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本編

77.凱風快晴

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 白虎祭一日目団体戦予選Cブロック決勝。八つのブロックに分かれたうちの一つの予選決勝ということもあり、試合に勝ち上がる度観客席は徐々に人が増えてきていた。

 今の俺達の装備は安全面から出場者全員が任意で装備する軽装備、長袖長ズボン、それに各々の武器だ。千秋は変わらず刀、楼透は特に必要ないが念の為の魔法の補助具として魔力制御機能のあるペンダント、俺は両手に細身のバングルと左耳に羽のついたピアスだ。ふっふっふ、そろそろこの子たちの凄さを見せる時が来たかな?ちなみにそう思うのはこれで四回目だ。まだお披露目出来ていない。戦闘狂じゃないけど予想以上に千秋と楼透が有能すぎて俺戦わせて貰えない···泣く。

 何気に観客席を見渡すと遠くから見ても嫌でも目に入る甘いローズレッドの髪、それに少し離れた所には観客に紛れていても分かる一際大きな男が···。俺と目が合ったのが分かって手を上げる二人にこんな沢山の人の目のあるところで手を振り返すことはしない。



「さて始まりました白虎祭Cブロック予選決勝!三人とも初々しさが可愛いね!今大会Cブロック注目のルーキー、美園律花君、小山内千秋君、蓮楼透君でぇーす!!」


「そして対するは!武術柔術槍術etc···総合的武術、武術流派の王道であり登竜門!武市会後継者、武市将嗣まさつぐ、武市勝安まさやす道輪どうわけい!三部生と二部生トリオだァァ!!」


 かなりテンションの高い司会。まぁ、この試合で決勝に進む組が分かるんだからそれもそうか。司会の紹介と共に舞台に上がると大きな歓声が湧き上がる。応援の声の中には俺たちの名前を呼ぶ声も多いが、圧倒的に武市兄弟の名前の方が多かった。悔しい?別に悔しくない。だって、安牌へ賭けた人たちからの絶対な確信を持った期待の歓声だ。寧ろやる気になった。

 紹介、簡略化された試合のルールが説明され司会の合図によって試合開始の鐘が鳴る。俺達は既に千秋が前衛に楼透と俺は様子見で後方に立った。しかし相手の武市兄弟はニヤニヤと笑って一向に動かない。

「よぉ美園」
「···何ですか?先輩」
「けへっ、ゴミの処理サンキューな」
「っ······。···いいえ、ついでに先輩の眼球もゴミなんで片付けましょーか?」
「は?」

 いやー、ついつい煽っちゃったよね。武市兄弟の表情が明らかに引きついている。でも俺だってかなり頭にキてるからね?

「フンッ、まー可愛い後輩の言うことだから?寛容な俺は許してやる」

「んで、本題だ。俺は今日機嫌が良いからなぁ!取引?つーか、まぁお前に断る理由はねぇだろうがなぁ······美園律花、俺の物になれよ。美園を侍らせたってなりゃ箔が付くなんてもんじゃねぇ···ククッ。まぁお前ら三人に奉仕させるってのも考えたが···そこは俺なりの優しさだな。カハハッ!取引すんならこの試合手加減してやるよ。可愛い顔が傷物になったら可哀想だからなぁ?大切なお友達も痛い思いしなくて済むんだぜ?ケケケケケッ」



 うん。無理。



「お前ら······頭沸いてんじゃねぇのか!?」

 案の定切れた。え、これ我慢するの無理じゃね?気づいた時には飛び出してた。で、俺の新作を紹介する間もなく『起動』させて武市兄の顔面にぶっ放した。その瞬間を見えていたのは恐らく序列圏内の人には見えていたんだろうがほとんどの人には見えなかったようだ。

 流石は武術家の出か、吹っ飛んだものの舞台からギリギリの所で耐えた。···チッ惜しかったな。砂埃が上がる中からヨロヨロと立ち上がる姿に会場中がどよめく。



「···なんだよ、それぇ!!」

「俺の最高傑作だよ」



 ご説明しよう。本来俺のパンチを食らったとしても武市兄が吹っ飛ぶことなんて絶対にない。急所に入っても、手が小さい···(?)せいで多少痛く感じるだけで大きなダメージを与えることは到底不可能。しかし俺が今回この白虎祭の為に用意した最高傑作『凱風の篭手』と『流風の羽飾り』によって一発食らわせることが出来た。どやぁ。

 そして今の技は『凱風の篭手』の固有技で『凱風快晴』のレベル一。効果は攻撃の連続ヒットでダメージ増加と攻撃の度に速くなる拳。身体への負担が大きいのではと心配もあるだろうが問題無用!何故なら、まぁ色々とゴリゴリ混ぜてるうちに特殊なコーティング剤が出来てそれをアダマンタイトで出来た篭手に風聖石って魔石の上位種みたいは石を基盤にコーティングしたら風の力の恩恵なのか、身体が軽ければ軽いほど身軽に、重ければ重いほど強くってめっちゃ面白い武器が出来た。装備効果は装備者への負担軽減。弱点は両手の甲のど真ん中に基盤として配置してる風聖石がどちらかでも壊れたら使えなくなるってこと。能力が使えなくなってもエレメントワイバーンの鱗で覆ってるから防御力は高い。

 そしてもう一つ、『流風の羽飾り』の効果は素早さ、隠蔽、魅力の効果を大きく上げる。隠蔽と魅力の効果を一緒に上げたらプラマイゼロな気もするが、素早さも大きく上がるなら『凱風の篭手』と相性も良いだろうし今回装備に加えた。ちなみに兄貴の守護獣のフェニから前に貰った羽をロッカーで拾って思いついた。風と火で相性悪いかなと思ったんだけどこれが意外な結果だった。風聖石の効果で、風盾エアーシールドが使えるのは想像してたが、フェニの羽と風聖石で爆風弾ブラストバレットも使えるようになっていた。風と火だからドライヤーみたいなイメージかなって思うだろ?試しに使ってみたら読んで字のごとく“爆風”。至急熱制御機能のある夜真珠って宝石を取り付けたことで最低五度から最高三百度までの温度調節が可能なった。弱点は耳から外れたら機能停止することと、風聖石と羽を繋ぐ回路が絶たれたらアウトってとこかな?


「京···てめぇが盾になれよグズが!!」
「っ···すみません」
「行け」
「···いきますっ」


 そして試合は始まった。槍を構えた武市兄弟の従者が俺に向かって走る。流石は武市兄弟の従者と言ったところか槍の動きが読みづらい。右かと思えば左を突かれ、タグを狙った攻撃だと思えば容赦なく槍の長い柄で薙いでくる。

「律花様」
「任せた!」

 防戦一方の俺と入れ替わると楼透は俺の足元を突いた槍を踏みつけ飛び込むと相手の懐に入り込む。そして相手の胴体目掛けて掌底を打ち込もうとしたがタイミングを合わせて横から蹴りが入る。武市弟だ、空手のような型で繰り出される連撃は楼透が攻撃する隙も与えないが楼透も難なく交わし続けて攻撃のタイミングを見計らっている。

「もー!僕がいること忘れないでよねっ!」

「小山内流剣術秘伝、《靫葛ウツボカズラ》──」


 千秋はどこから出したのか手に持つ太刀とは別に、もう一振更に短い刀を太刀と擦り合わせるとキィーンッと言う音と共に、武市弟、その従者、楼透が個々で分断され武市弟とその従者を刃の嵐が襲うように見えた。単純な刀技ではなく、恐らく幻惑系の魔法と融合した技なんだろう。二人を襲った刃の嵐は収まっているのに二人は防御の姿勢のまま動かない。千秋はゆっくり歩いていくと二人の腕のタグを一刀で破壊した。

「おーわりっ!僕の勝ちっいぇいっ」

 楼透に向かってピースする千秋。

「全く···美味しい所だけ食い逃げですか?」
「ご馳走様でした~っ」
「···ウザイ人ですね」

 そんな千秋に呆れたようなイラついたような表情で返す楼透。ちなみに会場はまさかの結果に静まり返り、やがて大きな歓声と武市兄弟達への罵倒と嘲笑の声が聞こえてきた。
 流石は主人公と攻略対象の一人と言うべきか。俺一番最初にキレて不意打ちで一発食らわせただけじゃん。いじけそうな俺だが、千秋と楼透の後ろから凄まじい魔力を帯びた斬撃が飛んでくるのが見えた。


「死ねぇえええ!!《斬血拳》ッッッ!!」

「ッ風盾エアーシールド!!」


 間一髪で俺の風盾エアーシールドが二人を包む。いや、驚いた顔してないで逃げろよ。どうやら俺の魔法の方が強かったらしい。風の盾に当たった斬撃は風の渦に吸収されて消えた。

「律花様ッ!!」
「りつっ!!」

 んー?大丈夫。


「《凱風快晴》」


 “ソレ”が見えていた俺はそう言うと体を捻り勢いづけながら振り向きざま腕を振り切り、突風を巻き込み重くなった衝撃を放つ。

 俺の注意を引く囮として斬撃を千秋と楼透へ放った直後俺との距離を詰めた武市兄。楼透達への攻撃は明らかに魔力の調節が出来ていなかったし当たれば軽症では済まない攻撃だった。だからワザと誘いに乗った。

 人間て怒りのボルテージが振り切れると冷静になるんだな。俺を馬鹿にしたことや俺に対する殺意ならどうでもいい。けど、変わらずピスをゴミと罵ったことも、俺達だけでなく身内に対する暴言も、千秋と楼透への試合を無視した殺意のある攻撃も、全部ムカついた。


「まだやる?」
「ヒッ」


 武市兄はあの図々しい態度が何処へやら腰が抜けてしまったのか座り込んでしまっている。全く、こういう輩は自分より弱い奴には態度がでけーくせにいざ自分が打ち負かされるとタマが弱ぇーつうか。


「で?」


 俺は拳を握り直すと優しく微笑んだ。









「し······Cブロック勝者が決まりましたーーー!!」

 司会の声と共に上がる歓声。俺の足元には自ら付けていたタグを外し、それを手に持つと両手を上げた状態の武市兄。正直このままボコっても良かったんだけど俺って優しいから選ばせてやることにした。武市兄は試合が終わったというのにまだ震えている。一体どうしたんだ?


「···はぁ、手の内を全て明かしてどうするんです」
「律花すごい強かったけど危ないよ~!」

 駆け寄って来た千秋とその後ろからため息をつきながら来た楼透。あ、そう言われれば確かに。まぁでもまだ見せてない機能もあるし?無事に本線まで進めたんだし。

「まぁ···きっと何とかなるだろ!」

 にこにこな千秋は元より、楼透も機嫌がいいのかいつもよりも表情が柔らかい気がする。それを見たら俺も自然と頬が緩んできた。こう言うのなんか良いよな。


 試合後準備室から出ると兄貴と先輩が待っていた。めっちゃ心配されたが、安心してくれ。この俺の新作魔道具たちからの魔力消費は使った魔力を風として纏うことで循環させている。だから魔力の封印が解けたとはいえ総量は大して変わっていない俺でも十分扱える代物だ。説明繰り返すとなんとか納得してくれた過保護な兄貴と心配性な先輩。


「あとは僕に任せて」
「···燃やすなよ?」
「はははっ」
「見事な試合だった」
「ありがと!先輩の試合タイミング悪くてまだ見れてないんだ」
「気にするな。だが、次の試合はお前の兄を負かすことになる···すまんな」
「聞き捨てならないですね。僕が負けることはありえない」


そう、次は個人戦決勝兄貴と先輩の試合だ。
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