ある日隣の変態と結婚することになりまして

紡月しおん

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2章

7.本題

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「親バカな母さんから何か頼まれただろ?」

・・・・・・え?
巳波さんの雰囲気が変わった。
さっきまでの明るい表情はなく、無表情だった。
あの明るくてカッコいい巳波さんとは思えないくらいの変化に僕は驚いた。

「俺、何もないから。別に心配するようなことじゃないよってこと。・・・もし瑠衣が何か言われてるようなら、母さんの気のせいだからな?」
「えっと・・・・・・?」
「話ってのはそれだけ。・・・サンドウィッチ貰うな?」

僕が驚いて何も言えないのに気付かずに巳波さんはサンドウィッチを摘まんで一つ食べた。
・・・佐紀さんの話はほんとだったんだ。
僕は巳波さんの言うことが嘘だと思った。本当に何もないなら巳波さんはあんな顔しない。

「美味いな。・・・瑠衣、ほんとに海渡の嫁に来んじゃね?あ、でも瑠衣は拒否してんだよなぁ。まぁ、そう言うのは本人の意志が重要だから・・・俺は瑠衣の味方だよ?」
「ありがとうございます」
「敬語も無し、な?」
「・・・・・・うん。ありがとう」

僕は自分が上手く笑えてるか分からなかった。もしかしたら唇の端が震えてたかもしれない。








「はぁ・・・・・・」
「どうしたの?瑠衣ちゃん・・・・・・?」

今は沖江家のリビングで海渡に宿題を教えてもらってる。でも、巳波さんのことが気になって勉強に集中出来ないんだよね・・・・・・。
巳波さんは確かに悩みを持ってるみたいだけど、僕は何をすればいいんだろう・・・。

「・・・そこは代入だよ?」
「え・・・・・・?」
「aの式にbを代入しないと。そしたら上の問題と同じようにやってくんだよ?・・・・・・休憩する?」
「そっか・・・ありがと」

考えすぎてぼーっとしちゃった・・・。
海渡は僕が宿題の問題が分からずに困ってるとでも思ったのか教えてくれた。心配そうにこっちを見ている。
ちゃんと集中しなきゃ、教えてくれる海渡に悪いよね。

「う~ん、やっぱり休憩しよっか。瑠衣ちゃんはちょっと待っててね」
「ん?分かった」

そう言って海渡は立ち上がった。
・・・怒らせちゃったかな?海渡はいつも通りだったけど、またーー。
そう思ったら背すじが寒くなった。嵐のように過ぎ去っていった僕たちのケンカだったけど・・・もう二度とあんな気持ちにはなりたくない・・・!!

待ってて、って言われたけど・・・。
僕は居ても立ってもいられず海渡を探した。


「わっ、瑠衣ちゃん?」
「海渡・・・・・・」

海渡はキッチンから出てきたところだった。何か、飲み物と・・・大きな黒い物体をお盆に乗せて持っている。
危うくぶつかりそうになってしまった。

「・・・なにそれ・・・」
「ん?瑠衣ちゃん、チョコケーキ好きでしょ。だから休憩のときに一緒に食べようかなって昨日仕込んどいたんだ~・・・・・・瑠衣ちゃん?」

そっか・・・・・・。
海渡、怒ってなかったんだ・・・。
僕は恥ずかしくなって下を向いた。海渡が覗き込んでくる。・・・見るなよ・・・!!

「あ、ありがとう!!僕は戻ってるから!!」

ヤバイ、海渡の顔みれないよ!!
僕はうつ向いたまま沖江家のリビングに戻る。

頬の火照りが熱くて、勘違いした僕が恥ずかしい。なんで海渡に嫌われることを恐れるの?トラウマになりすぎでしょ!!
手元が寂しくてシャーペンをコロコロと転がす。けど手が震えてシャーペンは落ちる。動揺してる・・・?

・・・今度精神科行こうかな・・・・・・。
ようやく落ち着いたみたいだった。


「瑠衣ちゃん?大丈夫?・・・喉渇いた?」
「え・・・う、うん」
「そっか。・・・昨日から仕込んどいたんだ~。チョコケーキ!瑠衣ちゃん、昔から好きだったもんね」

海渡は気にしていないようだった。お盆の上から切り分けたチョコのホールケーキをテーブルに、僕の前に紅茶のカップを置いてくれた。
海渡が紅茶を入れてくれて、ふんわりとした紅茶の香りとチョコの甘い匂いが鼻をくすぐる。

「食べさせてあげよっか?」
「・・・殴るよ」
「・・・ごめんなさい」

途端にシュンとした海渡。
仕方がないのでケーキは僕が取り分けてあげた。

「・・・・・・食べよ」
「!!うん!!瑠衣ちゃんもたくさん食べてね!」



僕は海渡に甘すぎるかもしれない。
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