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本編

80.仕組まれた襲撃

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 ゴオゥゥッッ!!

 という音と共に俺が保っていた火柱が消えた。
 そして空中で真っ黒になった二つの影をで受け止めたのは──。


「············ど、して」





 俺が見間違えるはずがない。

 この世界に生まれて、16年生きて、その間ずっと見てきたその顔──。

 入学式の日は俺の入学式が見たかったからって仕事を放っぽり出して···俺に連絡もせず内緒で家に帰ってきて···玄関開けたら直ぐに俺を抱きしめてくれた······。




 鉛色の肌、母に何をされても笑って喜んでいたその表情には今は何も無い。上空から俺たちを見下ろして、俺や兄貴がいるのも見えているはずなのにその顔には何も映らない──。


「······と、うさ···?」


 声が掠れて出ない。


「っ···おと···さ······ん···っ!」




 出ろ、出てくれ···!!


 なんで出ないんだよ······!!


 父さんを止めないと行けないのに、


 父さんにいっぱい聞きたいことがあるのに、


 生きてたのかって、母さんは生きてるのかって!!




 ···視界が霞む、まだ目の前には敵がいて、父さんがいて、やらないといけないことがあるのに、まだ気を失うわけにはいかないのに······!!口の中に鉄の味が広がる。どんなに歯を食いしばって、唇を噛んでも何故か父さんが助けた小豆親子を睨むことしか出来なかった。

 徐々に父さんが離れていく。
 悔しい······せっかく父さんに会えたのに!

 俺は最後の力を振り絞ってボロボロになった舞台を拳で叩いた。










「···律花」

 どれくらい経ったのかは分からない。結局俺は意識は失わなかったものの、暫く心神喪失状態でいたらしい。気がついたら兄貴が肩を抱いてくれてた、一定の感覚で頭を撫でる指に嗚咽が漏れる。

「···くやしい」
「···そうだね」

 小豆親子を逃がしたことも、父さんを引き止められなかったことも、俺の力じゃ適わなかったことも、守られてばっかだったことも···それに兄貴が何も教えてくれなかったことも。

 兄貴はきっと知ってた。魔法式の核を破壊してるやつらのことも、それに魔人化し覚醒した人が関わっていたことも。



「律花、とりあえず移動しよう」

「燈夜も無理はするな。律花は任せろ」


 先輩は俺を支えて立とうとした兄貴を遮った。
 よく見ると兄貴の足元も覚束無い。


「律花も無理はするな、嫌だろうが少し我慢しろ」

 そう言って先輩は俺の両足の裏に腕を通した。視線が上がる。驚いて先輩の首にしがみつくと、俺の体が安定するように抱え直す先輩。いつもならここで何か言うのに兄貴も黙っている。

 ···そりゃ当たり前だ。目の前に死んだはずの父親が激変した姿で現れたんだから。あれは父さんじゃないと信じたい。でも俺が今放てる最大の魔法を簡単にかき消すことが出来るのはそんなに多くないはずだ。···否定したい気持ちを実際に起こった現実が塗り替える。

 目眩がする···やっぱり魔力を使いすぎたらしい。いくら魔力を循環させる機能があるとはいえ放出しすぎた。あの莫大な量の魔力を循環させたら俺はまだしも、周りに被害が出ると思い俺の作った魔道具は一時的に機能を停止させている。ただ今回は気を失うギリギリを意識してちゃんと耐えた。···俺だって成長してるんだから。







 その後先輩に抱えられたまま、生徒会室に誘導されて会場で一部始終を見ていた生徒···霧ヶ谷さんを除いた俺たちが集められた。霧ヶ谷さんは被害のあった会場の武具準備室に私物の点検に行っている。教員、警備係担当は会議室で状況の説明と今後についての話し合いを行っているらしい。


「律花君、顔色が悪いようだ···応急処置だが失礼する」


 生徒会室のふわふわなソファの上に降ろされた俺。そう言うと会長はすぐ横にきて俺の額に手をかざした。ぽわんと暖かい光に目眩で重くなった頭が軽くなった。


「私は回復魔法が少々扱えるのだが···律花君は特異体質だ、満星さんの所で改めて診てもらった方がいいだろう。成る可く話も早く終わらせよう」



 会長の話の内容はこうだ。
 まず今回の襲撃の件は会長自身が黙認していたこと···理由は小豆親子を誘き出し捕縛するためであったことだった。これは団吾を捕らえた後に兄貴と先輩が話をしていたから俺にも察しがついていた。
 そして会場へ駆けつけるのが遅れた理由···それは小豆大福が会場へ向かう会長たちを妨害していたからだった。会場に併設されている武器などを置いておく、武具準備室から何かを持ち出す小豆大福を発見した生徒会室役員の面々が対応したが逃げられ、生徒会役員は多数が負傷。一般生徒、一般保護者まで巻き込まれそうになったことで会長はそっちの防護に追われていたということだ。

 小豆親子の目的は兄貴の召喚魔法式核の破壊だったらしい。いや、正確には兄貴の持つ美園の守護獣ほ奪取。その理由は···父さんが現れたことで明確だろう。“元の場所に戻るだけ”、あの言葉が意味していたのは···元の主人である父さんに力の権限が移る。どういう仕組みになっているのかは分からないが、そういう意味だったんだろう。
 何故フェスタを利用して小豆親子の捕縛を計画したのかについては、厳島領地の件もあって相手も警戒している所で下手に誘き出せば逃げられてしまう可能性が高かったこと。学園内、そしてフェスタの途中なら安心しているだろうと思わせて油断を誘えること。そして最大の要因は本気になった兄貴と先輩なら守護獣を召喚するだろう、そう相手に思わせていたこと。

 俺が考えていた以上にあの名前のない組織について情報が集まっているようだ。犯行との関わりは分からないが学園の中にもその組織と関わりのあった生徒もいたらしい。だがあまり話を長引かせると俺の体調の方が心配だと会長が言い、ここで話は終わった。

 兄貴の様子から父さんが魔人側についてたということは誰も分かっていなかったことなんだろう。会長もその件については改めて調べる必要があるということで保留になった。

 楼透はこの後、禅羽さんと合流し無名の組織と関わりのあった生徒に聞き込みを行うらしい。千秋も会長の補佐に回るということで怪我人である俺たちが病院に向かう。馬車の用意や病院への連絡は先輩や会長が手続きしてくれたらしい。



「私も正直甘くみていた。小豆大福男爵が···いや、小豆大福があそこまで魔道具を保有しているとは思っていなかったからな。被害を抑えられなかったのは私の責任だ」

「煌紀だけの責任ではないだろ。お前は生徒会長と言えど生徒だ。お前が黙認していた、ということは理事長や情報漏洩リスクを避ける為に少数であれ教職員も知っていたはず···背負い込むな」

「ははっ、先輩はいつもそうだな。有難く心に留めるよ」


 暫くして生徒会室のドアがノックされた。満星さんへ連絡がついたことと、病院経向かう為の馬車の用意が出来たらしい。ゆっくり立ち上がろうとしたが立ちくらみがしてふらついた体を先輩が受け止める。


「抱えるが我慢してくれ」 


 そう言って再び俺を抱えあげた。正直自分で歩いて馬車乗り場まで行く自信がなかったから助かった。それに先輩の腕はしっかり俺の体を支えてくれていて安定感がある。
 ···だから嫌ではないんだけど···。

 嫌だろう、とか。我慢してくれ、とか。
 ···今まで好き勝手してきたくせに。

 けど今は怒る気力も湧かないしそんなことで体力を消費したくない、それに···。場所を移動してからも一言も発さない兄貴、目が合いそうになっても逸らしてくる。いくら父さんが魔人になってて俺たちの敵になったかもしれないからって···俺だって辛いのにそんな態度を取られると傷つく。










「···オレの······オレの···ッッッ」

「霧、ヶ谷先輩······?」


 生徒会室を出て馬車乗り場へ向かう渡り廊下で霧ヶ谷先輩を見かけたが何か様子がおかしい。両手を見つめて全身を小刻みに震えさせていた。


「オレの······オレの···姫が······!!」


 ···ヒメ?
 あまりにもいつもと違う雰囲気に嫌なことを思い出した。
 だが時期的にまだ···。


「おい、霧ヶ谷···」
「···あぁ?」


 いやもうメインストーリー自体がイカれてんだ。時期とか関係ないんだろう。先輩と兄貴は多少動揺しているようだが俺には予想がついていた。そして対処法も分かっている。···こんな時にこんなことしたくないんだが。俺は先輩に一旦降ろすようにお願いし、まだ若干の目眩を残す足で霧ヶ谷先輩の前に向かった。

「霧ヶ谷先輩」

 名前を呼ぶと確かにこちらを見る視線。

「大丈夫ですから」

 そう言って霧ヶ谷先輩の頭を引き寄せると額を合わせ目を閉じた。あー、こんなスチルがあったなぁ···何度も見せられたなぁ···と思い出しつつ(勿論相手は主人公の千秋とである)目を開けるとポロポロと涙を零して泣いている霧ヶ谷先輩が。

「···先輩も不安だった、ですよね?俺も怖かったし」


 そう言って苦笑いする。そしてこの行動の言い訳として、「不安と混乱でぐちゃぐちゃになってたら誰かにこうして貰えたら少しは安心するかなって」と返した。まさか、霧ヶ谷先輩のことが好きだからやったなんて俺の後ろに立ち尽くしてる美園律花ガチ恋勢達に思われたらあとが怖い。

 未だしくしく泣いている霧ヶ谷先輩をなだめつつ、さっきからずっと何も言わない背後の気配たちを振り返りみると呆れた表情をしていた。

「タラシか···」

 たらしてないってば。





「···オレの···オレが作った、人形パペット···盗まれちゃった···」

 落ちつき始めた霧ヶ谷さんはポツリとそう言った。
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