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2章
23.行こっか
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「・・・てことで、俺出てくわ」
は?
巳波さんはそう言って立ち上がった。
「ちょ、どういうこと?兄さん」
「・・・巳波」
「さっき言っただろ?元から出てくつもりだったんだ。
それに・・・・・・俺を待ってるやつがいるんだよっ。・・・チッ、恥ずっ・・・。別に俺としてはずっと家にいても良いつもりだが・・・一昨日から携帯がうるせーし、そろそろあいつも頭覚めたかなって・・・それに・・・俺が帰んねーと、あいつは・・・いつどこから俺を拐うか分からねーから」
巳波さんは顔を真っ赤にしながらそう言った。
彼女さんかな?ん?拐うって・・・・・・。・・・ちょっと危なそうな彼女さんですね。海渡みたい。ん?でも反応の仕方違わないですか?ん?
僕の頭の中はクエスチョンマークでいっぱい。
「あー」
「んー」
「な?」
海渡と凪さんは今の説明で理解したみたい。
・・・てかそれで意思疎通出来るとかどんな兄弟ですか!
「まぁ、詳しいことはまた帰ってきたときに説明するから。瑠衣と海渡も仲良くな。兄貴も頑張れ」
「巳波に言われなくともね。大丈夫だよ」
「兄さんに言われなくても瑠衣ちゃんのこと大切にするから。気にしないで」
うわー・・・。
「・・・俺、嫌われてんのかな?」
「・・・巳波さん・・・僕、初めて巳波さんに同情しました」
「・・・・・・・」
どうやら僕の一言がとどめを差してしまったらしい。巳波さんはあからさまに項垂れると、肩を震わせて笑い出した。
「分かった。・・・それじゃ、な」
そう言うと巳波さんは背中を向けた。
・・・これって、引き留めるべき?いや・・・引き留めちゃダメだよね・・・巳波さんの相手のことを話してるときの顔。真剣だった。
「うん。それでいいよ」
「え?」
「なんでもない。・・・兄さん、爆弾は安全装置外してから三秒で爆発するからね」
「くく、分かった」
「巳波、荷物は?」
「もう用意して、玄関の脇に隠してある。・・・兄貴、ありがとな。それじゃ」
巳波さんは再び笑うとそのまま部屋を出ていった。
沖江家の大きな玄関のドアが開いて、またすぐに閉まる音が響いた。そして、バイクのエンジン音がしたと思ったらその音もすぐに消えた。
・・・行っちゃったんだ・・・。
「さ、僕らも食事に戻ろうか。せっかく瑠衣ちゃんが作ってくれた朝ごはん、冷めちゃってるけど」
バイクの音が消えてから凪さんはそう言った。
凪さんは綺麗な動作で正座から立ち上がる。
「ねー、せっかく瑠衣ちゃんが俺たちのために作ってくれたのに・・・・・・巳波兄さん許すの早かったかな」
「海渡!」
「うっ・・・・・・。そんな顔しないでよ・・・俺、、どうしたらいいの?瑠衣ちゃんは俺の理性を試してるの?」
「は?」
「はいはい。イチャつくならご飯の後にして?」
凪さんが呆れたように言って行ってしまった。
・・・なんか、理不尽。
「瑠衣ちゃん・・・・・・」
「ん?どうしたの?」
「・・・ううん。何でもない。・・・俺たちも行こっか」
「?うん」
海渡が何を言おうとしたのかは分からないけど、まぁこれで良かったんだと僕も思う。
僕と海渡のことや巳波さんのこと。
・・・・・・うん。
「ふふ、行こっか」
「・・・うん。でも瑠衣ちゃん・・・ほんとそれ止めて?俺、耐えきれなくなるから・・・」
「・・・・・・変態」
「否定はしないよ」
「っ!?」
「二人ともー?イチャイチャするならご飯の後ねー」
「!!!」
「・・・・・・凪兄さんて空気読めないとこあるよね」
空気読めないとは違うんじゃないかな・・・?
・・・ここから時系列一気に飛ぶね?
今は夏休み終わってすぐ。
夏休み前半は海渡の家にお世話になって・・・海渡と恋人になって?・・・まぁ、そのあとも色々あった。
そのあとは僕らの関係って言ったら別に変わりはなかった。海渡も僕のこと考えてくれるようになって・・・。今までの関係のままでいてくれたし、あの一週間の前と後で変わったことはなかった。巳波さんが家を出たとか、凪さんが前より外に出るようになったってことくらい。
「行ってきます」
「・・・行ってらっしゃい」
ここはそして空港。
なんでこんなとこにいるのかって?
それはね・・・。
海渡が留学することになったんだ。
半年間の留学。
「・・・瑠衣ちゃん・・・。
・・・・・・あっち行ったら電話するから!」
「しなくていいよ。国際電話ってお金かかるし。
もったいないからしないで」
「」
「・・・お前はちゃんと勉強してきなよ」
「・・・うん」
この留学は海渡の責任でもあるんだ。
一週間前、鳴海さんが海渡に言った。
『ドイツに留学しろ。沖江グループの企画で人材育成のために数人の候補者を留学させることにした』
最初はもちろん海渡も拒否してた。
けど、鳴海さんは例の薬の件を踏まえて海渡を説得した。開発した以上はお前にも責任があるって。
僕もそれには賛成した。
・・・海渡は変態で、犬で、僕のことになると凄く真剣になるけど・・・天才だ。僕もいつかは海渡にたくさんの人を救ってくれるようなものの開発を期待してる。海渡なら絶対出来るから。
ここで終わってほしくないから。
「頑張ってきなよね・・・。・・・応援してるから」
「っ!瑠衣ちゃん・・・。
瑠衣ちゃん・・・・・・一つだけ、いい?」
「・・・何が?」
「・・・・・・やっぱり何でもない!俺、頑張るから!」
「行ってきます」
海渡はそのまま僕に背を向けて飛行機に乗って行っちゃった。
・・・・・・少し、寂しいかも・・・?
そう思ったことは海渡には内緒。・・・だってそれを言ったら海渡が調子に乗るし。それに―。
・・・・・・寂しいって実感しちゃうから。
*** *** *** ***
お久しぶりです。詩音です。
これで2章はいったん終わります。
いやー、良かったですね。
ん?良かったのかな?ま、とりあえず終わります。
次の話から3章になります。
また瑠衣のお泊まり中にあった出来事は後日番外編として更新しようと考えています。
そして、別の話として巳波のこれからも書いていきたい。既にお気づきの方もいると思います。
そう!人物設定が増えてる!
と言うことで、はい。
書いていきたいなって思ってます。
今後ともよろしくお願い申し上げます!
質問等々は随時受け付けております。
アドバイスであれば、どんな罵倒も受け付けますので感想を頂けると幸いです。
それでは。
は?
巳波さんはそう言って立ち上がった。
「ちょ、どういうこと?兄さん」
「・・・巳波」
「さっき言っただろ?元から出てくつもりだったんだ。
それに・・・・・・俺を待ってるやつがいるんだよっ。・・・チッ、恥ずっ・・・。別に俺としてはずっと家にいても良いつもりだが・・・一昨日から携帯がうるせーし、そろそろあいつも頭覚めたかなって・・・それに・・・俺が帰んねーと、あいつは・・・いつどこから俺を拐うか分からねーから」
巳波さんは顔を真っ赤にしながらそう言った。
彼女さんかな?ん?拐うって・・・・・・。・・・ちょっと危なそうな彼女さんですね。海渡みたい。ん?でも反応の仕方違わないですか?ん?
僕の頭の中はクエスチョンマークでいっぱい。
「あー」
「んー」
「な?」
海渡と凪さんは今の説明で理解したみたい。
・・・てかそれで意思疎通出来るとかどんな兄弟ですか!
「まぁ、詳しいことはまた帰ってきたときに説明するから。瑠衣と海渡も仲良くな。兄貴も頑張れ」
「巳波に言われなくともね。大丈夫だよ」
「兄さんに言われなくても瑠衣ちゃんのこと大切にするから。気にしないで」
うわー・・・。
「・・・俺、嫌われてんのかな?」
「・・・巳波さん・・・僕、初めて巳波さんに同情しました」
「・・・・・・・」
どうやら僕の一言がとどめを差してしまったらしい。巳波さんはあからさまに項垂れると、肩を震わせて笑い出した。
「分かった。・・・それじゃ、な」
そう言うと巳波さんは背中を向けた。
・・・これって、引き留めるべき?いや・・・引き留めちゃダメだよね・・・巳波さんの相手のことを話してるときの顔。真剣だった。
「うん。それでいいよ」
「え?」
「なんでもない。・・・兄さん、爆弾は安全装置外してから三秒で爆発するからね」
「くく、分かった」
「巳波、荷物は?」
「もう用意して、玄関の脇に隠してある。・・・兄貴、ありがとな。それじゃ」
巳波さんは再び笑うとそのまま部屋を出ていった。
沖江家の大きな玄関のドアが開いて、またすぐに閉まる音が響いた。そして、バイクのエンジン音がしたと思ったらその音もすぐに消えた。
・・・行っちゃったんだ・・・。
「さ、僕らも食事に戻ろうか。せっかく瑠衣ちゃんが作ってくれた朝ごはん、冷めちゃってるけど」
バイクの音が消えてから凪さんはそう言った。
凪さんは綺麗な動作で正座から立ち上がる。
「ねー、せっかく瑠衣ちゃんが俺たちのために作ってくれたのに・・・・・・巳波兄さん許すの早かったかな」
「海渡!」
「うっ・・・・・・。そんな顔しないでよ・・・俺、、どうしたらいいの?瑠衣ちゃんは俺の理性を試してるの?」
「は?」
「はいはい。イチャつくならご飯の後にして?」
凪さんが呆れたように言って行ってしまった。
・・・なんか、理不尽。
「瑠衣ちゃん・・・・・・」
「ん?どうしたの?」
「・・・ううん。何でもない。・・・俺たちも行こっか」
「?うん」
海渡が何を言おうとしたのかは分からないけど、まぁこれで良かったんだと僕も思う。
僕と海渡のことや巳波さんのこと。
・・・・・・うん。
「ふふ、行こっか」
「・・・うん。でも瑠衣ちゃん・・・ほんとそれ止めて?俺、耐えきれなくなるから・・・」
「・・・・・・変態」
「否定はしないよ」
「っ!?」
「二人ともー?イチャイチャするならご飯の後ねー」
「!!!」
「・・・・・・凪兄さんて空気読めないとこあるよね」
空気読めないとは違うんじゃないかな・・・?
・・・ここから時系列一気に飛ぶね?
今は夏休み終わってすぐ。
夏休み前半は海渡の家にお世話になって・・・海渡と恋人になって?・・・まぁ、そのあとも色々あった。
そのあとは僕らの関係って言ったら別に変わりはなかった。海渡も僕のこと考えてくれるようになって・・・。今までの関係のままでいてくれたし、あの一週間の前と後で変わったことはなかった。巳波さんが家を出たとか、凪さんが前より外に出るようになったってことくらい。
「行ってきます」
「・・・行ってらっしゃい」
ここはそして空港。
なんでこんなとこにいるのかって?
それはね・・・。
海渡が留学することになったんだ。
半年間の留学。
「・・・瑠衣ちゃん・・・。
・・・・・・あっち行ったら電話するから!」
「しなくていいよ。国際電話ってお金かかるし。
もったいないからしないで」
「」
「・・・お前はちゃんと勉強してきなよ」
「・・・うん」
この留学は海渡の責任でもあるんだ。
一週間前、鳴海さんが海渡に言った。
『ドイツに留学しろ。沖江グループの企画で人材育成のために数人の候補者を留学させることにした』
最初はもちろん海渡も拒否してた。
けど、鳴海さんは例の薬の件を踏まえて海渡を説得した。開発した以上はお前にも責任があるって。
僕もそれには賛成した。
・・・海渡は変態で、犬で、僕のことになると凄く真剣になるけど・・・天才だ。僕もいつかは海渡にたくさんの人を救ってくれるようなものの開発を期待してる。海渡なら絶対出来るから。
ここで終わってほしくないから。
「頑張ってきなよね・・・。・・・応援してるから」
「っ!瑠衣ちゃん・・・。
瑠衣ちゃん・・・・・・一つだけ、いい?」
「・・・何が?」
「・・・・・・やっぱり何でもない!俺、頑張るから!」
「行ってきます」
海渡はそのまま僕に背を向けて飛行機に乗って行っちゃった。
・・・・・・少し、寂しいかも・・・?
そう思ったことは海渡には内緒。・・・だってそれを言ったら海渡が調子に乗るし。それに―。
・・・・・・寂しいって実感しちゃうから。
*** *** *** ***
お久しぶりです。詩音です。
これで2章はいったん終わります。
いやー、良かったですね。
ん?良かったのかな?ま、とりあえず終わります。
次の話から3章になります。
また瑠衣のお泊まり中にあった出来事は後日番外編として更新しようと考えています。
そして、別の話として巳波のこれからも書いていきたい。既にお気づきの方もいると思います。
そう!人物設定が増えてる!
と言うことで、はい。
書いていきたいなって思ってます。
今後ともよろしくお願い申し上げます!
質問等々は随時受け付けております。
アドバイスであれば、どんな罵倒も受け付けますので感想を頂けると幸いです。
それでは。
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