリ君に見えているかは私には分かりませんが、今現在地下から姿を現した敵が1体いましてね。その敵がどうやら私の把握出来てなかった異端者のようで、エミリ君には申し訳有りませんが他の沙門達を今すぐ地下へ降下する境目へ至急向かってもらってよろしいですか)
『御意!』
エミリ君は一言応答して、私が伝えたことを他の沙門達に指示しているのが巨人の手のひらから下を覗くとその姿が窺え見えますね。
エミリ君が私の言いつけに従って動くのはいいことですが、1つだけ言い忘れていた事がありました。
私は異能《念話》を再び発動する。
(最後にエミリ君貴方だけは失いたくない人材なので、エミリ君は全てが終わるその時までこの場を離れないようにお願いしますよ)
『御意!ありがたいお言葉ありがとうございございます。生き残りの獣人を滅ぼすまで、全力を尽くします』
(よろしくお願いしますね)
異能《念話》を終了し、黒い化け物が次々と私が作り上げた殺戮仏を破壊していく様をこの目に見せられ、再び唇を噛み締める。
神に等しい私の中に流れる血がポトッポトッと流れ落ち、音が耳に届く度に黒い化け物は殺戮仏を跡形もなく粉砕して破壊の限りを続ける。
嗚呼、なんという事でしょう。私がこの世界に舞い降りる際に初めてお姿を垣間見たあの黒神によって頂いたこの力が黒い化け物には通用しない。私が今見た限りでは全く倒せる気配も感じられませんね。このまま、あの黒い化け物を放置していたら……数十万の規模を少しずつ削って行くのが目に見えますね。この世界の神になる為に得たと言っても過言じゃない最高の力が……この世界を支配する為に作り上げた殺戮仏が私の見ている視界から消えいく。
私の手駒が次々と消えてしまう。
私は巨人の手のひらから手を伸ばし、
「嗚呼、なんと残酷な光景を見せるのでしょう。こんな残酷な光景は、あの黒神にこの地へ来る前に見せられた悪夢と同じではないか。私を全ての世界を蹂躙する為だけの駒の1つにしか数えていない……あの黒神が見せた悪夢が今現実となって私の道を阻むとは……」
黒い化け物を私は歯噛みして睨みました。口の肉を噛み、血の味が口の中に広がります。嗚呼、また私の血が無駄に流れてしまう。これもあれも全ては、あの黒い化け物が出現したせいと言ってしまいたいですね。
睨んだところで、あの黒い化け物の行進は止まりません。私が作り上げた最高傑作と呼べる殺戮仏が全く通用せずに破壊されてしまう。粉々になって、輝砂と変わり消え去るのが私の目には見えます。目で見たところで、砂が風に流されるのを止められることは出来ませんが、私が作り上げた殺戮仏の最後の瞬間を脳裏に刻むことは出来ます。
しかし全くもって、ありえない。
あの黒い化け物は私の自信作である殺戮仏すらも破壊する。あの黒い化け物はレベルは一体どれくらいなんでしょうかね?私は目を細め、鑑定眼を行使してみましたが名前もレベルも表示されませんね。されませんというより、私の鑑定眼では見れないのか……表示が文字化けしてなんと書いてあるのか読めないんですよ。あの黒い化け物は私よりもレベルが高いというのでしょうか?
本当につくづく思い知らされますね。私よりも強い存在は、この世界にたくさんいることを。それでも、あの黒い化け物が現れる前まではどんなにレベルが高くとも私の作り上げた殺戮仏を倒すことはおろか破壊する事も出来ない雑魚で、雑種で、言語が理解不能な獣人共だったのですがね。
つい一刻前までの私はまさかこんな結果が待ってるとは……つゆ知らず予想すらしていないでしょうね。
「あの黒神はこれが見えていたんでしょうかね?見えていたからこそ、私を使い捨ての駒のような眼で見下したのでしょうか?……今となっては真偽は問えませんが、1つだけ言える事があります。黒神よ、私に見せた悪夢が私の道を阻むものであったとするなら私自身が今この場で証明してみせよう。この世界を完全なる力で蹂躙し、支配した殺戮仏の力を。黒神に貰ったこの力を。私は数十万という数の力で、あの黒い化け物を倒してみせましょう。そして私こそが神に等しい存在と貴方に証明してみせよう」
私は数十万の殺戮仏――エミリ君達の管轄外――に一斉に指示を出す。
「待機してる全ての殺戮仏よ、あの黒い化け物を殺しなさい」
全ての殺戮仏に私が見ている黒い化け物の姿を共有し終え、異能《殺戮仏創造》を発動します。
念には念を。
力には力を。
化け物には化け物を。
私は神に頂いた《アイテムストレージ》より、獣人の肉体と行き場を失った魂を選択して、殺戮仏創造の材料に全て注ぎ込む。
私は殺戮仏創造の中でも、未だに成功した事がないLV100オーバーの殺戮仏を作り出す為に今まで使わずに来たるべき日――悪夢の日――に向けて貯めていた数億の肉体と数億の魂を全て注ぎ終えました。
その刹那、殺戮仏創造する際に光るエフェクトが生じました。全てを飲み込むようなブラックホール……いや白い光に包まれている為、これをブラックホールと呼ぶには大きく違いますね。これを正確に言うなら、ホワイトホールでしょうか。ホワイトホールから殺戮仏創造で作り出そうとする前人未到の領域――LV100オーバー――の殺戮仏がゆっくりと姿を現わす。まず最初に3本の左手がホワイトホールから真っ先に出て、次に3本の右手が出てきました。両手ともに空間を引き裂くような握り方で、自らの体をホワイトホールから引きづり出そうとしています。
これは素晴らしい。まごう事なき絶対的者としての存在感がビリビリとホワイトホールから伝わってくるではありませんか。嗚呼、私が今まで成功に及ばなかった領域に触れようとしている。さぁ、私の元に姿を現しなさい。
ホワイトホールが私のいる高域の空間を裂き、黒い亀裂が走った瞬間、中から途轍もない衝撃波が吹き荒れる。私は衝撃波を受け、巨人の手のひらから飛ばされようとしましたが巨人のもう片方の手に守られ、地面に落下することはありません。そもそも落下すること自体、私は皆無と思っていたために悲鳴や恐怖は微塵も感じていません。
私は亀裂が走った空間へ視線を向けます。既に亀裂は塞がり、殺戮仏の姿はありません。
今回も失敗しましたか。やはり前人未到の領域へ手を伸ばすこと自体が至極困難なことだったのでしょう。
私は目を閉じました。
ゾワッ。
圧倒的な波動が肌を撫で、全身の血の気が一瞬で引くではありませんか。
そして目を開けた私の真横に殺戮仏――殺戮仏創造リストにない――が出現したのに気づき、私は殺戮仏の姿とその姿から放たれる闘気を目の当たりにして全身の毛が逆立ち、血流の流れが変わるのを感じました。
[殺戮仏創造 限界突破]
[殺戮仏【阿修羅】解放]
[殺戮仏創造LV200領域 解放]
[職業:大僧正 解放]
目の前にステータス画面が表示され、新しい情報が追加されるじゃないですか。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ‼︎」
私は右手で目を覆い、黒い化け物の出現に感謝しながら自分自身がさらなる力と共に飛躍した事を大いに喜び、あの黒神の見せた悪夢を乗り越えられる。そう確信した瞬間でした。
♦︎
「ガハハハハッ!」
「まっさーー」
ズドン!
ラドラは高笑いしながら、殺戮仏【戦闘狂】を一撃で粉砕する。
ラドラの体は闇に覆われ、その体は闇の獣と化していた。
「「「「「抹殺」」」」」
溢れるほどの力をその身に宿したラドラは地上からの侵攻を防ぐ為、全力で殺戮仏達を薙ぎ払う。
ロナちゃんはラドラの暴れっぷりをチラッと見つめ、言う。
「呆れましたね。あれほど倒せなかった殺戮仏をここまで完膚なきまでに倒せるとは……」
「そうね。これもわたし達を救ってくれた神様の力……なのかもしれないわね。こうなったら絶対に負けられないわよ」
「そうですね。大半の殺戮仏は筋肉バカに任せて、私達は私達で筋肉バカに全部背負わせない程度に殺戮仏を排除していきましょう」
「ええ、そうね。いざとなったら3人で力を合わせればいいことだし。そうしましょう」
わたしやロナちゃんもまた漲る闇の力を持って、殺戮仏達を倒す。全身を闇に覆い纏われ、全身に力が漲る反面、全身の骨がミシミシと軋む音が耳に聞こえる。
「抹殺」
「っらぁ!……これって諸刃の剣みたいなものね」
わたしは殺戮仏【虎】の顔面を足蹴りし、そのまま後方へ吹っ飛ばす。
「諸刃の剣……ブッさんの言う通り、そうでしょうね。この力は私達にはあまり余る力です。ですが、今ここで使わなければ私達が殺戮仏に蹂躙されてしまう。この力が私達以外の獣人にも使えるのは確認済みですが、いつどうなるか現時点で副作用なものがあるかどうか分からない以上は早いうちに殺戮仏全てを破壊したいものです」
ロナちゃんは飛びついてきた殺戮仏【犬】を振り払う。それと同時に両手の鉤爪で切り裂く。
「そうよね。どんな反動があるか分かったもんじゃないわよね。骨にヒビが入る程度なら、まだまだ使っていてもいいけど……仮に命を削って使ってる力なら、ぶっちゃけ諸刃の剣どころの話じゃないわ」
「さすがにそれはないでしょう」
「どうして、そう思えるの?」
「ブッさんも知っての通り、私達は成すすべなく、あの流星群にその身を破壊されました。しかし目を覚ますと体は復元し、理性を失った状態でありとあらゆる殺戮仏をただただ破壊するだけの獣となっていました。けれど、途中から破壊衝動は抑えられ、理性も元に戻ることが出来たじゃないですか。もし仮に命を削って使える力なら、また私達は再び理性を失った獣として蘇るかもしれませんよ」
「……そうね。その可能性も捨て難いわね」
「ですから、とりあえず早く殺戮仏を倒し終わらせる。そして副作用がどおいったものがあるかを判明させる事が先決です。シンドウ達と合流するのも、そのうちの1つですよ」
「わかったわ。このまま全力で行かせてもらうわ」
わたしやロナちゃんは目の前にいる殺戮仏全てを破壊する為、研ぎ冷ました牙を剥き出しに殺戮仏と激突した。
♦︎
僧侶様の使命の為。
俺の地位を更に上げる為。
獣人達にはその踏み台になってもらう。
俺は僧侶様の最高傑作と言える殺戮仏【獅子】を2体連れて、地下都市に舞い降りた。
辺り一帯は既に先行した殺戮仏達に破壊され、無残な光景が広がってる。そう言いたかったが、実際に来てみると破壊されてるのは建物だけで、獣人達の殺された姿はどこにもない。
形も保てずに塵と化したか。
俺は周りを見回す。
見回すと同時に標的を見つける。
百獣の王がいる。
あの獣人達の中でも、最強と謳われた獣――ラドラ――があんなところにいる。
僧侶様との最終決戦で生き延びたあのラドラが、俺の手に届く範囲にいる。
これは美味しい。美味しいぞ。
あのラドラを殺しさえすれば……俺は僧侶様の右腕になれる。そうに違いない。
「殺戮仏【獅子】よ。あの百獣の王ラドラを殺してこい!もう1体は周りにいる2匹の獣が邪魔に入らないように殺してこい!」
俺は獅子に指示を出す。
指示を受けた獅子は地面を蹴り、4本足で地面を駆ける。
速度は俺の目では追えない速さだ。
決まったな。
俺は口元を緩ます。
これで僧侶様の右腕になれる。
なったも同然だ。
喜びが内から漏れ出す。
満足そうに微笑んだ顔になってることだろう。
目で追えない速度で駆ける獅子が、百獣の王であるラドラに飛びかかる。
その姿を見た俺は、
「イェス!」
右手を握りしめ、ガッツポーズを決める。
次に視界に百獣の王ラドラと獅子の姿を窺う。獅子はラドラの左肩に噛みつき、その身に鍛え上げた強靭な肉を噛み千切る。
「うほほほほ!」
俺は笑った。
黒く染まった体の一部を噛み千切った獅子に拍手を送り、
「もっとやれ!」
後ろ姿の獅子に声援を送る。
獅子は百獣の王ラドラの肉をゴクンと飲み込み、体を更に大きくさせた。
「うほほほほ!いい!いいよ!それそれ!」
僧侶様から聞いた事がある。
同じ同種を食べると殺戮仏はその身に力を更に宿し、一回りもふた回りも強くなると。
獅子が体を大きくなるのを確認し、もう片方の獅子へ視線を向ける。
もう片方の獅子は、2匹の獣と拮抗状態で争ってる。
「まぁーそうなるよね!うんうん!いいよ!邪魔が入らなければ、そのまんまでもいいよ!どんどんやっちゃって!」
もう満足の一言。
これもう勝ちだわ。
俺の人生パラダイスだわ。
腹から笑い、両手で手を叩く。
俺はあの2匹の獣――ブラドナとロナード――も知っていた。
あの最終決戦の地に百獣の王ラドラと並び立ち、開戦前に自分の名前を高らかに叫び、開戦後は勇ましく戦っているのを見た事がある。ってか、目に焼き付いてた。
絶対的な殺戮仏に勝てないとわかっていても、牙で噛みつき、その体で鍛え上げた技を何度も殺戮仏に叩き込む姿を。
「あー!いい!その眼もっと見せろ!その野生的な眼をどれだけ見たかった!ハハハハハッ!いいね!いいよ!」
絶対に屈しないぞ。そおいう眼を見せられると俺はゾクゾクさせられる。
ブルっと体が震える。
ホント、興奮させられるわ。
「あ、勃起したわ!」
シコシコしたいなー!
「もうやっちゃおうかな!ハハハハハッ‼︎あの獣の顔にぶっかけてやるよ‼︎」
俺は腰に巻いたベルトを外し、着ている法衣を全て脱ぎ捨てる。
「あー解放感ある~!」
ブラドナとロナードは獅子との対峙で、俺が裸になってるのに気づいてない。
もう片方の獅子と戦う百獣の王ラドラも、体を更に食い千切られ、ボロボロのミソカス状態だ。
「あー!やばい!やばやばやばやばやば‼︎‼︎」
俺は両手で勃起した陰部を高速で上下させ、絶頂期に到達する。
「あーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎」
陰部から白い液体が、豪快に発射される。それと同時に全身をブルっとさせ、体全体が熱くなるのを体感で感じる。
視線を下に向け、まだギンギンの陰部を確認した。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎‼︎まだいける!もう一発行っとくか!いっちゃお!いっちゃお!どんどん発射するよ~!全部終わるまで、何発でも発射オッケー!行くぞ行くぞー‼︎‼︎」
俺は体が火照り、ギンギンの陰部を両手で触る。その状態で高速で上下させ、一方的に負けているラドラの顔――屈しない眼――を遠目から覗く。
「あー!まだそんな顔する⁉︎まだそんな顔出来るのか⁉︎早く早く見せてくれよ‼︎参ったと言わせて、その顔に俺のを当ててやる‼︎当てて舐めさせて‼︎飲ませて‼︎ヤってやる‼︎‼︎ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎‼︎」
高揚感に包まれた俺は何度もイッた。
イッてイッてイキまくった。
それでも、あの百獣の王ラドラの顔を見せられると俺の陰部はギンギンに立つ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎」
全身を黒くさせた百獣の王ラドラの叫び声が響き渡る。
あれ?ぇ?え?ぇ?え?
噛み千切られた部分が修復されてる⁉︎
嘘?嘘?嘘?嘘?嘘でしょ⁈
俺は目を丸くさせる。
高速で動かす手を止め、俺は全身黒に染まった百獣の王ラドラに獅子が噛みつくのを目にする。
グッと両手を握りしめ、陰部に強烈な刺激を与えた直後――
「ぇ?え?ぇ?え?あれれれれれれれれ⁉︎⁉︎」
噛みついた獅子を両腕で逃げられないように固定した百獣の王ラドラは同じく、獅子の体を鋭利な牙で噛みついたのだ。
獅子は4本足をバタバタと動かす。
獅子の体がどんどん千切られ、その場の地面に吐き捨てられ、キラキラ光る砂となって消えてしまう。
「嘘?嘘⁈嘘ら⁉︎嘘⁇嘘でぃ⁉︎‼︎嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘‼︎‼︎⁉︎」
いつの間にか両手を頬に当てていた俺は今見ている光景を信じられない。
百獣の王ラドラは獅子の体を噛み千切り、獅子もまたラドラの体を噛み千切る。最初はお互いが同じ事をすれば、同じ結果になる。そう思った。それなのに百獣の王の黒く染まった体は時間が経過する毎に復元する。反対に獅子の体は時間が経つ毎にどんどん削られた。
そしてその時が来た。
獅子の全身を食い千切った百獣の王は最後の一口を吐き捨て、俺を視界に捉える。最後の一口がキラキラ光る砂と変わって消え去り、僧侶様に聞いた光景がフラッシュバックする。
『これは輝砂と言うのです。この輝砂が一定値集まれば、殺戮仏は再び姿を現します。その姿がどんなものなのかは私も未だに見た事がありませんので、何も言えませんがね』
「ぃ!い!ぃ!今でしょよい‼︎今、現れるところでしょい‼︎‼︎」
俺は叫ぶ。
僧侶様の右腕になれる未来が見えた。
なれると思った未来が、今閉ざされようとしてる。
今こそ、今現れないで……いつ現れる。
おかしい。こんなのおかしい。
僧侶様の殺戮仏は最強だ。最高傑作だ。
それがなんだ⁉︎あの百獣の王に負けた⁉︎信じられない‼︎信じるものか⁉︎⁉︎
あの何も出来なかったあの‼︎百獣の王が‼︎⁉︎どうして勝てた‼︎⁉︎
頭が痛い。
視界が暗む。
ギンギンに立っていた陰部が萎んでる。
百獣の王ラドラは、ゆっくりと俺の方向へ走って来る。
「おい⁉︎ちょ⁉︎ちょっと待って⁉︎‼︎待ってくれ⁉︎⁉︎」
もう片方の獅子に助けを呼ぼうと顔を向ける。
「おいおいおいおいおいおいおい⁉︎⁉︎⁉︎どうなってる‼︎‼︎」
もう片方の獅子もまたブラドナとロナードに同時に切り裂かれ、身動き出来ずにいるところに最後のトドメを入れられ、倒される瞬間を目撃してしまった。
「もう何が何だか⁉︎⁉︎顔面射精が⁉︎⁉︎出来ない⁉︎‼︎くそくそくそ‼︎‼︎僧侶様の右腕になれず⁉︎‼︎獣の顔面に射精できず‼︎⁉︎今日はなんて‼︎‼︎飛んだ日だぁあああああああああ‼︎‼︎‼︎」
俺は叫び、逃げる。
逃げる足には自信があった。
自信はあったはずなのに俺の逃げ場は何処にもない。
ここは地下都市……僧侶様のいる場所は地上。この場に来た時点で、逃げ場などなかったのだ。
俺は逃げながら走馬灯が見えた。
「じいじぃー、ばあばぁー‼︎‼︎何も出来ない俺をここまで育ててくれて‼︎‼︎ありがとう‼︎‼︎」
この場にはいない。遠い大都市に暮らす家族に感謝の言葉を伝え、俺は後ろを振り向く。
「うわぁあぁああああああああああああああああああああ‼︎‼︎⁉︎」
目の前に大きく開いた口があった。
牙が俺の顔に刺さる。
次の瞬間、俺の顔は百獣の王ラドラに喰われた。
♦︎
[ミッション名:レジスタンスに協力せよ]
[敵対者:バッハ・カヤヤマ討伐を確認]
[ミッションクリア]
[討伐者:新道千 LV197→LV221 配下ラドラ LV112→LV148]
[討伐報酬:武器カード 防具カード 金貨50枚]
[第5階層 踏破→宝物殿 扉ロック解除]
[宝物殿 招待該当者:新道千 遠山美紅人 守山賢 天音遥 千葉まひろ 戸倉ちづ 山村夏奈華 以上7名]
[宝物殿 扉案内:全員の進む意思を示せ さすれば自ずと扉は出現する]
[スキル進化:中級アンデット召喚→上級アンデット召喚 習得]
[LV200 CONGRATULATION]
[神判システムからの贈り物が1件あります]
[ユニークスキル:BLACK DEATH ASCHAIN 習得]
[称号:LV200到達者 獲得]
倒しても、倒しても……。
1体倒せば、2体増える。
2体倒せば、4体増える。
4体倒せば、8対増える。
敵は増える一方で、増殖したようにわいてくる。
絶望が視界に広がる。
自分達にも敵を倒す力は得られたが、この数を相手には……。
絶望を砕ける力は……敵を倒す体力はない。体力がなくなったら……。
「おらぁあ‼︎」
食糧庫に食糧を運び込むのを手伝ってくれた葉山は、丸太を力強く振り回す。振り回すといっても無作為に振るんではなく、しっかりと正確に敵の頭を狙って振るっている。
「抹殺」
「敵」
「抹殺」
「うるぁあ‼︎」
葉山は周りにいる殺戮仏【河馬】や殺戮仏【猪】を撃退し、
「テンソンさんら‼︎大丈夫っすか⁉︎」
自分達の心配をしてくれる。
自分以外の仲間へ視線を向けると他の4人は連戦に続く連戦で体力は底をつき、アントロは膝をついてる。ピーノは地面に倒れこむ。マノラは地面に座り込んでいる。トンザは口から唾液を垂れ流して、這い蹲る。
「大丈夫といいたいところだが……」
他の仲間達が動けない状況を見たせいか、自分もまたプッツンと糸が切れたように地面に両膝をつく。
「……くっ、ここまでか」
先ほどまでは自分自身を包み込んだ闇が無限に湧き出して、自分が身につけていない力を供給してくれていたが、使えば使うだけ体が軋み、もうボロボロで限界に近い。
「……もう体が……」
「……力が出ない……」
「……体力の限界に近い」
「……はぁーはぁー」
「……くっ、限界だ。……葉山お前だけでも仲間の元に向かってくれ」
自分達を必死に守って戦ってくれている葉山にそう告げると、
「なに馬鹿な事言ってんですか‼︎テンソンさんら、あと少しの辛抱って言ってるでしょうが‼︎今こうしてる間にも、新道先生がなんとかしてくれるはずなんっす‼︎」
葉山は自分達を殺しに来る殺戮仏へ丸太を振り回し続け、そう言う。
「しかし――」
「しかしもクソもないでしょうが‼︎テンソンさんらも見たと思うっすけど、新道先生が地上に向かったんですよ‼︎新道先生が地上に行ったってことは……うんらぁあ‼︎……もうすぐこの戦いは終わるはず‼︎だからテンソンさんらは寝てていいっすから、俺に任せてください‼︎おぉるぁあ‼︎」
「……恩人がここまで戦ってくれてるのに……自分は……何をしている」
頬を両手で強く叩く。
痛みが頬にジンジン伝わる。
目が覚めた。
絶望が今この瞬間も広がる。
それでも、自分達は――
「葉山!弱った自分の考えが間違いだった。今この状況で寝てるほど、ラドラ様から腑抜けた鍛えられ方はしていない‼︎」
もう体の限界はとうの昔に来ている。それでも今の今までやってこれたのは自分の信念に従っていたからだ。体がどんなにボロボロになろうと構わない。ラドラ様が今も戦っておられるかもしれないのに自分だけが寝てるわけにはいかない。
葉山の言葉で自分自身の体を奮い立たせ、心に戦う炎を灯す。
再び身につけたことすら記憶にない見知らぬ闇の力を身に宿し、両膝を地面から離して、二本足で立ち上がる。
「フンガァアア!」
アントロが叫び、槍を地面に突き刺す。槍を支えにして、自らの足で立ち上がった。
「テンソン、俺もラドラ様に腑抜けた鍛えられ方はしていない。まだやれる。まだ俺はやれるぞ!」
突き刺した槍を抜き、アントロは自らの胸をドン!と叩いた。
アントロの眼は、死んでいない。
「……うるさくて、ぐつぐつ寝ていられやしない!」
倒れ込んでいたピーノは両腕に力を入れ、体を起こす。
顔を上げたピーノも、アントロと同じ眼をしている。
「テンソン!お前らだけに背負わせるわけには断じて出来ない。私も、この通り。立ち上がって戦う力はある!」
震える両膝を何度も叩き、闇の力を両脚に宿して立ち上がる。
ピーノは2本の槍を両手で握る。
「フフフフッ」
すぐ側で座り込んでいたマノラ。
小さく笑い、マノラは「休憩は終わりだ」と呟く。
「フハハハハ!俺もやるぞ!ラドラ様の高笑いを思い出したら笑えてくる。このピンチでも、ラドラ様なら立ち上がる。腰を下ろしていい時は全ての決着がつくその時だな‼︎」
マノラの眼は闇を纏う。
闇が全身に燃え広がるように包み込み、マノラは大槍を振り回す。
「……ペッペッ……」
唾液を流したトンザは口内に残った唾液を全部吐き出し、地面に突き立てた右足をドシン!と音を立たせる。
「4人とも起き上がって、俺だけ起き上がらないわけにはいかないなー!よっこらしょ‼︎このまま最後まで立って最後の最後まで敵に食らいついてみせる‼︎葉山やテンソン達にいい格好はさせないからなー‼︎」
トンザは闇の力で尻尾の長さを3倍以上の長さに伸ばし、地面をバタンバタン!と叩き土煙を巻き起こす。
「……アントロ……ピーノ……マノラ……トンザ……よく立ち上がってくれた。……葉山には悪いが全員このまま寝て終わらない。自分達の問題は自分達で解決するぞ‼︎葉山や葉山の仲間だけに押し付けてられない‼︎ラドラ様から教わったクソど根性を今こそ見せる時だー‼︎」
自分は右手に持った槍を大きく掲げて伸ばす。
「「「「おおおおおおおお‼︎‼︎」」」」
自分に続いて、アントロ達も槍を天高く掲げる。
「テンソンさんら、後ろは任せたっすよ‼︎」
葉山は頷き、前だけ向く。
前方には計り知れない数の殺戮仏がいる。
後方には数は多いが、自分達なら一撃で倒せる殺戮仏の群れがいる。それは左右に広がる殺戮仏達と合流して行き、大群となって向かって来る。
「行くぞー‼︎」
それから15分後。
辺りから増殖して沸いて襲って来ていた殺戮仏の数は急激に減った。
自分を含めたアントロ達は今も自分の足で立ち、残り少ない殺戮仏を相手する。
葉山は自分達が相手する殺戮仏の数を更に減らす。自分達の負担があまりないように心掛けてくれているようで、葉山は漆黒の鎧を失ってもなお、殺戮仏を丸太一本で撃破する。
その姿こそ、まさにお伽話で聞かされた英獣。そのものであった。
自分が葉山へ視線を向けていると少し離れた先から人影が近づいて来る。その数は少数ではない。目で数えられない大多数の人影が此方へ向かってくる。
「葉山さん!」
葉山は声を聞き、声のした方へ視線を向けた。視線の先には目で見える距離まで近づき、接近する人影の顔や姿が視認出来る。
「……遠山さん!……それに他のみんなも無事だったんすね!」
葉山はトオヤマの姿を確認したことで安心したのか、丸太を杖代わりにして地面に突き立てかける。葉山の元へ駆け寄ってきたトオヤマ達とリコノスケ達。
「リコノスケ!」
リコノスケ達の姿を見つけ、自分はもう一歩も動かしたくない足に鞭を打ち、一歩一歩歩き出す。
「テンソン様」
リコノスケが自分の顔を見るなり、周りの仲間達も引き連れて飛んでやってくる。
「無事か?」
「はい。この通り、若い衆全員揃って無事です」
リコノスケは深く頷く。
「よくやった」
リコノスケの頭を優しく叩く。
リコノスケは自分やアントロ達の深手を負った傷を視界に収め、言う。
「テンソン様達は無理をされたようですね」
リコノスケは怪我は負っていないが、身につけた軽鎧は凸凹になってる。
他の若い衆達も、同じ姿だ。
怪我はしていない。
しかし、自分の知らない場所で殺戮仏と戦っていた姿が目に浮かぶ。
「無理をせずに寝ていたら、ラドラ様に顔向けは出来ない。リコノスケ達も頑張っていたなら尚更、寝ていては親衛隊としての名が泣く」
「今は一先ず休まれてください。まひろ様を呼んできますので」
リコノスケはそう言い、走り出す。他の仲間達も自分が無理に立っているのが見ていて辛いのか、辛そうな表情を見せる。
「わかった。少し横にならせてもらおう。だから辛そうな顔はするな。若い衆まで辛い顔をするのを見ると心苦しい」
そう伝えると周りのアントロ達も頷く。
「俺もそうしよう。テンソンの言う通りだ。全員笑え。槍が折れるまで戦ったのだ。辛そうな目で見られたら戦士としての恥のようなもの」
「心配してくれるのは嬉しい。恥ではなくとも、嬉しい気持ちはある。子供達が心配するとなれば、私は一休みさせてもらうぞ」
「フハハハハ。俺はまだやれるぞ。だが……若者に心配されているのに立っているわけにもいかないからな。休ませてもらうとしよう」
「倒せなかった敵をなぜか倒せるようになった。だがそれ以上に体はろくに動かせない。見栄を張っていても拉致はあかん。そうせざる終えないなー」
自分を含めたアントロ達は地面に体を預け、敵との戦いで使命を果たし終えた槍と共に横になる。
顔を横に向かせ、リコノスケがいる場所を見る。
「葉山さん、怪我してるじゃん。ちょっと待ってね。すぐ終わるから。闇回復魔法《闇治療》」
葉山は鎧が壊れるまで戦ったことで、体のあっちこっちに軽傷程度だが殺戮仏に怪我を負わされているようだ。それに気づいた葉山の仲間が魔法を発動させ、みるみるうちにかすり傷から軽傷までの怪我が綺麗に塞がっていく。
傷を治した葉山の仲間にリコノスケが声をかけ、
「まひろ様、テンソン様達にも治療をお願いします」
「うん。オッケー」
自分の元へ連れてくる。
リコノスケが呼んだマヒロは、自分の体を一目見て言う。
「うわーこれはやばいねー。相当無理したんじゃない?怪我ってより深手が多すぎ、うちがいなかったら終わってる案件じゃん。闇回復魔法《闇治療》」
自分達がなぜか使えた闇の力。
それと同じ闇が自分の体を包み込む。
「すまない。助かる」
全身の痛みが瞬時に消え、体が軽くなるのがわかる。
「この恩は忘れない」
自分を治療してくれたマヒロに感謝を伝え、起き上がる。
「はやっ!もう起きて平気なのは分かるけど、もう少し寝ててもいいんだよ?」
「自分はもう平気だ。他の仲間を頼む」
「ならいいんだけどね。じゃーちゃっちゃと終わらせるじゃん。闇回復魔法《闇治療》」
自分の体を労わるように葉山の仲間マヒロは言い、他の仲間達の治療を始めていく。
5分後。
葉山はもちろん、自分達は万全な状態に回復した。リコノスケ達はこの後もアンダーグラウンドに残る殺戮仏を倒し、ラドラ様達と合流すると聞いた。
自分を含めたアントロ達4人とも、このまま葉山の仲間と同行して先へ進むと決意を固めた。
「みんな、行くぞ!」
葉山の仲間であるトオヤマが叫び、
「よっしゃー!一丁やってやろうじゃん」
「障害物は全部壊して、どんどん行くよー!」
「新道先生!待っててくださいっす!」
「ラドラ様の元へ!親衛隊の名を轟かせるぞー‼︎」
「「「「「おおおおお‼︎」」」」」
周りのアントロ達も叫び、走り出した。
♦︎
地下から黒い化け物が姿を現したと思えば、1体で数十万の規模を誇る殺戮仏に殴りかかったのです。
私は黒い化け物が何者かは目撃した時は、一切興味はありませんでした。
しかし、黒い化け物が殴った殺戮仏が一撃で木っ端微塵に粉砕された瞬間、私は心の奥底から「ありえない」と叫んでしまいました。
実際に私が口にした通り、ありえないことなのです。私が作り上げた殺戮仏の全てに《光属性付与》《光・闇属性以外攻撃無効》が付け加えられています。この世界に住む獣人や人、その他の雑種共は光も闇も使えないこと。使用出来たとしても、攻撃系統の力は存在しない事を数年の下調べで既に熟知して知っていました。ハッキリ言って、この世界に私の作り上げた殺戮仏に勝てる者は1人としていない。私がこの世界の絶対君主。私こそがもっとも神に近い存在。この世界の全てを支配した私こそが神に等しい存在と勝ち誇っていたというのに……。それなのにこの世界に異端者がいたとは、今この時この瞬間まで私は把握出来ていませんでした。
本当に心の底から、ありえないと叫んでしまう事象が今まさに起こってしまったのです。心底、あの黒神が見せた悪夢を否が応でも思い出してしまいますね。
私は唇を噛み締めました。
唇からは私の体に流れる血がゆっくりと滴り落ちます。
私の眼に映る黒い化け物が何者かは、神に等しい私でも今現在把握は不可能です。難いですね。唯一分かってる重要な点は、あの黒い化け物が私が作り上げた殺戮仏を破壊出来る事だけでしょう。
他に黒い化け物が何かを掴めればいいのですが、見てるだけでは掴める気配は一向に無いでしょうね。さてどうしましょうか?あの黒い化け物は私が殺戮仏に指示を出さなくても、化け物自らが向かって破壊しに行ってますからね。このまま黙って見ていれば、殺戮仏が破壊されるのを見てるだけで終わるでしょう。沙門を動かすべきですかね?沙門を動かし、黒い化け物の情報を掴めればいいですね。いやそれだけではなく、黒い化け物の弱点も掴めれば尚良しです。
殺戮仏【巨人】の足元にいた沙門の半数以上が地下都市に降りている現状、今現在下に控えているのはエミリ君と沙門と呼んでも無能な人間達とあまり大差はありませんが、それ以外に当て馬はいませんしね。
私は急を要する際に使う異能《念話》を発動する。
(エミリ君、聞こえますか?)
心の中で念じること、数秒後。
『はい。僧侶様如何されましたか?』
エミリ君が私の念話に応じてくれました。
(すみません。エミリ君に見えているかは私には分かりませんが、今現在地下から姿を現した敵が1体いましてね。その敵がどうやら私の把握出来てなかった異端者のようで、エミリ君には申し訳有りませんが他の沙門達を今すぐ地下へ降下する境目へ至急向かってもらってよろしいですか)
『御意!』
エミリ君は一言応答して、私が伝えたことを他の沙門達に指示しているのが巨人の手のひらから下を覗くとその姿が窺え見えますね。
エミリ君が私の言いつけに従って動くのはいいことですが、1つだけ言い忘れていた事がありました。
私は異能《念話》を再び発動する。
(最後にエミリ君貴方だけは失いたくない人材なので、エミリ君は全てが終わるその時までこの場を離れないようにお願いしますよ)
『御意!ありがたいお言葉ありがとうございございます。生き残りの獣人を滅ぼすまで、全力を尽くします』
(よろしくお願いしますね)
異能《念話》を終了し、黒い化け物が次々と私が作り上げた殺戮仏を破壊していく様をこの目に見せられ、再び唇を噛み締める。
神に等しい私の中に流れる血がポトッポトッと流れ落ち、音が耳に届く度に黒い化け物は殺戮仏を跡形もなく粉砕して破壊の限りを続ける。
嗚呼、なんという事でしょう。私がこの世界に舞い降りる際に初めてお姿を垣間見たあの黒神によって頂いたこの力が黒い化け物には通用しない。私が今見た限りでは全く倒せる気配も感じられませんね。このまま、あの黒い化け物を放置していたら……数十万の規模を少しずつ削って行くのが目に見えますね。この世界の神になる為に得たと言っても過言じゃない最高の力が……この世界を支配する為に作り上げた殺戮仏が私の見ている視界から消えいく。
私の手駒が次々と消えてしまう。
私は巨人の手のひらから手を伸ばし、
「嗚呼、なんと残酷な光景を見せるのでしょう。こんな残酷な光景は、あの黒神にこの地へ来る前に見せられた悪夢と同じではないか。私を全ての世界を蹂躙する為だけの駒の1つにしか数えていない……あの黒神が見せた悪夢が今現実となって私の道を阻むとは……」
黒い化け物を私は歯噛みして睨みました。口の肉を噛み、血の味が口の中に広がります。嗚呼、また私の血が無駄に流れてしまう。これもあれも全ては、あの黒い化け物が出現したせいと言ってしまいたいですね。
睨んだところで、あの黒い化け物の行進は止まりません。私が作り上げた最高傑作と呼べる殺戮仏が全く通用せずに破壊されてしまう。粉々になって、輝砂と変わり消え去るのが私の目には見えます。目で見たところで、砂が風に流されるのを止められることは出来ませんが、私が作り上げた殺戮仏の最後の瞬間を脳裏に刻むことは出来ます。
しかし全くもって、ありえない。
あの黒い化け物は私の自信作である殺戮仏すらも破壊する。あの黒い化け物はレベルは一体どれくらいなんでしょうかね?私は目を細め、鑑定眼を行使してみましたが名前もレベルも表示されませんね。されませんというより、私の鑑定眼では見れないのか……表示が文字化けしてなんと書いてあるのか読めないんですよ。あの黒い化け物は私よりもレベルが高いというのでしょうか?
本当につくづく思い知らされますね。私よりも強い存在は、この世界にたくさんいることを。それでも、あの黒い化け物が現れる前まではどんなにレベルが高くとも私の作り上げた殺戮仏を倒すことはおろか破壊する事も出来ない雑魚で、雑種で、言語が理解不能な獣人共だったのですがね。
つい一刻前までの私はまさかこんな結果が待ってるとは……つゆ知らず予想すらしていないでしょうね。
「あの黒神はこれが見えていたんでしょうかね?見えていたからこそ、私を使い捨ての駒のような眼で見下したのでしょうか?……今となっては真偽は問えませんが、1つだけ言える事があります。黒神よ、私に見せた悪夢が私の道を阻むものであったとするなら私自身が今この場で証明してみせよう。この世界を完全なる力で蹂躙し、支配した殺戮仏の力を。黒神に貰ったこの力を。私は数十万という数の力で、あの黒い化け物を倒してみせましょう。そして私こそが神に等しい存在と貴方に証明してみせよう」
私は数十万の殺戮仏――エミリ君達の管轄外――に一斉に指示を出す。
「待機してる全ての殺戮仏よ、あの黒い化け物を殺しなさい」
全ての殺戮仏に私が見ている黒い化け物の姿を共有し終え、異能《殺戮仏創造》を発動します。
念には念を。
力には力を。
化け物には化け物を。
私は神に頂いた《アイテムストレージ》より、獣人の肉体と行き場を失った魂を選択して、殺戮仏創造の材料に全て注ぎ込む。
私は殺戮仏創造の中でも、未だに成功した事がないLV100オーバーの殺戮仏を作り出す為に今まで使わずに来たるべき日――悪夢の日――に向けて貯めていた数億の肉体と数億の魂を全て注ぎ終えました。
その刹那、殺戮仏創造する際に光るエフェクトが生じました。全てを飲み込むようなブラックホール……いや白い光に包まれている為、これをブラックホールと呼ぶには大きく違いますね。これを正確に言うなら、ホワイトホールでしょうか。ホワイトホールから殺戮仏創造で作り出そうとする前人未到の領域――LV100オーバー――の殺戮仏がゆっくりと姿を現わす。まず最初に3本の左手がホワイトホールから真っ先に出て、次に3本の右手が出てきました。両手ともに空間を引き裂くような握り方で、自らの体をホワイトホールから引きづり出そうとしています。
これは素晴らしい。まごう事なき絶対的者としての存在感がビリビリとホワイトホールから伝わってくるではありませんか。嗚呼、私が今まで成功に及ばなかった領域に触れようとしている。さぁ、私の元に姿を現しなさい。
ホワイトホールが私のいる高域の空間を裂き、黒い亀裂が走った瞬間、中から途轍もない衝撃波が吹き荒れる。私は衝撃波を受け、巨人の手のひらから飛ばされようとしましたが巨人のもう片方の手に守られ、地面に落下することはありません。そもそも落下すること自体、私は皆無と思っていたために悲鳴や恐怖は微塵も感じていません。
私は亀裂が走った空間へ視線を向けます。既に亀裂は塞がり、殺戮仏の姿はありません。
今回も失敗しましたか。やはり前人未到の領域へ手を伸ばすこと自体が至極困難なことだったのでしょう。
私は目を閉じました。
ゾワッ。
圧倒的な波動が肌を撫で、全身の血の気が一瞬で引くではありませんか。
そして目を開けた私の真横に殺戮仏――殺戮仏創造リストにない――が出現したのに気づき、私は殺戮仏の姿とその姿から放たれる闘気を目の当たりにして全身の毛が逆立ち、血流の流れが変わるのを感じました。
[殺戮仏創造 限界突破]
[殺戮仏【阿修羅】解放]
[殺戮仏創造LV200領域 解放]
[職業:大僧正 解放]
目の前にステータス画面が表示され、新しい情報が追加されるじゃないですか。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ‼︎」
私は右手で目を覆い、黒い化け物の出現に感謝しながら自分自身がさらなる力と共に飛躍した事を大いに喜び、あの黒神の見せた悪夢を乗り越えられる。そう確信した瞬間でした。
♦︎
「ガハハハハッ!」
「まっさーー」
ズドン!
ラドラは高笑いしながら、殺戮仏【戦闘狂】を一撃で粉砕する。
ラドラの体は闇に覆われ、その体は闇の獣と化していた。
「「「「「抹殺」」」」」
溢れるほどの力をその身に宿したラドラは地上からの侵攻を防ぐ為、全力で殺戮仏達を薙ぎ払う。
ロナちゃんはラドラの暴れっぷりをチラッと見つめ、言う。
「呆れましたね。あれほど倒せなかった殺戮仏をここまで完膚なきまでに倒せるとは……」
「そうね。これもわたし達を救ってくれた神様の力……なのかもしれないわね。こうなったら絶対に負けられないわよ」
「そうですね。大半の殺戮仏は筋肉バカに任せて、私達は私達で筋肉バカに全部背負わせない程度に殺戮仏を排除していきましょう」
「ええ、そうね。いざとなったら3人で力を合わせればいいことだし。そうしましょう」
わたしやロナちゃんもまた漲る闇の力を持って、殺戮仏達を倒す。全身を闇に覆い纏われ、全身に力が漲る反面、全身の骨がミシミシと軋む音が耳に聞こえる。
「抹殺」
「っらぁ!……これって諸刃の剣みたいなものね」
わたしは殺戮仏【虎】の顔面を足蹴りし、そのまま後方へ吹っ飛ばす。
「諸刃の剣……ブッさんの言う通り、そうでしょうね。この力は私達にはあまり余る力です。ですが、今ここで使わなければ私達が殺戮仏に蹂躙されてしまう。この力が私達以外の獣人にも使えるのは確認済みですが、いつどうなるか現時点で副作用なものがあるかどうか分からない以上は早いうちに殺戮仏全てを破壊したいものです」
ロナちゃんは飛びついてきた殺戮仏【犬】を振り払う。それと同時に両手の鉤爪で切り裂く。
「そうよね。どんな反動があるか分かったもんじゃないわよね。骨にヒビが入る程度なら、まだまだ使っていてもいいけど……仮に命を削って使ってる力なら、ぶっちゃけ諸刃の剣どころの話じゃないわ」
「さすがにそれはないでしょう」
「どうして、そう思えるの?」
「ブッさんも知っての通り、私達は成すすべなく、あの流星群にその身を破壊されました。しかし目を覚ますと体は復元し、理性を失った状態でありとあらゆる殺戮仏をただただ破壊するだけの獣となっていました。けれど、途中から破壊衝動は抑えられ、理性も元に戻ることが出来たじゃないですか。もし仮に命を削って使える力なら、また私達は再び理性を失った獣として蘇るかもしれませんよ」
「……そうね。その可能性も捨て難いわね」
「ですから、とりあえず早く殺戮仏を倒し終わらせる。そして副作用がどおいったものがあるかを判明させる事が先決です。シンドウ達と合流するのも、そのうちの1つですよ」
「わかったわ。このまま全力で行かせてもらうわ」
わたしやロナちゃんは目の前にいる殺戮仏全てを破壊する為、研ぎ冷ました牙を剥き出しに殺戮仏と激突した。
♦︎
僧侶様の使命の為。
俺の地位を更に上げる為。
獣人達にはその踏み台になってもらう。
俺は僧侶様の最高傑作と言える殺戮仏【獅子】を2体連れて、地下都市に舞い降りた。
辺り一帯は既に先行した殺戮仏達に破壊され、無残な光景が広がってる。そう言いたかったが、実際に来てみると破壊されてるのは建物だけで、獣人達の殺された姿はどこにもない。
形も保てずに塵と化したか。
俺は周りを見回す。
見回すと同時に標的を見つける。
百獣の王がいる。
あの獣人達の中でも、最強と謳われた獣――ラドラ――があんなところにいる。
僧侶様との最終決戦で生き延びたあのラドラが、俺の手に届く範囲にいる。
これは美味しい。美味しいぞ。
あのラドラを殺しさえすれば……俺は僧侶様の右腕になれる。そうに違いない。
「殺戮仏【獅子】よ。あの百獣の王ラドラを殺してこい!もう1体は周りにいる2匹の獣が邪魔に入らないように殺してこい!」
俺は獅子に指示を出す。
指示を受けた獅子は地面を蹴り、4本足で地面を駆ける。
速度は俺の目では追えない速さだ。
決まったな。
俺は口元を緩ます。
これで僧侶様の右腕になれる。
なったも同然だ。
喜びが内から漏れ出す。
満足そうに微笑んだ顔になってることだろう。
目で追えない速度で駆ける獅子が、百獣の王であるラドラに飛びかかる。
その姿を見た俺は、
「イェス!」
右手を握りしめ、ガッツポーズを決める。
次に視界に百獣の王ラドラと獅子の姿を窺う。獅子はラドラの左肩に噛みつき、その身に鍛え上げた強靭な肉を噛み千切る。
「うほほほほ!」
俺は笑った。
黒く染まった体の一部を噛み千切った獅子に拍手を送り、
「もっとやれ!」
後ろ姿の獅子に声援を送る。
獅子は百獣の王ラドラの肉をゴクンと飲み込み、体を更に大きくさせた。
「うほほほほ!いい!いいよ!それそれ!」
僧侶様から聞いた事がある。
同じ同種を食べると殺戮仏はその身に力を更に宿し、一回りもふた回りも強くなると。
獅子が体を大きくなるのを確認し、もう片方の獅子へ視線を向ける。
もう片方の獅子は、2匹の獣と拮抗状態で争ってる。
「まぁーそうなるよね!うんうん!いいよ!邪魔が入らなければ、そのまんまでもいいよ!どんどんやっちゃって!」
もう満足の一言。
これもう勝ちだわ。
俺の人生パラダイスだわ。
腹から笑い、両手で手を叩く。
俺はあの2匹の獣――ブラドナとロナード――も知っていた。
あの最終決戦の地に百獣の王ラドラと並び立ち、開戦前に自分の名前を高らかに叫び、開戦後は勇ましく戦っているのを見た事がある。ってか、目に焼き付いてた。
絶対的な殺戮仏に勝てないとわかっていても、牙で噛みつき、その体で鍛え上げた技を何度も殺戮仏に叩き込む姿を。
「あー!いい!その眼もっと見せろ!その野生的な眼をどれだけ見たかった!ハハハハハッ!いいね!いいよ!」
絶対に屈しないぞ。そおいう眼を見せられると俺はゾクゾクさせられる。
ブルっと体が震える。
ホント、興奮させられるわ。
「あ、勃起したわ!」
シコシコしたいなー!
「もうやっちゃおうかな!ハハハハハッ‼︎あの獣の顔にぶっかけてやるよ‼︎」
俺は腰に巻いたベルトを外し、着ている法衣を全て脱ぎ捨てる。
「あー解放感ある~!」
ブラドナとロナードは獅子との対峙で、俺が裸になってるのに気づいてない。
もう片方の獅子と戦う百獣の王ラドラも、体を更に食い千切られ、ボロボロのミソカス状態だ。
「あー!やばい!やばやばやばやばやば‼︎‼︎」
俺は両手で勃起した陰部を高速で上下させ、絶頂期に到達する。
「あーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎」
陰部から白い液体が、豪快に発射される。それと同時に全身をブルっとさせ、体全体が熱くなるのを体感で感じる。
視線を下に向け、まだギンギンの陰部を確認した。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎‼︎まだいける!もう一発行っとくか!いっちゃお!いっちゃお!どんどん発射するよ~!全部終わるまで、何発でも発射オッケー!行くぞ行くぞー‼︎‼︎」
俺は体が火照り、ギンギンの陰部を両手で触る。その状態で高速で上下させ、一方的に負けているラドラの顔――屈しない眼――を遠目から覗く。
「あー!まだそんな顔する⁉︎まだそんな顔出来るのか⁉︎早く早く見せてくれよ‼︎参ったと言わせて、その顔に俺のを当ててやる‼︎当てて舐めさせて‼︎飲ませて‼︎ヤってやる‼︎‼︎ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎‼︎」
高揚感に包まれた俺は何度もイッた。
イッてイッてイキまくった。
それでも、あの百獣の王ラドラの顔を見せられると俺の陰部はギンギンに立つ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎」
全身を黒くさせた百獣の王ラドラの叫び声が響き渡る。
あれ?ぇ?え?ぇ?え?
噛み千切られた部分が修復されてる⁉︎
嘘?嘘?嘘?嘘?嘘でしょ⁈
俺は目を丸くさせる。
高速で動かす手を止め、俺は全身黒に染まった百獣の王ラドラに獅子が噛みつくのを目にする。
グッと両手を握りしめ、陰部に強烈な刺激を与えた直後――
「ぇ?え?ぇ?え?あれれれれれれれれ⁉︎⁉︎」
噛みついた獅子を両腕で逃げられないように固定した百獣の王ラドラは同じく、獅子の体を鋭利な牙で噛みついたのだ。
獅子は4本足をバタバタと動かす。
獅子の体がどんどん千切られ、その場の地面に吐き捨てられ、キラキラ光る砂となって消えてしまう。
「嘘?嘘⁈嘘ら⁉︎嘘⁇嘘でぃ⁉︎‼︎嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘‼︎‼︎⁉︎」
いつの間にか両手を頬に当てていた俺は今見ている光景を信じられない。
百獣の王ラドラは獅子の体を噛み千切り、獅子もまたラドラの体を噛み千切る。最初はお互いが同じ事をすれば、同じ結果になる。そう思った。それなのに百獣の王の黒く染まった体は時間が経過する毎に復元する。反対に獅子の体は時間が経つ毎にどんどん削られた。
そしてその時が来た。
獅子の全身を食い千切った百獣の王は最後の一口を吐き捨て、俺を視界に捉える。最後の一口がキラキラ光る砂と変わって消え去り、僧侶様に聞いた光景がフラッシュバックする。
『これは輝砂と言うのです。この輝砂が一定値集まれば、殺戮仏は再び姿を現します。その姿がどんなものなのかは私も未だに見た事がありませんので、何も言えませんがね』
「ぃ!い!ぃ!今でしょよい‼︎今、現れるところでしょい‼︎‼︎」
俺は叫ぶ。
僧侶様の右腕になれる未来が見えた。
なれると思った未来が、今閉ざされようとしてる。
今こそ、今現れないで……いつ現れる。
おかしい。こんなのおかしい。
僧侶様の殺戮仏は最強だ。最高傑作だ。
それがなんだ⁉︎あの百獣の王に負けた⁉︎信じられない‼︎信じるものか⁉︎⁉︎
あの何も出来なかったあの‼︎百獣の王が‼︎⁉︎どうして勝てた‼︎⁉︎
頭が痛い。
視界が暗む。
ギンギンに立っていた陰部が萎んでる。
百獣の王ラドラは、ゆっくりと俺の方向へ走って来る。
「おい⁉︎ちょ⁉︎ちょっと待って⁉︎‼︎待ってくれ⁉︎⁉︎」
もう片方の獅子に助けを呼ぼうと顔を向ける。
「おいおいおいおいおいおいおい⁉︎⁉︎⁉︎どうなってる‼︎‼︎」
もう片方の獅子もまたブラドナとロナードに同時に切り裂かれ、身動き出来ずにいるところに最後のトドメを入れられ、倒される瞬間を目撃してしまった。
「もう何が何だか⁉︎⁉︎顔面射精が⁉︎⁉︎出来ない⁉︎‼︎くそくそくそ‼︎‼︎僧侶様の右腕になれず⁉︎‼︎獣の顔面に射精できず‼︎⁉︎今日はなんて‼︎‼︎飛んだ日だぁあああああああああ‼︎‼︎‼︎」
俺は叫び、逃げる。
逃げる足には自信があった。
自信はあったはずなのに俺の逃げ場は何処にもない。
ここは地下都市……僧侶様のいる場所は地上。この場に来た時点で、逃げ場などなかったのだ。
俺は逃げながら走馬灯が見えた。
「じいじぃー、ばあばぁー‼︎‼︎何も出来ない俺をここまで育ててくれて‼︎‼︎ありがとう‼︎‼︎」
この場にはいない。遠い大都市に暮らす家族に感謝の言葉を伝え、俺は後ろを振り向く。
「うわぁあぁああああああああああああああああああああ‼︎‼︎⁉︎」
目の前に大きく開いた口があった。
牙が俺の顔に刺さる。
次の瞬間、俺の顔は百獣の王ラドラに喰われた。
♦︎
[ミッション名:レジスタンスに協力せよ]
[敵対者:バッハ・カヤヤマ討伐を確認]
[ミッションクリア]
[討伐者:新道千 LV197→LV221 配下ラドラ LV112→LV148]
[討伐報酬:武器カード 防具カード 金貨50枚]
[第5階層 踏破→宝物殿 扉ロック解除]
[宝物殿 招待該当者:新道千 遠山美紅人 守山賢 天音遥 千葉まひろ 戸倉ちづ 山村夏奈華 以上7名]
[宝物殿 扉案内:全員の進む意思を示せ さすれば自ずと扉は出現する]
[スキル進化:中級アンデット召喚→上級アンデット召喚 習得]
[LV200 CONGRATULATION]
[神判システムからの贈り物が1件あります]
[ユニークスキル:BLACK DEATH ASCHAIN 習得]
[称号:LV200到達者 獲得]
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