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本編

76.白虎祭一日目

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 一年に一度の祭りでもある白虎祭でやる気に満ち満ちているのは生徒だけに限ったことでは無い。生徒たちの戦闘力が試される場でもある為、外部からのスカウトマンも多く招待されている。

「よぉ~、坊主久しいなァ」
「権藤田さん!」
「まさかあのヒヨコが俺の命の恩人の弟だって言うじゃねぇかァ?ビックリしたぜェ!今度商会に来たら勉強させて貰うからよォ」

 あのエイド・権藤田がまだ生きていたことや命の恩人が俺の兄である美園燈夜だと聞けばそれはそれは驚いた。数年前にとあるキノコ型モンスターを掃討したのが兄だという。当時食べられる奴と食べたら食中毒で最悪死ぬ奴がいて、あまりにも見た目が似ていることとドロップアイテムのキノコの香りが良く間違えて食べて亡くなった人も多くいたらしい。が、その毒キノコモンスターを殲滅した英雄が俺の兄美園燈夜で殲滅したって連絡がギルドからあった時に権藤田さん夕食でキノコを食べようとしててそれが毒キノコで······。

 どこか聞いた事のある話だなと思ったら、俺も数年前にキノコモンスターからドロップしたキノコを食べて寝込んだことがあった。俺にも倒せたことと、ドロップしたキノコがあまりにも前世で見た松茸にそっくりだったからこっそり食べたんだよな···。

 まさか兄貴が権藤田さんの命を救っていたなんて驚いた。だから権藤田商会が美園と積極的に仕事の場を設けてくれていたのかと両親の失踪後兄が挨拶に行っていたのも合点がいった。


「んじァ、またなァー!カーッカッ」


 権藤田さんも商会やギルドの従業員として有能な人をスカウトしに招待されたらしい。グラサンをキラめかせるとあの独特な笑い声を響かせながら歩いていった。こういう所でゲームの内容と今が変わってきてることを実感する。

 確かゲームでもフェスタに参加するか、しないかみたいなイベントがあったっけ···。ゲームの白虎祭では一対一の個人戦か三対三の団体戦を選べたけど俺は当然個人戦で無双してた。確か個人戦を選ぶと特定の攻略対象の好感度が上がって、団体戦を選ぶと一緒に出場した二人の好感度が微妙に上がる設定だったと思う。きっとどっちを攻略するか守ってる人向けの演出だったんだろうな。





「律花様、トーナメント表が張り出されたようです」
「ありがと!俺達は最初誰と当たるんだ?」
「んーとねぇ···C予選ブロックの五番だから特に問題なさそうだよ!」
「あぁ、そうですね。この方たちなら私か千秋一人でも充分です」


 相手を馬鹿にしたような言い分だが驚くことに実際こいつらは実践した。試合開始の合図と共に駆け出した千秋と俺の位置まで下がって横に並ぶ楼透。駆け出した千秋の手には日本刀に似た小太刀が一振あった。「小山内流剣術、《蝿地獄ハエジゴク》──」カチンッと言う音と共に本当に一瞬で相手三人の腕に付けられたタグを破壊した千秋は振り返ってパタパタと俺たちの元へ駆け寄ってきた。まるで褒めて褒めてっ、とでも言いたそうなキラキラした瞳に絆されよしよしと頭をかき撫でてやった。

 本来アカソマの主人公である千秋の武器は近接武器から中距離武器、果ては遠距離魔法まで何でもござれのチート能力保持者だ。だから初めて見た時も決して驚きはしなかった。が、あの剣術?の名前は初めて耳にした。ゲームでも小山内流剣術なんて無かったし、戦う時の言葉は精々『えぃっ』『やぁ!』『うわぁぁっ!』の三種に好感度によって流れる特別ボイス?だったか?何を言ってたか忘れたけど、技の名前は知らなかったからこれには驚いた。まだまだ俺の知らない裏設定とかあるのかと思うと面白く感じる一方で何が俺の生死に関わるか分からない所が煩わしくも思う。原作者誰なんだよ!前世で調べておけば良かったと少し後悔している。原作者の物語傾向が分かればこんなに裏設定にビクビクしないですんだかもしれないのに。

 一戦目を余裕で通過した俺達。二戦目、三戦目も順調に勝ち進み気づけば次の試合で勝てば明日の本戦へ出場出来るところまで来ていた。ちなみに未だ俺の活躍はない。千秋と楼透の後ろで突っ立ってただけか、座って鑑賞していただけだ。

 次の試合は昼休憩を挟んでから始まる。楼透が用意したレジャーシートに腰掛け三人で昼食を取った。昼後二戦目の試合が俺たちの出場試合のため食べ過ぎないようにむしろ少なめにした為、早く食べ終わり昼休憩が終わるにはまだ早い時間だったこともあり俺たちは個人戦の試合がやっている演習場へと向かった。

 トーナメントの配置を見ると兄と先輩が当たるとしたら決勝となりそうだ。個人戦は団体戦と違い序列を大きく上げたい者や自身の実力に自信のある猛者が出場する。そのため予選はバトルロイヤル形式で制限時間の間盤上に残るか、本戦の出場枠の人数まで減ったら本戦へ出場出来る事になる。そして試合数も団体戦と比べて少ない為、本戦トーナメントも例年通りなら夕方になる前には終わる。団体戦は出場組数が多いことと試合時間が個人戦よりも少し長い。予選も第一から第三演習場のうち、ブロック別で第二演習場と第三演習場で試合があった。ちなみにもし本戦へ勝ち進んだとしたら試合は明日フェスタの二日目に第二演習場での試合になる。

 今は準々決勝で先輩が三年生と試合をしているようだったが会場から湧いた歓声に勝負はついたらしい。直ぐにトーナメント表が変えられ、先輩が勝ち進んだことが分かった。そして次は驚くことに兄と霧ヶ谷さんが試合をするらしい。会場の席に着くと丁度二人が演武台に上がったところで審判がルール説明をしていた。

「ねぇ、霧ヶ谷」
「···はい」
「手加減しないでくれる?」
「はい···いっ」

 聞こえた会話はこれだけだ。あとは兄貴お得意の火炎が会場に咲き乱れる。防御冷却機能が作動している会場の観覧席からでも熱さを感じるのだから、演武台にいる二人はまさに灼熱の世界にいるようなものだろう。演武台上に咲く業火の花、その勢いや強さから兄の魔法制御レベルも格段に上がっていることが分かる。暫く状況を見守ると霧ヶ谷さんは背中に背負っていた自分の身長を優に超える大鎌をブンッと振りかざした。その姿はあの儚げな印象の霧ヶ谷さんとは打って変わった様子でブンブンと振り回し始める。暴力的でなく、至って軽く振っているように見えたが強さを増していた炎がまるで霧ヶ谷さんの言うことを聞くように小さくなって消えていった。

「···その···熱いです」
「毎度思うけど君、どうやってやってるのそれ?」

 わああああああああーーー!!っと盛り上がる観客席。そりゃ当然だ、誰がどう考えてもあの火炎の渦からは抜け出すのも難しい状況であったのにあの大きさの鎌を振り回しただけで炎を消してしまったのだから。


「じゃあ、第二ラウンドだね」


 そう言って再び炎を出現させようとした兄。だが、カツンッと落とされたタグを霧ヶ谷さん自ら大鎌で砕いたことで勝敗は決した。会場から巻き起こるブーイングに審判が理由を聞くと「···すみません···眠いので棄権します」と答えその場に倒れ込んだ。心配する声があがる中、駆けつけた養護教諭に睡眠不足と判断され勝敗は不戦勝で兄の勝ちになった。仕方がないと呆れた様子の兄だったがすぐに観客席へ向き直るの一礼した。顔を上げた時に観客席にいた俺と目が合う。俺が軽く手を振るとと嬉しそうに笑った。

 個人戦の準決勝以降の試合は昼休憩を挟むらしい。夢中になって試合を見ていたが、時間を確認するとそろそろ俺達も戻って準備を始めなくてはならない時間だ。


「次誰だっけー?」
「トーナメント表更新されてなかったからな」
「そろそろ張り出されているかと」

 楼透の言う通り会場に戻ると更新されたトーナメント表が張り出されていた。トーナメント表の赤いペンで上書きされた線を辿っていくとそこには知った名前があった。

「···武市兄弟」

 次の本戦を前にした試合の相手はピスをゴミと罵り、虐待の疑いがあったあの武市兄弟だった。ピスに愛着が湧いてしまった俺としてはピスと出会った時のことを思い出すと腹立たしい気持ちだ。

「もう一人は従者だね···楽勝」
「己の立場を理解させる良い機会ですね」

 千秋も楼透も思う所あるのかかなり不穏な空気を纏っている。「一応試合だからな?思念を持ち込むと隙を突かれるかもしれないし、至って冷静に至って落ち着いた対応をしような?」と二人を宥めた、のだが······。






「お前ら······頭沸いてんじゃねぇのか!?」

冷静さを一番に失ったのは俺だった。
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