ある日隣の変態と結婚することになりまして

紡月しおん

文字の大きさ
上 下
31 / 64
1章

29.開かない扉

しおりを挟む
「ごめんね。・・・・・・俺、バカだから。瑠衣ちゃんを傷つけたくなくて、傷つけないようにって・・・してたつもりなのに・・・傷つけてたんだよね」

少しずつ離れていく声。もう海渡は僕を見てはいない。
――違うっ!!違うっ!!違うっ!!
声が出ない。


「プロポーズって普通は告白して、お付き合いして、気持ちを確かめ合って、・・・それからなのに、焦りすぎちゃった」

海渡は今までに無いほど落ち着いた様子でそう言った。ゆっくり、ゆっくり、諦めの含まれた声。

――海渡っ!!ごめんっ、恥ずかしかっただけなんだよ・・・・・・。ほんとは・・・嬉しかった。
声が喉にへばりつく。剥がさせない。


「ほんと・・・ごめんね。・・・・・・あ、寝づらいよね。俺、もう出てくから・・・・・・おやすみ」

――あ、

――行っちゃう

――海渡が僕から離れて行ってしまう

――あの変態で、気持ち悪くて、にやにやしてて・・・・・・。
でも、っ!!・・・・・・安心する・・・。


――嫌だっ!!離れて欲しくないっ!!





見ると既に海渡は背を向けて廊下へと繋がるドアを開けようとしていた。いつの間にそんな遠くに行ってしまったのか。


海渡の指がドアにかかる。

――行っちゃう!!



か、海渡っ海渡っ海渡!!

「あれ・・・・・・・・・・・・?」



え・・・・・・・・・?





扉は開かなかった。


「あれ、、?おかしいな・・・」

海渡は何度も手をかけて開けようとしているがまったく扉はびくともしない。
鍵は・・・開いているのに。

「・・・立て付けが悪くなってるのかな」

そう言って海渡は開かない扉に体当たりしだした。

ドンッ

ドンッ

ドンッ

ドンッ

ドンッ


それでも開かない。

「チッ・・・・・・なんでだよ。早く、早く

ドンッ

ドンッ

ドンッ


海渡はそれでも扉に体当たりし続けた。

「なんでだよ!!

「早く、早くっ!!

「開けよ!!

「っ、、こんなんカッコ悪い・・・・・・


カッコ悪い・・・。海渡は確かにそう言った。
イライラした口調。うっすら浮かべた涙目。



「ふっふふふっ」

あ、つい笑ってしまった。
久しぶりにあの海渡が見られたから。

「あ、
「・・・・・・・・・」

そう、その悔しそうな顔。
どんなに成長しても変わらない“その”顔。

よく見ると鼻を擦りむいている。
――仕方ないなぁ。





「海渡、座って」

海渡は嫌だと言うように首を振った。
そしてまた扉に体当たりしだした。
ドンッ、ドンッ、ドンッ



「海渡、話をしようよ・・・・・・僕の話、聞いてくれない?」

海渡はようやく扉に体当たりするのを諦めたのか近くにあった丸いすに座った。背中は向こうに向いたままだったけれど。

「ふっ。ありがとう」
「・・・・・・」

たぶん、海渡も気不味いんだろう。
僕もまだ気不味い。
でも、決めたからさ。


「僕ね・・・・・・男と付き合うのが、怖いんだ」

そう、あのときから。
海渡は息をのんだのかぐっと喉を鳴らした。

「中学生のときさ・・・海渡は気づいてなかったと思うけど、一度だけ・・・部活の先輩に襲われたんだ。文芸部の部長さん、漫研の副部長さん、あと・・・まぁ数人」

「そのとき、『女みたいな顔して、俺達を煽りまくったお前が悪い』『可愛いもんなぁ・・・』『瑠衣ちゃんだな、これは』・・・・・・そう言われてからだよ。海渡、お前にちゃんってつけられたくなかったんだ。僕が女みたいだから、海渡も僕を好きでいてくれていたのか・・・?海渡の言う可愛いもこいつらと同じものなのか・・・?そう、思ってた」

「あのときは運良く先生が見回りに来てくれたから貞操云々は大丈夫だったけれど・・・・・・あいつらに壁際まで追い詰められて・・・頬を撫でられたり、学ランをはだけられたり、いやらしく触られたりした感触が甦って気持ち悪くて死にたくなった・・・けど、妹たちが止めてくれたんだよ・・・。海渡だって、あのあとすごく痩せちゃった僕をフォローしてくれただろ?嬉しかった・・・」

そう。

「だから、僕はここにいるんだ」

海渡は静かに聞いてくれている。もしかしたら聞く気は無いのかもしれない。でも、言えたことがなにより嬉しい。

「だからね・・・海渡」

僕はベッドから降りて、海渡の側に行った。
そしておもむろに消毒液に浸った消毒綿をピンセットでつまみ上げ、海渡の鼻に着けた。

「ぎゃっ!!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

フィクション

犀川稔
BL
変わらない日常送る恋(れん)は高校2年の春、初めての恋愛をする。それはクラスメートであり、クラスのドー軍の存在に値する赤城(あかし)だった。クラスメイトには内緒で付き合った2人だが、だんだんと隠し通すことが難しくなる。そんな時、赤城がある決断をする......。 激重溺愛彼氏×恋愛初心者癒し彼氏

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...