悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?

紡月しおん

文字の大きさ
上 下
62 / 86
本編

60.心の隅の

しおりを挟む
「腹が減っているから気持ちが急くんだ」 


こんな気持ちで食欲なんて······。他の人がいた手前、お腹空いたとは言ったけど考えれば考えるほど食欲なんて無くなる。食べる時間を考える時間に費やしたいくらいだ······。


「律花、帰ったら都築さんにフォンダンショコラもお願いしようか」
「厳島のシェフも悪くない腕前だぞ?」


「厳島名物は何でしたっけ」
「うちだと···そうだな、パエリアとかか?」
「地中海···!?」
「ちちゅう······?キスして欲しいの?大胆だね」
「違うわ!!」

まさか厳島名物がパエリアだったなんて······普通に日本の漁港をイメージしてたから驚いた。驚いて地中海なんてこの世界にない言葉を言ったから二人とも??だし、兄貴は勘違いするし······。


「分かってる、お前はそれでいい」


俺の視界を隠すように先輩の暖かい手は俺の前髪をくしゃりと撫でた。
俺はこれでいい、のか······?
兄貴と一緒にいると安心するし、先輩が隣にいると自然と落ち着けて······。


「律花が真剣に考えてくれているのは見てるから分かってるよ」
「俺達の我儘だ、律花が病むことは無い。どんな結果であっても一年後俺達は律花の答えに納得する···この一年は俺達が振られる為の心の準備期間でもあるんだ」


···振られる為の準備期間。
俺は答えを出すことに焦って、二人がそんなことを考えていたなんて考えもしなかった。そうだよ、まだ一年もあるのに···。いくら真剣に考えようとしてたって、焦って答えを探すのは二人に失礼だって分かってた筈なのに···。




「律花、何が食べたい?」
「······俺は──」



「二人の······二人のおすすめのやつ教えて」






















「······はぁ、だからと言って食べ過ぎるないようにとあれほど」
「うぷっ······分かってたよ!でも兄貴も先輩もこれもこれもって!」

今度は胃もたれで食欲なくなりそうだ。
胃薬と白湯を楼透に手渡され、もうお腹の中には液体さえも入らないくらいお腹いっぱいなんだけど明日に響くと困るので無理やり薬を白湯で流し込んだ。

「一通り業務を終えましたら燈夜様のお部屋に居ますので何かありましたら内線で呼んで下さい。また暫くしたら様子を見に来るので寝られるようなら寝てて良いですよ」
「·····うん、ありがと」

椅子に背を持たれ、目をつぶりながら楼透が部屋を出ていく気配がした。
···我ながらバカだなぁと思う。
落ち込む度に俺を好きだって奴が慰めてくれるのに、俺は答えてあげられない。

···恋愛感情の好き、それと友達や家族としての好きって違いはなんだろう。俺は彼女の事をどう思ってた?彼女への好きは本当に恋愛感情だった?今ではよく分からない、覚えてないとも言えるし忘れてしまったとも言える。

『文君のばーか!』

喧嘩したときの仲直りの合図······。
···今では顔も、明確に思い出せないのに──。




「············つばさ



『それがリカの番の名か?』
「っ······!!」

声に驚いて瞑っていた目を開けると頭上をコクヨウが飛んでいた。
羽ばたきながら俺を見下ろしている。



『寝飽きたから散歩にでも···と思ったらリカが呻いているのが聞こえてな、可哀想になってカラスセラピーでもどうかと覗いていたのだが······』



聞かれた······?でも俺が転生者だってことは言ってない。
彼女の──翼の名前を呼んだだけだ。
コクヨウは天井スレスレを数度旋回してからソファの背もたれに止まった。



『何故私がリカに好意的だと思う?』

「······え?」

『坊の想い人···と言うのは一因だ。ただそれだけではない······記憶には無いが確かに、リカの器から懐かしい匂いがすると言うのが大きな要因でもある』

『リカはどうやら私の知る人物の生まれ変わりらしい』
「生まれ変わり······?」



生まれ変わりとはどう言うことなのか、器とは?
目を伏せ、揶揄うような様子もなくコクヨウは続けた。



『魂と言うものは分かりやすく説明するなら、“記憶”と言う名の水を入れるための“器”だ。器は新しければ新しいほど壊れにくく、多量の水を入れられるが······所詮は再利用されるもの。数度再利用を繰り返せばいづれは割れて壊れてしまう······』

『リカの魂は私の知人の魂が再利用されている。···リカを一目見た時に、とても懐かしい気持ちになった。······ただ私の魂は既に坊のものだ、器を無くした記憶は未練がましく私の姿で宙を漂っている。入れる器が無いのだから徐々に消滅の一途を辿るのは目に見えているだろうよ······リカの魂が何者だったのか······私にはもう思い出せない。それでも坊がリカを守ると決めたのだから、私はいつか消えて無くなるだろうが···その日まで坊と共にリカを守ろう』

『魂は再利用と言っただろう?未練が強かったのであれば、多少前世まえの記憶が染み付いていたとしても可笑しくはない。リカの顔を見れば分かる······大切な人だったんだろう』




······そうだ、凄く大切で大事な人だった。
未練がましいのは分かってる···でも彼女が、翼が俺を裏切るなんて考えられなくて。俺の何が悪かったのか、何をしてしまったのか、ずっとずっと心の隅にモヤモヤとした何かがあって······。

俺を、律花を好いてくれてる人達に好きだと言われる度に···そのモヤモヤが引っかかって上手く考えられなかった。誰かの好き受け入れて、また俺の目の前から居なくなったら?俺のことを好きじゃなくなったら?···何も言わないで目の前から消えちゃうのかもって──。



『···私から切り出した手前私が言えることではないかもしれないが······お前はお前だ、リカ。言い忘れていたが私はお前を気に入っているぞ?魂に懐かしい気配がしようとも、お前に好意的な理由の一番の要因はお前自身を気に入ったからだ』



そのコクヨウの言葉に酷く胸を突かれた。
鼻の奥がツーンとする、目頭も熱くなって···泣き虫はやめようと思っていたのにこれじゃいつまでも泣き虫から卒業なんて出来ないよ······。

コーネリアたちが言ってた『まだ律花じゃない』って言うのはこういうこと?
···俺は俺ってこと?





「······カラスセラピー、まだやってる?」

『ああ!リカ限定年中無休二十四時間体制だ』


胸を張って答えるコクヨウ。
その返答に笑いすぎてお腹が痛くなった。





「······何やってるんですか」
「···ん、カラスセラピー」
「二人揃って馬鹿なんですか」
『馬鹿とは何だ!私はカラスだ!』
「そう言うこと言ってんじゃないです」

戻ってきた楼透にコクヨウのお腹をもふもふしてたとこを見られた。
···目、赤くなってるかも。バレないといいけど···。

その後楼透は何も言わず、暖かいアイマスクとホットミルクを持ってきてくれたから泣いたのはバレたみたい。それでも何も言わない楼透の気遣いが嬉しく感じた。

















───────────────────────────
【side 厳島龍玄】


「燈夜」
「大丈夫ですよ、内密に行います」
「···知っている、お前の裏工作は学園でも有名だ」
「裏工作なのに有名っておかしな表現ですね」
「煌紀に聞いただけだが」

冗談交じりに交わす会話、燈夜は書類を整理する手を止めずに言った。
弟への執着が無ければ優秀な奴だと思うのだが···。

しかし律花の愛らしさを思えばその執着も分からなくは無い。

律花が泣いた。
いや、本人なら泣いてないと言い張るだろう。
けれどあの紅玉のような艶やかな瞳に帯びた光──。

「弟で変な妄想しないで下さいね」
「······お互い様だろう」

燈夜の律花への執着は三者から見れば大概にしろと言いたくもなるが、俺自身の執着も五十歩百歩だ。律花はまだ俺の事を嫌ってはいないように見える。勿論最初の過ちで律花から嫌悪されていたのは事実だ。しかし俺としては挽回してきたつもりでいる。
···燈夜のように手は出さないようしているし、執拗くしないように距離感も保ってきた。しかし大人気なくも燈夜に嫉妬してそれを律花に見破られるのには羞恥心があることを否めない。


「楼透からの報告で、やはりアルバ州東部のフェルミエ・ダンジョン近辺から魔物の増加が始まったようですよ。近年はやや集団暴走スタンピード気味·····ここの管轄は何をしてたのですかね」
「そこは汐月家領地だ──待て、汐月か」
「汐月が何か?」

汐月と聞いて何故思い当たらない。
······もしや、遥殿は話していないのか?

「···ひとつ聞いてもいいか、母君···遥殿の旧姓は何だ?」
「······まさか」

察しの良い燈夜は分かったらしい。遥殿の母君···つまり燈夜と律花の祖母に当たる、彼女は“汐月家”の令息で厳島の遠縁。だから祖父の後妻として娶られたと燈夜と律花が俺の従兄弟だと知った時に父から聞いていた。厳島へ嫁ぎ、遥殿が七歳の時に失踪したなら旧姓は厳島か汐月···厳島の姓は目立つ。生きていたなら汐月として行動していた筈だ。


「母方の親戚を調べるに当たって、汐月との関係は見つかりませんでした。祖母は母が十五歳の時に亡くなったらしく···母は祖母が亡くなった後は一人で自立した暮らしを送っていたと言っていましたよ。その後直ぐに父が母をストー······付きまとって、執拗いから結婚したと言っていたのを聞いた事が」

「······当主殿はその···変わった方なんだな」

「昔から母一筋だったらしいですよ」


あの燈夜の目が死んでいる。
しかし周囲が見る燈夜への目もかなり瀕死だと気づいて欲しい。


「···汐月は数年前に貴族派に鞍替えした家門だ」
「貴族派······そう言えば昔律花をおびやかした奴らが、最近また律花に唾をつけたらしくて断罪したんですけどね···その家も貴族派でしたし、目立ちますね」
「美園は中立だろう?」
「何かと手を回しやすいので」 
「···お前だけは敵に回したくないな」


どうやら貴族派が怪しい。しかしまだ疑惑の段階だ、決定的な証拠が無ければ王への進言も下手をすればこちらの立ち位置が悪くなる······。


「今日はこの辺にしましょう。貴族派の動向や各地の異常現象もこちらで調べておきます、また楼透にも動いて貰いますよ」
「···あいつは律花の従者じゃなかったのか?」
「そうですよ?“律花の”従者だから、律花への脅威は排除しないといけませんからね。······勿論、それが五家であろうとも律花を虐めた輩は許されませんよね」


そう不敵に笑う燈夜。
···律花にもこの顔を見せてやりたい。


「···程々にしとけ」


そう言いつつ、燈夜の行動を窘めない自分に驚く。
···俺も大概おかしいのかもしれないな。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

処理中です...