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本編

57.厳島領へ

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俺はいつ家に帰ってきたんだろう。
気づいたら自分の部屋の、自分の布団の中にいた。
暗い部屋と見慣れた天井に気持ちが落ち着いてきた俺はベッドから抜け出すとベッドの上に胡座をかいた。両手で顔を覆いため息を着く。


······めっちゃ内容の濃い一日だった。
案の定千秋からの襲撃があって、その後発覚した千秋の能力のことを考えただけでもいっぱいいっぱいなのに、一度目で聞けなかった父についての話を聞き俺は明日兄貴と共に厳島領へ向かわないといけないことになった。

あの後千秋の能力によって先生達に捕まってた禅羽さんが駆けつけて切腹騒動、ってのもあったけど保健室から帰ってきた楼透に禅羽さん止められてて、千秋は両鼻に鼻栓して帰ってきたから何言ってるのか聞き取れないし、俺は父さんの事で頭がいっぱいだし。
そして会長への疑惑は俺の思い過ごしであってほしい。

勿論両親のことは気になるけど思っていたよりも引きづっていない自分に正直驚いている。もし見つかったのなら早く迎えに行ってあげたいし助けになれたらと思う。···こう余裕を持てたのも逆行させた神様達のお陰と思うと腹立たしくもあるが···今は感謝だな。
あと楼透を連れ戻せ、って言う黒羽の助言······黒羽っていうかスイレンの助言か。本当に楼透を連れ戻したことで千秋の襲撃を受けても無事でいられた。あんな命の危機を感じるような体験をしたけれど、覚醒楼透?は相変わらず愛想はないけど、俺の事尊重してくれるし守ってくれたし本当に連れ戻して良かったと思う。
俺も確かに散々な目にあったし、多くの人も巻き込んでしまったけど楼透や千秋の変化に嬉しく思う。勿論二人とも改心したのかは二人次第で、俺はただ信じるだけ。一度自分の思うようにやって死ぬことになったから、今度は自己中にならないで俺の周りにいる人達の事も考えたいと思う。···楼透とも千秋ともこれからやり直せたらいいな。


















「ねぇ、コレに乗ってくの···?」


早朝五時。流石に季節も春から夏に変わる境で日の出の時間も早まって、外は明るくなっているとは言えど早朝。綺麗な朝日を隠すように、邸の庭にどどーんと佇む巨大な曲線が······前世と合わせても初めて見る、飛行船ってやつか。

「厳島はアルバ州の端にある孤島だ。孤島と言うが、まぁいくつかの群島が連なってるからな。船を乗り継ぎ乗り継ぎ行くよりもこれで行った方が早い」

先輩曰く、と言うことらしい。待って·····俺高いとことか無理なんだけど!ただでさえ、先輩がフェニックスで俺を迎えに来た時だって気絶したのに!!そんな涙目の俺を見て、兄貴も先輩も何故かゴクリと喉をならしたが今はそんなことどうでもいい!!

「嫌だ······」
「しかし···」
「大丈夫だよ、律花」

オロオロと戸惑う先輩と、お兄ちゃんがいるよ~と俺を子供扱いで宥める兄貴。だって空を飛んで行くなんて聞いてないしっ!落ちたら怖いじゃん!俺の足を見てみろよ、両足ガクガク震えて産まれたての小鹿のようじゃないか!

······自分でも何を言ってんだろうな。
分かってる、諦めて乗らないといけないことは。それに普通に行ったら転移陣を使ってもテレポート酔いとか、船の乗り継ぎとかも考えれば厳島領に着く頃は明日の昼頃になってる。

慰められながら飛行船に荷物を積み(兄貴と楼透が昨日用意してくれてた)シートに着席すると、体を縮めてベルトをギュッと掴み窓の外を見ないように通路側に顔を向けた。飛行船て、気球みたいな感じに人が乗るところってくっついてるだけじゃん···空にあがったらぽろって取れたりしない?想像したくなくても、ついそんなことを考えてしまう。


「律花······っ、ふっ」
「固まっているな···かははっ」


二人して笑ってるけど笑い事じゃないんだからな!





「律花、目を開けてごらん」
「嫌だ」
「燈夜急かすな。律花、不安なら眠っていろ」
「うぅ···それも無理!俺が寝たらあんたら何しでかすか分かんないし!」

多分飛行船は空へあがったのだろう。下から覗き込んでいるのか兄貴の声が、その後に俺の頭に乗っかる大きな手の感触が。危ないからシートベルトしてて!?って思うけど、厳島の飛行船はその技術と魔法の正確性でエンシェントドラゴンって言うドラゴンの最上位種にでも襲われない限り、離着陸中を除いて船内を動けるほど安全性が高いと言う。最新の魔力探知機を搭載してるから、俺くらい微量な魔力であっても探知出来る······つまり魔物がいても察知出来るし回避出来るし、もし魔物が襲いかかってきてもバリアを張れるって。

確かに空を飛んでるって感じはしないけど······。
目を閉じている間、先輩が飛行船に搭載された機能を説明してくれていた。俺が作ったガン○ムならぬ多機能スーツと言えばいいのか、まぁガン○ムっぽい仮面○イダースーツみたいなやつを改良するのに役立ちそうな知識ばかりで面白かった。厳島の秘匿技術である空気抵抗を少なくする方法も使われているらしく······凄く気になる。

だ、大丈夫だろうか······。
目を開けるだけだ···窓の外を見なければいい。

俺は恐る恐る目を開けた。





「っわぁ······!」

「律花、目を開けたんだね。良かったね」

「これ······これ·········!」

「珍しいな···」


クレイジーバードの群れが飛んでいる。
ただの鳥の群れじゃない、クレイジーバードはその羽根の美しさからマニアには人気で中には数十色もある羽根を集めようとしてる人たちもいるんだけどなかなか羽根を落とさないんだよね···それに倒して死骸になると羽根からは色が無くなってしまって価値がない。そんな綺麗な鳥が群れになってすぐ横を飛んでいる·······きらきらと様々な色の羽根が光って幻想的な光景が透き通るような青い空に映える。

どうやら兄貴が急かしていたのはこういうことらしい。
兄貴は「律花にも見せてあげたかったんだよね、綺麗だね」といつの間にか隣に来て笑っていた。···うぅ、何故だ、兄貴のことが可愛くみえる······。目の病気かもしれない。

「ほら、水分も取れ」
「あ······ありがとう、ございます」

先輩は俺に蓋付きのボトルに入った水を差し出す。緊張していたのか喉が乾いていることに気がついた。先輩って本当によく気がつく人だなぁ···。そんなところは人として尊敬する。
この世界、自販機はまだ無いけどガラスよりも柔らかくて丈夫な原料があって、生成も簡単なんだよね。霧ヶ谷さんから貰った錬金術の中級レシピ集に載っていた。半分ほど飲み終えたボトルを手で転がしながら、再び外の風景を目にし気持ちが落ち着いた。
今更だが何故先輩が一緒に厳島へ向かっているかと言うと、先輩が飛行船で行くから一緒にどうかって誘ってくれていたらしい。俺は色んなことがありすぎて呆然としてたから話を聞いてなかったっぽい。今思えば自業自得。心の準備くらいは出来ただろうに···。


「······兄貴、先輩···子供みたいに駄々捏ねてごめんな?」
「大丈夫、律花の不安が減ったなら良かった」
「人には誰しも苦手な事がある。気にするな、お互い様だ」


俺は昨日の疲れがまだ残っていたのか、二人のその言葉を最後に···今度は怖さからじゃなくて、睡魔で目を閉じた。···兄貴も···先輩も······多少変態だったり、すぐ落ち込んだりするけど本当に良い人だから困る。気を抜かないつもりでも、二人はアカソマの攻略対象で······またいつ変になったっておかしくないんだから。

操られていたとはいえ首に残る、会長に首を絞められた時の感触·······。楼透を蝕んでいた呪いの一遍、あの真っ黒の触手と対峙した時も感じた死への恐怖。大元は愛するがゆえに手に入らないことへの最後の選択肢だったけれど、二つに関連して言えるのは本当に死の危険があったってこと。でもいくら俺が主人公として攻略対象達に狙われるヤンデレルートだったとしても何かおかしく感じるのは俺だけだろうか···。
······もしこれがヤンデレと言うものなら乙女ゲームって怖い。
こんな事案が続くようならハッキリ言って生き抜ける自信が無いな···。
そんな事を思いながら気を失うように意識を手放した。









そして飛行船は早朝五時出発で特に問題もなく厳島領へ着いた。
正確には分からないが時刻はまだ十時半頃と言ったところだろうか?
兄貴の揺り起こす声で目覚め、ほんの数センチ前に兄貴の顔があったからビクリと一瞬身を固めるも体に異常は感じられなかった為どうやらイタズラはされなかったようだ。シートベルトを締め着陸に備える。








「ヨウコソ、厳島へー」


な、なんでお前が──。


「楼透、もっと笑顔でね。ほら律花が引いてる」
「はぁ、そう仰られましても徹夜で頭が働いていないのかもしれないですね」
「また燈夜にいびられたのか、厳島に律花と共に来るなら歓迎する」
「律花様の意見を無視するつもりなら五家の一端厳島家とは言えど容赦しないですけど」
「いびってません。従者である楼透もこう言ってますし先輩も律花の意見も聞いてあげて下さい。兄としてそんなモラハラする男の元へ嫁がせることは出来ませんから」 


飛行船から降りると『厳島領へようこそ!』のロゴが入った小さな旗を振りながら楼透が待っていた、無表情で。何があったか聞こうとする前に三人で言い合ってる。どうやら楼透は兄貴の指示で昨日帰ってから直ぐに先に厳島領へ向かい情報収集をしていたらしい。同情した先輩調子に乗って楼透に威嚇されてるし、さらに兄貴からの援護射撃。仲がいいのか悪いのか······。


「······流石にここまで来ると俺も頭痛くなるわ」

「大丈夫!?(か!?)(ですか!?)」


······ホントに、仲がいいのか悪いのか。
三人揃って俺を心配して······。


「······くくく、もういいわ!」


笑いが止まらなくなった俺は荷物を持ち直すと三人を置いて先にいく。それを慌てて追いかけてくる気配を感じながら笑いを止めた。そろそろ腹筋が痛くなってきたからな。

「兄貴も楼透に無理させるなよ」
「馬車馬のように···って律花言ってなかった?」
「それは例え!···楼透だって病み上がりなんだぞ」
「ご心配有難うございます。しかし律花様ほどやわでは無いので要らぬ心配ですね、律花様は昨夜眠れました?夜更かしすると頭が悪くなるそうですけど」
「馬鹿にしてんの!?」
「いいえ、心配してます」

楼透と合流していつものくだりをやった後、厳島家が用意してくれたホテルにチェックイン。勿論賓客という事で最高級の部屋を用意してくれたんだろう···この世界ではかなりデカい、二十五階あるホテルの最上階だ。五家は各家別のホテルを取ってくれているらしく他の五家の関係者は見当たらない。
五家会議について俺が知ってることは少ない、年に一回は必ず行われていて今年は異例の二回目。会議の会場となるのは五家の領地を順番に巡っていて今回は厳島の番だったって事くらい。


流石はディアルタリカ五大観光地の一つ。
厳島領は海鮮が有名でホテルに向かう途中にも市場が連立していた。賑わう声も聞こえてきてウズウズしたが、兄貴たちは首を振る。······なんと、午後一で会議が始まるらしい。






うぅ、俺のサザエにホタテぇ······。
···この世界、まだ寿司食ってないけど寿司ってあるのかな?
会議が終わったら絶対探そ。
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