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本編
54.運命の日 やや✻
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なんつーもんをプレゼントと偽って入れやがったんだ。
やっぱりあのダ女神信じるべきじゃ無かったかも。手紙には説明書入ってるって書いてあったのに入ってなかったし···本当にスイレンと黒羽が確認した上で異空間収納に入れたんだよな?確かにあの装備品のお陰で助かったとも言えるが、一歩間違えば大変なことになっていた。
案の定、よくあの首輪の使い方が分かったなとコクヨウに聞いたらあのカラス『···何となくだが確信があったからな』と答えた。何となくじゃ確信とは言わないだろ······危ねぇ。
「楼透、大丈夫か?」
「昨日からこれで十二回目ですよ、律花様」
大事をとって、と馬車での登校となった俺が車内で対面した座席の左前に座る楼透に声をかけたら安定の呆れ声。安定の呆れ声って何だって感じだけど、これぞ楼透と言うか。
「······俺の事より律花様の──いえ何かあったら言って下さい、小さな事でも」
そう言ってまたふいっと顔を背けた。言いかけて止めたことといい、外を注視しているように装って頬の赤みを隠すように髪を耳にかけた仕草といい、彼女だったら『ツンデレだぁ!』と両手を上げて喜んだろうな。
好意を持ってくれるのも、心配してくれるのも、友人としてなら嬉しい事だ。けれど楼透や兄貴、先輩のそれは恋愛対象としてのものだから俺としては複雑だ。
皆の好意を利用する、と言えば言葉が悪いが俺自身甘えてしまっている所は多々ある。だからこそ自立しなければと思うが、ヤンデレの思考が分からない。どこまで自立していいのか下手なこと行動しようものならまた発動してしまうのでは無いかと日和ってる俺がいる。
ただ二回目の今世、上手くいってる気はする。
何せ俺の尻は無事だからな!
成るようになる、としか言えない。
学校へ着くと中等科三部生である楼透と高等科二部生である禅羽さんとは高等科の玄関で別れる事になった。何度も何かあれば呼ぶように言い聞かせられそろそろ耳タコだ。
なおコクヨウは昨夜から首輪の中で休むと言って消えた。どうやら装備品は痣として楼透の首からは離れないが、物としては存在しているらしい。
昨日の話の続きになるけど、兄貴とか先輩がそれとなーく美園と蓮家についての噂の続きを流してくれることになったので蓮家の体面も気に病むことは無い。内容は今回の件で楼透と禅羽さんが美園家で使用人として雇われることになった···みたいな感じ。人によってはそれを蓮家は人質として2人の身柄を引渡したと考える人もいるだろうって。
そして楼透が俺に従属してるって事だけど、その件は隠すことになった。もし公にしてしまえばまだ同化してまもなく力が不安定な楼透が俺の弱点となってしまうからだ。俺としては従属させた事で楼透から襲撃される事が無くなったという点で喜ばしいが、楼透の思考や行動を俺に縛り付けてしまっていると言う点において罪悪感がある。
出来ることなら首輪を外してやりたいが、楼透の首に巻き付く茨のような痣は何をしても装備品に戻ることはなかった。痛々しく、美しいその痣······痛みはないらしい。それでも何時までもこのままでは楼透が可哀想だ。この件は黒羽に聞きに行こうと思う。
「ねぇ、律花ぁ?聞いてるの?」
「ん?」
「もぅ~、僕今日は姫当番だから一緒に帰れないって話!······朝だってしばらくは一緒に登校出来ないのに。律花が足りないよ~!」
そう言いつつ休み時間度に俺の机に突っ伏して下から俺の様子を見てるくせに何を言うか。律花が足りない~と言いながら俺の背後に回ったと思えば上からのしかかられる。子供みたいだな、と言って俺は千秋の頭をクシャクシャにしてやりながら宥める。
まだ······まだ大丈夫なはずだ。
「えへへ~」
「機嫌直ったか?」
「うん!律花大好きぃ~」
その後の休み時間では楼透の話だったり、怪我の具合だったり、白虎祭の話だったり、色々な話をしたが千秋の様子は特に変わらなかった。勿論楼透の話をした時は千秋も幼馴染として心配していたし、楼透が無事に学園に復帰出来ることになり喜んでもいた。
こんな姿を見てると千秋が俺を監禁した事やその過程で人を殺したなんてどうしても思えない。お前が主人公なんだから、男なんて沢山いるのに何故俺なんだ。
「気をつけて帰ってね!」
「あ、あぁ···お前もな」
あの日の千秋が脳裏に浮かんだ。
あの日も、千秋は姫当番で一緒に帰れなくて気をつけて帰るように俺に言った。無邪気なその笑顔。どうか、あの日が今日じゃないことを祈るしかない。
「行ってくるね~」
「廊下、走るんじゃないぞ」
「分かったあ!」
言ってる傍から廊下を駆けていく。廊下の突き当たりの俺が見えなくなる所でもう一度振り向いて大きく腕を振る千秋。あれじゃ他の生徒に迷惑だろうに。ぶつかりそうになって謝っている。
さてと。
俺はもう一度教室に入った。もう既に教室に残っている生徒は少ない。皆帰ったか、部活動の活動場所へ向かったかして、その残っている数人も教室を出ようとしていた。俺は自分の席には座らずに教室の後ろの方の扉が視界に入る位置にある席の椅子を拝借して座る。
本当は気づいてたけど嫌な予感はずっとしてた。
今日朝、登校中からずっと。まさかとは思ってたけれど···。
さっきのやり取りや俺だけ従者の迎えが遅れてる事も。
タイミングがあの日と同じで、それが余計に確信に繋がる。
ここに居てはいけない。禅羽さんを探しにいけ。
あの日と同じく俺の心はそう言ってる。
それでも教室から出ないのは今度は楼透がいるから、頼りになる従者が二人もいるから。あの日の反省点の一つとして自分の気配察知能力を過信して二部棟に行こうとしたことだと思う。そりゃ、周囲の状況を完全に察知出来てなければ襲われる可能性だって高くなる。
だから今回は教室で楼透と禅羽さんを待つ。
勿論、二人が来る前に襲われようものなら逃げるけれど···。
どれくらいの時間が経ったか分からない。
体感的には二十分弱くらい待っている気がする。二人が来ない事への不安と焦りに教室を出て探しに行きたくなる。先生でもいい、生徒でもいい、誰か──。
ガラガラガラ。
突然の扉が開く音。
誰が入ってきたのか、すぐに顔を音の方へ向けるとそこには──。
「律花君、まだ教室に残っていたのだね」
「······会長?」
会長が入ってきた。予想していた人物と違って驚いた俺。
···待てよ?今日は千秋が姫当番で会長の所へ行っている筈なのに何故会長は一部生の教室に······。よく見ると会長の目が座っているように見える。
もしかして会長は千秋に操られてる······のか?
確かに前回も自分の意思とは関係なく、俺を犯して──。
「······律花君、何を言うかと思うだろうが今すぐ私から逃げてくれ」
え······?
そう思う間もなく会長は俺との距離を縮める。流石学園トップ、無駄のないその動きに驚きつつ俺は背中を向けないように注意しながら会長から離れる。
が、間に合わない。
気づいた時には会長は俺の直ぐに目の前に来ていて腕は真っ直ぐに俺の首を掴んだ。殺す気は無いのか、それとも俺をじわじわと窒息させて殺そうとしているのか······強くはないが逃げられない強さで首を掴まれている。息苦しい······首を絞められたことで息が出来ない訳ではなく、真っ直ぐに掴まれた俺の首·····どんな馬鹿力だと思うが会長との身長差で俺の体は持ち上がりつま先立ちで支えるのがやっとだからだ。俺は両手で会長の手を引き剥がそうとするが1ミリも動く様子がない。
「···済まない」
「かい、ちょ······」
あと一歩で気絶してしまいそうな所で突然会長の手の力が抜けた。床に投げ出される俺の体。急に入ってきた空気に体が驚いているのかゴホゴホと咳が出た。背中の骨が軋むような鈍痛に、蓮家での怪我が治っていないことを改めて理解した。
肩で息をし、未だ床に倒れ込んだままの俺に会長は馬乗りになると俺の両手首を頭上で固定した。見上げると影を落とす会長の顔、会長も苦しいのか眉を歪ませている。
再び俺の首に手をかけようと動く会長の右手に思わず目を閉じビクリと体を震わせると、来るであろう首への圧迫は一向に来ることがなかった。目を開けると虚無となった会長の瞳と目が合う。そしてゆっくりと俺の首筋に会長の人差し指が触れ、乱れた制服の襟元から覗く肌に触れた。
何がしたいのか分からないその動き。けれど次の瞬間に俺の制服のタイは外され、第一第二恐らく第三ボタンまでが弾けた。それによって素肌が空気に晒される。
そして見えるのは晒された俺の素肌に唇を押し当てていく会長の姿。擽ったいその感触に身をすくめ、逃げようと藻掻くがビクともしない。
「やめ、、て下さいっっ、会長ッ、、嫌だ!やめ、、楼と──」
「んっ!んんっっぅ」
叫ぼうとした瞬間唇を塞がれた。
舌まで入り込んでくる。首を絞められて酸欠になったと思えば今度は無理矢理キスされて酸欠になるなんて······。ボロボロと零れてくる涙に視界が歪みながら必死に呼吸するタイミングを探す。
「んっ、、ぁ、はぅっ」
これじゃ楼透を連れ戻したって意味が無いじゃないか。ぼやける頭でそう思いながら必死に藻掻く。藻掻く程に体力を消耗して余計に息が切れた。
今回も駄目なのかよ······。
いつの間にか蹂躙するようなキスは止んでいて、ぼうとする頭で思った。会長はペロリと俺の唇を舌で舐めると俺の目を手のひらで隠す。
あ、駄目だ。目を閉じようとするが遅い。
閉じても眩しすぎる光が俺の視力を奪おうとしているのが分かる。
そう言う事だったのか······っ。
後悔するがもう遅い、圧倒的な光量に視界が──!
「──鴉の壱型 『憑依─闇喰い』」
ドンッッッ!!
何かが壁にぶつかる音とその声で軽くなる俺の体。
「がはッ──!!」
恐る恐る目を開けると完全には見えないものの、真っ黒な何かが会長の体に覆い被さっている。数度目を開閉させると徐々に輪郭が分かり始める。どうやら完全に視力を奪われた訳では無いらしい。会長は体を壁にぶつけたのか、体をくの字に曲げ呻いている。
「······律花様、遅れて申し訳ありません」
そう言った楼透はどこかふらついているように見えた。
近づいてくるにつれ、額から血を流しているのが見えた。そしてその楼透に引きづられてくるその背中は見覚えのあるものだった。
「お前は······」
それは、そう──同じくボロボロになった千秋だった。
やっぱりあのダ女神信じるべきじゃ無かったかも。手紙には説明書入ってるって書いてあったのに入ってなかったし···本当にスイレンと黒羽が確認した上で異空間収納に入れたんだよな?確かにあの装備品のお陰で助かったとも言えるが、一歩間違えば大変なことになっていた。
案の定、よくあの首輪の使い方が分かったなとコクヨウに聞いたらあのカラス『···何となくだが確信があったからな』と答えた。何となくじゃ確信とは言わないだろ······危ねぇ。
「楼透、大丈夫か?」
「昨日からこれで十二回目ですよ、律花様」
大事をとって、と馬車での登校となった俺が車内で対面した座席の左前に座る楼透に声をかけたら安定の呆れ声。安定の呆れ声って何だって感じだけど、これぞ楼透と言うか。
「······俺の事より律花様の──いえ何かあったら言って下さい、小さな事でも」
そう言ってまたふいっと顔を背けた。言いかけて止めたことといい、外を注視しているように装って頬の赤みを隠すように髪を耳にかけた仕草といい、彼女だったら『ツンデレだぁ!』と両手を上げて喜んだろうな。
好意を持ってくれるのも、心配してくれるのも、友人としてなら嬉しい事だ。けれど楼透や兄貴、先輩のそれは恋愛対象としてのものだから俺としては複雑だ。
皆の好意を利用する、と言えば言葉が悪いが俺自身甘えてしまっている所は多々ある。だからこそ自立しなければと思うが、ヤンデレの思考が分からない。どこまで自立していいのか下手なこと行動しようものならまた発動してしまうのでは無いかと日和ってる俺がいる。
ただ二回目の今世、上手くいってる気はする。
何せ俺の尻は無事だからな!
成るようになる、としか言えない。
学校へ着くと中等科三部生である楼透と高等科二部生である禅羽さんとは高等科の玄関で別れる事になった。何度も何かあれば呼ぶように言い聞かせられそろそろ耳タコだ。
なおコクヨウは昨夜から首輪の中で休むと言って消えた。どうやら装備品は痣として楼透の首からは離れないが、物としては存在しているらしい。
昨日の話の続きになるけど、兄貴とか先輩がそれとなーく美園と蓮家についての噂の続きを流してくれることになったので蓮家の体面も気に病むことは無い。内容は今回の件で楼透と禅羽さんが美園家で使用人として雇われることになった···みたいな感じ。人によってはそれを蓮家は人質として2人の身柄を引渡したと考える人もいるだろうって。
そして楼透が俺に従属してるって事だけど、その件は隠すことになった。もし公にしてしまえばまだ同化してまもなく力が不安定な楼透が俺の弱点となってしまうからだ。俺としては従属させた事で楼透から襲撃される事が無くなったという点で喜ばしいが、楼透の思考や行動を俺に縛り付けてしまっていると言う点において罪悪感がある。
出来ることなら首輪を外してやりたいが、楼透の首に巻き付く茨のような痣は何をしても装備品に戻ることはなかった。痛々しく、美しいその痣······痛みはないらしい。それでも何時までもこのままでは楼透が可哀想だ。この件は黒羽に聞きに行こうと思う。
「ねぇ、律花ぁ?聞いてるの?」
「ん?」
「もぅ~、僕今日は姫当番だから一緒に帰れないって話!······朝だってしばらくは一緒に登校出来ないのに。律花が足りないよ~!」
そう言いつつ休み時間度に俺の机に突っ伏して下から俺の様子を見てるくせに何を言うか。律花が足りない~と言いながら俺の背後に回ったと思えば上からのしかかられる。子供みたいだな、と言って俺は千秋の頭をクシャクシャにしてやりながら宥める。
まだ······まだ大丈夫なはずだ。
「えへへ~」
「機嫌直ったか?」
「うん!律花大好きぃ~」
その後の休み時間では楼透の話だったり、怪我の具合だったり、白虎祭の話だったり、色々な話をしたが千秋の様子は特に変わらなかった。勿論楼透の話をした時は千秋も幼馴染として心配していたし、楼透が無事に学園に復帰出来ることになり喜んでもいた。
こんな姿を見てると千秋が俺を監禁した事やその過程で人を殺したなんてどうしても思えない。お前が主人公なんだから、男なんて沢山いるのに何故俺なんだ。
「気をつけて帰ってね!」
「あ、あぁ···お前もな」
あの日の千秋が脳裏に浮かんだ。
あの日も、千秋は姫当番で一緒に帰れなくて気をつけて帰るように俺に言った。無邪気なその笑顔。どうか、あの日が今日じゃないことを祈るしかない。
「行ってくるね~」
「廊下、走るんじゃないぞ」
「分かったあ!」
言ってる傍から廊下を駆けていく。廊下の突き当たりの俺が見えなくなる所でもう一度振り向いて大きく腕を振る千秋。あれじゃ他の生徒に迷惑だろうに。ぶつかりそうになって謝っている。
さてと。
俺はもう一度教室に入った。もう既に教室に残っている生徒は少ない。皆帰ったか、部活動の活動場所へ向かったかして、その残っている数人も教室を出ようとしていた。俺は自分の席には座らずに教室の後ろの方の扉が視界に入る位置にある席の椅子を拝借して座る。
本当は気づいてたけど嫌な予感はずっとしてた。
今日朝、登校中からずっと。まさかとは思ってたけれど···。
さっきのやり取りや俺だけ従者の迎えが遅れてる事も。
タイミングがあの日と同じで、それが余計に確信に繋がる。
ここに居てはいけない。禅羽さんを探しにいけ。
あの日と同じく俺の心はそう言ってる。
それでも教室から出ないのは今度は楼透がいるから、頼りになる従者が二人もいるから。あの日の反省点の一つとして自分の気配察知能力を過信して二部棟に行こうとしたことだと思う。そりゃ、周囲の状況を完全に察知出来てなければ襲われる可能性だって高くなる。
だから今回は教室で楼透と禅羽さんを待つ。
勿論、二人が来る前に襲われようものなら逃げるけれど···。
どれくらいの時間が経ったか分からない。
体感的には二十分弱くらい待っている気がする。二人が来ない事への不安と焦りに教室を出て探しに行きたくなる。先生でもいい、生徒でもいい、誰か──。
ガラガラガラ。
突然の扉が開く音。
誰が入ってきたのか、すぐに顔を音の方へ向けるとそこには──。
「律花君、まだ教室に残っていたのだね」
「······会長?」
会長が入ってきた。予想していた人物と違って驚いた俺。
···待てよ?今日は千秋が姫当番で会長の所へ行っている筈なのに何故会長は一部生の教室に······。よく見ると会長の目が座っているように見える。
もしかして会長は千秋に操られてる······のか?
確かに前回も自分の意思とは関係なく、俺を犯して──。
「······律花君、何を言うかと思うだろうが今すぐ私から逃げてくれ」
え······?
そう思う間もなく会長は俺との距離を縮める。流石学園トップ、無駄のないその動きに驚きつつ俺は背中を向けないように注意しながら会長から離れる。
が、間に合わない。
気づいた時には会長は俺の直ぐに目の前に来ていて腕は真っ直ぐに俺の首を掴んだ。殺す気は無いのか、それとも俺をじわじわと窒息させて殺そうとしているのか······強くはないが逃げられない強さで首を掴まれている。息苦しい······首を絞められたことで息が出来ない訳ではなく、真っ直ぐに掴まれた俺の首·····どんな馬鹿力だと思うが会長との身長差で俺の体は持ち上がりつま先立ちで支えるのがやっとだからだ。俺は両手で会長の手を引き剥がそうとするが1ミリも動く様子がない。
「···済まない」
「かい、ちょ······」
あと一歩で気絶してしまいそうな所で突然会長の手の力が抜けた。床に投げ出される俺の体。急に入ってきた空気に体が驚いているのかゴホゴホと咳が出た。背中の骨が軋むような鈍痛に、蓮家での怪我が治っていないことを改めて理解した。
肩で息をし、未だ床に倒れ込んだままの俺に会長は馬乗りになると俺の両手首を頭上で固定した。見上げると影を落とす会長の顔、会長も苦しいのか眉を歪ませている。
再び俺の首に手をかけようと動く会長の右手に思わず目を閉じビクリと体を震わせると、来るであろう首への圧迫は一向に来ることがなかった。目を開けると虚無となった会長の瞳と目が合う。そしてゆっくりと俺の首筋に会長の人差し指が触れ、乱れた制服の襟元から覗く肌に触れた。
何がしたいのか分からないその動き。けれど次の瞬間に俺の制服のタイは外され、第一第二恐らく第三ボタンまでが弾けた。それによって素肌が空気に晒される。
そして見えるのは晒された俺の素肌に唇を押し当てていく会長の姿。擽ったいその感触に身をすくめ、逃げようと藻掻くがビクともしない。
「やめ、、て下さいっっ、会長ッ、、嫌だ!やめ、、楼と──」
「んっ!んんっっぅ」
叫ぼうとした瞬間唇を塞がれた。
舌まで入り込んでくる。首を絞められて酸欠になったと思えば今度は無理矢理キスされて酸欠になるなんて······。ボロボロと零れてくる涙に視界が歪みながら必死に呼吸するタイミングを探す。
「んっ、、ぁ、はぅっ」
これじゃ楼透を連れ戻したって意味が無いじゃないか。ぼやける頭でそう思いながら必死に藻掻く。藻掻く程に体力を消耗して余計に息が切れた。
今回も駄目なのかよ······。
いつの間にか蹂躙するようなキスは止んでいて、ぼうとする頭で思った。会長はペロリと俺の唇を舌で舐めると俺の目を手のひらで隠す。
あ、駄目だ。目を閉じようとするが遅い。
閉じても眩しすぎる光が俺の視力を奪おうとしているのが分かる。
そう言う事だったのか······っ。
後悔するがもう遅い、圧倒的な光量に視界が──!
「──鴉の壱型 『憑依─闇喰い』」
ドンッッッ!!
何かが壁にぶつかる音とその声で軽くなる俺の体。
「がはッ──!!」
恐る恐る目を開けると完全には見えないものの、真っ黒な何かが会長の体に覆い被さっている。数度目を開閉させると徐々に輪郭が分かり始める。どうやら完全に視力を奪われた訳では無いらしい。会長は体を壁にぶつけたのか、体をくの字に曲げ呻いている。
「······律花様、遅れて申し訳ありません」
そう言った楼透はどこかふらついているように見えた。
近づいてくるにつれ、額から血を流しているのが見えた。そしてその楼透に引きづられてくるその背中は見覚えのあるものだった。
「お前は······」
それは、そう──同じくボロボロになった千秋だった。
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