離れる気なら言わないで。~運命に振り回される僕はいつ自由になれるのかな?~

紡月しおん

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本編 1章

6.

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伽南に抱き抱えられたまま誰もいない中庭に着いた。中庭と言っても、屋内にある疑似公園だけれど芝も青々としていて天井に映し出された空の映像は不思議と本物にしか見えない。

中央にある噴水の側のベンチに郁が仁王立ちでいた。・・・・・・怒ってるみたいだ・・・。


「悪ィ悪ィ。遅くなったわ」
「・・・・・・遅いです。ユウ先輩は桐谷先輩だけのモノじゃないんですよ!?俺は、俺はどれだけ・・・・・・っ!!」

少し涙目になっている郁。
伽南は僕をベンチに座らせて、そのまま僕の左側に座る。郁はドスンッと右側に。

「ごめんね?・・・僕が迷惑かけちゃったから」
「ユウ先輩のせいじゃないですよ」
「でも――」
「それじゃ、ここ来てくれません?少しでも悪いと思ってるなら。ダメですか?」
「え
「ダメに決まってんだろ!?」
「えー、ユウ先――」
「いいよ」
「え、
「は?」

僕はようやくぎこちないものの動くようになった足で立って、郁の膝の上に座った。イスに座るみたいに座ったら髪の毛が邪魔かなって思って、郁と向き合う形で座った。
これでいいのかな?

「っ、、、、」
「これでいいの?」
「無意識!!・・・・・・くそっ、、!!」

今度は伽南が崩れ落ちた。
・・・・・・どうしたの。二人とも変。
僕は郁の顔を見る。瞬時に真っ赤になる郁。
・・・目を反らされちゃった・・・・・・。

「やっぱり、退こうか?」
「え!!、、い、いや!!いいです!!これで!これがいいです!!・・・ほんと、ユウ先輩のそんなとこ好き・・・・・・」
「僕も好きだよ?」
「」
「」
「二人とも。二人とも、僕の友達だもん。・・・あ、お昼。食べよ?時間無くなっちゃう」

「・・・・・・・・・俺はユウ先輩を食べたいです」
「その顔では卑怯だろ・・・・・・・・・・・・ヤバイ・・・」
「???」

色々言ってるけどそれでも郁は片手で僕の腰を支えている。
二人はよく顔隠すよなぁ・・・。
二人ともイケメンなのに。勿体無い。

「あ、そ、それじゃ、お昼。にしましょうか・・・。
はい。ユウ先輩にはメロンパンです。あと、イチゴミルク。デザートはカットパインがありますよ?桐谷先輩は焼きそばでいいですか?売れ残りが焼きそばパンしかなかったんですよ・・・・・・。何個です?」
「何個まで?」
「3つくらいは食べられますよ」
「ふーん。じゃ、それでいい。じゃあ、これ・・・とりあえず三千で足りる?今回は俺の奢りな」
「・・・・・・ありがとうございます」
「当たり前だろ?一応、お前も可愛い後輩だしな」
「あ、僕は――」
「ユウ先輩は俺たちのせいで倒れちゃったんですから。お詫びだと思ってください。それに、ユウ先輩の食べてるとこを見られるだけで俺は幸せです」
「???・・・いいの?」
「はい」
「お前が言うな!」
「ありがと。伽南。郁も」

二人がそれでいいならいっか。
また何かお礼しないと――。
あ、郁にあのこと言わなくちゃいけないんだった・・・。
ほんとは別に言わなくても良いんだけど僕と居るのを後悔してほしくない。・・・それに、、僕が辛くなるのは嫌だから・・・。

僕は食べかけのメロンパンと飲みかけのイチゴミルクをベンチに置いて、姿勢をただした。と言っても郁の膝の上だからあんまり動けなかったんだけど。

「どうしました?」

上から郁の声が聞こえた。
うつ向いてるから、郁がどんな顔してるかは分からない。声色は僕のことを心配してくれてる・・・けど。

「・・・・・・ユウト?あのこと?」
「え」

思わず顔をあげた。
真っ直ぐ顔を上げると伽南が真剣な顔で僕を見てた。

「郁に話したい。・・・聞いてくれる?」
「ユウト・・・・・・」
「・・・・・・・・・分かりました。聞かせてくれます?俺だけなんの話か分からないなんて・・・嫉妬しますし」
「え?」
「はは、気にしないでください」

伽南も郁も食べる手を止めて笑顔を向けてくれてる。
・・・・・・大丈夫。郁なら・・・。

「あのね・・・・・・・・・・・・」

















僕はこの魔法特進学園の生徒。
通称『魔特』
学園長の名前が松谷 冬季だか松山 淘汰だのとにかくM.TがイニシャルだとかでM.T学園と呼ばれているとも噂がある。
まぁ、それは置いておいて。


この学園は孤児しか通うことが出来ない。
正確には、この学園には寮と校舎がある。家が、帰る場所が、無い子供たちのための。

普通の人は高校を卒業したあとに専門の大学に入ることで魔法について学べる。高校から学べるのはここだけ。
そんなの狡いって?そんなことない。


魔法は難しいし、有益な分とても危険なものでもある。だから親のいない僕らの居場所の提供と、魔法の研究のための実験をしてる。
魔法の研究をしたい学園と居場所のない僕ら。
ウィンウィンな関係。お陰で僕らも生きていける。
それに、実験と言っても先生たちは僕らに強制なんかしない。出来るだけでいい。無理はしなくていい。
・・・・・・僕らにとっては学園は自分の家で、どんなときも僕らの味方になってくれる親だ。



ただし、例外がある。
『称号』・・・一般の人であっても『称号』を持つ人は重視される。そのため、称号を持っているなら望めばこの学園を受験することが出来、魔法について学べる。

この学園に高校の入学式があるのもそのため。
孤児の子は学園に入って、入学式とか関係なく家で勉強するように学園で学ぶ。
『称号』持ちで高校から魔法を学ぶ一般家庭の人は高校から受けられる。

僕と伽南は孤児だ。郁は一般入試で受かった。
だから知らない。



「僕の称号は『聖姫』。姫の称号の中でも最下の『ヒジリ』を持つ姫。・・・・・・ランク最下なんだ」

姫の称号は五つ。
『炎姫』『氷姫』『雷姫』『闇姫』・・・そして『聖姫』。
最初の三つは全てSSの称号となってる。でも僕のはE。
授業で言っていた通りに対価がある。
例えば、同じ姫の称号でEランクの『闇姫』は日を浴びることが出来ない。浴びてしまえば全身を火傷する。
しかし、能力が優れている。
影を操る。人の精神に干渉する。闇系統の魔法を全て魔力消費なしで使用することが出来る等。

「・・・・・・それは――」

「僕の能力は癒し。聖水を作れば、人を生き返らせることが出来るくらい強い・・・・・・。攻撃は苦手だけど、、癒しも時には攻撃になるから・・・・・・・・・・・・。それに、僕は全魔法を基本魔力消費より半分の魔力で使えるし、基本魔力値が高い・・・

「対価は『誘惑』『幻惑』
・・・・・・こんな地味で暗くて伽南や郁が言うみたいに可愛くなんてない僕にみんなが集まってくるのは、、僕の・・・・・・僕の・・・・・・・・・能力のせいなんだ。僕のせいでみんな惑わされてる・・・・・・・」

郁がハッと息を呑むのが分かった。
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