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本編
62.視察?観光?
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「律花······機嫌直してよ」
今俺と兄貴は絶賛喧嘩中。理由?それは兄貴が楼透をこき使いすぎてるから!いくら馬車馬のようにって言っても馬だってそれなりに休憩させてるわ!
兄貴は何とまだ十五歳の楼透に徹夜で情報集めをさせていた。情報集めはまだ良いとしても十五歳の育ち盛りに徹夜でやらせる事じゃないだろ!楼透が白状した訳じゃない。楼透を俺の部屋で休ませることにしたことに異論を唱えた兄貴が吐いた。どうやら今回だけでなくもうずっと前からやらせていたらしい。
「······俺、兄貴のこと見損なったかも」
「り、律花!?」
わなわなと震える兄貴。しかしこれは自業自得だ。
俺もこの件に関しては許すつもりは無い。
「こんな人でなしは放っておいて行こ先輩!」
「······ふむ」
「律花···先輩も楼透が情報収集に動いていたことを知ってるんだよ?」
「······そうなの?」
「いや、誤解だ。俺は昨夜聞いたばかりだ」
「責任転嫁とか最低」
兄貴の申告によってさらに兄貴への評価は下がる。
······今朝の兄貴は誰だったんだ?本当残念なやつ。
俺はそれからも兄貴を無視しつつ、先輩が案内してくれる場所を見学する。飛行船の造船施設や船舶の停留所、港の灯台を巡って最後に港にある市場だ。
飛行船の造船施設は大きなものから小型飛行機のようなサイズ、もっと小さいのは気球まで様々な航空機が存在した。そんな大きなものを造るから、施設内はとても広かったし来る時に飛行船の中で先輩が話してくれた厳島の魔法技術や飛べる原理等の説明も詳しくしてくれて凄く面白かった。
航空機の施設は市民街よりも高台にあり、災害等いざと言う時の避難場所にもなっているらしい。その為厳島領地内には地区ごとで災害が起きた時に避難勧告の放送を流すことになっていると言う。前世地震災害の多かった日本に住んでいたから津波の怖さも知っているし、勿論沿岸部で怖いのは津波だけじゃなくて台風等悪天候に起こる高波にも注意が必要だ。厳島では、災害が起こった事を想定した避難訓練も定期的に行われているらしい。···やっばり避難訓練大事だよな。魔物の増加や魔王復活の予兆と言う話等、不安になる要素が増えた今、美園領地でも積極的に検討した方が良いだろうと思う。
その後に向かった船舶の停留所は沢山の船と行き交う人々に驚いた。厳島領地は孤島とそれに連なる群島だが、近くの海流の影響で本島から厳島を経由し、再び本島へ向かう方が本島を横断するより速いこともあり利用する商人団も多い言う。その船の安全を図る灯台の光源は、美園領地にある鉱山から取れた純度の高い魔光石をエネルギー元としているらしい。魔光石は魔力に触れるととても明るく光る鉱石で、光る際に大きなエネルギーを放出する。そのエネルギーをさらに規格の大きな魔光石に通し、レンズで反射させて船に合図を送ったり誘導したりしていると聞き感慨深く感じた。
最後に港にある市場へ向かった。
今も兄貴の事は無視してる。
造船施設や船舶停留所までは大人しかったけれど、さっきからチラチラ俺の方を見る回数が増えてきているのでそろそろ限界かもしれない、でも俺は兄貴が楼透に謝って休ませるって約束を守るまで暫く口を聞かないつもりだ。
そんな兄貴と俺の様子を見て、先輩はため息をつく。
「···律花、気持ちは理解出来るがこのままでは燈夜が不憫だ」
「兄貴の味方するんですか」
「味方をする訳ではない、ただ燈夜は自分勝手に楼透を使った訳でないと俺は思う。そして楼透が従う義理の無い燈夜に従ったという事は合意の上だろう」
「つまり兄貴に従った楼透が悪いってこと?」
「違う、お前の兄貴は確かに自分勝手だが何も考えていない阿呆じゃない。···お前が不在の間もとある貴族の違法薬物の取引と人身売買の記録を一人で収集し摘発に尽力した。······厳島でも違法薬物の流通が問題になっていた。一端ではあるが燈夜が大きく貢献した事は確かな事実だ」
先輩が語り終えない内に俺は兄貴を見た。
兄貴は気まずそうに目を逸らしている。
······どういうことだ?
「敵に塩を送る、と言うのは不本意だが······燈夜は優秀だ。但し燈夜は一人しかいない。それが理由にはならないが昨夜まで燈夜は摘発した貴族から流れた薬物の後始末をしていた。それは俺が証人になろう······まぁ、燈夜が仕組んでいたのはそれだけでは無いが」
そう言うと先輩はこれ以上兄貴をフォローしないとでも言うように腕を組み目を閉じた。···俺、兄貴がそんなことまでしてたなんて初めて知った。でも別に悪い事をしてる奴の摘発なんて、学生である兄貴がやる必要は無いそれなのに何で──。
「······バレちゃったね。何でって顔してる」
「だってそりゃ──」
「僕の自己満足だよ。律花に手を出そうとしたから、また弱点を握っておこうと思ってたんだけど······調べたら真っ黒。叩けば出るわ出るわホコリのオンパレードってね。流石に僕の手には余るなぁと思っていたら伯父様が手伝ってくれて···」
その後処理を昨夜まで続けていたなんて···。それなら忙しくて楼透にお願いするのも分かる···俺は兄貴の話も詳しく聞かずに酷いことした。確かに楼透は兄貴に頼まれたって言ってただけで、強要されたとは言ってない。
俺は恥ずかしさと申し訳なさで思わず俯く。
「今回は全面的に言葉の足りない燈夜と楼透が悪いだろう。だが結果論であれ、燈夜は今回の摘発で律花だけでなく多くの人を救った。楼透も余程体調が悪かったようだが、無理したのは蓮の一件でお前に怪我をさせた罪悪感からか······従者として真面目な仕事ぶりは俺の耳にも入っている、その点に多少は目を瞑ってやれ」
無理したことを帰ったら楼透へ問い詰めようと思っていた俺の考えを見透かすように先輩はそう言った。···確かに、呪いが解けた今であれ楼透の性格じゃ体調悪くても素直に言い出す筈がない。
「······そっか」
「···僕の事、前よりも嫌いになった?」
俺に嫌われたか不安なのか、恐る恐る答える兄貴。
先輩の十八番眉下げ大型犬(?)を兄貴もやってる。
「違うよ、理由も聞かずにごめん。···確かに急な予定で兄貴だって大変だったよな。でもさ、楼透が可哀想だから流石に徹夜はやめてあげて?」
そう言いつつ怯えてた兄貴がなんだか可哀想になって、兄貴の頭をヨシヨシと······気づいてたら体が勝手に動いてた。慌てて手を離すも兄貴ポカーン、先輩もポカーン。終いに兄貴が嬉しいような、勝ち誇ったような顔で先輩の方を見て今度は先輩が俺に撫でて欲しいと言うように眉を下げ見つめてくる。
······先輩の身長だと背伸びしてもキツイんだよな。
そうしていつの間にか普段通りに仲直りした俺達は市場を目指した。
灯台から市場はそんなに距離も無いらしいので徒歩だ。他の場所は先輩が手配してくれた厳島家所有の馬車で行ったんだけど凄く乗り心地が良くて本音は徒歩になって残念だったんだけど、海沿いを歩くと海風が涼しく磯の香りが気持ち良くて残念な気持ちも忘れてた。
「律花、あまり海に近づきすぎるなよ」
「はーい!···わぁっ!」
島国日本生まれだからか海を見るとついはしゃいでしまう。
と、言っても俺は内陸の方の東京育ちなんだけどね。
「兄貴!見てみて!ヒトデ!」
「あそこの岩ここから見ると怪獣みたいだなっ!」
「あははっ、厳島ってとてもいい所ですね!先輩っ」
以上、はしゃぐ俺。
「可愛いが過ぎる······!」
「···故郷を褒めてくれる嫁は理想だな」
と、そんな俺を見て各々悶える兄貴と先輩。
······どこにそんな悶える要素があるんだ?
まぁ自分で言うのは何だけど流石は乙女系BLゲームの攻略対象者の弟。顔は兄貴に劣るとも、確かに一般的には美人に入る部類だろうけど···ここまで好かれる要因が分からない。コーネリアの加護が強すぎるのかな···消臭剤使ってるけどもっかい確認しとくか。
「律花、一応視察だからね」
「あ、ごめ······先輩ごめんなさい」
「気にするな。予定を満星と別にしたのは従兄弟であるお前達に余計な気を遣わずに厳島を見て欲しかったからだ。律花に良い所だと言って貰えただけでも案内しがいがある。勿論律花との縁が結ばれようが結ばれまいがお前達が厳島の血縁である事に変わりは無いからな。だからお前達も──燈夜、彼奴ら」
あと数十メートルで市場へと言う所で急に重くなる先輩の声に驚いた。
兄貴は先輩の目線の先にいる人物を見ると一瞬顔を顰める。
遅れて俺も二人の視界の先を見るとそこにいたのは──豆大福·····否、小豆親子だった。何やら紙袋を上着の懐で隠し二人揃って周囲を見渡している。あの日の教会での出来事が蘇り、俺の体は思い出すことを拒否するかのように硬直した。
「······律花、少し遠回りしようか」
「············別に。大丈夫、だ」
「燈夜」
「···先輩、律花をお願いしても良いですか?」
兄貴はそう言って俺から離れた。
思っていたよりも拒否反応が強かったのか俺は声が出なかった。
それを見かねて先輩が別の道へ誘導する。
先輩の低く落ち着いた声音に導かれ俺は歩みを進めた。
気がつけば市場とは大分離れていたらしい。
いつの間にか先輩と手を繋いでいた事に気づき手を離したが、先輩は再び俺の手を取ると両手で摩る。緊張していたのか俺の手は凄く冷たくなっていた。
俺の両手を包むとても温かい先輩の両手を見つめる。
······小豆親子、昔も兄貴と楼透が俺の為に情報を集めて貴族派の地方領主との不正な賄賂取引や脱税で摘発されて降格になったはず······当時は主に父が王様に直談判したとか聞いたけど···。
「······やっと温まったな」
「あ、ありがとうございます」
「基礎体温が高くて良かった。こんな時いつでもお前を温められる」
先輩の穏やかな笑顔に自然と強ばった身体の力が抜ける気がした。
そっと俺の両手から少しだけ名残惜しげに手を離す。
兄貴が話をつけると言ったが先輩は事情を分かってるのか···?
一応先輩にも話はしておいた方がいいよな······。
「あ、の······先輩」
「無理に話さなくていい。燈夜から昨夜資料を貰っている」
「······え?」
「摘発したとある貴族······それが彼奴らだ。今回の摘発後、爵位は剥奪。昨日のうちにリガルス州北東部にある監獄島へ移送された筈だが脱獄したか·····経緯がどうあれ厳島にいるのはおかしい」
今俺と兄貴は絶賛喧嘩中。理由?それは兄貴が楼透をこき使いすぎてるから!いくら馬車馬のようにって言っても馬だってそれなりに休憩させてるわ!
兄貴は何とまだ十五歳の楼透に徹夜で情報集めをさせていた。情報集めはまだ良いとしても十五歳の育ち盛りに徹夜でやらせる事じゃないだろ!楼透が白状した訳じゃない。楼透を俺の部屋で休ませることにしたことに異論を唱えた兄貴が吐いた。どうやら今回だけでなくもうずっと前からやらせていたらしい。
「······俺、兄貴のこと見損なったかも」
「り、律花!?」
わなわなと震える兄貴。しかしこれは自業自得だ。
俺もこの件に関しては許すつもりは無い。
「こんな人でなしは放っておいて行こ先輩!」
「······ふむ」
「律花···先輩も楼透が情報収集に動いていたことを知ってるんだよ?」
「······そうなの?」
「いや、誤解だ。俺は昨夜聞いたばかりだ」
「責任転嫁とか最低」
兄貴の申告によってさらに兄貴への評価は下がる。
······今朝の兄貴は誰だったんだ?本当残念なやつ。
俺はそれからも兄貴を無視しつつ、先輩が案内してくれる場所を見学する。飛行船の造船施設や船舶の停留所、港の灯台を巡って最後に港にある市場だ。
飛行船の造船施設は大きなものから小型飛行機のようなサイズ、もっと小さいのは気球まで様々な航空機が存在した。そんな大きなものを造るから、施設内はとても広かったし来る時に飛行船の中で先輩が話してくれた厳島の魔法技術や飛べる原理等の説明も詳しくしてくれて凄く面白かった。
航空機の施設は市民街よりも高台にあり、災害等いざと言う時の避難場所にもなっているらしい。その為厳島領地内には地区ごとで災害が起きた時に避難勧告の放送を流すことになっていると言う。前世地震災害の多かった日本に住んでいたから津波の怖さも知っているし、勿論沿岸部で怖いのは津波だけじゃなくて台風等悪天候に起こる高波にも注意が必要だ。厳島では、災害が起こった事を想定した避難訓練も定期的に行われているらしい。···やっばり避難訓練大事だよな。魔物の増加や魔王復活の予兆と言う話等、不安になる要素が増えた今、美園領地でも積極的に検討した方が良いだろうと思う。
その後に向かった船舶の停留所は沢山の船と行き交う人々に驚いた。厳島領地は孤島とそれに連なる群島だが、近くの海流の影響で本島から厳島を経由し、再び本島へ向かう方が本島を横断するより速いこともあり利用する商人団も多い言う。その船の安全を図る灯台の光源は、美園領地にある鉱山から取れた純度の高い魔光石をエネルギー元としているらしい。魔光石は魔力に触れるととても明るく光る鉱石で、光る際に大きなエネルギーを放出する。そのエネルギーをさらに規格の大きな魔光石に通し、レンズで反射させて船に合図を送ったり誘導したりしていると聞き感慨深く感じた。
最後に港にある市場へ向かった。
今も兄貴の事は無視してる。
造船施設や船舶停留所までは大人しかったけれど、さっきからチラチラ俺の方を見る回数が増えてきているのでそろそろ限界かもしれない、でも俺は兄貴が楼透に謝って休ませるって約束を守るまで暫く口を聞かないつもりだ。
そんな兄貴と俺の様子を見て、先輩はため息をつく。
「···律花、気持ちは理解出来るがこのままでは燈夜が不憫だ」
「兄貴の味方するんですか」
「味方をする訳ではない、ただ燈夜は自分勝手に楼透を使った訳でないと俺は思う。そして楼透が従う義理の無い燈夜に従ったという事は合意の上だろう」
「つまり兄貴に従った楼透が悪いってこと?」
「違う、お前の兄貴は確かに自分勝手だが何も考えていない阿呆じゃない。···お前が不在の間もとある貴族の違法薬物の取引と人身売買の記録を一人で収集し摘発に尽力した。······厳島でも違法薬物の流通が問題になっていた。一端ではあるが燈夜が大きく貢献した事は確かな事実だ」
先輩が語り終えない内に俺は兄貴を見た。
兄貴は気まずそうに目を逸らしている。
······どういうことだ?
「敵に塩を送る、と言うのは不本意だが······燈夜は優秀だ。但し燈夜は一人しかいない。それが理由にはならないが昨夜まで燈夜は摘発した貴族から流れた薬物の後始末をしていた。それは俺が証人になろう······まぁ、燈夜が仕組んでいたのはそれだけでは無いが」
そう言うと先輩はこれ以上兄貴をフォローしないとでも言うように腕を組み目を閉じた。···俺、兄貴がそんなことまでしてたなんて初めて知った。でも別に悪い事をしてる奴の摘発なんて、学生である兄貴がやる必要は無いそれなのに何で──。
「······バレちゃったね。何でって顔してる」
「だってそりゃ──」
「僕の自己満足だよ。律花に手を出そうとしたから、また弱点を握っておこうと思ってたんだけど······調べたら真っ黒。叩けば出るわ出るわホコリのオンパレードってね。流石に僕の手には余るなぁと思っていたら伯父様が手伝ってくれて···」
その後処理を昨夜まで続けていたなんて···。それなら忙しくて楼透にお願いするのも分かる···俺は兄貴の話も詳しく聞かずに酷いことした。確かに楼透は兄貴に頼まれたって言ってただけで、強要されたとは言ってない。
俺は恥ずかしさと申し訳なさで思わず俯く。
「今回は全面的に言葉の足りない燈夜と楼透が悪いだろう。だが結果論であれ、燈夜は今回の摘発で律花だけでなく多くの人を救った。楼透も余程体調が悪かったようだが、無理したのは蓮の一件でお前に怪我をさせた罪悪感からか······従者として真面目な仕事ぶりは俺の耳にも入っている、その点に多少は目を瞑ってやれ」
無理したことを帰ったら楼透へ問い詰めようと思っていた俺の考えを見透かすように先輩はそう言った。···確かに、呪いが解けた今であれ楼透の性格じゃ体調悪くても素直に言い出す筈がない。
「······そっか」
「···僕の事、前よりも嫌いになった?」
俺に嫌われたか不安なのか、恐る恐る答える兄貴。
先輩の十八番眉下げ大型犬(?)を兄貴もやってる。
「違うよ、理由も聞かずにごめん。···確かに急な予定で兄貴だって大変だったよな。でもさ、楼透が可哀想だから流石に徹夜はやめてあげて?」
そう言いつつ怯えてた兄貴がなんだか可哀想になって、兄貴の頭をヨシヨシと······気づいてたら体が勝手に動いてた。慌てて手を離すも兄貴ポカーン、先輩もポカーン。終いに兄貴が嬉しいような、勝ち誇ったような顔で先輩の方を見て今度は先輩が俺に撫でて欲しいと言うように眉を下げ見つめてくる。
······先輩の身長だと背伸びしてもキツイんだよな。
そうしていつの間にか普段通りに仲直りした俺達は市場を目指した。
灯台から市場はそんなに距離も無いらしいので徒歩だ。他の場所は先輩が手配してくれた厳島家所有の馬車で行ったんだけど凄く乗り心地が良くて本音は徒歩になって残念だったんだけど、海沿いを歩くと海風が涼しく磯の香りが気持ち良くて残念な気持ちも忘れてた。
「律花、あまり海に近づきすぎるなよ」
「はーい!···わぁっ!」
島国日本生まれだからか海を見るとついはしゃいでしまう。
と、言っても俺は内陸の方の東京育ちなんだけどね。
「兄貴!見てみて!ヒトデ!」
「あそこの岩ここから見ると怪獣みたいだなっ!」
「あははっ、厳島ってとてもいい所ですね!先輩っ」
以上、はしゃぐ俺。
「可愛いが過ぎる······!」
「···故郷を褒めてくれる嫁は理想だな」
と、そんな俺を見て各々悶える兄貴と先輩。
······どこにそんな悶える要素があるんだ?
まぁ自分で言うのは何だけど流石は乙女系BLゲームの攻略対象者の弟。顔は兄貴に劣るとも、確かに一般的には美人に入る部類だろうけど···ここまで好かれる要因が分からない。コーネリアの加護が強すぎるのかな···消臭剤使ってるけどもっかい確認しとくか。
「律花、一応視察だからね」
「あ、ごめ······先輩ごめんなさい」
「気にするな。予定を満星と別にしたのは従兄弟であるお前達に余計な気を遣わずに厳島を見て欲しかったからだ。律花に良い所だと言って貰えただけでも案内しがいがある。勿論律花との縁が結ばれようが結ばれまいがお前達が厳島の血縁である事に変わりは無いからな。だからお前達も──燈夜、彼奴ら」
あと数十メートルで市場へと言う所で急に重くなる先輩の声に驚いた。
兄貴は先輩の目線の先にいる人物を見ると一瞬顔を顰める。
遅れて俺も二人の視界の先を見るとそこにいたのは──豆大福·····否、小豆親子だった。何やら紙袋を上着の懐で隠し二人揃って周囲を見渡している。あの日の教会での出来事が蘇り、俺の体は思い出すことを拒否するかのように硬直した。
「······律花、少し遠回りしようか」
「············別に。大丈夫、だ」
「燈夜」
「···先輩、律花をお願いしても良いですか?」
兄貴はそう言って俺から離れた。
思っていたよりも拒否反応が強かったのか俺は声が出なかった。
それを見かねて先輩が別の道へ誘導する。
先輩の低く落ち着いた声音に導かれ俺は歩みを進めた。
気がつけば市場とは大分離れていたらしい。
いつの間にか先輩と手を繋いでいた事に気づき手を離したが、先輩は再び俺の手を取ると両手で摩る。緊張していたのか俺の手は凄く冷たくなっていた。
俺の両手を包むとても温かい先輩の両手を見つめる。
······小豆親子、昔も兄貴と楼透が俺の為に情報を集めて貴族派の地方領主との不正な賄賂取引や脱税で摘発されて降格になったはず······当時は主に父が王様に直談判したとか聞いたけど···。
「······やっと温まったな」
「あ、ありがとうございます」
「基礎体温が高くて良かった。こんな時いつでもお前を温められる」
先輩の穏やかな笑顔に自然と強ばった身体の力が抜ける気がした。
そっと俺の両手から少しだけ名残惜しげに手を離す。
兄貴が話をつけると言ったが先輩は事情を分かってるのか···?
一応先輩にも話はしておいた方がいいよな······。
「あ、の······先輩」
「無理に話さなくていい。燈夜から昨夜資料を貰っている」
「······え?」
「摘発したとある貴族······それが彼奴らだ。今回の摘発後、爵位は剥奪。昨日のうちにリガルス州北東部にある監獄島へ移送された筈だが脱獄したか·····経緯がどうあれ厳島にいるのはおかしい」
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