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第2話 裏切り
しおりを挟む「やっちまったな」
俺は体中を包帯グルグル巻きの状態でベッドで寝ている。
あれから結構な日にちが経った。
なんとか回復魔術と薬のおかげで一命はとりとめた。
時間が経てば、戦線への復帰も可能ということ。
あの時、微量ながらも体に流し込んでいた魔力の防御が自然と働いていたらしい。
これは今後にも使えそうだ。
俺は自分の部屋の花瓶を見ながらふと考える。
マドカやセーニャが持ってきてくれた色とりどりの花。
ガウンやツバサが持ってきてくれた果物。
思えば俺はあいつらを守っているつもりが守られてばっかりだった。
今回だって今までだって。
だから、俺はもっと強くならないといけない。
自分の包帯だらけの拳を見ながら強くそう思った。
だが、この前まで毎日来てくれていたお見舞い。
既に花も枯れかけになっており、入れ替えようともいない。
みんな頑張っているかな。きっと忙しいのだろう。
少し寂しい気持ちはあるが俺は我慢する。
時間が経てばまたみんなと一緒に戦える。笑いあえる。
それを思えばこんな怪我だって……。
こんなことを思った時だった。
乱暴に扉が開かれ俺は驚く。
そして入って来たのは、ツバサ、マドカ、そしてガウンとセーニャ。
やっと来てくれたのか! と俺は歓迎ムードだった。
しかし四人は何だか違う。いつも見たいに優しい目ではなく、その目は笑っている。
さらに気になるのはマドカとツバサが密着しているということ。
手まで繋いで傍から見ればカップルそのものである。
何なんだこれは。いやこれではまるで……。
するとこの無言の状態から最初に口を開いたのはツバサだった。
「時間切れのようだね、残念だよ、ハジメ君」
「な、何のことだ」
「ぷ! まだ分からないの? あんたは今まであたしたちに利用されてたのよ」
な、何だと!? 俺はみんなの言っていることが理解出来なかった。
俺が今まで利用されてたのか。
でも、みんなの俺に対する態度は……本物だったはず。
ガウンの心意気。セーニャの茶化しながらも想ってくれる言葉。
そしてマドカのキス。マドカの約束。
ツバサと俺の守って攻撃する連携。
単純で強いこの連携で俺たちは今まで戦ってきた。
それなのにどうして!?
「君にはもう少し利用価値があると思ったんだけどな」
「……ハジメ、お前にはがっかりだ」
「あーあー、せっかく守護神とか言って褒めてあげたのに……もう使い物にならないかぁ」
「なんだと!? お前ら……」
酷い言葉の一つ一つ。でも俺にはマドカがいる。
マドカは何かの間違いだと言ってくれるはず。
『ハジメ! 魔王を倒したら……そ、その結婚しよ!』
あの日。俺とマドカが約束したことは本当のこと。
彼女が見せた笑顔は今まで見たどのよりも美しかった。
あれが嘘なわけがない。本当なんだ。
「なぁ……ま、マドカ」
現実は残酷だ。それは魔物と戦っている時にたまに感じてしまう。
目立つのはいつもツバサやガウン。
いつの間にか俺は嫉妬してしまったのかもしれない。
俺だってツバサやガウンのように……なりたい。
いつも俺は後ろから盾で攻撃を防ぎながらその後ろ姿を見ているだけ。
そしていつの間にか置いていかれていたのかもしれない。
ツバサ……マドカ……何でお前らが唇を合わせているんだよ。
俺だってまだしたことないのに。
地獄のような時間だった。舌を絡めたそのキスは俺にとって絶望の底に突き落とすのに充分過ぎる程のもの。
しばらくして二人は重ねていた唇から離れて俺の方を見つめる。
「ごめん、ハジメ……あなたとはもう終わり」
「うぐ……結婚はあの約束はどうするんだよ!? 魔王を倒したら結婚するって!」
「あははは! それも嘘よ! そんなこと言っておけばあんたはやる気を出して、マドカのために頑張る……そのためだけの約束だったのよ」
「そして、お前はしっかりとその役目を果たした、誇りに思うがいい」
「ざけんな!」
俺はセーニャとガウンの言うことに怒りをぶつける。
痛みや苦しみを感じたが俺はそんなこと気にしない。
マドカは無言で頷き、ツバサと抱き合う。
やめろ、やめてくれ! 頼むから嘘だと言ってくれよ。
しかし突然、俺は激痛が走る。これは火傷によるものではない。
ツバサは拳をこちらに向けている。殴られたんだ。
「ガウン、セーニャ、ハジメ君を抑えといてくれ」
「……分かった」
「はいはーい!」
離せ! 離しやがれ! セーニャとガウンは俺を押さえつける。
ツバサはニヤッとしながら俺の腹部を何度も殴る。
強烈なその一撃に俺の意識を朦朧とする。
吐き気が襲ったが必死に我慢してツバサを睨みつける。
「なんだいその顔?」
「頼む……マドカだけは」
「君はそうやっていつだって守ることしか出来ない、そして……今はそれすら出来ない」
「価値がないってことね、そりゃ、マドカだってツバサに付いていくわよ」
「……お前の変わりなんて腐るほどいるからな、使い捨てのわりにはよく頑張ってくれた」
次はガウンが。その次はセーニャまで俺のことを踏みつけたり、殴ったりする。
顔面はあざだらけになり、皮膚が破れて俺は血だらけになる。
何も出来ない悔しさと裏切られた悲しみ。
俺は相手にやられっぱなしで動けなくなってしまう。
そして今度は精神的に痛めつけてくる。
「それと君が貯めていたマドカとの結婚資金……それも全てこちらで使わせて貰うよ」
「な、なんで……それを、マドカと二人の秘密のはず、まさか!?」
「ごめんね、ハジメ……だけど、ツバサといた方が幸せなの、じゃあね」
「金も失ったんたなんて用済みよ! 今すぐにパーティから出て行きなさい!」
「……俺が運んでやるから安心しろ」
結婚資金。これは俺とマドカが付き合った時から依頼をこなすたびに貯めていたもの。
周りが贅沢品を買う中で俺は必死に我慢してその貯金にまわしていた。
努力の積み重ねでやっと貯めこんだお金も奪われてしまった。
俺は部屋の土間に横たわりながら四人に手を伸ばす。
助けを求めているのか。だけどそんな弱い助けはツバサに弾き飛ばされる。
「残念だよ、ハジメ君! それじゃあ、新天地での活躍期待してるよ」
「こんなやつパーティに入れて貰えないよ、弱いもん」
「仮にも守護神だから安心しろ」
「ぷ! ガウン、顔が笑っているわよ」
「……ハジメ、ばいばい」
「がぁ、あぁ……」
最後にマドカは俺のことを見捨ててガウン運ばれていった。
結局俺は利用されていただけだった。
今まで良いように。気がつけなかった俺も馬鹿だった。
でも信じていたのに。俺は……どうすればよかったんだ!
その日、外は雨が降っていた。
俺はパーティの宿舎からゴミ箱のようにガウンに投げ捨てられた。
泥だらけの地面に放り出された。
冷たいその雨は俺の傷ついた体にしみてくる。
ツバサ、マドカ、セーニャ、ガウン……。
今までは四人のことを守りたいと思っていた。
だけど今は違う。俺はこいつらに復讐してやりたい。
あああああああああ! 絶対に許さない。
痛む体を必死に起こして俺は歩いて行く。
必ずお前らには地獄を見せてやる。
その思いだけを胸に持って俺はよろよろと歩いて行った。
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