悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?

紡月しおん

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本編

66.足りないもの

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先輩に訳を聞けば守ると言って守りきれなかった事。俺の呼吸を戻す為とはいえ許可もなしにキスした事。怖がっていた小豆親子と鉢合わせる可能性もあったのに危険な場に連れて行ってしまった事。順を追って謝られた。

先輩は謝る必要なんてない。先輩は十分俺の事守ってくれたし、むしろ足でまといにしかならないのに俺の事を守ると言ってくれて嬉しかった。


「先輩、助けてくれてありがとう」
「っ······俺は守りきれなかった」
「でも先輩がいたから安心してたし、先輩がいるからって俺自身何をしようと思ってたわけじゃなかった。···それに俺が取り乱したせいで──」


俺がもっと冷静に考えられていれば······そうすれば先輩に行動させなくて済んだし、その結果相手を激高させて攻撃を受けた。ここは安全な日本じゃない──それは分かってるのに······家族を失うかもしれないと思うとどうしても冷静でいられなくなってしまう。


「···当たり前だ、目の前で兄が吹き飛ばされて取り乱さない弟はいないだろう。俺は去年の経験から魔人を甘く見ていたし、同時に俺達の能力を過信していた」


先輩の言葉を否定出来ず俺は黙った。そんなことない、って言いたいけれど俺自身も兄貴と先輩の強さを学園が設定したランキングでしか分かっていなかった。実際にパーティを組んでギルド討伐依頼を受けてた訳じゃないのに、二人の実績と他の人からの評価でしか二人を見れてなかったんだ······。


「先輩、ごめんなさい。それは俺も同じだった···何もせずに守られてるなんて都合のいいことないよ。······魔力が上手く使えないなりに魔道具使うとか、補助的に使える薬品を装備しとくとか戦闘の方法はあったんだ。持ち運びしにくいものだからいつも持っていられる訳じゃないけど、常備しやすい俺の戦う方法を見つけるべきだった」


······正直学園の外のことを侮ってた。俺はこのゲームの戦闘内容を主人公目線で知っていたからと言うのもあるし、学園での実技テストもいつもぎりぎりだけどギルドランクEクラス想定って言ってたからその現場にいても逃げるだけなら通用すると思ってた。
弱いから、魔力が使えないから、それでも魔力が使えるようになればってそう言い訳して逃げてたんだと思う。俺が一人で自立するには自分の能力を学園の外で通用させないといけないのに······。でも、今回俺の魔力が封印されていてコントロールもあと数十年は安定しないと聞いて······目を逸らしちゃ駄目なんだって。


「しかし俺はお前と約束したのに──」

「おしまい!先輩は自分が悪いって言うけど俺も悪かった。それに俺も悪い俺も悪いって二人して言い合ってたらキリがない。自分のマイナス面分かったんだからそれを直す為に変わらないと駄目だ······って俺が言えたことじゃないけどさ」


俺がそう言ってもまだ何か言いたげな表情の先輩。
気持ちは分からなくない。だって魔人の抑制は成功したものの、魔人なのか人なのか分からなかったとは言え団吾からの攻撃に耐えきれなかったことも悔しいだろう。
······いったいあいつは何をしたんだ?
薬の影響で魔人化したなら途中で捕らえた人が自我を失っていたように、団吾もそうなっていたはず···常用しているかそうでないかとか?どちらにせよ、薬関係なら満星さんの調査結果を待つしかないのかもしれない。

先輩を宥めつつ、珍しく顔を見せない兄貴のことを聞けば先輩と同じように自分が至らなかったことを無念に思って厳島の訓練場で伯父に稽古をつけて貰っているらしい。勿論市場の復興が最優先の為、仕事の合間にって事らしいが。
次は先輩が稽古をつけて貰う番だと言うので送り出した。
終始垂れた耳が見えそうな様子だったから思わず苦笑いしそうになったけど、今回の件がだいぶ堪えたのかずっと真剣な表情でいたから先輩に気負いして欲しくなくて俺は大丈夫だよって俺に出来る精一杯の笑顔で送り出した。


なお、俺が魔力の封印について知ったのは昨日。
···そりゃ体もギシギシになるはずだ。どうやらあの後から丸一日眠っていたらしい。兄貴も先輩も時折俺の様子を見に来ていたようだが全然気がつかなかった。···まぁそれだけ寝てたらお腹も空くか、五食くらい食べてなかったわけだし。

空になったバスケットを見て自分に言い聞かせた。



















「俺やっぱり死んだ方がいいですかね」
「······何故そういつも話が飛躍する?」

お腹いっぱいになったからか俺はまた少し寝てしまった。目が覚めたら横に楼透が頬杖ついて俺の顔を見てて、驚いた俺は飛び上がる勢いで跳ね起きた。
そして最初の一言は俺の心配でもなくため息をついて物騒なことを言った。

「······俺は律花様の何ですか」

楼透はまたしても何も出来なかったと悔やんでいるらしい。
でも先輩と一緒にいるから大丈夫だと思ったのは俺だし、むしろ体調の万全じゃない楼透に負担をかける必要はないと思ったから休んでろと命令した訳で···。

「従者だけど、友達だろ······友達の心配して悪いのか?」

楼透は俺に友達って思われるのは嫌かもしれないけど、俺は友達だと思ってるから······俺だって心配したい。会長と千秋の主従関係みたいに、千秋は護衛なんてした事ないけど従者として認めた会長みたいな考え方だってあるんじゃないのか?
楼透が何を言い出すのか暫く待った。


「···まぁ、俺の命は律花様の物なので勝手に死ぬことは出来ないですよ。だから···要らなくなったら捨てて下さい。······貴方の命令なら受け入れますから」


言ってる内容が凄く悲しくて俺がそう思わせたんだなと思うと辛くなる。
別に楼透の事を要らないって言ってる訳でも、無能だって思ってる訳じゃない。なんて言えば伝わる?俺は楼透の事を従者じゃなくて友達だって思ってるって言っても楼透は罪悪感で受け入れない。だからといって従者じゃなくて友達でいろなんて命令はしたくない。

「···命令するの下手でごめんな?俺は楼透の事、友達だと思ってる······でも同じように思えなんて命令はしないよ。楼透が理解出来るようになってからでいいよ、だからそんなこと言うな」

そう言いながら楼透の頭を撫でててやる。
ぷいと目を逸らした楼透の姿が捨て猫みたいに見えた。

「···子供扱いしないで貰えます?」

少しだけ機嫌が直ったのか目を合わせずにそう言った。
別に子供扱いしてる訳じゃないんだけど······。多分可哀想だったり、可愛いなって思ったりした時に思わず相手の頭を撫でたくなるのは前世からの癖なのかもしれない。
ツキンッと頭の奥が痛くなる······何だろ、これ以上は思い出せそうにない。俺の前世の記憶がバラバラな原因の一つでもある···彼女の名前もやっと思い出したくらいだし。まぁゲームシナリオはある程度記憶にあるから気にしてないけどな。

暫く撫でてたら楼透にいい加減にしろと怒られてしまった。
まぁ、中高生にもなってずっと頭を撫でられてるのもいい気はしないか。俺も満星さんに撫でられて戸惑ったし、どうせなら美人は美人でも可愛い女の子に撫でられたいもんだよな。



その後稽古を終えた兄貴が汗だくのまま現れたのもびっくりした。
いつも綺麗好きで俺の前ではいつも爽やか姿から想像出来ないくらいに汚れた服のままだったから、兄貴も俺に抱きつきたい衝動を抑えてなのか両手を広げたまま硬直してた。

···俺も兄貴の事心配してたから今回は俺の方から近づいてって兄貴の胴に腕を回した。汗かいたからかいつもよりも兄貴の匂いが濃く感じたけど、その運動後の火照った身体から発する熱に安堵して腕を弛めた。
両手を広げて硬直した状態のまま何が起きたのか兄貴も分かってなかったみたい······俺が離れた後に驚きすぎて泣いてた。

抱きついた後に俺も昨日一昨日風呂に入れてなかったことに気づいたけど兄貴は気にしてなかったし、むしろ兄貴に抱きついたことで汚れてしまったか心配してた。まぁ、魔人騒動の後で風呂に入れるのかと言うと水道設備は無事だったらしいので楼透に頼んでお風呂の用意をして貰う。
兄貴に一緒に入るか誘われたが、流石に病人に手出しはしないよな?と思いつつ断った。念には念を、だ。一応風呂場で倒れたらって楼透が脱衣所で待機してたけど無事に一人で入れたし、二日ぶりの風呂でさっぱりした。

風呂から出て、夕飯食べて、寝る。
···俺今日食べて寝てしかしてない気がする。でも焦りは禁物だ、一応今回の件を踏まえての魔道具も考えてた。帰ったら早速試作品を作ろうと思う。
そんなことを考えながら俺はいつの間にか眠りについていた。














───────────────────────────
【美園燈夜─視点】



「ほんまは律花君の口から君に伝えた方がええんやろうけど今美園の代表は燈夜君やし伝えとこ思てな。一応頭に入れといてや、君ら変なとこ焔サンに似て硬そうやからなぁ」


満星家当主から告げられた内容は僕の知らないものだった。
律花自身も今まで知らなかったようだけど······何故僕は気づけなかった?ずっと近くで見てきたはずなのに、律花が魔力操作が上手く出来ないことに苦しんできたことも知ってる。それなのに──。


「これからの事、魔人の件は俺らに任しとき。燈夜君が発端なったっちゅう小豆男爵の件は玄登さん筆頭に俺らも調査に当たるわ。変なとこ優秀なんも焔サン似なんやな、燈夜君の話を聞くと焔サンを思い出してまうわ······昔焔サンも遙さん守るんにストーカー男をボロクソ痛めつけたことあってん、懐かしいわぁ!あ、一応俺焔サンの後輩なんやで?で、満星領地に働きに来てた遙さんに一目惚れして焔サン自身ストーカー──まぁ遙さんのゆく先々でアプローチしはって、当時同僚だった俺が遙さんによう相談されとったわぁ。そんな時に焔サンでさえ厄介ちゅうに悪質なストーカーにまで悩まされて遙さんも災難やったね」

「遙さんが誘拐されかけたとこを焔サンが助けて···それがきっかけで遙さんも諦めてアプローチを受け入れたらしいで。あーあー、俺が満星やなかったら焔サンとって思っとったのに五家関係ない思てた遙さんと一緒になったから諦めとったのに遙さんも五家関係者だったなんてなぁ···」

「魔人化のことといい、五家同士でも子供が作れたことといい、何かあんのやろか······予測不可能なんはほんま気持ちええくらいゾクゾクするわぁ。あ、うちの遠縁にも変態なくらい研究者気質な見所のある子いてなぁ──」



失礼なことと分かっているけど長くなりそうな満星当主の話を聞き流す。
母の出生から五家の均衡が崩れている······。その話を聞いてからずっと考えてた···美園を存続させる為のただでさえ低い可能性、でももしかしたら──。

満星当主の言う何がが何になるのかは勉強不足の僕には考え得ない。でも律花を守るために、愛する人を守る為にはもっと力が必要だと言うことが今回のことでよく理解した。
今の僕の力じゃ足りない、強くならないと──律花を守るために。
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