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episode.05
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亜門さんがどこにいるか分からないが、本気を出させてもらう。
「下級アンデット《サモン・スケルトンソルジャー》《サモン・スケルトンウォーリア》召喚」
俺は夏奈華をお姫様抱っこした状態で、スケルトンソルジャーとスケルトンウォーリアを15体ずつ召喚して呼び出した。
「《サモン・スケルトンソルジャー》お前たちは食堂内以外の屋敷内全てを巡回し、誰かを見つけたら俺にすぐ知らせろ」
指示を聞いたスケルトンソルジャー15体全てが食堂から一斉に出て行き、行動を開始し始める。
「《サモン・スケルトンウォーリア》お前たちはここにいる俺以外の仲間を守れ。仲間を襲おうとする奴は全力でなぎ払え。そしてお前たちの力を敵に知らしめろ」
スケルトンウォーリアもまた俺の指示を聞き、食堂にいる遠山たちの外側を円で囲うように陣を取り、どんな状況でもすぐに守れる距離を維持し続けて守りを固める。
「お兄ちゃん、すごいね」
夏奈華は俺が召喚したスケルトンウォーリアたちを見ても一切怖がらない。
こいつらが自分たちを守る存在だと頭で理解してるのだろう。
「これでもう安心だ」
「お兄ちゃん、ななかを守ってくれてありがとう」
「まだ俺は何もしてないよ。夏奈華ちゃんを襲おうとした亜門さんは必ず俺が見つけだす。そしてなんでこんな酷いことをしたのかを聞く。夏奈華ちゃんをまた襲うような真似をしたら容赦はしない。これは絶対だ」
夏奈華が泣きじゃくる姿を見て俺は思った。こんな小さな子をここまで追いつめるなんて人間の血が通った人ではない。もう温厚そうな見た目だけでは惑わされない。絶対にこの手で捕まえてやる。そんな強い感情が俺の中で渦巻いている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、そんな怒った顔しないで。ななかはね、お兄ちゃんが守ってくれるから大丈夫だよ。こおいうときは息を吸って吐いて、リラックス。リラックスだよ」
「すーはーすーはー……そうだね。深呼吸したらリラックスしたよ。夏奈華ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。お兄ちゃん」
夏奈華は俺の体をギュッと抱きしめ、体の震えを気づかせないように笑顔で笑ってみせた。
本当は怖いはずだ。あんな悲惨なものを見せられたら誰だって怖い。まだこんな年端もいかない子供なら尚更だ。
この笑顔を守る。絶対に守ってみせる。そう強く決心した。
♦︎
新道はどうやら本気で亜門さんを探し出すつもりのようだ。
さて私は不可解な点である絆創膏がどこにあったのか探しに行くべきだろう。あれさえ分かれば、亜門さんが同志である仲間を襲った理由に少なからず繋がるはずだ。
もし万が一、絆創膏がなかった場合は私の中で浮上したある仮説が正しくなってくる。……まさかと思うが……。
「新道、私は屋敷内を見回ってくる」
新道は夏奈華ちゃんをお姫様抱っこした状態で頷く。
「遠山気をつけて。スケルトンソルジャーを巡回に出しているから亜門さんは容易に襲っては来れないと思う。もし襲ってきたらすぐに近くにいるスケルトンソルジャーに合図を出すか、俺に聞こえるくらいの声で叫んでくれよ」
「分かった。だが心配せずとも、今回は新道の出番なく私が斬って終わるかもしれないな」
心配性だな。それも新道の良いところの1つでもあるか。
敵の実力が不明な以上、私とて油断はしないが今回の敵は亜門さんだ。相手が人間であれば、今まで手合わせした暗黒騎士やゾンビよりかは容易い。
新道を待たずして仲間の仇を討ち、終わらせてやる。
食堂の外に出た私はまず1階の全ての部屋を確認する。
探している絆創膏はなかった。
次に2階の全ての部屋を確認して行く。
亜門さんの部屋はここだったな。
亜門の部屋に一歩踏み出し、中に誰かいないか気配を探る。
いないか。
部屋は全員が寝ていた全ての寝室と同じで変わった点は見当たらない。
なにもないか。
部屋の隅々を見て回る。
……これは……血……だな。
微かな染みを1箇所見つけ、手で触れてみると固まりきった血痕が残っている。
……誰の血だ?
血痕が残っている周りを見るが、他に血痕らしきものはない。
新道の話では亜門さんの姿を確認したわけではなかった。未遂で助かった丸田は彩花ちゃんを襲う亜門さんを見たと言っていたが怪我していたとは一言も言ってない。亜門さんから運良く逃げきった夏奈華ちゃんはショッキングな出来事過ぎて、あまり亜門さんとどんな会話を終始やりとりしたかは聞けていない。だが彩花ちゃんが襲われている隙に逃げていることから情報はないに等しい。
彩花ちゃんと揉み合って負傷したとも考えられるが、そんな亜門さんが自分の部屋に戻ってくるとは思えない。誰もがここを真っ先に調べてくると予測出来れば、絶対にこの部屋には近付かない。そしてまだ亜門さんが彩花ちゃんを襲って1時間も経ってはいない。この血痕の固まり具合から判断するにこれは1時間以内に固まったものではない。だとするとこの血痕は……誰のものなんだ?
♦︎
遠山が食堂に戻ってきた。
顔を見るからに何かを掴んだ様子だ。
「みんな聞いてくれ。屋敷内の全ての部屋を確認し終えた。そして最初に言った絆創膏はどこにも確認できなかった。絆創膏がないことで私の中である仮説が浮上した。その仮説が正しければ、彩花ちゃんを襲った敵は亜門さんではない!」
なっ⁉︎
「「「「「――なっ⁉︎」」」」」
この場にいる全員が声を上げた。
「屋敷内にないはずの絆創膏。それを左手に貼っていた亜門さん。絆創膏がどこにもないのにどうして、それを亜門さんは入手出来たのか。それは考えれば考えるだけ答えは一向に見えてこなかったのも仕方ないことだったんだ。みんな驚いてるようだが冷静に考えてくれ。1つだけ入手出来る場所をこの場にいる全員が知っている。私もそれを分かっていたが、今回の一連には関係のないものだと頭の中で除外していた。その場所は厨房の中に山積みに置かれたクリスタルカードだ!」
遠山は厨房を指差し、ハッキリと断言した。
……ま、まさか。そおいうことなのか⁉︎
全員が息を飲んで黙り込み、遠山の話の続きを待つ。
「クリスタルカードの原理は知っての通り、所有者しか触れられない。もし触れようものなら電撃が走る。長く持ってれば持ってるだけ電撃の強さは増していくのを新道が過去に証明している。あの厨房の中には我々がこの屋敷に来た当初から山積みにクリスタルカードがあった。触れてみるも所有者がいたことで当初私と新道はその所有者がこの屋敷にいる敵だと確定付けていた。……だがしかし、敵はこの屋敷内を最初に探した際にはいなかった。決定的に存在を知ることが出来る天音君の生命探知ですら確認することは叶わなかった。それを踏まえて我々はこの屋敷内に敵の影はない。いないと判断し、いつ敵が襲って来てもいいように心構えはしていた。……していたはずだったんだ」
遠山は右手をギュッと握りしめ、何か歯切りの悪そうな表情に変わる。
「我々が昨夜寝てる間から目を覚ます明朝までにかけての時間に所有者はこの屋敷に戻って来ていたのだろう」
「「「「「――なっ!⁉︎なんだって!!⁉︎」」」」」
全員がざわつき始める。
「静粛に!……私は先ほど亜門さんのいた部屋を隅々まで見た際に微かだが血痕を見つけた。所有者である敵は完全に血痕を拭き取ったつもりだったのだろうが、亜門さんの最後の叫びとしての証はしっかりとそこにあった。敵は私の目を欺くことはできなかったんだ。……ですよね?丸田さん?」
なっ!⁉︎
「「「「「丸田さんが敵なのか?」」」」」
全員の視線が丸田へ向かう。
「――な、なにを馬鹿なことを⁉︎」
指を刺された丸田は椅子から立ち上がり、「馬鹿げている」と言い張る。
「残念ながら丸田さん……いや12人目の存在というべきか。お前は決定的なミスを犯している。それがこれだ!」
遠山はダイニングテーブルに置いてあった犠牲者たちのクリスタルカードを2枚取ると丸田へ向けた。
「全員が不思議に思わなかった。気づくこともなかった。不振にも思わなかった。考えが至らなかった。私ももちろんだが、なぜここには2枚のカードがあるんだろうか?夏奈華ちゃんの発言を思い出してほしい。あの場に顔と手を洗いに行った夏奈華ちゃんと彩花ちゃんは大浴場に既にいた亜門さんにどおいう経緯があったかは確認不明だが何かしらの会話後に襲われただ。その際に彩花ちゃんは亜門さんに捕まり、夏奈華ちゃんはどうにかこうにか逃げることに成功し新道と合流した。ここまでは全員知っての通りだが、考えてくれ。なぜ、ここには2枚あるんだ?殺されたのは彩花ちゃんだけなのにどうしてあの現場には2枚あった?不自然だとは思わないか?ここには漆黒スーツが描かれた防具カード2枚ある。つまり殺された人間が他にもいるということになる。じゃー誰か。亜門さんか?違う。丸田さんだ!」
なっ!!⁉︎
「「「「「……ま、まさかな……」」」」」
全員が疑いの眼差しを丸田へ向け始める。当の丸田は黙り込む。
「亜門さんが彩花ちゃんを襲ったのは夏奈華ちゃんの証言で確かだ。次にあの場にいたはずの亜門さんはどこに消えた?我々があの場に駆けつけるのに少なくとも2分もかかってない。新道に限って言えば、夏奈華ちゃんの叫び声を聞いて1分もかからずに現場に向かったはずだ。それなのに亜門さんの姿はあの場にはなかった。その代わりに丸田さんだけがあの場にいた。ここで確認してみるが、夏奈華ちゃんはあの時あの場にあのおじいさんはいたかい?」
遠山に話を振られて言っていいのか不安そうな顔で俺を見る夏奈華ちゃん。
「大丈夫。夏奈華ちゃんの覚えてることを遠山に教えてあげて」
「うん」
夏奈華ちゃんは頷くとあの時の記憶を思い出し始める。
「うーーん……いなかった。あとね、ななかね、見たの。あのお風呂場に赤いのがあったのを」
「赤いのは血と思っていいかい?」
「うん。水たまりみたいにたくさんあったよ」
遠山は夏奈華ちゃんの発言を聞き、眼鏡をかけ直す。
「みんな今のが確かであれば、あの場に夏奈華ちゃんたちが向かった際には既に血溜まりがあったと考えられる。そこから導き出せることは1つ。誰かが先に殺されていたということ。その誰かは丸田さんだと私は断言する。襲った亜門さんは今ではこの屋敷内のどこにもいない。天音君の生命探知ですら反応しないことから、もうこの屋敷には存在しない」
「……その証拠はあるっていうのか?」
黙り込んでいた丸田が遠山を逆に指差す。
「ある。血痕だ。先ほども述べたが昨夜寝てる間から明朝にかけてまでの時間に亜門さんは一番最初に殺されているのだからな」
「殺された人間がどうして、わしたちと一緒に飯を食べられるんじゃ?おかしいぞ⁈」
「た、確かに」
「そう言われれば」
「おかしい」
何人かが矛盾に気づいて、丸田の言葉に賛同する。
「ああ。その点に関しては私でもわかってはいないが、あれは亜門さんではない。亜門さんの姿をした敵だ。その証拠に亜門さんの左手に貼ってあった絆創膏はこの屋敷のどこにもない。じゃーどこにあるか?最初にも言ったが1箇所だけ確認出来ない場所があるじゃないか。我々が確認したくても触れられない厨房に置かれた山積みのクリスタルカードが!絆創膏がその中にあれば、所有者しか触れられない決定的なものと裏付けられ、今朝いた亜門さんが亜門さんではなかったという証明になる!」
「……本当にそこにある確証はないだろう???」
「み、見れないのなら」
「そうだ。見れなければ仮説に過ぎない」
「そうだな。あのクリスタルカードは我々では触れられないが新道であれば、話は別だ。新道頼んでもいいか?」
「俺の出番ってわけか。分かった。少し待っててくれ」
遠山がああいうのなら絶対にある。
俺は遠山の発言を全員に信じさせるために厨房に向かい、山積みになったクリスタルカードの前に立つ。
一緒に連れてきた夏奈華にまで危険が及ばないように少し離れさせる。
あんまりしたくないんだけど、遠山の答えが正しいと証明してみせる。
俺はクリスタルカードに触れ、電撃が両手に走っても御構い無しにどんどんクリスタルカードをめくって全て見ていく。時間が経つごとに電撃の威力が増していく。
電気マッサージだな。
電撃が全身に走り、体が痺れて動けなくなるが1秒後には何もなかったように体の痺れが治る。
不死身の体だからこそ出来る仕事だ。
俺は山積みの中からある1枚のクリスタルカードを取り出す。
「遠山!」
俺は遠山たちのいる食堂へそのカードを正確なコントロールで、ダイニングテーブルに投げ込むのに成功させる。
「新道助かった。ありがとう」
「どういたしまして」
「みんなこのカードを触らずに見てくれ」
全員がダイニングテーブルに置かれた1枚のカードを目にし、口に手を当てる。そこには俺たちの知らなかった種類の日常製品カードと記され、それには絆創膏の絵が描かれている。
「これで信じてもらえただろうか」
全員が遠山の言葉を聞き、深く頷いた。
そして駄目押しの一発として、俺は山積みになったクリスタルカードの一番下にあったカードを先ほどと同じ動作でダイニングテーブルへ投げ込んだ。
「この1枚で終わりだ」
「新道ナイスだ!」
遠山はもう1枚のカードを見て、自分の中で浮上していた仮説が真実に変わったという表情になる。
「もう1枚のこのカードは決定的な証明だ!」
全員が再び立ち上がり、1枚のカードを見て目を丸くさせる。そこには犠牲者たちのクリスタルカードと同じ漆黒スーツが描かれている。これで3枚の同じカードがこの場にあることを全員が認識する。
「……」
「そ、そ、そ、そんな……」
「……やばっ」
「びっくりだー!」
「信じられない」
「遠山さん凄い」
「みんな分かった通りだ。全員私の後ろに来てくれ」
全員が遠山の後ろに回り、それに追随するようにスケルトンウォーリアが敵から守る盾となる。
「丸田さん……いや12人目の存在、お前が私たちの仲間を襲った敵だな!」
12人目の存在へ遠山は指差し強く言い放った。
「……違う。わしゃーやってない!」
「まだ言わせるか!ここには漆黒スーツが描かれた3枚のカードがある。つまり我々の仲間が3人殺されたという証拠なんだ。この屋敷に来た当初の人数は11人。今この場にいるのは9人。12人目の存在を外せば、我々の人数と合致するのがお前にはわからないのか⁉︎」
「……」
「我々を甘く見過ぎだ!第1に亜門さんを殺し、我々を騙すように亜門さんの姿になり、第2第3と丸田さんと彩花ちゃんを亜門さんの姿で殺した。我々の追求を逃れるべく丸田さんの姿に変えたまでは良かっただろう。だが、亜門さんの血とあの場にあった2枚のカードが私の中にあった仮説を大きくさせて気づかせた。もうお前に逃げ場はないぞ!」
「……ほほほほほほっ、まさか次の標的を狙う前に正体がバレるとは……なかなかやりおる。遠山といったな。よくぞわしの存在を見破った。しかしのー見破ったところで、わしが食べたお前さんたちの仲間は戻っては来ない。残念じゃったな。ほほほほほっ、本当に美味かった。老いぼれはクソまずかったが、あのお嬢ちゃんの肉は新鮮で柔らかく実に申し分なく美味だった。あーあー残念じゃ、そこのもう1人のお嬢ちゃんを食べるまでは正体を見破られないとたかを括ってたが誤りだった。本当に遠山くん見事なり!」
12人目の存在は丸田の顔から口が裂けた怪物の顔になると遠山に真っ直ぐ向かって襲いかかる。
[対象:人喰い LV40 推定脅威度:I]
「みんな下がれ!」
遠山が腰にぶら下げた暗黒刀を鞘から抜くのと同時に後ろにいる全員に叫んだ。
「遠山!」
「今回は私に任せろ!こいつだけは私の手で斬る!」
厨房から飛び出そうとする俺に遠山はそう言い、敵である人喰いに刀を振るった。
「この一振りで#終幕__フィナーレ__だ!」
大きく裂けた口を開いたまま、遠山に飛びついた人喰いは体の肉を引き裂くことはなかった。
人喰いが飛びつくよりも遅く抜いたはずの遠山の刀の一振りは圧倒的に速かった。
人喰いの体は真っ二つに斬られ、地面に力なく倒れる。
「……わたしが負けるのは確定事項だった。……わたしよりもレベルの高い存在と当たれば、間違いなく破れる。……今までの来訪者たちは全員が馬鹿どもだったというのに……遠山くんや新道くん……お前たちは強くて賢い。……こんな早い段階で見破った遠山くんには驚かされた。……わたしを負かした褒美として教えてやろう」
上半身だけになった人喰いは地面に倒れた状態で語り始める。
「わたしの世界の黒神様は……お前たちのいる世界の神や他の異なる世界全ての神々に勝負をふっかけた。……お前たちがどこまで知っているかは……わたしは知る由もないが……今はまだほんの小さな出来事に過ぎない。……時期にありとあらゆる異なる世界がぶつかり始める。……そうなった時には力なき者は滅びの運命を辿るのみ……もしもお前たちが滅びの運命を避けたいのであれば……力をつけることだ。……そして神々の勝負に弄ばれろ!……わたしが消えれば……所有者を失ったカードはお前たちのものだ。……好きに使え。……次に繋がる扉がどこの世界に繋がっているのかはわたしとて知る由もないことだが……いつ何時であろうと油断しないことだ。……わたしを見破り倒したのだ……そう簡単に殺されるなよ?……もし敗れようものならあの世で笑ってやる……ハハハハハハハハハハハハッ」
人喰いは笑いながら消えていった。
[対象:人喰い 消滅]
[第3階層踏破→第4階層 ロック解除]
脳内の声を聞き、俺は今度こそこの屋敷に敵がいないことを知る。
遠山は暗黒刀を鞘に収める。
遠山の後ろに控えていた天音たちは敵が消えたのを確認し、遠山の元へ駆け寄る。
「遠山さん、あんた凄いよ」
遠山の肩を叩く葉山。
「やばい。本当に感動した」
遠山の左手を両手で掴む千葉。
「遠山さんって名探偵なんですね!うち、あの推理に震えた」
遠山の右手を両手で強く握る戸倉。
「遠山くん、よくぞやってくれた。ありがとー。君ならやれると信じていたよー」
遠山のすぐそばまで近寄って声をかける守山。
「遠山さんのお役に少し立てて本当によかった。僕も遠山さんみたいになれるよう頑張る」
少し照れた様子の天音。
「みんな、ありがとう。これも全ては仲間の助けがあったからこそ出来たことであり、私は気づいたことを考えぬいただけだ」
仲間たちの言葉を頷いて聞いていた遠山は謙遜した様子で言った。
「いやいや、あんたの仮説を聞かなければ……他にも犠牲者が出たかも……なんなら何も出来ない俺が真っ先に食べられるとこだった。本当にありがとう」
「そうだよ。遠山さんの活躍なくして敵の存在は見つけられなかったじゃん」
「うん。僕もそう思う」
「敵を倒す姿ほんとにかっこよすぎ。まじで惚れちゃう」
「くーっ、今回も活躍出来なかったー。次はおじさんも頑張るぞー」
謙遜している遠山の周りを囲んでる誰もが今回一番の大活躍を認めていた。
守山に関してだけ言うと次こそおじさんが!おじさんが!と遠山の周りを囲む千葉たちを見てやる気に満ち溢れているようだ。
本当にわかりやすいな、あの人。
「お兄ちゃん!」
厨房から遠山たちを見ている俺の隣にいた夏奈華ちゃんが両腕を上げて声をかけてくる。
お姫様抱っこかな。
俺は夏奈華ちゃんを抱き上げる。
「もう安心だ。夏奈華ちゃん」
「うん。お兄ちゃんも、とーやまのお兄ちゃんも凄くカッコよかった」
全てが終わったことを夏奈華ちゃん自身も分かっているようで、夏奈華ちゃんと仲良くなってから初めて見せる満面の笑みで笑う。
こんな笑顔も出来るのか。
俺は夏奈華ちゃんの表情を見て思ったのだった。
♦︎
第3階層での収穫は大量の食材カードと日常製品カード、人喰いの討伐報酬としてスキルカードと防具カードが1枚ずつと銀貨40枚程だ。
遠山に人喰いのスキルと防具を見せてもらったが完全に使えないカードだった。
【防具カード】
『人喰いの防具一式 スキル《人喰い》を持った者専用。相手を喰った際に着ていた服装をコピーする。 体:コピースーツ 防具練度:最大』
【スキルカード】
『人喰い 喰った者の姿になれる。姿を変えた場合、喰った者の生前の記憶や習性や知識を得られる。その為に自我を失うまたは自我融合する可能性あり レア度:D』
これを読んだ俺も遠山も敵であった人喰いが仲間の姿になぜなれたのか理由を知った。知った相手の姿に何度も変えられるなら簡単には気づけない。もし遠山があの段階で気づけていなかったら、少しゾッとする。
「食糧はこれで当分ある。準備が整い次第すぐにでも次の階層へ進みたいと思ってる。新道もそれでいいか?」
遠山の座っている椅子の前にはテーブルがある。机には食材カードの山が並べられている。
「いいけど、次の階層へ行く前にやっておきたいことはないのか?」
食糧は山のようにある。第1~2階層の時までは食糧がなかったことで食糧を確保しないといけないと思ってた。でも今では人喰いが持っていた食材カードによって食糧面はもう心配はない。
俺や遠山はもちろん、戦えるメンバーの天音や守山は肉体的にも精神的にも疲れはない。これもレベルが最初のレベル1から大きく上がってるからだろう。それとは逆で戦わずに逃げているばかりの千葉たちは肉体的にも精神的にも、かなりまいってるように見える。そんな状態で次に進むべきか悩ましいと思えるのは俺だけだろうか。千葉たちは遠山の言葉なら何でもYESでついて来るはず。今回の名推理を発揮した遠山をすぐ近くで見ていた千葉たちは完全に遠山についていけば、間違いないとさえ思ってるように見えた。
「あるかないかで言えば、ない。新道のことだから非戦闘員の同志たちを気にしているのだろう?」
「俺が言う前に分かってるなら時間をおいて行くべきじゃないのか?」
「いやダメだ」
「なんでだよ?」
「この場所で仲間であった同志を3人も失ってしまった。そんな場所に長居すればするほど、今日の出来事を何度も思い出すだろう。そうなれば、今以上に病んだ人まで出てくる可能性がある。今こそ同志たちは明るく振舞っているが少なからず無理をしている。同志たちが無理をしてでも頑張ろうとする気持ちを私は尊重したいんだ」
「……そこまで考えてたのか。そうだよな。それが一番いい選択なのかもな……」
遠山の言葉を聞いた俺は言い返せなかった。俺にすがるようにさっきまで抱きついて離れなかった夏奈華ちゃん。俺と遠山の2人で話し合いをする為に今は天音に見てもらってるが、夏奈華ちゃんもまた同学年の友達をここで失っている。そう考えると胸が痛む。
夏奈華ちゃんが大浴場に行くたびに思い出したくもない悲惨な記憶を呼び起こしたら、あんな小さな子の精神はグチャグチャに崩れてしまうような気さえしてきた。
あの笑顔を壊したくない。
「新道すまない。新道にも考えがあったのかもしれないがこの選択が最善だと私は確信している。……新道だから正直に話すがこれ以上また同志を失うことがあるなら……私自身も精神的にまいりそうなんだ」
眼鏡を外して片手で顔を覆う遠山。真正面から見た遠山はさっきまでの自信に満ち溢れた姿とは大きく違い、弱々しい姿を俺に見せた。
リーダーとして仲間である俺たちをここまで引っ張ってきた男とは思えないほどに別人に見えた。遠山は仲間の死を見て知ってはその仲間の思いを背負い、それを何度も繰り返して行くうちに精神がグチャグチャになりかけ始めてるのかもしれない。
「……遠山。遠山のそんな姿を見たくはなかった。でもそれ以上に打ち明けてくれたのは嬉しいよ。遠山には俺がついてる。前にも言ったけどさ、遠山が背負いきれないなら俺が半分背負う。だから何かあれば、どんどん頼ってくれよ。俺たち仲間だろ?」
「……新道ありがとう。そうだな。俺たちは仲間だ。新道がいてくれて、本当に助かっている。ありがとう。これからはどんとん新道に相談させてもらうとしよう」
遠山は眼鏡をかけ直すと弱々しい姿からすぐに元の姿に戻る。
本当に遠山はスイッチの切り替えが早いな。凄い。心の底からそう思う。
1時間後。
「全員準備はいいか?」
全員が頷く。
非戦闘員の葉山はこれまでの仲間たちが残していった銃火器の武器を肩に担ぎ、両手には大量のクリスタルカードなどが入った段ボールを持つ。段ボールの中には俺が第2階層で討伐報酬で手に入れた小さな箱も入っている。
いわゆる荷物持ち担当だ。
同じく非戦闘員の千葉や戸倉は荷物待ちではない。葉山が女性に持たせるくらいなら自分が持つと言って、全ての荷物を1人で持ったことで千葉たちは武器として持つ杖以外何も持ってない。
俺以外の全員が武器を持ち、第3階層へ行く前と同じく防御力がある防具一式を身につけている。
準備は万端だ。
俺は隣に立つ夏奈華を見る。
夏奈華は俺に向かってピースサインする。
この子の笑顔を守る為なら、どんな敵でも倒してみせる。
俺は夏奈華に手を差し伸べ、お互いの手を強く握りしめる。
この手は何があっても離さない。離すときは敵を倒しに行く時だけだ。
強い意志を持ち、目の前の扉を見る。
「次の階層も何が待ってるか分からない。油断せずに行こう!」
遠山が先頭に立ち、屋敷の中で鍵がかかって開かなかった開かずの間の扉を開ける。扉の中は鳥居と同じで歪み中がどうなってるのか暗闇で見えない。
遠山は躊躇することなく扉の中へ一歩踏み出す。
夏奈華の手を握った状態で、俺も遠山の次に続いて扉の中へ入って行った。
♦︎
第4階層に足を踏み入れた俺たちがまず見た光景は暗闇だった。遠くから光が一寸差し込み、今いる場所が洞窟の中だと判明する。
「全員気を抜かずに進もう」
遠山の言葉が洞窟の中で反響する。
俺たちは遠山を先頭に洞窟の外へと足を進めた。足場は大なり小なり石ころが転がっていたり、凹凸した部分もあって不安定だ。
歩きにくいな。
全員が洞窟の壁に手を当てて、一歩一歩前進していく。
洞窟の外から差し込む光が距離が近づくにつれて、ますます強まる。
眩しいな。
夏奈華の手を握っている手とは別の反対側の手で光を遮る。
「もうすぐ出るぞ」
「もうちょい」
「今度はどんなとこだろー」
「夏奈華ちゃん、大丈夫?」
「うん。だいじょうぶ」
「無理せず、ゆっくり大丈夫だからね」
「うん。お兄ちゃん、ありがとう」
歩幅が違う夏奈華の歩幅に合わせ、他の仲間が追い越して行ったとしても慌てずゆっくり自分たちのペースで先へ進む。
あと少しで外に出る。
外はどんなところだろうか?
俺よりも先に進んでる仲間は洞窟の外に出始める。
あと一歩で外だ!
「夏奈華ちゃん、外だよ」
「うん。風が気持ちいいね」
「ああ。風が吹いてて気持ちいい」
洞窟の外に出た俺たちが次に見た景色は辺り一帯に広がる森だった。
太陽の日差しが差し込み、風で生い茂った草や木々がたなびいてる。
ここは森の中なのか?
森の木々を見る。
どれも年季の入った大木だ。
自然の景色を全員が見回し、葉山が「大きな木だなー。いったい樹齢何年の木だろうか?」と小さく呟く。
「あそこに人がいるぞ!」
大声を出して人影を指差す守山。
いったいどこに?
指を指した方へ視線を向ける。
確かに人影がある。ん?あれ?向こうもこっちに気づいて見てるような?
「遠山さん!向こうにも!」
「あっ、あっちにもいる!」
千葉と戸倉が左右を見回して、あちらこちらに指を指し続ける。
やばいな。目で見た感じ、結構いるぞ。
「僕の生命探知で見た限り……ざっと50は超えている。遠山さんどうしたらいい?」
天音がいつでも発砲できるようにライフルを構える。
「待つんだ!」
遠山がライフルの銃口に手を当て、発砲を阻止する。
「全員冷静な目でしっかり見るんだ。あれは私たちと同じ人だ」
遠山の言葉を聞いた全員が一度冷静な目で遠くにいる人影をじーっと見る。
「……人だ」
「人じゃん」
「でも全員金髪じゃない?」
「……た、たしかに」
「まずは無闇に攻撃するのは避けるべきだ。もしあの人たちが我々と同じ人間だったら、我々は無害な人を殺したことになる。敵か味方かを判別するまでは攻撃はしない方がいいだろう」
遠山は真っ直ぐ向いたまま、そう言うと全員が目を合わせて頷く。
「そうこうしてるうちに向こうからぞろぞろ来てるぞ」
辺り一帯の森から俺たちのいる洞窟へと人影が人数を増やしながら押し寄せてくる姿を目にし、葉山は慌てた様子で足をガクガクさせる。
「とうとうこの時が来た。おじさんの戦場デビューの日が!」
腰にぶら下げた錆びついた剣をいつでも抜ける態勢で闘志を燃やし始める守山。
おいおい。さっき遠山の言葉をもう忘れたのか?と突っ込みたくなるがやめておく。いざ戦うとなったら守山にも頑張ってもらわないといけない。今ここでモチベーションを下げるよりそのまま維持してもらっておいた方が何かと都合がいいと思ったからだ。
人影がだんだん俺たちのいる洞窟へと近づくにつれて、人影の姿が詳しくわかってくる。
金髪に尖った耳の男女か。
俺たちと同じ人間とは少し違うような気がするな。
「……なぬっ⁉︎あ……あれは……⁉︎!」
守山は人影の姿を目で捉えると驚いた。自分が今見ているものが幻じゃないかとパチクリさせ、戦闘態勢を瞬時に解く。
「守山さん、どうした⁈」
さすがに心の中で突っ込みを入れずに守山へ声をかける。
「新道くん、あれはおじさんたちのいる世界にはいない種族……エルフだ!」
「金髪に尖った耳のあれが……エルフ?ファンタジーとかに出てくるあのエルフなのか?」
「間違いない。新道くんやみんなには言ってなかったけど、おじさんの目にはどんな種族も見通す力があるんだ」
「……はぁ?」
「名付けて、全ての種族を見通す目だ」
かっこよく左目に手を当てる守山。
「いや全然わかんない。守山さん、ここ冗談言える空気じゃないからね。今俺真面目に聞いたつもりだよ。真面目に聞いたら、そこは真面目に答えて!」
「……はい。ごめんなさい!あの人たちは間違いなくエルフです!」
「守山さん、あんた……まだ冗談言うの」
「いやいやいや、おじさん今本気で真面目に答えたよ。エルフだって言ったよ。新道くん、そこはおじさんの発言を信じてよ。なんか屋敷での時もそうだったけど、新道くん……おじさんのことあんまり信じてないでしょ?発言力の薄さを最近新道くんと話してると毎回痛感されられて、おじさんのマイハートはグサグサに貫かれていく一方だからね」
「わかった。守山さんの言葉を信じる。もうそこまで言われたら俺も信じないわけにはいかない。じゃー今この話を聞いてた全員、こっちに向かって来てる相手はエルフだ」
「新道くん、わかってくれて助かるよ」
「あれはエルフだったのか」
「ほんとだ。エルフじゃん」
「エルフって……あの弓矢とか使うの上手いやつだよね?」
「……エルフが本当に実在するなんて、信じられない」
「守山さん情報ありがとう。新道疑うのもいいが、なるべくもう少しは守山さんを信用して大事に扱ってくれ」
「遠山ごめん。さすがにエルフとは思わなくてさ。守山さんごめんよ」
「心の器が広いおじさんは新道くんの発言を快く許す。だから次は一発目で信じておくれ」
「わかった」
俺たちがこんなやりとりをしてる間に洞窟から180°全域をエルフ達に囲われてしまった。
近くに来られて分かったが全員が軽そうな鎧を身に付け、腰には短剣をぶら下げている。その他に弓と矢筒を背中に背負っている者まで結構な数いる。
相手の出方によってはすぐに戦闘だろうな。……ざっと数えた感じ、80くらいか。これだけなら下級アンデット召喚で十分に相手取れる数だ。
戦闘の心構えをしたところで、エルフ達の中から1人の老人が進んで前に出て来た。
お偉いさんか?それとも一番強い奴か?あの見た目からして、どっちかだよな。
[対象:アルバフリュー LV50 推定脅威度:H]
お!ナイスタイミング!
レベルは……50か。俺は平気だけど、遠山以外の全員はほぼ太刀打ち不可能な奴だ。まずいぞ。こいつが即攻撃してきたら、全員守れるよう飛び出せる準備と敵と分かったら速攻で倒さないといけないな。
「あなたがたを遠目で見た際に……もしやと思ってこの目で見に来ましたが……まさかエルフを守りし勇者様がたが再び洞窟の中から姿を現されるとは……よくぞ……よくぞ我らエルフ族が危険な状況下でお見えになられた」
老人のエルフ――アルバフリュー――は俺たちの元へ歩み寄りながら涙を流し、先頭に立っていた遠山へ握手を求める。
「すまないが我々はご老人の仰る勇者ではありません。何かの間違いでは?」
全く聞き覚えもない勇者と言われて困惑する遠山は握手を交わし、自分たちが勇者ではないことをアルバフリューに伝えた。
「何を言われますか。この洞窟は代々エルフ族がピンチに陥った時、勇者様がお姿を現される場なのです。わたしが幼少期の頃に一度エルフ族の種族存続に関わる危険な状況下で、あなたがたのように勇者様が姿を現されたのを昨日のことのように覚えています。……あの勇者様が帰られて数百年以上経ちますが、再び我らエルフ族の種族存続を左右する一大事にお姿を現してくださり、我らエルフ族一同心から感謝しております」
アルバフリューは地面に座り込む。それに続くように他の若いエルフから中年のエルフ達が地面に正座で座る。
「勇者様がた、どうか我らエルフ族を再び危機からお救いください」
地面に座った姿勢で俺たちを見たアルバフリューがそのまま頭を下ろして地面につける。
他のエルフ達もまたアルバフリューの姿を目にし、全員が全員頭を下げて地面に額をつけた。
土下座!⁉︎
どいうこと⁉︎!
状況が本当にわからない。
誰か俺に教えてくれ⁉︎
[ミッション名:エルフ族を守れ]
[ミッション内容:エルフが住む島国には4つの集落がある。3つの集落は既に敵側の人間によって全滅。残り1箇所を全滅させ、エルフの血を完全に途絶え滅ぼそうとする敵を倒せ]
[勝利条件:エルフ族を1人でも多く守りきれ]
[敗北条件:エルフ族の全滅。またはエルフ族長の孫娘の死]
[注意:敗北=死]
[敵対者:フリー・クロンゼル、マリ・アームドラ、ラージ・テンカムト 以下3名]と脳内に声が響く。
なっ⁉︎
俺の心を読んだのか?
[繰り返します]
[ミッション名:エルフ族を守れ]
[ミッション内容:エルフが住む島国には4つの集落がある。3つの集落は既に敵側の人間によって全滅。残り1箇所を全滅させ、エルフの血を完全に途絶え滅ぼそうとする敵を倒せ]
[勝利条件:エルフ族を1人でも多く守りきれ]
[敗北条件:エルフ族の全滅。またはエルフ族長の孫娘の死]
[注意:敗北=死]
[敵対者:フリー・クロンゼル、マリ・アームドラ、ラージ・テンカムト 以下3名]
まじかよ。
「……どうやら、我々がエルフを守りし勇者様というのはあながち的外れではないようだ」
遠山にも同じのが聞こえたようだな。
他の連中の顔を見てみると全員が困惑した表情をしている。
無理もない。俺だってわけがわからない。わけがわからなくても、もうやるしかないんだ。このミッションというやつを!
「新道、今回は今までとは大きく違うようだ」
頭を下げたアルバフリューや周りのエルフ達を見て、この状況が次の階層へ進む為のものだと誰よりも早く気付く。
「このままエルフを守らずに無視すれば、死か。今までよりもどうしないといけないか分かりやすくて逆にいいと俺は思うけど」
今までは脳内の声は討伐報酬などの情報を教えるだけで、他には何もなかった。どうすれば先に進めるのか教えてもくれなかった。
今回は今目の前にいるエルフ達を倒さないといけないというやつじゃなくて心底良かった。もしエルフ達を倒せと言われれば、もう俺たちはエルフ達を倒す以外に先へ進む選択肢はない以上、迷うことなく倒しただろう。そんな結果になってれば、俺たちはエルフを守りし勇者ではなくエルフを殺した勇者としてエルフ達の死に際に思われたかもな。
「まずは先にどおいった状況なのかを聞くとしよう」
「そうだな。聞かないことには話も進まない」
俺と遠山は目を合わせ、頷く。
「エルフ族の全員頭を上げて聞いてくれ!」
遠山が腹から声を出して叫ぶ。
その声を聞いたエルフ達が頭を上げ、遠山の方を一点に見つめる。
「我々がここに来たのはエルフ族の皆を守る為だ!この洞窟から現れたというエルフを守りし勇者が我々と同じ境遇の持ち主だったのかはわからない。だが安心してくれ。我々もまたエルフを守りし勇者と同じくエルフ族を守ってみせよう!」
遠山は暗黒刀を鞘から抜き、天高く掲げ叫んだ。
「「「「「勇者様がたが来られたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
その言葉を聞いたエルフ達全員が雄叫びを上げる。中には涙する者や近くにいる者と喜びを噛みしめるように抱き合う者までいる。
凄いな。てか遠山凄すぎだろ!
「……エルフたちを守れか」
「次の敵は3人。でもどんな奴かわからないから怖いよ」
「うちも怖い。でもさ、遠山さんについていけば間違いないよ」
「今まで活躍出来なかった分、魔法使いや魔法少女を愛してやまないおじさんの力が発揮されるってわけだー。やってやる。やってやるぞー!」
「エルフを守る。守らないと僕らが終わる。終わらせないために僕は敵を撃つ。負けない。絶対に生き抜いてみせる」
「お兄ちゃん……怖いよ。また怖い怪物さんが来るの?ななか怖い。お兄ちゃん、ななかを守ってね」
「ああ。夏奈華ちゃん、俺が絶対に守る。ここにいる全員を守れるぐらい頑張ってやるさ」
「私たちの力を合わせれば、必ず大丈夫だ」
それぞれがそれぞれの思いを口にする。
敵は3人。今までの暗黒騎士や魔法使いたちのレベルなら絶対に勝てる。油断さえしなければ、俺たちは負けない。元の居場所に戻るまでは絶対に勝ち続けてみせる!
♦︎
エルフ達の歓喜は今も外で鳴り響いている。
何千年と種族を絶やさずに血を繋いできたエルフ族。
エルフ族の種族存続がかかった一大事に洞窟から姿を現わすというエルフを守りし勇者。それが今の俺たちなのかと言われれば、そうだ。エルフを全滅させてはいけない以上、俺たちは全力で彼らを残り1人になったとしても守りぬかなければいけない。そんなことをつゆ知らずのエルフ達から見た俺たちは完全に勇者だ。俺たちから見たら勇者だろうが勇者じゃなかろうが関係ないとさえ思えるが、エルフを守るからにはエルフたちが呼ぶエルフを守りし勇者となんら変わりないのだ。
俺たちはアルバフリュー――エルフ族の族長――の家の中にいた。
全員分の椅子が出され、それに俺を含めた全員が腰掛けている。
目の前には族長と若い女のエルフ――カチューシャをつけた――の2人が同じく椅子に座って、その後ろに若い男のエルフが直立不動の姿勢で立っている。
[対象:ミナミ LV20 推定脅威度:K]
[対象:ナルタス LV35 推定脅威度:I]
[対象:タック LV37 推定脅威度:I]
族長が俺たちに語った内容はこうだ。
エルフの島国はどこの大陸にも属さない。360°海に囲まれた唯一の小さな島だ。どこかの国の商人や国のお偉いさんが来ようと交流を一切せずに何千年もの間貫いてきた。しかし2ヶ月前のある日、エルフ族の4人いるうちの1人の族長が大陸で勢力を拡大させ続けるバムバロス帝国との貿易を誰にも相談することなく無断で許可を出した。それを知った他の3人の族長たちは許可を出した族長を許さなかった。後日急遽行われた族長会議で無断で許可を出した族長の座と権限を剥奪し、島から永久追放した。半月後、その経緯を貿易にやってきた国の者に話したものの、追放された族長は既に相手の国と書面で契約を交わしていた。このまま貿易を中止した場合、契約違反となる趣旨を国の者は伝えた。3人の族長たちは先祖代々続く歴史を他国の介入によって踏みにじられるのを良しとせずに顔を縦に振らず、頑なに横に振った。それを受けて相手の国は怒り、勢力拡大の図にこの島も含めた。
契約違反の決裂から時間は流れ、何も音沙汰もなかった相手の国はこの島からエルフ族を一匹残らずに全滅させると宣言し、エルフ族と相手の国との戦争が始まった。相手の国の兵士たちは数は多くとも、団結して力を合わせるエルフ族には指一本触れられなかった。勝利したエルフ族の誰もが相手の国がこの島から引くと思った。けれど、相手の国は更に前回の倍の兵力をこの島に送り込み、エルフ族の仲間は1人また1人と倒れていった。仲間の死を引き換えに2度目の戦争も勝利を掴んだエルフ族は3度目はない。3度目はあるはずがない。そう強く思った。だがしかし、相手の国の王はエルフ族を全滅させるのを諦めなかった。エルフ族の全員が相手の国の船が再びこの島へ向かってくるのを見て呆れた。いい加減にしてくれ!誰もが心の奥底から強く思い、相手がその気ならこちらも徹底的にやってやろうじゃないか!と全員が1つの目的に団結した3度目の戦争に送られてきた相手の国の兵士は、たったの3人だった。
3度目の戦争が起きたのが半月前の出来事だ。たかが3人されど3人。実力は折り紙つきなのはエルフ族の全員が確信し、油断は1ミリもなかった。それなのにその3人の敵に3つの集落は瞬く間に壊滅させられ、残った戦えるエルフも無抵抗なエルフも小さな赤ん坊のエルフでさえも非人道的に殺された。他の集落の後方に位置していたこの集落だけが今現在も生き残っている。仲間を日々失いながらも全滅は阻止続け、もうダメかと思った矢先に俺たちが姿を現したそうなのだ。
「よくここまで持ち堪えてくれた。話を聞く限り、責任は追放された族長1人にある。こんなことに繋がらせた張本人は追放されて今も生きているかわかったもんではない。全ての責任を追放者に背負わせれない。こうなれば、我々がその3人を倒すしかない。そしてエルフここにあり!と相手の国へ見せつけてやりましょう!」
族長の話を聞いた遠山は怒っていた。
「そうだそうだ。遠山さん、やってやりましょうよ」
「うちらは何も出来ないけど、話聞いたらホントムカつくよね。その王様はなんなの⁉︎馬鹿なの!くっそイライラしてくる。もーーっ、こうなったら遠山さんの力をそいつらに見せてやらなくちゃね」
「そうだよ。そう。そいつなんなん?って感じじゃん。追放された奴もそうだけど、王様が一番ムカついた。ホントに諦め悪い男はホントいやだ。生理的に無理」
「……なかなかの言われよう。僕はあんまり苛立ちを覚えない方なのに今スコープで見れる距離にいるなら今すぐにでも頭を撃ち抜きたい衝動だよ。3人が強くても、僕らには新道と遠山の最強コンビがいる。僕らで相手の国がもう攻めたくないほど、3人をメッタメタにしてやろうよ」
「天音くんがメッタメタにするなら、おじさんはギッタギタにバッキバキに頬をこの剣で叩きましょうぞ!3人のお仕置きは決定だー!」
「……お兄ちゃん。ななかね、話はわからないけどね。お兄ちゃんにたたかって勝ってもらいたい。お兄ちゃん、ななかオウエンするね。お兄ちゃん、ガンバレー。お兄ちゃん、勝って!」
「夏奈華ちゃんの応援で力が湧いてきた。絶対にお兄ちゃんが勝ってくるからな。夏奈華ちゃんはここで俺たちの帰りを待っててくれな」
「うん。待ってる」
「それで敵の3人はどこにいるか、族長は知ってありますか?」
「あの者たちは……ミナミお前の力で探してくれぬか」
族長は隣に座る若い女のエルフ――ミナミ――に声をかけた。
「しょうがないなー」
ミナミは気怠そうな表情で言い、目を閉じる。
何をするんだ?
「いた。あの位置は南の集落。ばあちゃん、南の集落だよ」
ミナミは目を開け、隣にいる族長にどおいう原理かは不明だが居場所を伝えた。
凄いな。もしかして何かしらのスキルか?
「ミナミすまないね。助かるよ」
族長はミナミの頭を優しく撫でるように触る。
「もーおばあちゃんってば、勇者様の前なんだよ。少しは分け前て」
頬を膨らませつつ、嬉しそうな顔を見せるミナミ。
気怠そうな表情が嘘のように可愛い一面もあるんだな。
「ははっ、そう言われたらそうだそうだ。わたしも孫に注意されては族長失格だの」
「早く勇者様に教えてあげなよ」
「そうだそうだ。ごめんよ」
「もういいから早く」
「勇者様がた、敵は南の集落にいます。ここから歩いて行けば、半日で着くでしょう」
「そんな遠くにいるのか」
「ばあちゃん、歩きなら?でしょ?」
「あーあー。勇者様がた、すみませぬ。先ほどの言葉は誤りがあります。歩いて行けば、半日ですが……わたしの魔法を使えば、あっという間に着きます」
なっ⁉︎魔法⁉︎あっという間に⁈
「……それはどのような魔法ですか?」
遠山はもちろん、俺たち全員が息を飲む。
「瞬間移動です」
族長の一言を聞いた全員が目を丸くし、口を大きく開ける。
誰も叫ばなかっただけ、マシか。
勇者様と呼ばれてるのに瞬間移動と言われて叫んでたら、絶対にこいつら大丈夫か?と思われてたな。
「……瞬間移動とは言葉通りの魔法ということで間違いないですか?」
信じられない表情をしている遠山。
頑張れ。遠山頑張ってくれ。
自分の知らないことをまた言われても絶対に叫んで負けるな。頑張れー!
「そうです」
「……ちなみにそれには人数制限などあるんでしょうか?」
「いえ、そういったものはないですが……わたしの魔力量では1日に多くて3度までしか使えません」
「……なるほど。つまり行きだけの限定ということですか?」
「そうです。勇者様がたを向こうへ渡らせれば、こちらへ戻すことは不可能です。わたしがそこへ行けば、また話は違いましょうがなにぶんご老体の身では邪魔になってしまうやもしれません。それでもいいなら、わたしも一緒に行きましょう」
「っ!ばあちゃん、それだけは止して」
「……ミナミ」
「いえ、族長はこのまま残ってください。我々だけで行きます。お孫さんもこの様に心配されているのに我々と一緒に来てもらおうとは何があっても言えません。ですので、族長は我々が敵に勝利して戻ってくるのをここでお待ちください」
「そうですか。わかりました。どうか……どうか我らエルフ族の未来の為に力をお貸しください」
族長は頭を深く下げる。
「勇者様、よろしくお願いします」
「「勇者様、お願いいたします」」
ミナミと族長たちの後ろにいる男2人も深々と頭を下げた。
「わかりました!我々がエルフ族の未来を繋げてみせます!なぁ、新道!みんな!」
「おう!任せろ!」
「「「「「えいえいおーーーー!!!」」」」」
この場にいる全員が気持ちを1つに団結し、敵を倒すべく行動を開始した。
「下級アンデット《サモン・スケルトンソルジャー》《サモン・スケルトンウォーリア》召喚」
俺は夏奈華をお姫様抱っこした状態で、スケルトンソルジャーとスケルトンウォーリアを15体ずつ召喚して呼び出した。
「《サモン・スケルトンソルジャー》お前たちは食堂内以外の屋敷内全てを巡回し、誰かを見つけたら俺にすぐ知らせろ」
指示を聞いたスケルトンソルジャー15体全てが食堂から一斉に出て行き、行動を開始し始める。
「《サモン・スケルトンウォーリア》お前たちはここにいる俺以外の仲間を守れ。仲間を襲おうとする奴は全力でなぎ払え。そしてお前たちの力を敵に知らしめろ」
スケルトンウォーリアもまた俺の指示を聞き、食堂にいる遠山たちの外側を円で囲うように陣を取り、どんな状況でもすぐに守れる距離を維持し続けて守りを固める。
「お兄ちゃん、すごいね」
夏奈華は俺が召喚したスケルトンウォーリアたちを見ても一切怖がらない。
こいつらが自分たちを守る存在だと頭で理解してるのだろう。
「これでもう安心だ」
「お兄ちゃん、ななかを守ってくれてありがとう」
「まだ俺は何もしてないよ。夏奈華ちゃんを襲おうとした亜門さんは必ず俺が見つけだす。そしてなんでこんな酷いことをしたのかを聞く。夏奈華ちゃんをまた襲うような真似をしたら容赦はしない。これは絶対だ」
夏奈華が泣きじゃくる姿を見て俺は思った。こんな小さな子をここまで追いつめるなんて人間の血が通った人ではない。もう温厚そうな見た目だけでは惑わされない。絶対にこの手で捕まえてやる。そんな強い感情が俺の中で渦巻いている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、そんな怒った顔しないで。ななかはね、お兄ちゃんが守ってくれるから大丈夫だよ。こおいうときは息を吸って吐いて、リラックス。リラックスだよ」
「すーはーすーはー……そうだね。深呼吸したらリラックスしたよ。夏奈華ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。お兄ちゃん」
夏奈華は俺の体をギュッと抱きしめ、体の震えを気づかせないように笑顔で笑ってみせた。
本当は怖いはずだ。あんな悲惨なものを見せられたら誰だって怖い。まだこんな年端もいかない子供なら尚更だ。
この笑顔を守る。絶対に守ってみせる。そう強く決心した。
♦︎
新道はどうやら本気で亜門さんを探し出すつもりのようだ。
さて私は不可解な点である絆創膏がどこにあったのか探しに行くべきだろう。あれさえ分かれば、亜門さんが同志である仲間を襲った理由に少なからず繋がるはずだ。
もし万が一、絆創膏がなかった場合は私の中で浮上したある仮説が正しくなってくる。……まさかと思うが……。
「新道、私は屋敷内を見回ってくる」
新道は夏奈華ちゃんをお姫様抱っこした状態で頷く。
「遠山気をつけて。スケルトンソルジャーを巡回に出しているから亜門さんは容易に襲っては来れないと思う。もし襲ってきたらすぐに近くにいるスケルトンソルジャーに合図を出すか、俺に聞こえるくらいの声で叫んでくれよ」
「分かった。だが心配せずとも、今回は新道の出番なく私が斬って終わるかもしれないな」
心配性だな。それも新道の良いところの1つでもあるか。
敵の実力が不明な以上、私とて油断はしないが今回の敵は亜門さんだ。相手が人間であれば、今まで手合わせした暗黒騎士やゾンビよりかは容易い。
新道を待たずして仲間の仇を討ち、終わらせてやる。
食堂の外に出た私はまず1階の全ての部屋を確認する。
探している絆創膏はなかった。
次に2階の全ての部屋を確認して行く。
亜門さんの部屋はここだったな。
亜門の部屋に一歩踏み出し、中に誰かいないか気配を探る。
いないか。
部屋は全員が寝ていた全ての寝室と同じで変わった点は見当たらない。
なにもないか。
部屋の隅々を見て回る。
……これは……血……だな。
微かな染みを1箇所見つけ、手で触れてみると固まりきった血痕が残っている。
……誰の血だ?
血痕が残っている周りを見るが、他に血痕らしきものはない。
新道の話では亜門さんの姿を確認したわけではなかった。未遂で助かった丸田は彩花ちゃんを襲う亜門さんを見たと言っていたが怪我していたとは一言も言ってない。亜門さんから運良く逃げきった夏奈華ちゃんはショッキングな出来事過ぎて、あまり亜門さんとどんな会話を終始やりとりしたかは聞けていない。だが彩花ちゃんが襲われている隙に逃げていることから情報はないに等しい。
彩花ちゃんと揉み合って負傷したとも考えられるが、そんな亜門さんが自分の部屋に戻ってくるとは思えない。誰もがここを真っ先に調べてくると予測出来れば、絶対にこの部屋には近付かない。そしてまだ亜門さんが彩花ちゃんを襲って1時間も経ってはいない。この血痕の固まり具合から判断するにこれは1時間以内に固まったものではない。だとするとこの血痕は……誰のものなんだ?
♦︎
遠山が食堂に戻ってきた。
顔を見るからに何かを掴んだ様子だ。
「みんな聞いてくれ。屋敷内の全ての部屋を確認し終えた。そして最初に言った絆創膏はどこにも確認できなかった。絆創膏がないことで私の中である仮説が浮上した。その仮説が正しければ、彩花ちゃんを襲った敵は亜門さんではない!」
なっ⁉︎
「「「「「――なっ⁉︎」」」」」
この場にいる全員が声を上げた。
「屋敷内にないはずの絆創膏。それを左手に貼っていた亜門さん。絆創膏がどこにもないのにどうして、それを亜門さんは入手出来たのか。それは考えれば考えるだけ答えは一向に見えてこなかったのも仕方ないことだったんだ。みんな驚いてるようだが冷静に考えてくれ。1つだけ入手出来る場所をこの場にいる全員が知っている。私もそれを分かっていたが、今回の一連には関係のないものだと頭の中で除外していた。その場所は厨房の中に山積みに置かれたクリスタルカードだ!」
遠山は厨房を指差し、ハッキリと断言した。
……ま、まさか。そおいうことなのか⁉︎
全員が息を飲んで黙り込み、遠山の話の続きを待つ。
「クリスタルカードの原理は知っての通り、所有者しか触れられない。もし触れようものなら電撃が走る。長く持ってれば持ってるだけ電撃の強さは増していくのを新道が過去に証明している。あの厨房の中には我々がこの屋敷に来た当初から山積みにクリスタルカードがあった。触れてみるも所有者がいたことで当初私と新道はその所有者がこの屋敷にいる敵だと確定付けていた。……だがしかし、敵はこの屋敷内を最初に探した際にはいなかった。決定的に存在を知ることが出来る天音君の生命探知ですら確認することは叶わなかった。それを踏まえて我々はこの屋敷内に敵の影はない。いないと判断し、いつ敵が襲って来てもいいように心構えはしていた。……していたはずだったんだ」
遠山は右手をギュッと握りしめ、何か歯切りの悪そうな表情に変わる。
「我々が昨夜寝てる間から目を覚ます明朝までにかけての時間に所有者はこの屋敷に戻って来ていたのだろう」
「「「「「――なっ!⁉︎なんだって!!⁉︎」」」」」
全員がざわつき始める。
「静粛に!……私は先ほど亜門さんのいた部屋を隅々まで見た際に微かだが血痕を見つけた。所有者である敵は完全に血痕を拭き取ったつもりだったのだろうが、亜門さんの最後の叫びとしての証はしっかりとそこにあった。敵は私の目を欺くことはできなかったんだ。……ですよね?丸田さん?」
なっ!⁉︎
「「「「「丸田さんが敵なのか?」」」」」
全員の視線が丸田へ向かう。
「――な、なにを馬鹿なことを⁉︎」
指を刺された丸田は椅子から立ち上がり、「馬鹿げている」と言い張る。
「残念ながら丸田さん……いや12人目の存在というべきか。お前は決定的なミスを犯している。それがこれだ!」
遠山はダイニングテーブルに置いてあった犠牲者たちのクリスタルカードを2枚取ると丸田へ向けた。
「全員が不思議に思わなかった。気づくこともなかった。不振にも思わなかった。考えが至らなかった。私ももちろんだが、なぜここには2枚のカードがあるんだろうか?夏奈華ちゃんの発言を思い出してほしい。あの場に顔と手を洗いに行った夏奈華ちゃんと彩花ちゃんは大浴場に既にいた亜門さんにどおいう経緯があったかは確認不明だが何かしらの会話後に襲われただ。その際に彩花ちゃんは亜門さんに捕まり、夏奈華ちゃんはどうにかこうにか逃げることに成功し新道と合流した。ここまでは全員知っての通りだが、考えてくれ。なぜ、ここには2枚あるんだ?殺されたのは彩花ちゃんだけなのにどうしてあの現場には2枚あった?不自然だとは思わないか?ここには漆黒スーツが描かれた防具カード2枚ある。つまり殺された人間が他にもいるということになる。じゃー誰か。亜門さんか?違う。丸田さんだ!」
なっ!!⁉︎
「「「「「……ま、まさかな……」」」」」
全員が疑いの眼差しを丸田へ向け始める。当の丸田は黙り込む。
「亜門さんが彩花ちゃんを襲ったのは夏奈華ちゃんの証言で確かだ。次にあの場にいたはずの亜門さんはどこに消えた?我々があの場に駆けつけるのに少なくとも2分もかかってない。新道に限って言えば、夏奈華ちゃんの叫び声を聞いて1分もかからずに現場に向かったはずだ。それなのに亜門さんの姿はあの場にはなかった。その代わりに丸田さんだけがあの場にいた。ここで確認してみるが、夏奈華ちゃんはあの時あの場にあのおじいさんはいたかい?」
遠山に話を振られて言っていいのか不安そうな顔で俺を見る夏奈華ちゃん。
「大丈夫。夏奈華ちゃんの覚えてることを遠山に教えてあげて」
「うん」
夏奈華ちゃんは頷くとあの時の記憶を思い出し始める。
「うーーん……いなかった。あとね、ななかね、見たの。あのお風呂場に赤いのがあったのを」
「赤いのは血と思っていいかい?」
「うん。水たまりみたいにたくさんあったよ」
遠山は夏奈華ちゃんの発言を聞き、眼鏡をかけ直す。
「みんな今のが確かであれば、あの場に夏奈華ちゃんたちが向かった際には既に血溜まりがあったと考えられる。そこから導き出せることは1つ。誰かが先に殺されていたということ。その誰かは丸田さんだと私は断言する。襲った亜門さんは今ではこの屋敷内のどこにもいない。天音君の生命探知ですら反応しないことから、もうこの屋敷には存在しない」
「……その証拠はあるっていうのか?」
黙り込んでいた丸田が遠山を逆に指差す。
「ある。血痕だ。先ほども述べたが昨夜寝てる間から明朝にかけてまでの時間に亜門さんは一番最初に殺されているのだからな」
「殺された人間がどうして、わしたちと一緒に飯を食べられるんじゃ?おかしいぞ⁈」
「た、確かに」
「そう言われれば」
「おかしい」
何人かが矛盾に気づいて、丸田の言葉に賛同する。
「ああ。その点に関しては私でもわかってはいないが、あれは亜門さんではない。亜門さんの姿をした敵だ。その証拠に亜門さんの左手に貼ってあった絆創膏はこの屋敷のどこにもない。じゃーどこにあるか?最初にも言ったが1箇所だけ確認出来ない場所があるじゃないか。我々が確認したくても触れられない厨房に置かれた山積みのクリスタルカードが!絆創膏がその中にあれば、所有者しか触れられない決定的なものと裏付けられ、今朝いた亜門さんが亜門さんではなかったという証明になる!」
「……本当にそこにある確証はないだろう???」
「み、見れないのなら」
「そうだ。見れなければ仮説に過ぎない」
「そうだな。あのクリスタルカードは我々では触れられないが新道であれば、話は別だ。新道頼んでもいいか?」
「俺の出番ってわけか。分かった。少し待っててくれ」
遠山がああいうのなら絶対にある。
俺は遠山の発言を全員に信じさせるために厨房に向かい、山積みになったクリスタルカードの前に立つ。
一緒に連れてきた夏奈華にまで危険が及ばないように少し離れさせる。
あんまりしたくないんだけど、遠山の答えが正しいと証明してみせる。
俺はクリスタルカードに触れ、電撃が両手に走っても御構い無しにどんどんクリスタルカードをめくって全て見ていく。時間が経つごとに電撃の威力が増していく。
電気マッサージだな。
電撃が全身に走り、体が痺れて動けなくなるが1秒後には何もなかったように体の痺れが治る。
不死身の体だからこそ出来る仕事だ。
俺は山積みの中からある1枚のクリスタルカードを取り出す。
「遠山!」
俺は遠山たちのいる食堂へそのカードを正確なコントロールで、ダイニングテーブルに投げ込むのに成功させる。
「新道助かった。ありがとう」
「どういたしまして」
「みんなこのカードを触らずに見てくれ」
全員がダイニングテーブルに置かれた1枚のカードを目にし、口に手を当てる。そこには俺たちの知らなかった種類の日常製品カードと記され、それには絆創膏の絵が描かれている。
「これで信じてもらえただろうか」
全員が遠山の言葉を聞き、深く頷いた。
そして駄目押しの一発として、俺は山積みになったクリスタルカードの一番下にあったカードを先ほどと同じ動作でダイニングテーブルへ投げ込んだ。
「この1枚で終わりだ」
「新道ナイスだ!」
遠山はもう1枚のカードを見て、自分の中で浮上していた仮説が真実に変わったという表情になる。
「もう1枚のこのカードは決定的な証明だ!」
全員が再び立ち上がり、1枚のカードを見て目を丸くさせる。そこには犠牲者たちのクリスタルカードと同じ漆黒スーツが描かれている。これで3枚の同じカードがこの場にあることを全員が認識する。
「……」
「そ、そ、そ、そんな……」
「……やばっ」
「びっくりだー!」
「信じられない」
「遠山さん凄い」
「みんな分かった通りだ。全員私の後ろに来てくれ」
全員が遠山の後ろに回り、それに追随するようにスケルトンウォーリアが敵から守る盾となる。
「丸田さん……いや12人目の存在、お前が私たちの仲間を襲った敵だな!」
12人目の存在へ遠山は指差し強く言い放った。
「……違う。わしゃーやってない!」
「まだ言わせるか!ここには漆黒スーツが描かれた3枚のカードがある。つまり我々の仲間が3人殺されたという証拠なんだ。この屋敷に来た当初の人数は11人。今この場にいるのは9人。12人目の存在を外せば、我々の人数と合致するのがお前にはわからないのか⁉︎」
「……」
「我々を甘く見過ぎだ!第1に亜門さんを殺し、我々を騙すように亜門さんの姿になり、第2第3と丸田さんと彩花ちゃんを亜門さんの姿で殺した。我々の追求を逃れるべく丸田さんの姿に変えたまでは良かっただろう。だが、亜門さんの血とあの場にあった2枚のカードが私の中にあった仮説を大きくさせて気づかせた。もうお前に逃げ場はないぞ!」
「……ほほほほほほっ、まさか次の標的を狙う前に正体がバレるとは……なかなかやりおる。遠山といったな。よくぞわしの存在を見破った。しかしのー見破ったところで、わしが食べたお前さんたちの仲間は戻っては来ない。残念じゃったな。ほほほほほっ、本当に美味かった。老いぼれはクソまずかったが、あのお嬢ちゃんの肉は新鮮で柔らかく実に申し分なく美味だった。あーあー残念じゃ、そこのもう1人のお嬢ちゃんを食べるまでは正体を見破られないとたかを括ってたが誤りだった。本当に遠山くん見事なり!」
12人目の存在は丸田の顔から口が裂けた怪物の顔になると遠山に真っ直ぐ向かって襲いかかる。
[対象:人喰い LV40 推定脅威度:I]
「みんな下がれ!」
遠山が腰にぶら下げた暗黒刀を鞘から抜くのと同時に後ろにいる全員に叫んだ。
「遠山!」
「今回は私に任せろ!こいつだけは私の手で斬る!」
厨房から飛び出そうとする俺に遠山はそう言い、敵である人喰いに刀を振るった。
「この一振りで#終幕__フィナーレ__だ!」
大きく裂けた口を開いたまま、遠山に飛びついた人喰いは体の肉を引き裂くことはなかった。
人喰いが飛びつくよりも遅く抜いたはずの遠山の刀の一振りは圧倒的に速かった。
人喰いの体は真っ二つに斬られ、地面に力なく倒れる。
「……わたしが負けるのは確定事項だった。……わたしよりもレベルの高い存在と当たれば、間違いなく破れる。……今までの来訪者たちは全員が馬鹿どもだったというのに……遠山くんや新道くん……お前たちは強くて賢い。……こんな早い段階で見破った遠山くんには驚かされた。……わたしを負かした褒美として教えてやろう」
上半身だけになった人喰いは地面に倒れた状態で語り始める。
「わたしの世界の黒神様は……お前たちのいる世界の神や他の異なる世界全ての神々に勝負をふっかけた。……お前たちがどこまで知っているかは……わたしは知る由もないが……今はまだほんの小さな出来事に過ぎない。……時期にありとあらゆる異なる世界がぶつかり始める。……そうなった時には力なき者は滅びの運命を辿るのみ……もしもお前たちが滅びの運命を避けたいのであれば……力をつけることだ。……そして神々の勝負に弄ばれろ!……わたしが消えれば……所有者を失ったカードはお前たちのものだ。……好きに使え。……次に繋がる扉がどこの世界に繋がっているのかはわたしとて知る由もないことだが……いつ何時であろうと油断しないことだ。……わたしを見破り倒したのだ……そう簡単に殺されるなよ?……もし敗れようものならあの世で笑ってやる……ハハハハハハハハハハハハッ」
人喰いは笑いながら消えていった。
[対象:人喰い 消滅]
[第3階層踏破→第4階層 ロック解除]
脳内の声を聞き、俺は今度こそこの屋敷に敵がいないことを知る。
遠山は暗黒刀を鞘に収める。
遠山の後ろに控えていた天音たちは敵が消えたのを確認し、遠山の元へ駆け寄る。
「遠山さん、あんた凄いよ」
遠山の肩を叩く葉山。
「やばい。本当に感動した」
遠山の左手を両手で掴む千葉。
「遠山さんって名探偵なんですね!うち、あの推理に震えた」
遠山の右手を両手で強く握る戸倉。
「遠山くん、よくぞやってくれた。ありがとー。君ならやれると信じていたよー」
遠山のすぐそばまで近寄って声をかける守山。
「遠山さんのお役に少し立てて本当によかった。僕も遠山さんみたいになれるよう頑張る」
少し照れた様子の天音。
「みんな、ありがとう。これも全ては仲間の助けがあったからこそ出来たことであり、私は気づいたことを考えぬいただけだ」
仲間たちの言葉を頷いて聞いていた遠山は謙遜した様子で言った。
「いやいや、あんたの仮説を聞かなければ……他にも犠牲者が出たかも……なんなら何も出来ない俺が真っ先に食べられるとこだった。本当にありがとう」
「そうだよ。遠山さんの活躍なくして敵の存在は見つけられなかったじゃん」
「うん。僕もそう思う」
「敵を倒す姿ほんとにかっこよすぎ。まじで惚れちゃう」
「くーっ、今回も活躍出来なかったー。次はおじさんも頑張るぞー」
謙遜している遠山の周りを囲んでる誰もが今回一番の大活躍を認めていた。
守山に関してだけ言うと次こそおじさんが!おじさんが!と遠山の周りを囲む千葉たちを見てやる気に満ち溢れているようだ。
本当にわかりやすいな、あの人。
「お兄ちゃん!」
厨房から遠山たちを見ている俺の隣にいた夏奈華ちゃんが両腕を上げて声をかけてくる。
お姫様抱っこかな。
俺は夏奈華ちゃんを抱き上げる。
「もう安心だ。夏奈華ちゃん」
「うん。お兄ちゃんも、とーやまのお兄ちゃんも凄くカッコよかった」
全てが終わったことを夏奈華ちゃん自身も分かっているようで、夏奈華ちゃんと仲良くなってから初めて見せる満面の笑みで笑う。
こんな笑顔も出来るのか。
俺は夏奈華ちゃんの表情を見て思ったのだった。
♦︎
第3階層での収穫は大量の食材カードと日常製品カード、人喰いの討伐報酬としてスキルカードと防具カードが1枚ずつと銀貨40枚程だ。
遠山に人喰いのスキルと防具を見せてもらったが完全に使えないカードだった。
【防具カード】
『人喰いの防具一式 スキル《人喰い》を持った者専用。相手を喰った際に着ていた服装をコピーする。 体:コピースーツ 防具練度:最大』
【スキルカード】
『人喰い 喰った者の姿になれる。姿を変えた場合、喰った者の生前の記憶や習性や知識を得られる。その為に自我を失うまたは自我融合する可能性あり レア度:D』
これを読んだ俺も遠山も敵であった人喰いが仲間の姿になぜなれたのか理由を知った。知った相手の姿に何度も変えられるなら簡単には気づけない。もし遠山があの段階で気づけていなかったら、少しゾッとする。
「食糧はこれで当分ある。準備が整い次第すぐにでも次の階層へ進みたいと思ってる。新道もそれでいいか?」
遠山の座っている椅子の前にはテーブルがある。机には食材カードの山が並べられている。
「いいけど、次の階層へ行く前にやっておきたいことはないのか?」
食糧は山のようにある。第1~2階層の時までは食糧がなかったことで食糧を確保しないといけないと思ってた。でも今では人喰いが持っていた食材カードによって食糧面はもう心配はない。
俺や遠山はもちろん、戦えるメンバーの天音や守山は肉体的にも精神的にも疲れはない。これもレベルが最初のレベル1から大きく上がってるからだろう。それとは逆で戦わずに逃げているばかりの千葉たちは肉体的にも精神的にも、かなりまいってるように見える。そんな状態で次に進むべきか悩ましいと思えるのは俺だけだろうか。千葉たちは遠山の言葉なら何でもYESでついて来るはず。今回の名推理を発揮した遠山をすぐ近くで見ていた千葉たちは完全に遠山についていけば、間違いないとさえ思ってるように見えた。
「あるかないかで言えば、ない。新道のことだから非戦闘員の同志たちを気にしているのだろう?」
「俺が言う前に分かってるなら時間をおいて行くべきじゃないのか?」
「いやダメだ」
「なんでだよ?」
「この場所で仲間であった同志を3人も失ってしまった。そんな場所に長居すればするほど、今日の出来事を何度も思い出すだろう。そうなれば、今以上に病んだ人まで出てくる可能性がある。今こそ同志たちは明るく振舞っているが少なからず無理をしている。同志たちが無理をしてでも頑張ろうとする気持ちを私は尊重したいんだ」
「……そこまで考えてたのか。そうだよな。それが一番いい選択なのかもな……」
遠山の言葉を聞いた俺は言い返せなかった。俺にすがるようにさっきまで抱きついて離れなかった夏奈華ちゃん。俺と遠山の2人で話し合いをする為に今は天音に見てもらってるが、夏奈華ちゃんもまた同学年の友達をここで失っている。そう考えると胸が痛む。
夏奈華ちゃんが大浴場に行くたびに思い出したくもない悲惨な記憶を呼び起こしたら、あんな小さな子の精神はグチャグチャに崩れてしまうような気さえしてきた。
あの笑顔を壊したくない。
「新道すまない。新道にも考えがあったのかもしれないがこの選択が最善だと私は確信している。……新道だから正直に話すがこれ以上また同志を失うことがあるなら……私自身も精神的にまいりそうなんだ」
眼鏡を外して片手で顔を覆う遠山。真正面から見た遠山はさっきまでの自信に満ち溢れた姿とは大きく違い、弱々しい姿を俺に見せた。
リーダーとして仲間である俺たちをここまで引っ張ってきた男とは思えないほどに別人に見えた。遠山は仲間の死を見て知ってはその仲間の思いを背負い、それを何度も繰り返して行くうちに精神がグチャグチャになりかけ始めてるのかもしれない。
「……遠山。遠山のそんな姿を見たくはなかった。でもそれ以上に打ち明けてくれたのは嬉しいよ。遠山には俺がついてる。前にも言ったけどさ、遠山が背負いきれないなら俺が半分背負う。だから何かあれば、どんどん頼ってくれよ。俺たち仲間だろ?」
「……新道ありがとう。そうだな。俺たちは仲間だ。新道がいてくれて、本当に助かっている。ありがとう。これからはどんとん新道に相談させてもらうとしよう」
遠山は眼鏡をかけ直すと弱々しい姿からすぐに元の姿に戻る。
本当に遠山はスイッチの切り替えが早いな。凄い。心の底からそう思う。
1時間後。
「全員準備はいいか?」
全員が頷く。
非戦闘員の葉山はこれまでの仲間たちが残していった銃火器の武器を肩に担ぎ、両手には大量のクリスタルカードなどが入った段ボールを持つ。段ボールの中には俺が第2階層で討伐報酬で手に入れた小さな箱も入っている。
いわゆる荷物持ち担当だ。
同じく非戦闘員の千葉や戸倉は荷物待ちではない。葉山が女性に持たせるくらいなら自分が持つと言って、全ての荷物を1人で持ったことで千葉たちは武器として持つ杖以外何も持ってない。
俺以外の全員が武器を持ち、第3階層へ行く前と同じく防御力がある防具一式を身につけている。
準備は万端だ。
俺は隣に立つ夏奈華を見る。
夏奈華は俺に向かってピースサインする。
この子の笑顔を守る為なら、どんな敵でも倒してみせる。
俺は夏奈華に手を差し伸べ、お互いの手を強く握りしめる。
この手は何があっても離さない。離すときは敵を倒しに行く時だけだ。
強い意志を持ち、目の前の扉を見る。
「次の階層も何が待ってるか分からない。油断せずに行こう!」
遠山が先頭に立ち、屋敷の中で鍵がかかって開かなかった開かずの間の扉を開ける。扉の中は鳥居と同じで歪み中がどうなってるのか暗闇で見えない。
遠山は躊躇することなく扉の中へ一歩踏み出す。
夏奈華の手を握った状態で、俺も遠山の次に続いて扉の中へ入って行った。
♦︎
第4階層に足を踏み入れた俺たちがまず見た光景は暗闇だった。遠くから光が一寸差し込み、今いる場所が洞窟の中だと判明する。
「全員気を抜かずに進もう」
遠山の言葉が洞窟の中で反響する。
俺たちは遠山を先頭に洞窟の外へと足を進めた。足場は大なり小なり石ころが転がっていたり、凹凸した部分もあって不安定だ。
歩きにくいな。
全員が洞窟の壁に手を当てて、一歩一歩前進していく。
洞窟の外から差し込む光が距離が近づくにつれて、ますます強まる。
眩しいな。
夏奈華の手を握っている手とは別の反対側の手で光を遮る。
「もうすぐ出るぞ」
「もうちょい」
「今度はどんなとこだろー」
「夏奈華ちゃん、大丈夫?」
「うん。だいじょうぶ」
「無理せず、ゆっくり大丈夫だからね」
「うん。お兄ちゃん、ありがとう」
歩幅が違う夏奈華の歩幅に合わせ、他の仲間が追い越して行ったとしても慌てずゆっくり自分たちのペースで先へ進む。
あと少しで外に出る。
外はどんなところだろうか?
俺よりも先に進んでる仲間は洞窟の外に出始める。
あと一歩で外だ!
「夏奈華ちゃん、外だよ」
「うん。風が気持ちいいね」
「ああ。風が吹いてて気持ちいい」
洞窟の外に出た俺たちが次に見た景色は辺り一帯に広がる森だった。
太陽の日差しが差し込み、風で生い茂った草や木々がたなびいてる。
ここは森の中なのか?
森の木々を見る。
どれも年季の入った大木だ。
自然の景色を全員が見回し、葉山が「大きな木だなー。いったい樹齢何年の木だろうか?」と小さく呟く。
「あそこに人がいるぞ!」
大声を出して人影を指差す守山。
いったいどこに?
指を指した方へ視線を向ける。
確かに人影がある。ん?あれ?向こうもこっちに気づいて見てるような?
「遠山さん!向こうにも!」
「あっ、あっちにもいる!」
千葉と戸倉が左右を見回して、あちらこちらに指を指し続ける。
やばいな。目で見た感じ、結構いるぞ。
「僕の生命探知で見た限り……ざっと50は超えている。遠山さんどうしたらいい?」
天音がいつでも発砲できるようにライフルを構える。
「待つんだ!」
遠山がライフルの銃口に手を当て、発砲を阻止する。
「全員冷静な目でしっかり見るんだ。あれは私たちと同じ人だ」
遠山の言葉を聞いた全員が一度冷静な目で遠くにいる人影をじーっと見る。
「……人だ」
「人じゃん」
「でも全員金髪じゃない?」
「……た、たしかに」
「まずは無闇に攻撃するのは避けるべきだ。もしあの人たちが我々と同じ人間だったら、我々は無害な人を殺したことになる。敵か味方かを判別するまでは攻撃はしない方がいいだろう」
遠山は真っ直ぐ向いたまま、そう言うと全員が目を合わせて頷く。
「そうこうしてるうちに向こうからぞろぞろ来てるぞ」
辺り一帯の森から俺たちのいる洞窟へと人影が人数を増やしながら押し寄せてくる姿を目にし、葉山は慌てた様子で足をガクガクさせる。
「とうとうこの時が来た。おじさんの戦場デビューの日が!」
腰にぶら下げた錆びついた剣をいつでも抜ける態勢で闘志を燃やし始める守山。
おいおい。さっき遠山の言葉をもう忘れたのか?と突っ込みたくなるがやめておく。いざ戦うとなったら守山にも頑張ってもらわないといけない。今ここでモチベーションを下げるよりそのまま維持してもらっておいた方が何かと都合がいいと思ったからだ。
人影がだんだん俺たちのいる洞窟へと近づくにつれて、人影の姿が詳しくわかってくる。
金髪に尖った耳の男女か。
俺たちと同じ人間とは少し違うような気がするな。
「……なぬっ⁉︎あ……あれは……⁉︎!」
守山は人影の姿を目で捉えると驚いた。自分が今見ているものが幻じゃないかとパチクリさせ、戦闘態勢を瞬時に解く。
「守山さん、どうした⁈」
さすがに心の中で突っ込みを入れずに守山へ声をかける。
「新道くん、あれはおじさんたちのいる世界にはいない種族……エルフだ!」
「金髪に尖った耳のあれが……エルフ?ファンタジーとかに出てくるあのエルフなのか?」
「間違いない。新道くんやみんなには言ってなかったけど、おじさんの目にはどんな種族も見通す力があるんだ」
「……はぁ?」
「名付けて、全ての種族を見通す目だ」
かっこよく左目に手を当てる守山。
「いや全然わかんない。守山さん、ここ冗談言える空気じゃないからね。今俺真面目に聞いたつもりだよ。真面目に聞いたら、そこは真面目に答えて!」
「……はい。ごめんなさい!あの人たちは間違いなくエルフです!」
「守山さん、あんた……まだ冗談言うの」
「いやいやいや、おじさん今本気で真面目に答えたよ。エルフだって言ったよ。新道くん、そこはおじさんの発言を信じてよ。なんか屋敷での時もそうだったけど、新道くん……おじさんのことあんまり信じてないでしょ?発言力の薄さを最近新道くんと話してると毎回痛感されられて、おじさんのマイハートはグサグサに貫かれていく一方だからね」
「わかった。守山さんの言葉を信じる。もうそこまで言われたら俺も信じないわけにはいかない。じゃー今この話を聞いてた全員、こっちに向かって来てる相手はエルフだ」
「新道くん、わかってくれて助かるよ」
「あれはエルフだったのか」
「ほんとだ。エルフじゃん」
「エルフって……あの弓矢とか使うの上手いやつだよね?」
「……エルフが本当に実在するなんて、信じられない」
「守山さん情報ありがとう。新道疑うのもいいが、なるべくもう少しは守山さんを信用して大事に扱ってくれ」
「遠山ごめん。さすがにエルフとは思わなくてさ。守山さんごめんよ」
「心の器が広いおじさんは新道くんの発言を快く許す。だから次は一発目で信じておくれ」
「わかった」
俺たちがこんなやりとりをしてる間に洞窟から180°全域をエルフ達に囲われてしまった。
近くに来られて分かったが全員が軽そうな鎧を身に付け、腰には短剣をぶら下げている。その他に弓と矢筒を背中に背負っている者まで結構な数いる。
相手の出方によってはすぐに戦闘だろうな。……ざっと数えた感じ、80くらいか。これだけなら下級アンデット召喚で十分に相手取れる数だ。
戦闘の心構えをしたところで、エルフ達の中から1人の老人が進んで前に出て来た。
お偉いさんか?それとも一番強い奴か?あの見た目からして、どっちかだよな。
[対象:アルバフリュー LV50 推定脅威度:H]
お!ナイスタイミング!
レベルは……50か。俺は平気だけど、遠山以外の全員はほぼ太刀打ち不可能な奴だ。まずいぞ。こいつが即攻撃してきたら、全員守れるよう飛び出せる準備と敵と分かったら速攻で倒さないといけないな。
「あなたがたを遠目で見た際に……もしやと思ってこの目で見に来ましたが……まさかエルフを守りし勇者様がたが再び洞窟の中から姿を現されるとは……よくぞ……よくぞ我らエルフ族が危険な状況下でお見えになられた」
老人のエルフ――アルバフリュー――は俺たちの元へ歩み寄りながら涙を流し、先頭に立っていた遠山へ握手を求める。
「すまないが我々はご老人の仰る勇者ではありません。何かの間違いでは?」
全く聞き覚えもない勇者と言われて困惑する遠山は握手を交わし、自分たちが勇者ではないことをアルバフリューに伝えた。
「何を言われますか。この洞窟は代々エルフ族がピンチに陥った時、勇者様がお姿を現される場なのです。わたしが幼少期の頃に一度エルフ族の種族存続に関わる危険な状況下で、あなたがたのように勇者様が姿を現されたのを昨日のことのように覚えています。……あの勇者様が帰られて数百年以上経ちますが、再び我らエルフ族の種族存続を左右する一大事にお姿を現してくださり、我らエルフ族一同心から感謝しております」
アルバフリューは地面に座り込む。それに続くように他の若いエルフから中年のエルフ達が地面に正座で座る。
「勇者様がた、どうか我らエルフ族を再び危機からお救いください」
地面に座った姿勢で俺たちを見たアルバフリューがそのまま頭を下ろして地面につける。
他のエルフ達もまたアルバフリューの姿を目にし、全員が全員頭を下げて地面に額をつけた。
土下座!⁉︎
どいうこと⁉︎!
状況が本当にわからない。
誰か俺に教えてくれ⁉︎
[ミッション名:エルフ族を守れ]
[ミッション内容:エルフが住む島国には4つの集落がある。3つの集落は既に敵側の人間によって全滅。残り1箇所を全滅させ、エルフの血を完全に途絶え滅ぼそうとする敵を倒せ]
[勝利条件:エルフ族を1人でも多く守りきれ]
[敗北条件:エルフ族の全滅。またはエルフ族長の孫娘の死]
[注意:敗北=死]
[敵対者:フリー・クロンゼル、マリ・アームドラ、ラージ・テンカムト 以下3名]と脳内に声が響く。
なっ⁉︎
俺の心を読んだのか?
[繰り返します]
[ミッション名:エルフ族を守れ]
[ミッション内容:エルフが住む島国には4つの集落がある。3つの集落は既に敵側の人間によって全滅。残り1箇所を全滅させ、エルフの血を完全に途絶え滅ぼそうとする敵を倒せ]
[勝利条件:エルフ族を1人でも多く守りきれ]
[敗北条件:エルフ族の全滅。またはエルフ族長の孫娘の死]
[注意:敗北=死]
[敵対者:フリー・クロンゼル、マリ・アームドラ、ラージ・テンカムト 以下3名]
まじかよ。
「……どうやら、我々がエルフを守りし勇者様というのはあながち的外れではないようだ」
遠山にも同じのが聞こえたようだな。
他の連中の顔を見てみると全員が困惑した表情をしている。
無理もない。俺だってわけがわからない。わけがわからなくても、もうやるしかないんだ。このミッションというやつを!
「新道、今回は今までとは大きく違うようだ」
頭を下げたアルバフリューや周りのエルフ達を見て、この状況が次の階層へ進む為のものだと誰よりも早く気付く。
「このままエルフを守らずに無視すれば、死か。今までよりもどうしないといけないか分かりやすくて逆にいいと俺は思うけど」
今までは脳内の声は討伐報酬などの情報を教えるだけで、他には何もなかった。どうすれば先に進めるのか教えてもくれなかった。
今回は今目の前にいるエルフ達を倒さないといけないというやつじゃなくて心底良かった。もしエルフ達を倒せと言われれば、もう俺たちはエルフ達を倒す以外に先へ進む選択肢はない以上、迷うことなく倒しただろう。そんな結果になってれば、俺たちはエルフを守りし勇者ではなくエルフを殺した勇者としてエルフ達の死に際に思われたかもな。
「まずは先にどおいった状況なのかを聞くとしよう」
「そうだな。聞かないことには話も進まない」
俺と遠山は目を合わせ、頷く。
「エルフ族の全員頭を上げて聞いてくれ!」
遠山が腹から声を出して叫ぶ。
その声を聞いたエルフ達が頭を上げ、遠山の方を一点に見つめる。
「我々がここに来たのはエルフ族の皆を守る為だ!この洞窟から現れたというエルフを守りし勇者が我々と同じ境遇の持ち主だったのかはわからない。だが安心してくれ。我々もまたエルフを守りし勇者と同じくエルフ族を守ってみせよう!」
遠山は暗黒刀を鞘から抜き、天高く掲げ叫んだ。
「「「「「勇者様がたが来られたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
その言葉を聞いたエルフ達全員が雄叫びを上げる。中には涙する者や近くにいる者と喜びを噛みしめるように抱き合う者までいる。
凄いな。てか遠山凄すぎだろ!
「……エルフたちを守れか」
「次の敵は3人。でもどんな奴かわからないから怖いよ」
「うちも怖い。でもさ、遠山さんについていけば間違いないよ」
「今まで活躍出来なかった分、魔法使いや魔法少女を愛してやまないおじさんの力が発揮されるってわけだー。やってやる。やってやるぞー!」
「エルフを守る。守らないと僕らが終わる。終わらせないために僕は敵を撃つ。負けない。絶対に生き抜いてみせる」
「お兄ちゃん……怖いよ。また怖い怪物さんが来るの?ななか怖い。お兄ちゃん、ななかを守ってね」
「ああ。夏奈華ちゃん、俺が絶対に守る。ここにいる全員を守れるぐらい頑張ってやるさ」
「私たちの力を合わせれば、必ず大丈夫だ」
それぞれがそれぞれの思いを口にする。
敵は3人。今までの暗黒騎士や魔法使いたちのレベルなら絶対に勝てる。油断さえしなければ、俺たちは負けない。元の居場所に戻るまでは絶対に勝ち続けてみせる!
♦︎
エルフ達の歓喜は今も外で鳴り響いている。
何千年と種族を絶やさずに血を繋いできたエルフ族。
エルフ族の種族存続がかかった一大事に洞窟から姿を現わすというエルフを守りし勇者。それが今の俺たちなのかと言われれば、そうだ。エルフを全滅させてはいけない以上、俺たちは全力で彼らを残り1人になったとしても守りぬかなければいけない。そんなことをつゆ知らずのエルフ達から見た俺たちは完全に勇者だ。俺たちから見たら勇者だろうが勇者じゃなかろうが関係ないとさえ思えるが、エルフを守るからにはエルフたちが呼ぶエルフを守りし勇者となんら変わりないのだ。
俺たちはアルバフリュー――エルフ族の族長――の家の中にいた。
全員分の椅子が出され、それに俺を含めた全員が腰掛けている。
目の前には族長と若い女のエルフ――カチューシャをつけた――の2人が同じく椅子に座って、その後ろに若い男のエルフが直立不動の姿勢で立っている。
[対象:ミナミ LV20 推定脅威度:K]
[対象:ナルタス LV35 推定脅威度:I]
[対象:タック LV37 推定脅威度:I]
族長が俺たちに語った内容はこうだ。
エルフの島国はどこの大陸にも属さない。360°海に囲まれた唯一の小さな島だ。どこかの国の商人や国のお偉いさんが来ようと交流を一切せずに何千年もの間貫いてきた。しかし2ヶ月前のある日、エルフ族の4人いるうちの1人の族長が大陸で勢力を拡大させ続けるバムバロス帝国との貿易を誰にも相談することなく無断で許可を出した。それを知った他の3人の族長たちは許可を出した族長を許さなかった。後日急遽行われた族長会議で無断で許可を出した族長の座と権限を剥奪し、島から永久追放した。半月後、その経緯を貿易にやってきた国の者に話したものの、追放された族長は既に相手の国と書面で契約を交わしていた。このまま貿易を中止した場合、契約違反となる趣旨を国の者は伝えた。3人の族長たちは先祖代々続く歴史を他国の介入によって踏みにじられるのを良しとせずに顔を縦に振らず、頑なに横に振った。それを受けて相手の国は怒り、勢力拡大の図にこの島も含めた。
契約違反の決裂から時間は流れ、何も音沙汰もなかった相手の国はこの島からエルフ族を一匹残らずに全滅させると宣言し、エルフ族と相手の国との戦争が始まった。相手の国の兵士たちは数は多くとも、団結して力を合わせるエルフ族には指一本触れられなかった。勝利したエルフ族の誰もが相手の国がこの島から引くと思った。けれど、相手の国は更に前回の倍の兵力をこの島に送り込み、エルフ族の仲間は1人また1人と倒れていった。仲間の死を引き換えに2度目の戦争も勝利を掴んだエルフ族は3度目はない。3度目はあるはずがない。そう強く思った。だがしかし、相手の国の王はエルフ族を全滅させるのを諦めなかった。エルフ族の全員が相手の国の船が再びこの島へ向かってくるのを見て呆れた。いい加減にしてくれ!誰もが心の奥底から強く思い、相手がその気ならこちらも徹底的にやってやろうじゃないか!と全員が1つの目的に団結した3度目の戦争に送られてきた相手の国の兵士は、たったの3人だった。
3度目の戦争が起きたのが半月前の出来事だ。たかが3人されど3人。実力は折り紙つきなのはエルフ族の全員が確信し、油断は1ミリもなかった。それなのにその3人の敵に3つの集落は瞬く間に壊滅させられ、残った戦えるエルフも無抵抗なエルフも小さな赤ん坊のエルフでさえも非人道的に殺された。他の集落の後方に位置していたこの集落だけが今現在も生き残っている。仲間を日々失いながらも全滅は阻止続け、もうダメかと思った矢先に俺たちが姿を現したそうなのだ。
「よくここまで持ち堪えてくれた。話を聞く限り、責任は追放された族長1人にある。こんなことに繋がらせた張本人は追放されて今も生きているかわかったもんではない。全ての責任を追放者に背負わせれない。こうなれば、我々がその3人を倒すしかない。そしてエルフここにあり!と相手の国へ見せつけてやりましょう!」
族長の話を聞いた遠山は怒っていた。
「そうだそうだ。遠山さん、やってやりましょうよ」
「うちらは何も出来ないけど、話聞いたらホントムカつくよね。その王様はなんなの⁉︎馬鹿なの!くっそイライラしてくる。もーーっ、こうなったら遠山さんの力をそいつらに見せてやらなくちゃね」
「そうだよ。そう。そいつなんなん?って感じじゃん。追放された奴もそうだけど、王様が一番ムカついた。ホントに諦め悪い男はホントいやだ。生理的に無理」
「……なかなかの言われよう。僕はあんまり苛立ちを覚えない方なのに今スコープで見れる距離にいるなら今すぐにでも頭を撃ち抜きたい衝動だよ。3人が強くても、僕らには新道と遠山の最強コンビがいる。僕らで相手の国がもう攻めたくないほど、3人をメッタメタにしてやろうよ」
「天音くんがメッタメタにするなら、おじさんはギッタギタにバッキバキに頬をこの剣で叩きましょうぞ!3人のお仕置きは決定だー!」
「……お兄ちゃん。ななかね、話はわからないけどね。お兄ちゃんにたたかって勝ってもらいたい。お兄ちゃん、ななかオウエンするね。お兄ちゃん、ガンバレー。お兄ちゃん、勝って!」
「夏奈華ちゃんの応援で力が湧いてきた。絶対にお兄ちゃんが勝ってくるからな。夏奈華ちゃんはここで俺たちの帰りを待っててくれな」
「うん。待ってる」
「それで敵の3人はどこにいるか、族長は知ってありますか?」
「あの者たちは……ミナミお前の力で探してくれぬか」
族長は隣に座る若い女のエルフ――ミナミ――に声をかけた。
「しょうがないなー」
ミナミは気怠そうな表情で言い、目を閉じる。
何をするんだ?
「いた。あの位置は南の集落。ばあちゃん、南の集落だよ」
ミナミは目を開け、隣にいる族長にどおいう原理かは不明だが居場所を伝えた。
凄いな。もしかして何かしらのスキルか?
「ミナミすまないね。助かるよ」
族長はミナミの頭を優しく撫でるように触る。
「もーおばあちゃんってば、勇者様の前なんだよ。少しは分け前て」
頬を膨らませつつ、嬉しそうな顔を見せるミナミ。
気怠そうな表情が嘘のように可愛い一面もあるんだな。
「ははっ、そう言われたらそうだそうだ。わたしも孫に注意されては族長失格だの」
「早く勇者様に教えてあげなよ」
「そうだそうだ。ごめんよ」
「もういいから早く」
「勇者様がた、敵は南の集落にいます。ここから歩いて行けば、半日で着くでしょう」
「そんな遠くにいるのか」
「ばあちゃん、歩きなら?でしょ?」
「あーあー。勇者様がた、すみませぬ。先ほどの言葉は誤りがあります。歩いて行けば、半日ですが……わたしの魔法を使えば、あっという間に着きます」
なっ⁉︎魔法⁉︎あっという間に⁈
「……それはどのような魔法ですか?」
遠山はもちろん、俺たち全員が息を飲む。
「瞬間移動です」
族長の一言を聞いた全員が目を丸くし、口を大きく開ける。
誰も叫ばなかっただけ、マシか。
勇者様と呼ばれてるのに瞬間移動と言われて叫んでたら、絶対にこいつら大丈夫か?と思われてたな。
「……瞬間移動とは言葉通りの魔法ということで間違いないですか?」
信じられない表情をしている遠山。
頑張れ。遠山頑張ってくれ。
自分の知らないことをまた言われても絶対に叫んで負けるな。頑張れー!
「そうです」
「……ちなみにそれには人数制限などあるんでしょうか?」
「いえ、そういったものはないですが……わたしの魔力量では1日に多くて3度までしか使えません」
「……なるほど。つまり行きだけの限定ということですか?」
「そうです。勇者様がたを向こうへ渡らせれば、こちらへ戻すことは不可能です。わたしがそこへ行けば、また話は違いましょうがなにぶんご老体の身では邪魔になってしまうやもしれません。それでもいいなら、わたしも一緒に行きましょう」
「っ!ばあちゃん、それだけは止して」
「……ミナミ」
「いえ、族長はこのまま残ってください。我々だけで行きます。お孫さんもこの様に心配されているのに我々と一緒に来てもらおうとは何があっても言えません。ですので、族長は我々が敵に勝利して戻ってくるのをここでお待ちください」
「そうですか。わかりました。どうか……どうか我らエルフ族の未来の為に力をお貸しください」
族長は頭を深く下げる。
「勇者様、よろしくお願いします」
「「勇者様、お願いいたします」」
ミナミと族長たちの後ろにいる男2人も深々と頭を下げた。
「わかりました!我々がエルフ族の未来を繋げてみせます!なぁ、新道!みんな!」
「おう!任せろ!」
「「「「「えいえいおーーーー!!!」」」」」
この場にいる全員が気持ちを1つに団結し、敵を倒すべく行動を開始した。
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