ダレカノセカイ

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episode.14

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 アンダーグラウンドに俺たちは帰還した。
 ラドラはベートを絶対に逃さないために牢屋にぶち込みに行った。
 ブラドナとロナードは元奴隷の獣人達を居住区として使っていなかった建物に案内した。その際に千葉が獣人達の負った怪我を回復魔法で治療し、目で見える古傷も新しい傷も全て綺麗に消えた。ブラドナとロナードは千葉に何度もお礼を伝え、肉体面が完全に回復しても精神面だけは受けた心の傷を治す事は出来ない以上、テンソン達に精神面のケアを任せる。
 ブラドナとロナードは次に俺たちを近場で使われていない2階建ての建物に案内してくれた。建物の中を全て案内してくれて、1階は洗面所やリビングダイニングキッチンといった生活スペースで、2階は4人部屋の寝室と物置部屋があった。台所には色々な調理道具が揃っており、その全てが電気を使って使用するんではなく――そもそも電気自体がないそうだ――、自身の体内に流れる魔力を注げば使えるとのことだった。
 次にアンダーグラウンドの大まかな説明をしてくれた。西側の北から南――壁沿い――に大きな川が流れていて、北から水源が地上から滝となって流れてきてるそうで、そこで水浴びが出来ること。壁から離れた西側は居住区はなく、鍛錬やトレーニングなどが行えるように建造物は一切ないこと。東側の北から東に獣人達のほとんどが住んでいる居住区が数多くあること。ちなみに俺たちが今いる場所はその中で使用されてなかった北東の端に位置するらしい。東から南にはラドラと戦った闘技場や大量の備蓄可能な食糧庫や子供達が遊べる広場があること。その間に俺たちがこの世界へ最初に踏み込んだ部屋――レジスタンス本部――があるそうだ。大体の大まかな説明後、ブラドナとロナードはベートから情報を聞き出すために本部に設置された牢屋に向かった。
 腹を空かせた俺たちは料理が出来る料理担当と体を洗い流しに行く水浴び担当に別れた。俺は前にも言った通り、目玉焼きしか作れないから自然と水浴び担当になった。遠山は俺とは違い、料理すらも朝飯前で作れるそうだ。その為、千葉と戸倉も頑張って遠山の料理を作る手伝いをする流れになった。夏奈華と守山も料理作りに長けているから料理担当になって、天音もこの機会に料理作りのバリエーションを増やしたいと名乗り出て、水浴び担当は俺と仁の2人しかいない。
 俺たちは料理作れない同士、途方に暮れて肩を並べて水浴びへ向かった。
 ブラドナの説明で聞いてた道順で進むと地上からの水源が豊富に流れている大きな川があった。滝からは水飛沫で虹が出来ていて、神秘的だ。
「おお!」
「これは凄いですね!新道先生!」
 俺と仁はアンダーグラウンドの中にこんな大きな川があるなんて話を聞いた限りでは想像しておらず、テンションがさっきまでと違って格段に上がる。復讐者の籠手と漆黒スーツを脱ぎ、俺は大きな川へ飛び込む。
 バシャン!
 川へ体を飛び込んだ俺は川の中で泳ぐ魚の群れ――虹色に輝いた――を真っ先に視界に入れて見つける。
 まじかよ。
 口から酸素を吐き出して驚き、
「ぶはっ!」
 俺は川の中から顔を出す。
「新道先生!どうしました!」
 鎧と漆黒スーツを脱ぎ終わった仁が俺の顔を見るなり、そう言って飛び込んで来た。
 バシャン!
「聞く前に飛び込むんかーい!」
 俺は仁に突っ込みを入れ、
「あはははははっ」
 慌てて川の中からバタバタと両腕をバタつかせて、顔を出してきた仁の驚いた表情を見て笑った。
「なんですか!あの魚の群れは⁉︎」
「だよな。俺も驚いた」
「あんなのがいるなんて思わないですよ!しかも、虹色!」
「いたから教えようと思ったらさ、仁さん飛び込むんだもん。教える前に飛び込まれたら、しょうがないよねー」
「すみません!新道先生!」
「いいよ」
「新道先生、あの魚取って食べてみないですか⁈」
 俺は川の底から微かに虹色の光を地上へもらしている魚の群れを見る。
「あの魚を?」
「はい!」
「まじかー、仁さん食べたい?」
「食べたいです!もう腹ペコペコなんですよ!」
 仁はあからさまに両手で腹を摩り、腹が減った顔をする。それを見た俺は都市から帰ってくる際に食糧のほぼ全部を1人で持ち運んでいた仁の姿を思い出す。
「あー確かにね。あんだけ1人で積み上げられた食糧の山を何十段もタワーにして持ってたら……そうなるよな」
「全然あのくらい軽い方なんですけど、あの称号を獲得してから時間が経つ毎に腹の減りがやばいんですよ!」
 まじかよ。腹の減りがやばいって……。
「それは大変だな。でもさ、あんだけ荷物持てれば最高だと俺は思うよ」
「荷物持ちに関して言えば、そう思うんですけどね!他に役立ちそうにないですから、この力!」
「いやいや普通に役立ってるよ。エルフの時だって島中の倒れた大木を再利用する為に島の周りを砦みたいにしたりさ、大木を自分の武器としてカスタマイズしてマイバットにしたりとか、結構その力役に立ってるよ」
 俺の褒め言葉を聞いた仁はこしょばゆくなったのか、髪の毛をボリボリと搔き上げる。
「あの時は放置して行くのも見てられなかったですし、トレーニングの一環としてやったことです!」
「それ凄いと俺は思うよ」
「そうですかね⁉︎」
 仁の満足そうな表情を見て、再び都市での戦いが記憶からフラッシュバックする。
「今回だって、その大木で警備小僧を場外ホームランで飛ばしてたしね」
「あー!新道先生!まさかあれ見てくださってたんですか!」
 仁さん、嬉しそうな顔してるなー。
 そんなに俺に見られて嬉しかったのか。
「見たよ。いやーあれ凄いと思った。仁さん、元の居場所に戻れたら野球選手になれるよ。絶対」
「ですよね!俺もあの時そう思ったんですよ!新道先生からそう言ってもらえたら断然野球選手になれる気がしてきました!ありがとうございます!」
 俺たちの世界に戻れた暁には、絶対に仁さんには野球選手になってもらいたいもんだなー。
「まぁー仁さんが知らないところで大変なことになってたんだけど」
 都市内部で起こっていた惨状を思い出し、仁に聞こえない声でボソッと呟く。
「じゃー魚取ってみようか」
「新道先生、お願いします!」
「よっしゃ!おりゃー!」
 俺は大きな川の大半の水を空中へ巻き上げ、巻き上げた水の中にパタパタと魚の尾や尾鰭をバタつかせる魚を見つける。
「仁さん、足場がないから両腕を組んで」
「こ、こうですか!」
 仁は俺の言葉を聞き、両腕をガッチリと組む。
「俺が両腕に足をつけたら、そのまま上に飛ばして」
 俺は仁の両腕にジャンプする。
「わかりましたー!おらぁーー!」
 両腕に着地するのと同時に仁が俺を上空へ飛ばす。
「ナイス!」
 俺は上空へ飛行し、水飛沫を浴びながら逃げ場のない魚を1匹また1匹と合計8匹捕まえることに成功する。捕まえた状態で川にダイブしてしまえば、魚に逃げられる可能性もある。俺は川の隣にある岩壁を踏み台にして勢いをつける。
 着地は俺が漆黒スーツを脱いだ場所だ。
 目的地を目で捉え、俺は踏み台を一気に蹴って飛んだ。
「新道先生!」
 真下から仁の声が聞こえる。
 俺は狙っていた場所へ降下して、地面に無事に着地した。
「新道先生!魚はどうでした⁉︎」
 水飛沫を浴びて髪がぺったんこになった仁が川から上がって俺の元へ駆け寄ってくる。
「こんな感じだよ」
 俺は両腕に抱えた魚を地面に優しく落とす。
 [対象:レインボーフィッシュ LV1 推定脅威度:L]
 この魚、レインボーフィッシュっていうのか。
「わぉ!新道先生!流石です!」
 俺の隣に立った仁がパチパチと拍手する。
 この魚ってそのまま食べたら、まずいよな。
「生で食べるとやばいと思うから、とりあえず。炎魔法《爆炎》」
 焚き火サイズの爆炎を右手に生み出し、地面に落とした魚を両面一気に丸焼きにして行く。
「おお!新道先生!頭いい!」
 瞬く間に丸焼きになって行く魚を見た仁が拍手して喜ぶ。
「たぶんこれもう食べごろだから食べみよう」
 俺は魚自体に何か危険な成分が含まれていたり、毒でも入っていたら一貫のおしまいだと思う一方、魚がどんな味かを考えて口からよだれを垂れし、確かめるように一口かじって食べた。
 レインボーフィッシュがどんなもんか噛みしめ、体に違和感が何もないのを感じ取る。
「うん。これはなかなかイケる」
「まじですか⁉︎」
「まじまじ、ほら食べてみ」
 俺は有害なものが含まれていなかったのを確認し終え、丸焼きになった魚を仁に手渡す。
「ありがとうございます!頂きます!」
 受け取った仁は魚を一口食べると物凄い勢いで食べ始める。仁の顔には美味いと書かれている。
 それだけ腹が減ってたら何でも美味しく思えるよな。
 丸焼きにした魚を次々に流れ作業の如く仁に渡していく。
「美味い美味い美味いです!新道先生、こんなに貰っていいんですか⁉︎」
「いいよ。食糧運びで一番頑張った仁さんには全部食べる権利があるから」
「ありがとうございます!」
 俺は最初の1匹を食べ終える。
「ごちそうさまでした。じゃー俺は水浴びに戻るからゆっくり食べなよ。仁さん」
「わかりましたー!」
 俺は魚に感謝して、再び水浴びに戻った。


 ♦︎


 新道と葉山さんの2人が水浴びに出かけてから私は食材カードから料理に使う玉ねぎと人参とジャガイモを出していく。食材カードには別の名前が記されてあるが見た目は玉ねぎやジャガイモと何ら変わりない。名前を親しみのある呼称で呼んでも、差し障りなく問題はないだろう。
「ちづとまひろはこのジャガイモと人参と玉ねぎを洗った後に皮を剥いてくれ。包丁で手を切らないように気をつけて」
 ちづとまひろに食材3種類と包丁を渡す。
「美紅人さん、わかった。腕によりをかけて皮切るからね」
「うちだって皮くらい剥けるとこ、美紅人に見せるんだから」
 ちづ達は食材を洗い始める。
 この2人は相変わらず仲が良いんだか悪いんだか……。
「夏奈華ちゃんはお米を水で研いでくれるね?」
 私は食材カードからお米を出し、ボウルに入れて渡す。
「うん。ななか、お米とぐの大好き」
 夏奈華ちゃんは笑顔で受け取り、炊事場に持って行く。
「守山さんは私が指示しなくても、料理作り得意なら何の問題もないな?」
 両腕に汚れがつかないように漆黒スーツを捲り上げ、「何を作ろうかな」と守山さんは呟き、
「そうだね。得意だよ。おじさんはおじさんでおかずをパパッと作っちゃうから任せて」
 台所に置いてある食材カードを巡って作る品を考えると食材を出し始める。
「わかった。じゃー守山さんはおかず担当で頼む。私は肉じゃがでも作るとしよう」
 ちづ達が食材を洗い終わり、皮を剥き終える前に下準備を始める。
 調味料カードからダシと砂糖と酒と醤油とみりんを前以て出し、すぐに使える位置に置いておく。
「遠山さん、僕はどうしよう?」
 天音君が声をかけてくる。
「そうだな。天音君は食器やテーブルの上を綺麗にしておいてくれるか」
「オッケー」
 天音君は使われていない食器を水で洗い、布巾で綺麗に拭いて行く。
「さて、新道達が帰って来る前に終わらせるつもりで取り掛かるとしよう」
 私は下準備を終え、ちづ達が皮を剥き終わった食材を受け取る。食べやすいサイズに包丁で切り、次にジャガイモと玉ねぎと人参と豚肉を軽く炒めていく。
「美紅人さん、全部終わったよ」
「うちら頑張ったよね」
「2人ともありがとう。2人は慣れないことをして疲れただろうから椅子に座って休んでいるといい」
「まだうちはやれるよ」
「どいたま。美紅人こっちこそありがとうね。言葉に甘えさせてもらうね」
「まひろはまだやれるか。なら剥いた皮を1箇所に集めてくれ」
「わかった」
「それが終わったら使った包丁を綺麗に洗ってくれ」
「はーい」
 指示を出しながら人数分を炒め終え、前以て置いてたダシと砂糖と酒と醤油とみりんを入れ、煮込む。
 手が空いたな。
 守山さんはどうだろうか?
 守山さんを見る。守山さんは鍋に火を通し、なめこと味噌とだしを入れて味噌汁を作っている。グツグツ音がし始めるとニラを加え入れる。それと同時並行でキャベツをざく切りにして、フライパンにざく切りにしたキャベツと味の素を加えて炒め始める。
 手さばきが慣れた人の手だ。
 守山さん、料理が得意というのは伊達じゃないな。
 夏奈華ちゃんも無事にやってるかな?
 お米を研ぎ終わった夏奈華ちゃんは火を通し、蓋を閉じて炊き始めていた。
 夏奈華ちゃんも1人で出来たな。

 その後、キャベツ炒めや肉じゃがや味噌汁が出来終えると器に盛り付けして、ちづ達に運んでもらう。
 夏奈華ちゃんの作ったご飯も出来立てで湯気が出ている。
 温かくて美味しそうだ。
 ご飯を茶碗に入れ、夏奈華ちゃんに渡す。
「夏奈華ちゃん、運ぶのは慌てずにゆっくりでいいからね」
「うん。とーやまのお兄ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。こちらこそ手伝ってくれて助かるよ」
 夏奈華ちゃんが無事に運んでいく姿を見届ける。
「遠山くん」
「ん?守山さんどうした?」
「食事が出来たし、おじさんは食後のデザートでチョコマフィンを作ってもいいかな?」
「チョコマフィン?守山さん、そんなものも作れるのか?」
「作れるよ」
 守山さんは力強くガッツポーズする。
「じゃーよろしく頼む」
「あいよ」
 守山さんはオーブンを予熱し始めている。食材カードに数少ないながらもあったチョコレートをチョコチップ大に切り始める。切り終え、次にボウルにバターを入れクリーム状にする。
 凄いな。ここまで几帳面とは……。
 ボウルに砂糖を加えて、崩した卵を数回に分けて入れて何度も混ぜていく。
 こんな細かい部分も真剣な表情で守山さんは進めていく。
 まるでシェフのようだ。
 そこから更に難しい作業に入っていくのだが、守山さんの作りに対しての熱意は最後まで真剣な表情のまま貫き終えた。


 ♦︎


 俺と仁は遠山達が待つ家に帰宅する。
 家の扉を開けると美味しい匂いが玄関まで漂ってくる。
「美味そうな匂い」
「ですね!料理担当は俺らの分まで頑張って料理してくれてるんでしょうね!」
「そうだと思う。なんか水浴びしに行っただけの俺たちからしたら申し訳ない気持ちになるよな」
「……ですね。まぁーそこは担当分けした時から申し訳ない気持ちはあったんで、もう気にしてたら負けみたいなもんです!」
「仁さん、その取り方は考えてなかったわ」
「考え方1つで結構変わってきますよ!申し訳ないだけじゃ、料理担当が作ってくれたご飯は何が何でも食べれないですからね!」
「あはははっ。確かに俺たちは俺たちなりに出来ることを今後みんなに返して行くとしような」
「はい!」
 俺たちは玄関からリビングダイニングキッチンへ向かう。
 リビングダイニングキッチンの扉を開けるとテーブルの上には、ご飯と肉じゃがと味噌汁とキャベツ炒めが人数分並んでいる。
 扉が開いたのを真っ先に反応した守山と遠山が台所から俺と仁を見る。
「お!新道くん、葉山くん、おかえり」
「新道、葉山さん、帰ったか」
「ただいま」
「ただいまです!」
 千葉と戸倉が次に俺と仁さんを見て、
「2人とも、さっぱりしてるじゃん」
「うちらが料理作ってる時に水浴びしに行ってたんだから、さっぱりしてて当たり前。新道くん、葉山さん2人の席はそこね」
 俺たちが座る席を指差して教えてくれる。
「先にさっぱりして、面目ないです!ごめんなさい!」
 さっきまで申し訳ないと気にしてたら負けと言ってた仁は千葉たちの発言を聞くなり、咄嗟に謝った。
 早いな。早いよ。気にしたら負けって言ってたよね、仁さん。えぇーだよ。
「仁さん、そこまで言わなくてもいいって。みんな、料理作りありがとう。感謝してる」
 俺は遠山たち全員を見て、お礼を伝える。隣でいまだに頭を下げたまま頭を上げれない仁の背中をポンポンと叩き、
「もういいよ。仁さん、ほら見て。みんな怒ってないでしょ」
 仁の頭を上げさせる。
 仁は頭を上げて、周りの千葉たちを見る。千葉たちは怒った表情は一切していない。逆に謝られて困惑している。あっちゃーという顔になった仁は右手で顔を覆い、
「やっちまいました!」
 恥ずかしそうに耳を赤くする。
「葉山さん、私たちは何も怒ってなどはいないぞ。なぁ、みんな?」
「うん」
「なんか誤解させて、こっちこそごめん」
「さっぱりしたじゃんは良い意味で言ったつもりだったのに。葉山さんったら、誤解するんだもん」
「新道先生!ありがとうございます!みんな、ありがとう!」
 遠山たちの言葉を聞き、安心した仁は俺や遠山たちにペコペコ頭を下げる。
 本当に仁さん、なにやってるんだか。
 早とちりしすぎだよ。
「お兄ちゃん、おかえりー」
 夏奈華が俺の元へ走ってくる。
「ただいま」
 俺は床に膝をついて、夏奈華を抱きしめる。
「ななかね、ご飯を作ったよ」
「おーそうなんだ。それは楽しみだな」
「きっとおいしいよ。山盛りでご飯注ぐから、ななかのご飯たーくさん食べてね」
「よし。そういうことなら何杯でもお代わりするぞー」
 耳元で夏奈華の言葉を聞き、俺は夏奈華の頭を優しく撫でて起き上がる。それをすぐ側で椅子に座って見ていた天音は、
「新道、本当に夏奈華ちゃんには甘いよね」
 呆れた様子で言ってくる。
「そうか?」
「そうだよ。夏奈華ちゃん大好きってのが見ててよーく伝わってくる」
「まじか?」
「まじもまじ、ガチでやばいよ」
「そんなにか?」
 俺は夏奈華と手を繋いだまま、自分の席に座る。俺の隣の席に夏奈華も座り、必然的に仁が座るはずだった隣の席は夏奈華が本来座るはずだった席と入れ替わる。
「本当に現代でいうところのロリ――」
「ちょっと待て!みなまで言わなくてもいい。今天音が言わんとしたことは聞かなくてもわかったわ」
「認めるんだね?」
 天音からの視線が痛い。
「俺は天音が思ってるのとは違う。俺は夏奈華ちゃんを本当の妹のように大事に思ってるだけだ」
「いやそれがロリ――」
「待て!もうその話はいいから」
「ぷっ、もう認めたようなもんだよ?」
 口元をニヤけた天音が俺をじーっと見つめてくる。
 視線が痛い。まじで痛すぎる。
「違う。なぁ、夏奈華ちゃん。俺は夏奈華ちゃんだからこうやって妹みたいに大事にしてるんだよな?」
「うん。ななかね、ほんとにお兄ちゃんがななかのお兄ちゃんだったらなーっていつも思ってるよ」
「ほら聞いたか?天音」
 天音を見ると頭が痛そうにしてる。
「……聞いたよ」
「俺と夏奈華ちゃんは血は繋がっていなくても、こうやって本当の兄妹のように絆を深め合ってるんだ。だから決して、天音の言うところのそれとは違うぞ」
「わかったよ。もう僕が何度言ったって認めそうになさそうだから。僕の負けだ」
 天音は頭痛そうに片手を振って、白旗を上げた。
「俺たちの絆の勝利だ。夏奈華ちゃん、いぇーい!」
「いぇーい!」
 俺は夏奈華とハイタッチして喜ぶ。
「新道先生!兄妹の絆素晴らしいです!俺も新道先生を見習わないといけませんね!」
 仁は夏奈華ちゃんが座るはずだった席に座り、俺と天音と夏奈華ちゃんの会話を聞いて感動していた。
「仁さん、ありがとう!俺は今後も夏奈華ちゃんと兄妹の絆を深めていくよ」
「はいはい。現行犯逮捕されないようにね」
「おい天音、俺はな――」
「はーい。出来たよー。新道くん、話はそこまでにして、チョコマフィンを持ってきたよー」
 守山は配膳のお盆に人数分のデザートを乗せて持ってくる。
「おっ!美味そうなデザートだ」
「モリケン、これモリケンが作ったの?」
「うわーっ、美味しそー」
「美味そうですね!」
「えっ、おじさんがこれ作ったの⁉︎」
「やばい。女子力あり過ぎじゃん!スマホがあったら写真撮りたいくらいなんだけどー」
 俺をはじめとした全員が椅子から立ち上がり、守山が配膳に乗せたデザート――チョコマフィン――に注目する。
「そうそう。おじさんが作ったよ。おかず作り終わってチョコマフィンも食後のデザートとしていいかなーと思って作ってみた」
 チョコマフィンを見て、守山=料理出来ると強制的に再認識されられた。
「守山さん、本当に料理っていうかパティシエみたいなデザート作れたのかよ」
「そうだよ。おじさん、嘘つかないよ。出来ることは出来るって言うし、出来ないことは出来ないってちゃんと言うから」
「守山さん、良い奥さんになれそうだな」
 守山は右手の指をパチンと鳴らし、
「新道くん、それ言えてる。おじさんと結婚した人は特典として毎日美味しい料理を振る舞うよー」
 自慢気に胸を張る。
「モリケンって職業主婦希望なの?」
「いや、そおいうわけじゃないけど。将来的には料理方面で活躍したいなー」
「そうなの。だったら元いた居場所に戻ったら、僕の家の料理人として呼ぼうかな」
「天音くん、それ本当かい?」
「うん。約束するよ」
「おじさん、こんな姿になっちゃったから元いた世界の職場はもちろんだけど、実家に戻れるか不安だったんだよ。天音くんがそう言ってくれるなら、その言葉に甘えさせてもらおー」
 守山は全員の席にチョコマフィンを置き、喜びながら台所へ戻っていく。
 天音と守山の会話を聞いて、俺は気になったことを天音へ質問する。
「天音の家って料理人いるのか?」
「うん。いるよ」
 その一言で、俺の中にあった天音に対しての固定概念があっさり壊された。
「まじかー、天音が凄い人にだんだん見えてきたわ」
「そう?凄い人に見えても僕は僕だよ。そうでしょ?新道」
「まぁー天音の言う通りなんだが、俺の認識に天音=凄い人って今上書きされたわ」
「ぷっ、そうなの?じゃー元いた居場所に戻ったら、僕の家に招待するよ。新道が家に来てどんな反応をするのか今からでも楽しみだよ」
 天音は口元に手を当ててるが、目がニヤついてて笑ってるのがハッキリ俺の目に見える。
「おいおい、どんな反応って……天音の家が今の言葉でだいたい想像出来たわ」
「じゃー新道とも約束だ」
「おう。約束だ」
「おまたせー」
 守山が自分の席に着き、
「すまん。待たせた」
 遠山が台所から出て、席に着く。
「では頂くとしよう」
「「「「「「「頂きます!」」」」」」」
 俺は手を合わせ、料理を作った遠山達に感謝をし終える。
 美味そうだ。
 ゴクリと喉を鳴らし、目の前に並んだ料理を味合うように食べた。
 めちゃくちゃ美味しく頂きましたー。


 ♦︎


 食事後、遠山達は水浴びに向かい、俺と仁は2階にある男女別の4人部屋へ一足先に向かう。部屋には2段ベットが左右に2つあり、仁は左の1段目へ、それを見た俺は同じく左の2段目へ上がる。
「ふぁ~!」
 仁の欠伸する声が下から聞こえる。
 やばい。めちゃくちゃ眠くなってきた。もう少し起きとくつもりだったが……。
 無性に襲いかかってきた睡魔に抗えず、俺はそのまま就寝についた。

 [ユニークスキル:NEWROADにより、地下都市――アンダーグラウンド――全獣人を配下へ登録実行開始]
 [配下登録完了]
 [ユニークスキル:NEWROADにより、配下の全獣人へ適正称号付与《不滅の闇獣》を自動獲得開始]
 [自動獲得完了]

 次に目を覚ますと反対側の2段ベットに遠山と守山がぐっすり眠っている。
 今何時だ?……って昔からの癖で頭の上にある時計を見ようとしてるし……。そもそも、ここには時計なんてものはないのに……俺寝ぼけてるなー。
 居心地いい眠りから覚めておらず、俺は上体を起こして小窓から外を眺め、魔法で生み出された明るい光が今は薄っすらと光ってるのに切り替わってる。
 まだ夜か。
 上体を寝かせ、再び目を瞑る。
 あー眠い。もう少し寝よう。


 ♦︎


 牢屋に入れられて、どのくらいの時間が経過したのだろうか?
 私が消息を絶ったのを都市の人々は気づいているだろうか?
 否、気づいている。あれだけの殺戮仏が動いたのだ。気づかないわけがない。
 今頃、他の沙門に知らせに向かって行ってくれていればいいが……。その前に僧侶様へどう弁明するかを考えなくてはいけない。まさか泥棒ネズミに捕まった挙げ句の果てに僧侶様から預かった殺戮仏全てを破壊されたと知られれば、もう私は沙門として居られない。全身の血の気が一気に引く。
 沙門ではなくなるだけならまだいい方だが、完全に僧侶様に呆れられて見放されてしまえば……お終いだ。
 どうすればいい?
 私は今この局面で次の一手をどう打つべきか?どう打てば、懸命なのか?
 否、答えは決まっている。
 私には泥棒ネズミに気付かれずに今も体内に隠し持っている……この緊急発信菩薩がある。これさえ使ってしまえば、この場に助けを呼ぶ事は可能。
 だがしかし、そうしてしまうと他の沙門に手柄を持っていかれるどころか、私の失態が他の沙門に知られるだけではなく、僧侶様にも知られる。
 否、他の沙門に都市の人々が伝えていたら既に終わったようなもの。そうなれば、泣く泣くの所業。だったら、今この場で使おうが使わないが何も変わらないではないか。
 助けを呼んでも地獄。
 助けを呼ばなくても先に待ってるのは地獄。
 どの道、地獄へ進むのなら助けを呼んだ方が良いに決まっている。
 私は深く目を瞑る。
「殺戮仏【緊急発信菩薩】に命じる。この大陸にいる全ての沙門へ救助要請を発信しなさい」
 体内の鼓動が早まる。
 血流の流れが変わる。
 全身が激しく熱い。
 僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様僧侶様‼︎!
 私は瞑想と共に偉大なる僧侶様のお姿を脳裏から呼び出す。
 全身の血と肉が煮沸するかの如く煮え繰り返る。
 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いあづぃあぁあぁあぁあ‼︎
 直後、ベート自身を浄化するように菩薩が体内爆発を起こした。


 ♦︎


 満月に照らされた窓に手を当てる。
 今この瞬間、沙門1人1人に持たせている緊急発信菩薩の1台から受信を受け取った。
 私の頭の中に発信された場所が地図情報に赤い点マークとなって表示される。それと同時に赤い点マークには『ベート・カヤヤマ』と個別情報が表示される。
 沙門1人1人の体内へ入れた緊急発信菩薩自体には何の力もない。
 何の力もない菩薩に力を注ぎ発揮するには人1人の命を消費しないといけない。それを知らない新沙門のベート君は菩薩を使うリスクを考える事なく、命を散らした。
「ベート君の菩薩から救助要請が来ましたね。……ベート君、実に残念です。彼には仏を信仰する熱い想いが他の人よりも根強く存在するのを買っていたんですがね」
 暗い闇を照らす満月を眺める。
「如何致しますか?」
 側に控えていたエミリ君が殺戮仏【指定発信菩薩】を右手に握って、私を見ているのが窓硝子から反射してうかがえた。
「彼が救助要請した場所へ私自ら向かいましょう。沙門の皆さんにも必ず来るように伝えておいてくださいね」
「御意!」
 エミリ君は指定発信菩薩で沙門へ連絡を取り始める。
 今宵も、満月は美しい。
 窓から手を離し、
「さて彼が自らの命を使って発信した救助要請の先にはいったい何が待ってるのか。実に楽しみですね」
 ベート君が発信した場所へ向かう支度を整え始める。


 ♦︎


「新道、朝だぞ」
 ん?
「新道起きろ」
 遠山の声が聞こえる。
 俺は瞼をゆっくりと開ける。
「……もう朝?」
 小窓から光がこもれ出ている。
「そうだ。もう朝だぞ」
 やたら眠いなー。
「……もう少し寝かせて」
 瞼を閉じる。
「新道!食事の準備は出来ているぞ」
 遠山の声が大きい。
 耳が痛い。
 その声の音量だけで、眠気が吹っ飛んだ。
「……わかった。起きるよ」
「顔を洗面所で洗えば目も冴えるだろう。では私は先に行ってるからな」
「わかった」
 ベッドから起き上がり、背伸びをする。
「んーー、もう朝か。早いな」
 ベットから降り、全身を伸ばす。
「顔洗うか」
 俺は部屋を出て、2階にある洗面所に向かう。その時に天音と千葉と戸倉の3人と鉢合わせして、「おはよう」と挨拶を交わす。
 洗面所で顔を洗い、完全に眠気が消えて頭が覚醒して冴える。
 顔を綺麗に拭いて、俺は2階から1階へ降りる。
 良い匂いがする。
 また遠山たちが作ったのかな?
 朝飯の匂いを嗅ぎながらリビングダイニングキッチンに入る。
「お兄ちゃん、おはよー」
「新道くん、おはよう」
「新道先生!おはようございます!」
 夏奈華と守山と仁の3人が自分の席に着いた状態で挨拶してくる。
「3人とも、おはよう」
 既にテーブルの上には、ご飯と目玉焼きと味噌汁と漬物やトマトと千切りキャベツが置いてある。
「朝飯も美味そう」
 俺は自分の席に着き、テーブルに置かれた朝飯に目線を向ける。
「今日は遠山くんとおじさんの2人で作ったよ」
「そうなんだ。守山さん、ありがとう」
「どういたしまして。昨日は寝れた?」
「ぐっすり眠れた。遠山たちが水浴びに行ってすぐに寝てたからね」
「そっか。おじさんが帰って来た時には新道くんも葉山くんも2人とも熟睡して寝てたよ」
 そうだったのか。
「へぇー仁さんもあの後寝てたんだ?」
「寝てましたよ!そのおかげで昨日の疲れはスッキリ取れました!」
 仁の顔は元気に満ち溢れている。
「仁さん、それはよかったね。守山さんはあんまり寝れてないんじゃない?」
「少し寝てるだけでも全然大丈夫。なんってたって、おじさん若返ったから」
 守山はガッツポーズして、眠気なんて全然ない表情にパッチリと開いた目を見せてくる。
「やっぱ若返ったら違うもんなの?」
「違う違う。昔はもう夜中なんて起きてられなかったからね。今の体なら24時間起きてられそうだよ」
「おいおい守山さん、24時間のオールはやめてくれ。そんなに起きてたら絶対に体に悪いからな」
「そうですよ!新道先生のおっしゃる通りです!」
「そうかな?おじさん、若い頃は1週間連続起きてたことあるけど」
 頬を掻き、守山は言った。
「まじかよ。守山さん、あんた凄いな」
「凄いも何もなんでそんな1週間も起きてるんですか⁉︎」
「確かに仁さんの言う通り気になるんだけど」
「ふふっ、聞きたい?」
 守山は含みのある言い方で、俺と仁の2人を交互に視線を向ける。
「なになに教えて」
「教えてください!」
 俺と仁は含みのある言い方でも、聞きたいと思ってしまった以上は聞かないという選択肢はなかった。それを見た守山は頷く。
「若い頃はアニメ関連のビデオやグッズを買う為に色々なバイトを掛け持ちでやってたんだ。掛け持ちでやってるとね、長期の夏休みや冬休みにミッチリシフトがギシギシに入る時があるんだ。その時は移動する時間も1分単位で惜しい。その代わり、寝る時間がほとんどない。でも全てこなし終えた後のバイト代は凄かったよー」
 守山の顔は学生時代を思い出し、その頃からブラックとは何かを悟ったらしい。だがそれ以上に苦より楽しみがあって辛くはなかったそうだ。
「……守山さん、あんたって人は若い頃からアニメ好きだったんだな」
「考えるだけでもブラックな戦いじゃないですか!そんな戦いを繰り広げていた守山さんを俺は尊敬します!ご苦労様です!」
 仁は守山の話を聞き、共感するように力強く頷いて賞賛した。
 ははっと笑いながら、守山は頭に手を回す。
「まぁーバイト代が入った次の日には全てアニメ関連で溶けて消えてたけどね」
 まじかよ。
「……守山さん、凄いわ。そこはもっと有効活用した方が良かったんじゃない?」
「いいや、おじさんの過去の選択に一片の後悔はないよ。むしろ過去のおじさんを誇っていいほどだ」
 守山は胸を張って言った。
「凄いな。そんな夢中になるものを守山さんは俺の年代の頃からあったんだな」
「うん。あったあった。そのおかげで彼女なし歴=年齢だったんだけどね」
 衝撃の発言を守山の口から聞き、
「……」
 俺は黙り、
「……お疲れ様です!」
 仁は手を合わせて合掌した。
「えぇー、新道くんそこ黙らないでよ。葉山くんなんて、お疲れ様ですってそれどおいう意味よそれ⁈」
「守山さん、若返ったんだからここから挽回しような」
 俺には他に言える言葉が見つからなかった。
「ですです!俺も応援しますよ!」
 仁は何度も頭を縦に振る。
「くっーーー2人とも、ありがとう!おじさん、現代に戻ったら絶対に彼女作ってみせるから!」
 守山の目には炎が灯り、やる気が眼の奥からビシビシと伝わってきた。
 そうこうしている間に遠山が両手を叩いて、パチパチと音を鳴らす。
「はいはい。3人とも話してるところ申し訳ないが、食事が冷める前に頂くとしよう」
 遠山は台所から自分の席に座る。
 周りを見ると他の面々も椅子に既に座っていた。
「みんな待たせて申し訳ない。では頂きます!」
 遠山が手を合わせ、俺たち全員も手を合わせる。
「「「「「「「頂きます!」」」」」」」
 美味しい朝食を食べながら色々な話を繰り広げた。


 ♦︎


 朝食後、俺たちはラドラ達のいるレジスタンス本部へ向かう。
 レジスタンス本部が俺の視界に入るところまで来る。
 ん?どうした?
 本部の周りには若い獣人達が数多く集まっている。
「何かあったのだろうか?」
 遠山は気になった様子で呟いた。
「なんだろうな?」
 俺も遠くから見るだけじゃ全く分からず、疑問を疑問で返した。
 俺たちが本部前に辿り着くと若い獣人達が此方を一斉に見る。
 最初見た時は牙を剥き出しにした獣人がほとんどだったが、今俺たちを見ている獣人たちは牙を剥き出しにするどころか頭を深く下げた。
 え?なになに?
「頭を上げてくれ」
 状況が全く理解出来なかった俺とは違い、遠山は心当たりがあったようで先頭の獣人の肩を優しくトントンと叩く。
 叩かれた獣人が頭を上げる。
 [対象:リコノスケ LV37 推定脅威度:I]
 脳内に声が響く。
「昨日はすいませんでした。ボクらは人間は全員敵だと勘違いしてました。昨日は皆さんに威嚇するような態度をとってしまい、心から謝らせてください」
 獣人――リコノスケ――の目から涙が落ち、再び頭を下げる。
「やはりそうだったか。我々はもうそのことに対して気にしてはいない。そもそも闘技場での一件は全て済んだじゃないか」
「そうです。そうなんですが……」
 リコノスケが言いにくそうにしていると遠山はハッと気づき、他にも思い当たる点があるようだ。
「我々が昨夜、都市で奴隷解放をしたのを聞いてもう一度謝りたくなったという感じかな?」
「はい!そうです。ボクらは恩人に対して威嚇をしただけじゃなく、あろうことか恩人に殺せ殺せと非礼な言葉を闘技場で何度も言ってしまいました。ボクらは人間が怖い存在だと身をもって知ってましたが、奴隷解放の知らせをラドラ様から聞き、恩人である皆さんはボクらが知っている人間とは違うと深く知りました。どうかボクらを気の済むまで糾弾してください」
 リコノスケは頭を下げたまま、頭を上げようとしない。
 どうしたものかな。まぁー分からなくもないけど……。
「そおいうことなら我々が言える言葉は1つだ。君らが我々に向けた威嚇にしろ、新道に対して言った殺せコールにしろ、全てを許す!だから頭を上げてくれないか?」
 リコノスケはゆっくりと頭を上げる。
「本当にそれだけで気が済んだのでしょうか?ボクらに言いたいことがあるなら、どんどん言ってもらって構わないので言ってください」
 先頭のリコノスケの言葉に賛同した他の獣人達がうんうんと頷き、俺たちを見る。
「我々は気にしていない。許すだけでは君らの気が収まらないのであれば、こうしよう。今日の昼飯を我々にご馳走してくれないか?」
 遠山は右手の人差し指を立て、そう言った。
「「「「「え?」」」」」
 リコノスケはもちろん、他の獣人達のほとんどが呆気にとられる。
 先頭のリコノスケが恐れ多そうに遠山へ言う。
「……それで本当にいいんですか?」
「いいとも。なぁ、みんな」
 遠山は俺たち全員を振り返り見る。
「ああ」
「うん」
「はーい」
「そうだね。そうしよう」
「いいじゃん。どんな料理を食べてるか気になってたし」
「美味しいか美味しくないかは食べてみてのお楽しみってことね」
「ご馳走してください!」
 全員が遠山に同意する。それを見たリコノスケ達がホッとした顔を見せる。
「わ、わかりました。ボクら全員心を込めてご馳走を作ります!」
「楽しみにしているよ」
「みんな、今から作りに行くぞ」
「「「「「うん!」」」」」
 リコノスケ達は一斉に走って行く。
「どんなおもてなしをしてくれるのか、今から楽しみだな」
「そうだな。では我々も行くとしよう」
 リコノスケ達が走っていく後ろ姿を見送った俺たちは止めた足を一歩踏み出し、本部へ向かった。

 本部の中に入った俺たちの方へテンソン達が慌てて向かってくる姿が目に入る。
「そんな慌ててどうした?」
 テンソンは血相を変えて言う。
「大変だ!」
 その言葉を聞いた遠山は、
「大変とはどおいう意味だ?」
 テンソンへ問いかける。
 テンソンは後方を指差す。
「昨夜捉えた人間が自殺していた」
「なっ!」
「っ!」
「ぇ!」
「嘘だろ」
「自殺ですか⁉︎」
「やばっ!」
「まじ自殺とか無理なんですけどー」
「じさつ?なにそれー?」
 テンソンの言葉を理解した夏奈華以外の全員が顔を青くさせる。
「昨夜って……まさかあの沙門か?」
「そうだ」
「なんということだ。それで、自殺する前に聞き出すことは全部聞き出していたのか?」
 遠山の問いかけにテンソンは頷く。
「それはブラドナ様から聞いた話では大丈夫だと言ってた」
 遠山は顎に手を当てる。
「つまり情報を全て吐いてしまった自責の念から自殺をしたといった線だろうか」
「わからない。私達はブラドナ様の指示で君達を呼びに行こうとしていたとこだった。本部にご足労してもらう前に君達がここにいてくれて話が早いよ」
 どうやら遠山は今すぐ向かわないといけない場所を決めたようだ。
「そうか。ならブラドナさん達のいる場所へ案内してもらえるか」
「わかった。ついてきてくれ」
「よし、みんな行くぞ」
「おう」
「僕は外で待ってるよ」
「おじさんも、ちょっとそおいうのは見たくないかなー」
「新道先生!俺も外で待機してます!」
「うちも外にいよー」
「だよね。自殺現場とか見たくないし」
「ななか、じさつ?って何かしらないけど、外で待ってようかな」
「夏奈華ちゃんは外で待ってた方がいいよ。俺たちが戻るまではみんなと一緒に待ってて」
「うん。わかったー」
「みんな、行かないようだな。では新道と私の2人で行くとしよう」
「よし、行こう」
 俺たちはテンソン達に案内される形で、ブラドナ達のいる部屋に辿り着く。部屋の前まで来た天音達は外で待機してもらってる。
「あら、早かったわね」
 ブラドナは俺と遠山が扉から入ってくる姿を目にし、予想してた時間よりも早くきたことに驚いている。
「テンソンさん達が家に訪れる前に我々は我々で本部へ来ていたんだ」
 遠山の言葉を聞いて、ブラドナは納得した顔をする。
「そうだったのね。だったら話は早いわ。昨夜捕縛した沙門をここの牢屋に閉じ込めていたんだけど、沙門はわたし達が席を外してる間に自爆していたのよ」
「なっ!自爆?」
 遠山は顎に手を当てて考え始める。
「ちなみに沙門は牢屋にいる間は手や足は自由だったのか?」
「いいえ、わたし達は逃げ出せないようにちゃんと両手両足に縄を括り付けていたわ。それなのに沙門はどうやったかは分からないけれど、自分の体を内側から自爆させたみたいなの」
「それはやばいな」
「ブラドナさん、参考程度に聞くがこの世界の人間は魔法は使えるのだろうか?」
「いいえ、わたし達の知っている人間は魔力自体備わっていないから魔法なんてものは天と地が逆さになったとしても、絶対に使えないわ」
 魔法は使えないのか。だったらどうやって?
「なるほど。……だとすると自殺じゃないかもしれないな」
「まじかよ」
「なんですって?どおいうこと?」
「この世界の人間は魔法が使えないのなら沙門と呼ばれる人間もまた魔法は使えないはずだ。なら尚更、自殺する際に体の内部から自爆出来るはずがないんだ」
 ブラドナは自分で言った言葉を思い出す。
「……言われてみれば、そうね」
「おいおい、だったらどうやって自爆したんだよ?遠山」
「それは私にも原理は分からない。だが自殺ではなく、他殺の可能性ではないか?と私は思う」
「他殺?」
「つまり、わたし達の中に犯人がいるってこと?」
「そうなる。ブラドナさんはこの部屋を後にした後、ここに他に誰か来ていないか知っていないだろ?」
 ブラドナは部屋から離れていた時の記憶を思い出して言う。
「ええ、わたしは別室でロナちゃんと話をしていたから誰かがここに来たとしても分からないわ」
「そうか。ブラドナさん、ここにいる獣人達の中で魔法を使えるものはいるか?」
「ええ、いるわよ。アンダーグラウンドを照らす魔法を使える仲間がいるわ」
 まさか、獣人に犯人が?
「ちなみにその仲間は相手に致命的なダメージを与える魔法を覚えていたりするか?」
「いえ、そんな魔法を覚えてる人はいないわ。魔法を使えるとしてもアンダーグラウンドを照らす事ぐらいよ」
 遠山は顎に手を当て続け、思考を巡らせている。
「……ということは外部犯か」
「ちょっと、それは絶対にないわ。もしあったら、ここにいる仲間全員殺されてるわよ」
 外部犯なら人間ってことになるし、人間だったら殺戮仏を連れてるだろうから全員殺されるパターンになるかもな。ブラドナの言う通り、そうだよな。
「……そうだな。現場を見ずに憶測だけを考えていても話にならんな。ブラドナさん、沙門が自爆した現場を見させてくれないか」
「ええ、いいわよ。現場はここの牢屋の中よ」
 ブラドナは部屋の奥を指差す。
「では少し見させてもらおうか」
 遠山はベートがいた牢屋の中へ踏み込み、辺り一帯をくまなく見て行く。
「シンドウ、あのトオヤマは何者なの?」
「んー簡単に言ったら犯人探しの天才かな」
 ブラドナは口に手を当てる。
「あらやだ。それは凄いわね」
「だから遠山に任せていれば、きっと犯人が誰かわかるはず」
「それは助かるわね」
 今回も遠山が解決してくれるはずだ。
 それにしても気になったことが俺にもあるんだよな。
「ブラドナ達はベートが自爆してるのをいつ気づいたの?」
「ほんの数十分前よ。その前まで私とロナちゃんの2人で沙門から聞き出した情報について話し合ってたからね」
「ついさっきみたいなもんだね。話してる間、自爆した音は聞こえなかったの?」
「聞こえなかったわ。自爆する音が聞こえてたら飛んでここに来てたわよ」
「だよな。じゃーそんなにでかい音はしてないってことか」
 全くわからない。
「本当に自爆される前に情報を全て聞き出していたのが救いよ」
「確かに聞き出してなかったら骨折り損もいいとこだもんな。てかラドラ達は今どこに?」
 俺はこの場にブラドナ以外にラドラやロナードの姿がなかったのが気がかりで、ブラドナに聞いてみた。
「あーラドラはたぶん自分の寝室で寝てるわね」
 予想外の回答だな。
「え?まだ寝てるの?」
「たぶん寝てるでしょうね。寝てると思ったから今はロナちゃんに起こしに行ってもらうついでに沙門が自爆したことも知らせに行ってもらったわ」
「それならラドラも飛んでここに来るだろうな」
「ふふっ、そうね。ラドラの事だから自爆のじも分からないでしょうけど」
 ガハハハハッ!と高笑いするラドラの姿が目に浮かぶ。
「言われてみれば、わかってないまま来そうだなー」
「ふふっ、ラドラの慌てふためく姿がここで見れるかもね」
 俺とブラドナが会話をしているところで、遠山が牢屋の中から出てくる。
「遠山、なんか分かった?」
「ああ」
「あらやだ。そうなの⁈」
「少なからず分かったことはある。これだ?」
 遠山は右手に握ったあるものを俺とブラドナへ見せる。
 キラキラ光る土?で出来た破片?
「なんだそれ?」
「なにかしらね?」
「これをよく見てくれ。新道は昨日この欠片を見たはずだ」
 俺とブラドナは遠山の右手に握られたキラキラ光る破片をじーっと見る。
 ん?昨日?
「昨日ってことは……まさか!」
 俺は昨日という言葉で気づく。
 確かにキラキラ光る砂を見た。
 俺が奴らを倒した時に出ていたキラキラじゃないか。
「え!シンドウも分かったの?」
 ブラドナはまだわからないらしい。
 俺は答えがわかったことで、ブラドナへ最大のヒントを口にする。
「あんだけ戦ったからね。忘れられないよ」
「戦った?え?ま、まさか⁈」
 ブラドナもようやく気づく。
「そうだ。これは殺戮仏の欠片だ」
 ブラドナは信じられないと言わんばかりの顔で、遠山の右手に持った破片を指差して言う。
「どうしてこんなところにそんなものがあるのよ?」
「ブラドナさん達は現場を近くでじっくり見ていなかったから分からなかったんだろうが、飛び散った沙門の肉片の内側から刺さるようにこの欠片が至る所にあった」
「内側からって、それって」
 あ、俺わかったかも。
「私もわかったわ」
「そうだ。肉片の内側に刺さっているということは自爆した際にこの殺戮仏の欠片は沙門の体内にあったということに間違いはない」
「てことは、これが自爆の原因?」
「ってことよね?」
 俺とブラドナは同時に破片を指差す。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。可能性としては99%黒に近いだろうな。だが決定的な証拠が他にない。この殺戮仏が自爆出来るだけの殺傷力があるとわかれば、これが自爆の原因だったと強く言えるんだがな」
 遠山はスッキリしない顔をしてるが、ブラドナはそれとは正反対でスッキリした顔になる。
「でもハッキリしたわ。トオヤマありがとう」
「いや私はただ見て気づいたことを話したまでだ。私が今言えることは魔法の使えない沙門は情報を吐いたことによって自責の念が積もり、体内に隠していたこの殺戮仏で自殺した可能性が高いということだな」
「遠山、でもさ自殺するのにどうして自爆なんかしたんだ?」
「そうよね。自爆なんかしなくても他に方法はあったでしょうに。こんな肉塊を散らばらせて、トンズラとか信じられないわ。しっかりトンズラするなら片付けて行きなさいよって感じよね」
 おいおい。ブラドナ、そこまで言わなくてもいいだろ。
「確かに自爆以外にも方法はあった可能性はないとは言えない。だけれど、考えてみてくれ。沙門は両手両足に縄を括り付けられていたんだぞ。両手両足が塞がってる状態では首を自分で締めることも、体を動かす事も容易じゃなかったはずだ」
 言われて思い出した。
「そうか。そういえばそうだったな」
「両手両足にしっかり縄を締め付けていたからね。そう考えれば、自ずと自爆する選択肢しか残ってないものね」
「だから今回の沙門の自爆は自殺と見て問題ないだろう。ブラドナさんも沙門から既に情報は引き出していたのは大きかったと私は思ってる」
「そうよね。シンドウにもそう言われたわ。本当に情報を吐かせる前に自殺されてたら、まずかったわ」
「ん?そういえば、どうして情報を全部出した後に自殺したんだろう?ブラドナの言う通り、情報を吐く前に自爆してしまえば、情報漏洩は絶対になかった。それなのにどうして話した後に自爆したんだ?不思議だよな」
「新道、そこは私がさっき言ったように情報を全て吐いてしまったために沙門は自責の念にかられての自爆といったところだ」
「……だよな。それ以外にないよな」
「じゃー外で待ってる天音達の元に戻ろう」
「そうしよう。それとブラドナさんには沙門から聞き出した情報を我々に教えてもらわなくてはいけないな」
「ええ、ラドラ達が集まり次第そうするわ」
 俺たちは沙門が自爆した部屋を後にした。
 この時もっと考えていたら、未来は少し変わったのではないかと後に俺は強く思う。


 ♦︎


 ラドラ達が会議を行う部屋に到着し、ブラドナとロナードの2人から沙門から聞き出した全ての情報を聞かされた。
 俺たちの標的であるバッハ・カヤヤマは僧侶の命を受けた後、都市から北へ北上し、僧侶・人間VS獣人との最後の決戦を行なった大平原と決戦前夜にいた根城に手かがりが残ってないか探している事が判明した。
 獣人との決戦後、戦場から消え去った僅かな獣人達の行方を僧侶は大陸全土を探し回っているが今現在も手かがりすら掴めておらず、ここ数ヶ月前から大陸全土にいる沙門――バッハ以外の――にも命令を下して血眼で探している。そのせいで、沙門達は僧侶から任された都市を離れる期間が長くなり、僧侶が新たに各都市にいる人間から選出した者を沙門へと任命したことで、旧沙門と新沙門だけでも100人以上は超えてること。
 今回俺たちが捕まえたベートはどうやら旧沙門じゃなく、新沙門だったらしい。
 どの大陸にも殺さずに奴隷にした獣人が1万以上はいるようで、大陸によっては娯楽として殺し合いをさせたり、奴隷を大量に所有している都市では奴隷市場が行われていたりすること。
 そして一番肝心な事だが、今俺たちのいる大陸に僧侶がいる。僧侶がいる要塞城には殺戮仏【軍師】並みの精鋭が大軍で控え、他の各都市以上に完全なる守りで固められていること。
 圧倒的な人間側の優勢を思わせる情報以外に獣人側にとっての吉報はない。
 このアンダーグラウンド以外にレジスタンスはないとロナードに聞いていたが、それが冗談ではなく本当だったとは――まさかこれほどまでに戦力差が違っているとは俺自身思っていなかった。

 情報を聞き終えた後、遠山とブラドナの2人は自爆したベートの一件を話す。ラドラは終始「ガハハハハッ!」と笑っていたが、ほぼ内容を理解出来ていなかった。
 全ての話が終わり、俺たちは各自解散した。
 遠山はブラドナ達と今後についての話し合いをするために残り、千葉と戸倉の2人もまた遠山と一緒にいたいようで残っていた。
 天音は腕が鈍らないように守山と共にトレーニングに向かい、仁は昨夜運び込んだ食糧をソウテン達が食糧庫に運ぶと聞いて手伝いに行った。
 俺は夏奈華と2人で、アンダーグラウンド全体を見て回った。その時に子供の獣人達を見かけ、子供達は広場でボールを蹴って遊んでいた。側から見ると楽しそうに遊んでいて、隣にいた夏奈華も一緒に遊びたそうな眼差しを子供達に向けていた。ここで遊ぶのもいいよなと思い、子供達に声をかけて夏奈華と一緒に混ざって遊んだ。意外と元気な子供達と運動したことで、良い汗を流した。
 子供達と遊び終わる頃――全員広場に仰向けて横になってる――には天井に浮かんだ光の数が17になっており、もう夕方に近い時間だと気づく。
「やべ、昼飯食べ損ねた」
「わぁー、ほんとだー」
 俺と夏奈華と子供達が天井を見上げた直後、アンダーグラウンドが激しく揺れた。


 ♦︎


 発信が行われた赤い点マークの地点に地図情報を介しながら向かい、私を含めた全部隊がこの地に辿り着く。
 エミリ君達が私の側まで駆けつけ、地面に跪く。
「僧侶様、この位置でございます」
 私は地図情報を解除し、視界に広がる大地を見渡す。
 地平線の彼方まで何もない場所ですね。
「ここですか。見た所、建造物や誰かがいた痕跡はありませんね」
 ベート君の死体もない。
 緊急発信菩薩の誤作動は万に一つもないのを熟知している私は地面を見下ろす。
 下ですかね。
「僧侶様、わっしにお貸し下さった地獄耳地蔵を使ってよいでしょうか?」
 エミリ君の隣で同じく跪いているトロイ君が私へ提案してくる。
 地獄耳地蔵ですか。あれを使えば、私が思っている通りかの審議が判明するでしょうね。
「ええ、使って構いませんよ」
 トロイ君は私からのゴーサインを耳にし、後ろに控えさせていた殺戮仏【地獄耳地蔵】へ顔を振り向かせる。
「殺戮仏【地獄耳地蔵】へ命じる。この一帯に何かしらの音が聞こえるか確認を」
 地獄耳地蔵はトロイ君の命令を受諾する。
 さて、どうでしょうかね。
 私やエミリ君達がトロイ君の地獄耳地蔵へ視線を集中する。
 私の耳には何も聞こえなかったが、何かしらの音を拾った地獄耳地蔵が下を指差す。それを見たトロイ君が私に向かって言う。
「僧侶様、下を指しています」
 やはり、予想通りでしたか。
「下から音を拾ったのでしょうね」
 私は地面を再び見下ろす。
 エミリ君も私同様、地面を見下ろす。
「僧侶様、ベートはこの下で発信したのでしょうか?」
「ええ、そうでしょうね。下から音を拾い上げたのなら下に私達の目から逃れた獣人の隠れ家があるのでしょう」
 やっと浄化を完了し終えられそうですね。ここまで来るのにだいぶ時間を費やしました。今度こそ息の根を止めるまで、虫ケラ共は逃しませんよ。
「僧侶様、この大陸から招集した全ての沙門にお任せください」
 エミリ君達が一斉に立ち上がる。
「ええ、任せますよ。人間ではない種族はこの世界にはいりません。今度こそ1匹残らず殺しなさい。いいですね?」
「「「「「「ははっ!」」」」」」
 トロイ君はじめとした沙門全員が手を合わせ、合掌する。
「エミリ君、何かあった際はすぐに私へ報告するように」
「御意!」
 エミリ君も手を合わせて合掌する。
「では私は高みで見物させてもらいましょう」
 殺戮仏【巨人】の手のひらに腰掛け、そのまま上空へ昇る。一瞬で今いた場所から景色が変わり、地平線の彼方が更に遠くなる。私は巨人の手のひらから下を見下ろす。大地には地平線の彼方まで埋め尽くすほどの殺戮仏が数十万単位で待機している。
「ここまでしなくてもよかったんですがね。ベート君に任せた城塞都市には殺戮仏は一体もいませんでした。本当におかしいですね。軍師などの殺戮仏に守られていたベート君がどうして捕まったのか?どうやって殺戮仏は都市から消えたのか?ベート君が発信するまでに至った経緯が分からない以上、脅威がないとも言えません。ここはこの大陸にある全ての殺戮仏を投入してでも、未知の脅威に対処するのがベストでしょうね」
 地表を掘るのに長けた殺戮仏【土竜】が沙門の指示を受けて動き出す。
「さぁー世界を完全なる人間の世界へ導きなさい!人間だけが許された楽園を作る最後のピースを埋めましょう」
 直後、数百の土竜によって大きな地響きが起こった。
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