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本編
79.乱入者 ※微グロ注意
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俺が見た光景は舞台上で倒れている兄貴と先輩、そしてフェニと白蘭でさえ二人の傍で伏せている。舞台上には落雷が直撃していた。しかし客席からでは二人が生きているのかさえ分からない。
「あ、あにき·····?せん、ぱい···は···?」
声が震える。
手を伸ばそうとするが体が動かない。
しかしそんな俺の様子を気にすることも無く団吾は舞台上に上がり兄貴に近づいていった。司会者のマイクが騒動に紛れて落ち壊れたんだろう···硬い靴音がスピーカーを通して静まり返った会場に響く。
《あぁ!これはこれはお義兄様ぁ!この度は手荒な真似をして申し訳ございません!しかしご安心くださいねぇ···律花くんのことは僕が幸せにしますからゆっくり眠っててくださいよぉ?ぐふふっ》
そう言いながら舞台上に倒れている兄貴の頭を革靴で踏みつけた。力を加えて破壊するというよりも、自分より優位に立つ人間を踏んでいるということで優越感を満たす行為。頭の中がスーッと冷えていく感覚がある。
「律花様、今は抑えて」
「大丈夫だよ」
その声に麻痺し始めていた思考が解けた。
左右を固める大切な幼馴染たち。そしてあの兄貴の炎をものともしなかった先輩が後ろにいる。それに俺も以前までの俺とは違う······!目を閉じると数回深く息を吸った。きっと大丈夫だ。
今俺に出来ることはない。それでも分かるのは下手に敵を刺激しない方がいいこと。大丈夫だ、この学園には兄貴よりも強い人がいる。厳島領地の時は多くの戦力が島の外へ出てしまっていたがここには戦闘経験豊富な教員も、国家魔法士に匹敵する人材も、そして白虎祭というイベントに学園外の戦力も集まっているのだから。
団吾が降ってくる前にフェニと白蘭が俺に伝えてきた意味深な『何があっても決して動くな』という言葉。きっと、先輩も兄貴も何かが起きることを想定していた。何故俺に言わなかったのかは分からない。自分たちで解決するつもりだったのか、それともただ単純に俺のことが足手まといに思って下手に動かせないようにわざと伝えなかったのかもしれない。
そうだったとしたら──そうだったとしても少し···寂しい。
《えっと···ぉ?これかなぁ···?》
怪しい笑みを浮かべながら兄貴の腕を持ち上げ、その手の甲に紅く浮かんだ魔法式に顔を近づけた。何をしようとしているんだ···?そう思っていた俺は、その行動を見て満星さんの言っていたことが脳裏を過ぎった。
《うんうん、そう!これだよ~!全く五家ってなんでこんなに面倒臭いんだろう!魔法式の核が体内を移動するなんて頭おかしい!あ、律花くんは違うよ?僕のお嫁さんはいつも聡明で可愛らしい···ヘヘッ!···でもこれは本当にタイミングが良かったみたいだぁ~···守護獣召喚後ランダムで体表を移動する魔法式の核を手の甲に来たタイミングで、あの美園と厳島の動きを同時に封じ込めるなんて!僕ってほんとにツイてるねぇ!》
俺もこんなこと考えたくなかった。
小豆団吾が脱獄した理由、脱獄出来た理由、それは──。
《僕に人肉を食べる趣味は無いんですがぁ···この式がお義兄様にあっては困るんですよねぇ···それにあの方が求めていらっしゃる。大丈夫ですよぉ···ただ、元あった場所に戻るだけですからぁ》
そう言ってガバッと口を大きく開けた小豆団吾は兄貴の──美園燈夜の拳を口に含んだ。俺が立ち上がろうと、楼透と千秋が飛び出そうと、霧ヶ谷先輩が大鎌を振ろうとしたその瞬間に──ゴギッ、という鈍い音がした。
「あッ───」
《ゔぇぇええ!!グギャァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!》
俺の口から漏れた絶望の声は小豆団吾の絶叫によりかき消された。何が起こったのか一瞬分からなかった俺だがのたうち回る小豆団吾の口から喉にかけてが裂け、燃えているのを見て状況を理解した。
「···ゴホッ······誰がお義兄様だって?」
「···義弟になるのは俺一人で充分だろう」
「弟を増やすつもりはないですから、ね?先輩」
フラフラと立ち上がりながら冗談を交わす兄貴と先輩の姿に涙腺が刺激された。
ツーンと鼻の奥が熱くなる。
『律花ちゃーん?言っておくけど龍ちゃんは冗談言ってないわよ~っ♡ちゃーんと心から律花ちゃんに惹かれて恋焦がれてるっ!初代の縁で繋がってるアタシが保証するわ~っ♡』
『トウヤもな』
二人が立ち上がるのと同時に傍で倒れていた守護獣二匹もノロノロと立ち上がり、また俺に話しかける。もう冗談とか、冗談じゃないとかどうでもいい。兄貴も先輩もフェニも白蘭も···生きてて良かった······!!
堪えきれなかった涙が落ちる。けど、今は泣いている場合じゃない···。俺は未だ舞台上をのたうち回る小豆団吾に視線を向けた。うつ伏せになり背中で呼吸をしながらヨロヨロと立ち上がろうとするが、兄貴がその頭を片手で掴んだ。
「で?僕の頭の踏み心地はどうだったかなー?」
兄貴は決して筋肉キャラではないがあまりに強く団吾の頭を掴んでいるんだろう。掴まれている方はくい込みそうなその指を必死で引き剥がそうとしているが兄貴は離さない。
「燈夜、その辺にしておけ。コイツには尋問が必要だ」
「···そうですね。早いこと生徒会へ引き渡しましょう」
汚いものを触ってしまったというように(事実煤と唾液で汚れたその姿は汚い)掴んでた頭をぶん投げ、制服の内ポケットに入れていたハンカチで団吾の唾液で汚れた自身の手を拭った。
《捕縛しよう》
《念の為アタシもお手伝いするわね♡》
何時ぞや兄貴が先輩たちを縛ったあの炎を纏ったロープで小豆団吾を捕らえたフェニと縛られた小豆団吾を更に風の檻で厳重に囲う白蘭。
···本当に俺が足手まといだったんだろうな。分かってはいるが正直話して欲しかった。正直に足手まといだからって、いっそのこと試合を見に来るなって言ってくれてたら······。いや、俺のことだから反対を振り切ってでも試合は見に来てただろう。だから···兄貴も先輩も俺にはいわなかったのかな。
今はそんなことを考えてる暇はないのに何故か胸がチクリと痛んだ。
「···遅くないですか」
「煌紀か」
どうやら兄貴たちは生徒会長である聖柄煌紀を待っているらしい。
「千秋、会長は?」
「えっとねー···この時間は会場の見回りに──」
「──伏せてッ!!」
千秋の返事を待たずに楼透が俺と千秋に覆い被さる。細身の体の隙間からは見たこともない程の眩しい光で満ちていた。これは閃光弾を投げ込まれたのか!?しかし爆発音は無かった···ということは──。
《いや~手こずってしまいましたなぁ。団吾···お前が美園から守護獣を奪い、ついでに花嫁を迎えに行くと言うから任せたのに···嘆かわしいことだ。》
治まりつつある強い光。そこに姿を現したのは小豆団吾の父で団吾と共に脱獄した小豆大福だった。この光は光系統の魔法か、何かの魔道具を使って引き起こしたんだろう。黒い布に包まれた何かを背負い、堂々とした様子で歩きながら息子の傍まで寄る小豆大福。
兄貴や先輩、守護獣たちはあの光から目を庇いきれなかったらしい。楼透に守られた俺でさえ、まだ目がチカチカしている。楼透、千秋、霧ヶ谷先輩も光を食らってしまったらしく目を掌で覆っている。状況が見えているのは楼透に庇われた俺だけのようだ。その姿は団吾と同じように鉛色を帯びて、明らかに常人の姿とかけ離れている。
《全く、手の焼ける子だ。···うむ、少々面倒な術式だがあの方なら解いて下さるだろう。団吾、花嫁は次の機会に迎えに来よう。お前は失敗したが、私の方は上手くいった···あの方もお許しくださるだろう》
そう言って小豆大福は風の檻の隙間から団吾に縄を投げた。団吾はいつの間にか兄貴が口腔内で爆発させた炎のダメージから回復していたようだ。自ら器用に体を捻り縄を巻き付かせた。もしかしてここから逃げるつもりなのか···?小豆大福の言っていたあの方って誰なんだ?団吾が失敗したとして大福は何をしてた?何をした?
今この場で動けるのは俺しかいない。白蘭に言われた通り動くべきじゃないのかもしれない。けど誰かが足止めすればまたこいつらを捕えられる。ここで逃がしたらまた厳島領地やこの会場のような被害が出るかもしれない、それに魔法式の破壊···ピスのことも分かるかもしれない。
《ヴェェ!!》
《今はやめておきなさい》
《ヴヴヴゥゥゥゥ·····ヴゥッッ!!》
そう──思っていたが俺は考えることをやめた。
何故なら団吾がナイフを咥えたからだ。計画が失敗したことで、せめて兄貴を始末しようと考えたんだろう。でも···それだけは絶対させない。
「──《解放》射よ」
流風の羽飾りに魔力を注ぎ、そして放った。
当たらなくてもいい。せめて兄貴を狙うナイフの軌道がそれればそれでいい。距離があったから可能な限り細く、そして強くナイフの軌道と交わらせる。
キィーンッ、兄貴に当たる寸前で風に煽られ舞台上に落ちるナイフ。
···良かった。
《ヴェ···ぇ······?》
困惑といった表情が俺を見る。
···今度は俺が守る番だから。
《何をしているんですか団吾!早く──》
「駄目だ···行かせない」
流風の羽飾りのもう一つの秘密。
それは空に浮かぶことが出来ること。
観客席と舞台を隔てる壁を飛び降りると小豆親子に向かって走りながら魔法式の形を創る。初めての魔法だから、上手くいくかは分からない。むしろ暴走する可能性の方が高いだろう。
でも──。
「俺ァ身内に手ぇ出されて、黙ってられるほど柔い性格してねーんだよ」
「《解放》」
「《合成》」
「《増加》」
「──《疾風怒濤・爆》ッッッ!!」
どんな魔道具を使ったのか空に逃げた小豆親子。そんなのはお構い無しに流風の羽飾りで生成した超高熱の爆風を、凱風の篭手に纏って空へ向けて殴った。
兄貴が口の中を爆発させてももう回復し始めるくらいだ。多少のダメージじゃ足止めなんて出来ない。それに普通の人間なら喉を裂かれたら死ぬ、けど団吾は死ななかった。だから少しダメージを与えただけじゃ駄目なんだ。
思っていた通り爆風に煽られながらも渦を巻く火柱から逃げようとしている小豆親子。まだ足りなかったのか···?しかし俺の魔力も一度に注いでしまったせいで尽きかけている。
「······くそ、、なんとか持ち堪え──」
「あ、あにき·····?せん、ぱい···は···?」
声が震える。
手を伸ばそうとするが体が動かない。
しかしそんな俺の様子を気にすることも無く団吾は舞台上に上がり兄貴に近づいていった。司会者のマイクが騒動に紛れて落ち壊れたんだろう···硬い靴音がスピーカーを通して静まり返った会場に響く。
《あぁ!これはこれはお義兄様ぁ!この度は手荒な真似をして申し訳ございません!しかしご安心くださいねぇ···律花くんのことは僕が幸せにしますからゆっくり眠っててくださいよぉ?ぐふふっ》
そう言いながら舞台上に倒れている兄貴の頭を革靴で踏みつけた。力を加えて破壊するというよりも、自分より優位に立つ人間を踏んでいるということで優越感を満たす行為。頭の中がスーッと冷えていく感覚がある。
「律花様、今は抑えて」
「大丈夫だよ」
その声に麻痺し始めていた思考が解けた。
左右を固める大切な幼馴染たち。そしてあの兄貴の炎をものともしなかった先輩が後ろにいる。それに俺も以前までの俺とは違う······!目を閉じると数回深く息を吸った。きっと大丈夫だ。
今俺に出来ることはない。それでも分かるのは下手に敵を刺激しない方がいいこと。大丈夫だ、この学園には兄貴よりも強い人がいる。厳島領地の時は多くの戦力が島の外へ出てしまっていたがここには戦闘経験豊富な教員も、国家魔法士に匹敵する人材も、そして白虎祭というイベントに学園外の戦力も集まっているのだから。
団吾が降ってくる前にフェニと白蘭が俺に伝えてきた意味深な『何があっても決して動くな』という言葉。きっと、先輩も兄貴も何かが起きることを想定していた。何故俺に言わなかったのかは分からない。自分たちで解決するつもりだったのか、それともただ単純に俺のことが足手まといに思って下手に動かせないようにわざと伝えなかったのかもしれない。
そうだったとしたら──そうだったとしても少し···寂しい。
《えっと···ぉ?これかなぁ···?》
怪しい笑みを浮かべながら兄貴の腕を持ち上げ、その手の甲に紅く浮かんだ魔法式に顔を近づけた。何をしようとしているんだ···?そう思っていた俺は、その行動を見て満星さんの言っていたことが脳裏を過ぎった。
《うんうん、そう!これだよ~!全く五家ってなんでこんなに面倒臭いんだろう!魔法式の核が体内を移動するなんて頭おかしい!あ、律花くんは違うよ?僕のお嫁さんはいつも聡明で可愛らしい···ヘヘッ!···でもこれは本当にタイミングが良かったみたいだぁ~···守護獣召喚後ランダムで体表を移動する魔法式の核を手の甲に来たタイミングで、あの美園と厳島の動きを同時に封じ込めるなんて!僕ってほんとにツイてるねぇ!》
俺もこんなこと考えたくなかった。
小豆団吾が脱獄した理由、脱獄出来た理由、それは──。
《僕に人肉を食べる趣味は無いんですがぁ···この式がお義兄様にあっては困るんですよねぇ···それにあの方が求めていらっしゃる。大丈夫ですよぉ···ただ、元あった場所に戻るだけですからぁ》
そう言ってガバッと口を大きく開けた小豆団吾は兄貴の──美園燈夜の拳を口に含んだ。俺が立ち上がろうと、楼透と千秋が飛び出そうと、霧ヶ谷先輩が大鎌を振ろうとしたその瞬間に──ゴギッ、という鈍い音がした。
「あッ───」
《ゔぇぇええ!!グギャァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!》
俺の口から漏れた絶望の声は小豆団吾の絶叫によりかき消された。何が起こったのか一瞬分からなかった俺だがのたうち回る小豆団吾の口から喉にかけてが裂け、燃えているのを見て状況を理解した。
「···ゴホッ······誰がお義兄様だって?」
「···義弟になるのは俺一人で充分だろう」
「弟を増やすつもりはないですから、ね?先輩」
フラフラと立ち上がりながら冗談を交わす兄貴と先輩の姿に涙腺が刺激された。
ツーンと鼻の奥が熱くなる。
『律花ちゃーん?言っておくけど龍ちゃんは冗談言ってないわよ~っ♡ちゃーんと心から律花ちゃんに惹かれて恋焦がれてるっ!初代の縁で繋がってるアタシが保証するわ~っ♡』
『トウヤもな』
二人が立ち上がるのと同時に傍で倒れていた守護獣二匹もノロノロと立ち上がり、また俺に話しかける。もう冗談とか、冗談じゃないとかどうでもいい。兄貴も先輩もフェニも白蘭も···生きてて良かった······!!
堪えきれなかった涙が落ちる。けど、今は泣いている場合じゃない···。俺は未だ舞台上をのたうち回る小豆団吾に視線を向けた。うつ伏せになり背中で呼吸をしながらヨロヨロと立ち上がろうとするが、兄貴がその頭を片手で掴んだ。
「で?僕の頭の踏み心地はどうだったかなー?」
兄貴は決して筋肉キャラではないがあまりに強く団吾の頭を掴んでいるんだろう。掴まれている方はくい込みそうなその指を必死で引き剥がそうとしているが兄貴は離さない。
「燈夜、その辺にしておけ。コイツには尋問が必要だ」
「···そうですね。早いこと生徒会へ引き渡しましょう」
汚いものを触ってしまったというように(事実煤と唾液で汚れたその姿は汚い)掴んでた頭をぶん投げ、制服の内ポケットに入れていたハンカチで団吾の唾液で汚れた自身の手を拭った。
《捕縛しよう》
《念の為アタシもお手伝いするわね♡》
何時ぞや兄貴が先輩たちを縛ったあの炎を纏ったロープで小豆団吾を捕らえたフェニと縛られた小豆団吾を更に風の檻で厳重に囲う白蘭。
···本当に俺が足手まといだったんだろうな。分かってはいるが正直話して欲しかった。正直に足手まといだからって、いっそのこと試合を見に来るなって言ってくれてたら······。いや、俺のことだから反対を振り切ってでも試合は見に来てただろう。だから···兄貴も先輩も俺にはいわなかったのかな。
今はそんなことを考えてる暇はないのに何故か胸がチクリと痛んだ。
「···遅くないですか」
「煌紀か」
どうやら兄貴たちは生徒会長である聖柄煌紀を待っているらしい。
「千秋、会長は?」
「えっとねー···この時間は会場の見回りに──」
「──伏せてッ!!」
千秋の返事を待たずに楼透が俺と千秋に覆い被さる。細身の体の隙間からは見たこともない程の眩しい光で満ちていた。これは閃光弾を投げ込まれたのか!?しかし爆発音は無かった···ということは──。
《いや~手こずってしまいましたなぁ。団吾···お前が美園から守護獣を奪い、ついでに花嫁を迎えに行くと言うから任せたのに···嘆かわしいことだ。》
治まりつつある強い光。そこに姿を現したのは小豆団吾の父で団吾と共に脱獄した小豆大福だった。この光は光系統の魔法か、何かの魔道具を使って引き起こしたんだろう。黒い布に包まれた何かを背負い、堂々とした様子で歩きながら息子の傍まで寄る小豆大福。
兄貴や先輩、守護獣たちはあの光から目を庇いきれなかったらしい。楼透に守られた俺でさえ、まだ目がチカチカしている。楼透、千秋、霧ヶ谷先輩も光を食らってしまったらしく目を掌で覆っている。状況が見えているのは楼透に庇われた俺だけのようだ。その姿は団吾と同じように鉛色を帯びて、明らかに常人の姿とかけ離れている。
《全く、手の焼ける子だ。···うむ、少々面倒な術式だがあの方なら解いて下さるだろう。団吾、花嫁は次の機会に迎えに来よう。お前は失敗したが、私の方は上手くいった···あの方もお許しくださるだろう》
そう言って小豆大福は風の檻の隙間から団吾に縄を投げた。団吾はいつの間にか兄貴が口腔内で爆発させた炎のダメージから回復していたようだ。自ら器用に体を捻り縄を巻き付かせた。もしかしてここから逃げるつもりなのか···?小豆大福の言っていたあの方って誰なんだ?団吾が失敗したとして大福は何をしてた?何をした?
今この場で動けるのは俺しかいない。白蘭に言われた通り動くべきじゃないのかもしれない。けど誰かが足止めすればまたこいつらを捕えられる。ここで逃がしたらまた厳島領地やこの会場のような被害が出るかもしれない、それに魔法式の破壊···ピスのことも分かるかもしれない。
《ヴェェ!!》
《今はやめておきなさい》
《ヴヴヴゥゥゥゥ·····ヴゥッッ!!》
そう──思っていたが俺は考えることをやめた。
何故なら団吾がナイフを咥えたからだ。計画が失敗したことで、せめて兄貴を始末しようと考えたんだろう。でも···それだけは絶対させない。
「──《解放》射よ」
流風の羽飾りに魔力を注ぎ、そして放った。
当たらなくてもいい。せめて兄貴を狙うナイフの軌道がそれればそれでいい。距離があったから可能な限り細く、そして強くナイフの軌道と交わらせる。
キィーンッ、兄貴に当たる寸前で風に煽られ舞台上に落ちるナイフ。
···良かった。
《ヴェ···ぇ······?》
困惑といった表情が俺を見る。
···今度は俺が守る番だから。
《何をしているんですか団吾!早く──》
「駄目だ···行かせない」
流風の羽飾りのもう一つの秘密。
それは空に浮かぶことが出来ること。
観客席と舞台を隔てる壁を飛び降りると小豆親子に向かって走りながら魔法式の形を創る。初めての魔法だから、上手くいくかは分からない。むしろ暴走する可能性の方が高いだろう。
でも──。
「俺ァ身内に手ぇ出されて、黙ってられるほど柔い性格してねーんだよ」
「《解放》」
「《合成》」
「《増加》」
「──《疾風怒濤・爆》ッッッ!!」
どんな魔道具を使ったのか空に逃げた小豆親子。そんなのはお構い無しに流風の羽飾りで生成した超高熱の爆風を、凱風の篭手に纏って空へ向けて殴った。
兄貴が口の中を爆発させてももう回復し始めるくらいだ。多少のダメージじゃ足止めなんて出来ない。それに普通の人間なら喉を裂かれたら死ぬ、けど団吾は死ななかった。だから少しダメージを与えただけじゃ駄目なんだ。
思っていた通り爆風に煽られながらも渦を巻く火柱から逃げようとしている小豆親子。まだ足りなかったのか···?しかし俺の魔力も一度に注いでしまったせいで尽きかけている。
「······くそ、、なんとか持ち堪え──」
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