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本編

68.白虎祭に向けて

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「千秋と白虎祭の団体戦に出たいと?無論了解している。私を通さずとも良かったのに律花君は几帳面なのだな、生徒会長としてとても好感が持てる。白虎祭頑張ってくれたまえ、私も応援している」




千秋は会長の従者になった事で、登下校中に楼透が俺に付き添うように一緒に登下校は出来ないんだろうとは思っていた。だから、学園に着くなり千秋を探すと思った通り会長と一緒に正門前であいさつ運動をしてた。
朝が苦手な千秋はうとうとしながら旗を持って立っている。

会長に挨拶のついでに白虎祭で千秋と共に団体戦に出たいと申し出た。
勿論周りに人が居ないことは確認済み、その為に少し早めに家を出てきたから。


「あ、りつかぁ···おあよ」
「おはよ。まだ眠そうだな」
「···うん、ねむい」


目を擦りながらそう言った千秋はハッとしたように急に表情を引き締めた。
千秋の視線の先を辿ると会長のキラキラとした笑顔。
どうやら躾という名の調教は順調のようだ······?


「千秋、律花君と共に教室へ行くといい」
「へ···?あいさつのやつは?」
「律花君は休み明けだから提出物や授業に不安もあるだろう。私が抜けられるようなら抜けて、一部生の教室へ向かってもいいのだが······」


会長は更に煌めくような笑顔で「理由の無い遅刻は許されないからな」と言った。···理由があれば免除されるのか、それとも······と思いつつ遅刻する生徒の大半がちょこっとヤンチャ系の人達だし何か言われるかも知れないのに何故そこまで笑顔でいられるのかが不思議だ。

会長から許可が出たから千秋を連れて一部の教室へ向かう。楼透は中等科三部生なんだけど、千秋と二人きりになってしまうから予鈴ギリギリまで一緒にいてくれる。ラヴィラン学園は生徒同士の交流を深める目的で初等科から高等科の生徒は他学科の教室へ入ることを禁止されていない。中には初等科の弟が心配だけど、日直だから自身が予鈴ギリギリまで初等科教室に居られない為に中等科教室に連れてきて予鈴前に初等科教室まで送り届けた奴もいる······お察しだろうがうちの兄貴のことだ。

教室へ向かう廊下でもずっと欠伸をしている千秋。
昨夜は眠れなかったのか?


「···いつもより寝るの遅かったから。···会長が勉強教えてくれて」
「そっか、お疲れ」


あの千秋にしては珍しい。勉強は嫌いだと宿題を広ければ鉛筆を転がし、掛け算覚える前にペン回しを覚えたあの千秋だぞ?···この子は真面目に勉強を教えて貰ったんだろうか、それともあの会長の事だから千秋をやる気にさせる方法でも見つけたのか。まぁ、ペン回しの話なんてかなり前の話だけど。


「なぁ、白虎祭だけどさ···もう一人決めちゃったか?」
「んー?もう一人って?」
「···団体戦、三人一組だろ?」
「···忘れてた!」


俺が言えたことじゃないがお前もか!
楼透が呆れるようにため息をつく。


「千秋も律花様も本当に俺より年上なんですか?···仕方がないですね、お二人では不安なのでどうしてもと言うなら参加してあげないこともありませんけど···」
「···律花、楼透なんか前より図太くなった?」
「な、」
「本音を言ってるだけ可愛げが出たからじゃないか?今は照れてるだけだし」
「確かにそうかもっ楼透可愛い~!でも律花が一番可愛い!」


そう言って楼透の頭をわしゃわしゃと撫でる千秋、逃げる楼透。
···俺がアカソマの世界に転生したと知る前の光景。


「···っ」
「律花?」
「、何でもない···俺足手まといだとけどさ、頑張るから」
「だいじょーぶ!内緒だけどね···とっておきがあるから楽しみにしてて!」
「···律花様の戦力なんて当てにしてないのでご心配無く」



千秋は内緒と言いつつ秘策があることをばらし、楼透は俺をバカにするような言い方だけど俺に気負わせないようにそう言ってくれているのが分かる。フォローの仕方にも個性が出るなと頬が緩んだ。

···俺も本格的に製作し始めよう。



話をしているうちに教室についた。休んでいた間の授業内容がどこまで進んだか千秋のノートと照らし合わせるが、後から書き込まれた会長の字と思わしき文字が授業の進行をメモしていた。千秋を問い詰めるとノートを取り忘れていて昨夜会長に教えて貰ったと······会長もどうやら授業担当の先生に確認までしてくれていたらしい。

千秋は自分のノートとは別に厚く重なった紙束を鞄から出すと楼透にと渡す。俺達の授業内容とは別に中等科の授業内容まで会長は纏めてくれていた。これには俺も楼透も驚いて顔をを見合せてしまった。


「門の所で言ってくれれば···!···あとでお礼を言わないと」
「···生徒会長は何をお好みでしょうかね」


お菓子でも渡すかな、好みは流石に分からないから無難にクッキーでも焼いてもらって渡すことにする。俺が作ってもいいが去年のクリスマスの事もあるから···やめとこう!


一つの机で三人ほど座れる長机、机は指定席ではなく自由席だ。他の生徒が来た時に邪魔にならないよう端の席に座り右から順に俺、楼透、俺の前の席に千秋が振り向いて座った。その後は楼透の事や厳島領地で起こったこと、その他他愛のない話をしながらノートを写していく。本当によく纏められている、千秋のミミズが這ったような字をカバーしつつ午後まで見易くなるなんて。五家会議の前、蓮家の一件の後は俺もあの運命の日の事で頭がいっぱいで授業に集中出来ていなかったからとても助かった。どうやら俺が休んでいた間の授業は大して進んでいないらしい。まだほとんどの科目が中等科の復習と言うか、応用の為の基礎だった。

基礎は恐らく大丈夫だと思う。技術、実技が絶望的だったから座学だけはと予習復習頑張ってたし···勿論休んでいた間のブランク?と言うのだろうか。勉強もしてない期間があった分不安がないとは正直言えないがこれから取り戻して行けばいい。


「白虎祭っていつになるかな?」
「そうだな、大体一ヶ月くらい準備期間があるから···」
「例年通りなら来月上旬から中旬ではないかと。そろそろ通告されるのでは?」


今年は色々なことがあり過ぎて高等科の入学式から二ヶ月近く経つが、短い期間とはいえ逆行転生とやらをしたせいか体感ではその倍以上に感じる。だから例年通りと言われてもピンと来ない。

「じゃあ、早めに演習場借りよ!」
「練習室の方も予約出来るか調べてみます」

演習場は外にあって実際に白虎祭でも会場として使われる為に実践を想定した練習が出来る。又、練習室って言うのは室内だから実践を想定してってなると狭いけど魔法式を飛ばす練習や、魔力制御の練習に向いている。俺がいつも練習するのは練習室だ。演習場では藁人形目掛けて魔法式を飛ばしても成功するのは三分の一、楼透に補助して貰って成功した数は両手両足じゃ足りない。

丁度時間が朝礼の予鈴十五分前になったのを見て、楼透は席を立ち上がった。教室にはもうほとんどの生徒が来て座り各々何かをしている。早めに中等科棟へ向かい、ついでに演習場と練習室の予約も取ってきてくれると言うのでお願いした。会長と千秋の主従関係?はかなりユルいらしく、会長に事前に連絡するか、急な場合でも報告すれば許して貰えるらしい。···企業とかだったらホワイト過ぎて逆に不安になってくるレベルだ。それでも今の所の千秋に目に見えておかしな変化は見当たらないようだから、様子を見ても良いのかもしれない。



「律花···」
「どうした?」
「大好きだよ」
「······友達としてなら、俺も好きだけど?」
「うぅ~、好き好き好き!」


両手で顔を覆い興奮した様子の千秋だが、一度深呼吸するとぷくりと頬を膨らませて上目遣いで俺を見る。しかし直ぐに笑顔になると、「知ってる···でも諦めないかんね!」と言ってバラバラに散らばっていた鉛筆を筆箱に戻し、机の上を片付け始めた。


「朝礼ー、日直ー」


片付け終え、俺の方へまた振り返って何かを言おうとしたタイミングを見計らったように先生が教室へ入ってきた。千秋は恨めしそうに先生を睨めつけながら、チラりと振り向いて笑った。

















授業を終えると昼休みに楼透が来た。予約を確認したところ、練習室はまだ予約の空きがかなりあったらしく、三日四日分とりあえずではあるが予約してきてくれたらしい。けれど演習場の方が今日の放課後の三十分を逃すと二週間後が空いているかどうかと言った予約状況だったらしくこちらも予約してきてくれた。俺や楼透の体調面では今直ぐに実践を想定した練習は難しい···けれど、演習場の予約がまた取れるとも限らない。

急ではあるが会長へ伝えに千秋を向かわせる。今朝の放課後でごめんなさい、けれども本格的に白虎祭が近くなれば予約も思うように取れないだろうし···。


帰ってきた千秋は汗びっしょり、はあはあ肩で息しながら大きく腕を丸にした。
それを見て俺が廊下を走るなと説教したのは言うまでもない。




三十分、時間は限られている。実際に会場となる空間で実践を想定して訓練することも大事だが、体調面等万全でない以上はイメージトレーニングをすることも大切なことだ。傍から見ればチャンスを棒に振るような事と思われるかもしれないが、白虎祭直前まで激しい運動は控えるべきだけど本気で挑みたいからこそ俺たちに出来ることをやりたい。


放課後予約の時間に行くと前の予約の人が演習場にいて、練習用の藁人形が散らばり演武台の上はまた片付いていなかった。しかし練習着から三部生のようで一部生の俺達は強気に出られないことを知っているんだろう、俺達が来たことに気づいても片付ける気配もない。未だに飛び交う魔法式と藁人形から砂埃とともに藁が舞い落ちる。本当なら千秋は実践演習、楼透と俺はイメトレ且つ千秋の動きや魔力操作の癖から作戦を立てる予定だったんだ。



「どうしようか」

「武市子爵兄弟ですか、あの方達の気性ならこちらの言い分など無視されてしまいそうですね···。禅羽先輩が居れば良かったのですが、あの人は所用で俺の代わりに動いてますし···」

「···所用?」

「確定したら律花様にもご報告しますよ。···千秋は何してるんですか?」



そう言った楼透の視線の方向を向くと千秋が演習場の端で座り込んでいる。よく見たら藁人形から落ちたのか、一本の藁を手に何かをつついているようだ。そんな千秋の背中にそろそろと後ろから近づいて、その何かを覗き込む。


「······何だ、それ」
「これは···」


千秋がつついていた何か──。
それは泥で汚れた丸い毛の塊だった。
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