ダレカノセカイ

MY

文字の大きさ
上 下
55 / 67

episode.54

しおりを挟む
 物部真がシアタールームを出る3分前。
「ったく、出入り口を出たら映画館の廊下に出るのかと思えば……なんなんだここは⁉︎」
 真がカルシウムが足りない男と心の中で呼んでいた男が、自分の今立っている場所を見渡す。
 景色は暗闇。
 明かりという灯りがない。
 あるのは、暗闇と静寂。
 真っ暗な空からは、小降りの雨が少々。
「汚い」
 1人の女が雨に濡れた顔に手を当て、濡れた箇所を拭う。
 拭う瞬間、ベトっとした感触を覚える。
 ただの雨ではないようだ。
「灯り!灯りはないのか⁈」
「暗くて見えない」
「これじゃー外の出口を探すどころじゃないぞ!」
「そもそも、私たちは外にいるんじゃ?」
「言われてみたら、それな」
「だったら、あの熊が言った外に繋がる出口はどこにあるってんだ⁉︎」
「それが分かったら、苦労しない」
「とりま外にいるわけだし、歩いてみよ」
 誰もが暗闇の中、己の足で一歩また一歩と進んで行く。
 雨がやがて、雨量を増す。
 視界が暗闇で定まらない中、更に辺り一帯が見えづらくなる。
 方向感覚まで、失われる。
 自分が今立ってる場所が、来た道を真っ直ぐ進んでいるのが?ぐるぐると回っているのか?全く定まらない。
 そんな状況の中、唐突に悲鳴が上がった。
「きゃーーー‼︎」
「いやーーー‼︎」
「人がーーー‼︎」
「殺されるー‼︎」
「人が殺されたぞ‼︎」
「おい、やめろ‼︎離せ‼︎離せー‼︎」
「そんな……アホな‼︎……ぐぎゅわぁあああ‼︎」
「いやいやいやいやーー‼︎」
「し、死んだの⁉︎」
「え?殺されたの⁉︎」
「ど、どどどどっちだー⁉︎」
「落ち着け!」
「これは仕込みだ!仕込み!」
「俺たちを驚かすための悲鳴だろ⁉︎」
「今さっきの悲鳴も、どっかから……うわ‼︎」
「どうした⁉︎⁉︎」
「……たすけ――」
「どこにいる⁉︎」
「逃げろ!」
「とりあえず、逃げろ‼︎」
「どこにだよ‼︎」
「くそがー‼︎」
「そんな……撮影じゃないのか⁉︎」
「まさか……違うのか⁉︎」
「はは……もう笑うしかねー‼︎」
「いい加減にしてくれー!」
「何なんだよー⁉︎」
「嘘だろー⁉︎」
「うるさいうるさいうるさーい‼︎」
「黙って走れー‼︎そしてついてくんなー‼︎」
「やらせだーやらせー⁉︎‼︎」
「マジに何なんだよ‼︎」
「黙れ!黙れ!とにかく逃げるしか……ない‼︎」
 全員が散らばるように走る。
 足元はぬかるんで、安定しない。
「ぐっぎゃ!」
「ぁがぁあ!」
「ったぁー!」
「いってー!」
 ぬかるみに足を取られて、転ぶ人もちらほらといる。
 顔は泥だらけ、寝間着やパジャマ姿といった服はぐしょぐしょ。
「なんて日だー‼︎」
 1人の男が叫ぶ。
 男の後ろから、ペタッペタッと何かが近づく音がする。
「はっ⁉︎」
 男が後ろを振り向いた瞬間、人の形をした何かが襲いかかった。
「ぎゅあああああああああああ‼︎」
 男の絶叫が響く。
 その声を耳にした誰もが、気づく。
 これは撮影なんかじゃない。
 これはガチで、やばい得体の知れない何か犯罪臭の香りがするなにかに巻き込まれたのだ、と。
「嫌だ!嫌だ!」
「こんなところで、死に――」
「頼む頼む頼む!」
「俺だけは逃げきって――」
「見逃してくれー‼︎」
「ドッキリじゃなかったのかー⁉︎」
「なわけねーだろ‼︎」
「やめてぇえええ‼︎」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

従者が記す世界大戦記

わきげストレート
ファンタジー
世界中で戦争・紛争が巻き起こる時代、大国の聖女を連れ出して逃げた騎士がいた。聖女は戦争の原因となっていた『不老不死の秘法』を握ったまま、自国の騎士に連れ去られたのだ。聖女の行方は誰も知ることはなく、奇しくもそこから各地で戦争が沈静化していくのであった。 時は流れ、各国は水面下にて聖女と共に失われし『不老不死の秘法』を探し求めていた。今まさに再び世界は大戦争へと動き出そうとしていた。

永遠の誓い

rui
恋愛
ジル姫は22歳の誕生日に原因不明の高熱に倒れるが、魔女の薬により一命をとりとめる。 しかしそれは『不老不死』になるという、呪われた薬だった。 呪いを解く方法は、たったひとつだけ……。

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...