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本編
48.一か八か脱出へ
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『勘違いしない事だ。私はリカの一大事を知らせに来たのだけどね?』
「···何ですって」
律花様の事が心配になって外へ出たものの、本家の方に不審がられてはいけないと思い水を被っていた所へ声をかけられた。
律花様が一大事······信用するべきなのか。
だが、先程の話を思うと──。
『こちらだ』
ふわりと宙に浮かんだ怪しい者は一度だけ私の方へ振り返るとそのまま飛んで行ってしまった。辛うじて感じる空気の流れから私も急いで走り出した。この方向は間違いない·······律花様と別れたあの小屋の方角でしょう。幾ら屋敷の敷地内とは言え、走ったとしてもあそこまでは少し距離がある。
「状況は」
『黙って着いてくるといい、芳しくない事だけは言えようか』
怪しい者······不審者と呼びましょうか、彼とは差程離れていないらしい。小声で、しかし対象者に聞こえる術で話しかけて直ぐに返ってきたのだから。この者が蓮家の呪いの当事者である事は間違いないでしょう。しかしこの者が誰なのか、どう言った経緯があって律花様に近づいたのか──気になることは沢山あるが、それでも今はそれを気にしている暇はないと、私の直感が訴えている。
やはり私の判断は間違っていたのかもしれない······いくら主の命令とはいえお止めするのが従者の、律花様に仕える者としての正しい判断だったのかもしれない。嫌な予感に焦る気持ちと、長く教えられてきた蓮家の心得がせめぎ合っている。
どうか、間に合って······!
『·······遅かったか』
「な、、」
目の前には炎々と燃え盛る小屋。
そして何故かその小屋は風の柱の中にあった。
何があったのか、高台にある蓮の屋敷からもこの火の気は感じ取れなかったと言うのに······あの風の柱のせいか、今燃え出したにしては余りにも火の回りが早い。
『······っ、お前はここで待っていろ』
彼はそう言いますが私も何か出来ることは──。
術で水を生成するのが早いか、近くの湖の水を水遁の術で巻き上げるのが早いか、あの風を止める方法は、いやもうこの際応援を呼びに屋敷へ向かうべきなのか、あぁ···この状況を冷静に判断出来ていない自分の力不足が恨めしい。
「律花様······!!」
その光景に耐えきれず叫んだ瞬間、ドゴンッッッ!!と言う音と共に燃え盛る小屋が爆発した。宙を舞い光る火の粉、炎の中で崩れ落ちる小屋、まるで時が止まったかのような錯覚·······目の前の景色を受け入れられなかった。
───────────────────────
「············《風弾》!!」
俺は確かにそう叫んだはずだ。
指先に魔力を込め魔法式を唱えたそれなのに魔法式が起動しない。
「······っ、律花様、やはり私が補助した方が──」
「駄目だ!!楼透の意識が完全に呑み込またらアウトなんだろ!?」
楼透の声色から時間が迫っていることが分かった。
焦りつつも扉の隙間に指を突っ込んで、もっと指先が外に出るように地面を爪で削ってみる。流石に建物が立っているだけあって地面も硬いが迷っていられない。少しずつ地面が抉れ始めてくるのと同時に爪が割れたような感覚もあったが、痛みよりも焦る気持ちの方が勝っている。
「·······律花様ッ」
ブァンッ!!
楼透の声にハッと振り返ると同時にさっきまで俺が向き合っていた扉に何かが勢い良くぶつかった音がした。···血の匂いがする、その何かが俺の頬スレスレに通ったようでどうやら頬が切れたらしい。
ゾワリッ···死をすぐ隣に感じる······。
嫌な汗が頬を伝って傷に染みた。
「律花様······急い···で下さい······!」
ハァハァと息を荒くしつつ楼透は苦しみに耐えている。
周りを見渡せば黒い手が天井や壁から生え始めて、動きはぎこちないものの今にも動き出そうとしているようだった。否、実際に動き出している······俺の頬から流れる血がその証拠だ。扉を振り返ると俺に襲いかかった黒い手はまるでデジタル画面がバグった時のようにカクカクと気持ちの悪い動きをしていた。楼透が抑えきれなかった分が俺に襲いかかってきたんだろうと思う。でもこれじゃ扉に近づくことさえ出来ない。
今現在動けるのは俺に襲いかかった奴くらいか···。
恐らく今生え出している全ての黒い手に費やす力を最小限にして、一箇所のみに集中させているんだろう。
《······ニゲルナ》
不意に低く暗い声が木霊した。
まさかと思い楼透の様子を確認するが楼透の意識が乗っ取られた訳では無いみたいだ。楼透もどこから声がしたのか気配を探っている。
頭の中に響くようなそんな声。
《オレノ······イトシイ············ハ···オレノモノ》
ブォンッッ!!
その声と同時に動ける黒い手が再び俺を狙って突っ込んできた。
幸いにも今度はかすり傷一つ受けていない。こんな時に頭の中どうなってんだと思われるかもしれないが、一瞬ドッヂボールで最後に残った時の事が脳裏に浮かんだ。あの当たればチーム内で白い目を向けられ、当たらなければそれなりの学校生活を過ごせるって言うまさに生と死の······なんて言ってる場合じゃないな。
······本当にヤバイかもしれない。ブォンッッ!!と振り回される黒い手──最早腕と言っていいかもしれないが、一度の動きは運動音痴な俺でも避けられるくらい鈍いにしても体力の無い俺には長時間逃げるなんて無理な話だ。ましてや振り回される黒い腕を楼透に当たらないように避けつつ、扉の鍵を壊さなければならないのだから。
それにいつ楼透の意識が乗っ取られるか分からない。
《ナンデ······?イッショ············ズット···イッショ···イッタ》
ブァンッッ!!
ヤバい······!!さっきよりもずっと動きが早くなってる···!
これではどちらにせよ時間の問題だ。
今度は暖炉に激突したらしい。激突した拍子に暖炉に残っていた灰と舞あげられた煤埃が蝋燭の火に照らされてキラキラと光っ──。
「······律花、様!!」
ドゴンッッ!!
突然の爆発音と目の前が赤い炎に包まれた。
爆発の反動でカタンと燭台が床に落ち、蝋燭の火が床に燃え移る。
──粉塵爆発か!!
爆発の衝撃で軽く吹っ飛ばされる。
楼透は何とか床にへばりついて居たようだがキツそうだ。
急いで魔法で水を精製しようとするが俺には相性が悪すぎる。魔法式の構築に時間が掛かることと、小屋の魔道具化が解けていないからか水も一滴精製するのがやっと。これでは直ぐに蒸発して意味を成さない。
《──ハハハハハハハハッッ!!》
そうやっている間にも怪しい声は俺たちを嘲笑い、黒い手は俺を襲ってくる。小屋は完全には燃えていないものの既に小屋全体に火の手が回り、壊れていないのが魔道具化のお陰なのかと思うと微妙な気持ちになる。しかし壊れていないだけで、火の勢いが強くなっていることは確かでこのままでは中の俺たちは酸素が無くなり一酸化炭素中毒で死ぬ事になるだろう。
······死んでたまるか!!
せっかく逆行したのに前回より早いタイミングで死ぬとかどんなクソゲーだゴラァ······いいさ、どうせ生きてさえ入れば魔法のあるこの世界じゃ治癒魔法やら何やらでどうにかなるわ。もう当たって砕けろって感じだわ。
「······はっ、良いぜ。やってやんよ──」
恐らくこれが最後のチャンスだろうな······ヤケクソだ。俺は覚悟を決めると呼吸整え襲いかかってきた黒い腕をスレスレで避けると扉の隙間に指を向けながらスライディング土下座の要領で突っ込んだ。勢いを付けたからかさっきよりも深く指先が入っている。······多分折れたなコレ。
「ッ《風弾》!!」
「······あ?」
「──え、、、うっ!!」
発動とほぼ同時にその威力によって楼透が飛んできた。
隅の壁に激しく体をぶつけたようで近くで呻く声が聞こえる。
······おい、待てやこれ。
俺は確かに風のランク1魔法···風弾を放ったはずだ、それなのに──。
ゴオオオオオオオオオッッ!!
なんで竜巻!?ねぇなんで!!?
竜巻が小屋全体を包み込み、外がどうなっているのかは分からないが扉の隙間から見える限りは中も外も暴風が吹き荒れている。
俺はバカだが、自分の力量くらい自分で分かっている。いくら得意な風の魔法だったとしても、せいぜい使えるのはランク1から2程度でこんな小屋全体を飲み込める程の大きな竜巻を起こせる力はない。この竜巻はランク3に妥当するだろう。しかし何故こんな大きさの魔法が発動出来たのか、何しろ魔法を発動した俺自身が一番驚いている。
そしてもっと馬鹿なのは発生した竜巻に驚いて──風弾と言っていいのか分からないが──制御する為の魔法式の構築を放棄してしまったことだ。そのせいで、扉に掛かっている錠の鍵を壊すことが出来なかったばかりか、小学生でも知っているだろう火のついた線香を酸素の中に入れると激しく燃えるという事を······つまりさらに火の手を強めてしまった。隙間風が酷い分酸素の入れ替えにはなったかもしれない······言い訳にも限度があるか。
「······はぁ、やっぱり駄目なのか?」
思わず扉に体を任せため息を付く。······ん?
扉が開く······?いや完全には開かないものの、竜巻の発動の反動で鍵が壊れたのかもしれない。薄く開いた扉から確認すると壊れた錠が引っかかっていた。
「楼透!あと少し耐えてくれ!!」
隅で壁にもたれ掛かっている楼透に声をかけるが楼透の反応は無い。もう呪いに呑み込まれたのか···?いや、手遅れなら楼透と話した前のように黒い手が俺が逃げないように捕まえようとするはずだ。······楼透を信じるしかない。
ガンガンと扉にタックルし続けた。徐々に風の威力もおさまりつつある。これで錠さえ外れれば外に出られる······外に出たらまずは火事から避難出来れば······!!
《ガガガ········イクナ······イクナァ···!!》
「ガハッ······!!させ、ない!!」
呪いの声と楼透の苦しげに掠れた声。
楼透が戦ってくれている······そう思ったら扉に体当たりしながら涙が出てきた。本当に説得しに来た時の突き放した態度とは大違いだ···。
もう何が何でも絶対に楼透と一緒に家に帰ってやる······!!
ガチッン!!
「開いた······!」
錠が外れて地面に落ちる音。
鍵が開いたことの嬉しさと、ようやく見えた希望に声が震えた。
やっと外に出られる······!早く助けを呼ばな──。
「──ッ律花様!!」
「···何ですって」
律花様の事が心配になって外へ出たものの、本家の方に不審がられてはいけないと思い水を被っていた所へ声をかけられた。
律花様が一大事······信用するべきなのか。
だが、先程の話を思うと──。
『こちらだ』
ふわりと宙に浮かんだ怪しい者は一度だけ私の方へ振り返るとそのまま飛んで行ってしまった。辛うじて感じる空気の流れから私も急いで走り出した。この方向は間違いない·······律花様と別れたあの小屋の方角でしょう。幾ら屋敷の敷地内とは言え、走ったとしてもあそこまでは少し距離がある。
「状況は」
『黙って着いてくるといい、芳しくない事だけは言えようか』
怪しい者······不審者と呼びましょうか、彼とは差程離れていないらしい。小声で、しかし対象者に聞こえる術で話しかけて直ぐに返ってきたのだから。この者が蓮家の呪いの当事者である事は間違いないでしょう。しかしこの者が誰なのか、どう言った経緯があって律花様に近づいたのか──気になることは沢山あるが、それでも今はそれを気にしている暇はないと、私の直感が訴えている。
やはり私の判断は間違っていたのかもしれない······いくら主の命令とはいえお止めするのが従者の、律花様に仕える者としての正しい判断だったのかもしれない。嫌な予感に焦る気持ちと、長く教えられてきた蓮家の心得がせめぎ合っている。
どうか、間に合って······!
『·······遅かったか』
「な、、」
目の前には炎々と燃え盛る小屋。
そして何故かその小屋は風の柱の中にあった。
何があったのか、高台にある蓮の屋敷からもこの火の気は感じ取れなかったと言うのに······あの風の柱のせいか、今燃え出したにしては余りにも火の回りが早い。
『······っ、お前はここで待っていろ』
彼はそう言いますが私も何か出来ることは──。
術で水を生成するのが早いか、近くの湖の水を水遁の術で巻き上げるのが早いか、あの風を止める方法は、いやもうこの際応援を呼びに屋敷へ向かうべきなのか、あぁ···この状況を冷静に判断出来ていない自分の力不足が恨めしい。
「律花様······!!」
その光景に耐えきれず叫んだ瞬間、ドゴンッッッ!!と言う音と共に燃え盛る小屋が爆発した。宙を舞い光る火の粉、炎の中で崩れ落ちる小屋、まるで時が止まったかのような錯覚·······目の前の景色を受け入れられなかった。
───────────────────────
「············《風弾》!!」
俺は確かにそう叫んだはずだ。
指先に魔力を込め魔法式を唱えたそれなのに魔法式が起動しない。
「······っ、律花様、やはり私が補助した方が──」
「駄目だ!!楼透の意識が完全に呑み込またらアウトなんだろ!?」
楼透の声色から時間が迫っていることが分かった。
焦りつつも扉の隙間に指を突っ込んで、もっと指先が外に出るように地面を爪で削ってみる。流石に建物が立っているだけあって地面も硬いが迷っていられない。少しずつ地面が抉れ始めてくるのと同時に爪が割れたような感覚もあったが、痛みよりも焦る気持ちの方が勝っている。
「·······律花様ッ」
ブァンッ!!
楼透の声にハッと振り返ると同時にさっきまで俺が向き合っていた扉に何かが勢い良くぶつかった音がした。···血の匂いがする、その何かが俺の頬スレスレに通ったようでどうやら頬が切れたらしい。
ゾワリッ···死をすぐ隣に感じる······。
嫌な汗が頬を伝って傷に染みた。
「律花様······急い···で下さい······!」
ハァハァと息を荒くしつつ楼透は苦しみに耐えている。
周りを見渡せば黒い手が天井や壁から生え始めて、動きはぎこちないものの今にも動き出そうとしているようだった。否、実際に動き出している······俺の頬から流れる血がその証拠だ。扉を振り返ると俺に襲いかかった黒い手はまるでデジタル画面がバグった時のようにカクカクと気持ちの悪い動きをしていた。楼透が抑えきれなかった分が俺に襲いかかってきたんだろうと思う。でもこれじゃ扉に近づくことさえ出来ない。
今現在動けるのは俺に襲いかかった奴くらいか···。
恐らく今生え出している全ての黒い手に費やす力を最小限にして、一箇所のみに集中させているんだろう。
《······ニゲルナ》
不意に低く暗い声が木霊した。
まさかと思い楼透の様子を確認するが楼透の意識が乗っ取られた訳では無いみたいだ。楼透もどこから声がしたのか気配を探っている。
頭の中に響くようなそんな声。
《オレノ······イトシイ············ハ···オレノモノ》
ブォンッッ!!
その声と同時に動ける黒い手が再び俺を狙って突っ込んできた。
幸いにも今度はかすり傷一つ受けていない。こんな時に頭の中どうなってんだと思われるかもしれないが、一瞬ドッヂボールで最後に残った時の事が脳裏に浮かんだ。あの当たればチーム内で白い目を向けられ、当たらなければそれなりの学校生活を過ごせるって言うまさに生と死の······なんて言ってる場合じゃないな。
······本当にヤバイかもしれない。ブォンッッ!!と振り回される黒い手──最早腕と言っていいかもしれないが、一度の動きは運動音痴な俺でも避けられるくらい鈍いにしても体力の無い俺には長時間逃げるなんて無理な話だ。ましてや振り回される黒い腕を楼透に当たらないように避けつつ、扉の鍵を壊さなければならないのだから。
それにいつ楼透の意識が乗っ取られるか分からない。
《ナンデ······?イッショ············ズット···イッショ···イッタ》
ブァンッッ!!
ヤバい······!!さっきよりもずっと動きが早くなってる···!
これではどちらにせよ時間の問題だ。
今度は暖炉に激突したらしい。激突した拍子に暖炉に残っていた灰と舞あげられた煤埃が蝋燭の火に照らされてキラキラと光っ──。
「······律花、様!!」
ドゴンッッ!!
突然の爆発音と目の前が赤い炎に包まれた。
爆発の反動でカタンと燭台が床に落ち、蝋燭の火が床に燃え移る。
──粉塵爆発か!!
爆発の衝撃で軽く吹っ飛ばされる。
楼透は何とか床にへばりついて居たようだがキツそうだ。
急いで魔法で水を精製しようとするが俺には相性が悪すぎる。魔法式の構築に時間が掛かることと、小屋の魔道具化が解けていないからか水も一滴精製するのがやっと。これでは直ぐに蒸発して意味を成さない。
《──ハハハハハハハハッッ!!》
そうやっている間にも怪しい声は俺たちを嘲笑い、黒い手は俺を襲ってくる。小屋は完全には燃えていないものの既に小屋全体に火の手が回り、壊れていないのが魔道具化のお陰なのかと思うと微妙な気持ちになる。しかし壊れていないだけで、火の勢いが強くなっていることは確かでこのままでは中の俺たちは酸素が無くなり一酸化炭素中毒で死ぬ事になるだろう。
······死んでたまるか!!
せっかく逆行したのに前回より早いタイミングで死ぬとかどんなクソゲーだゴラァ······いいさ、どうせ生きてさえ入れば魔法のあるこの世界じゃ治癒魔法やら何やらでどうにかなるわ。もう当たって砕けろって感じだわ。
「······はっ、良いぜ。やってやんよ──」
恐らくこれが最後のチャンスだろうな······ヤケクソだ。俺は覚悟を決めると呼吸整え襲いかかってきた黒い腕をスレスレで避けると扉の隙間に指を向けながらスライディング土下座の要領で突っ込んだ。勢いを付けたからかさっきよりも深く指先が入っている。······多分折れたなコレ。
「ッ《風弾》!!」
「······あ?」
「──え、、、うっ!!」
発動とほぼ同時にその威力によって楼透が飛んできた。
隅の壁に激しく体をぶつけたようで近くで呻く声が聞こえる。
······おい、待てやこれ。
俺は確かに風のランク1魔法···風弾を放ったはずだ、それなのに──。
ゴオオオオオオオオオッッ!!
なんで竜巻!?ねぇなんで!!?
竜巻が小屋全体を包み込み、外がどうなっているのかは分からないが扉の隙間から見える限りは中も外も暴風が吹き荒れている。
俺はバカだが、自分の力量くらい自分で分かっている。いくら得意な風の魔法だったとしても、せいぜい使えるのはランク1から2程度でこんな小屋全体を飲み込める程の大きな竜巻を起こせる力はない。この竜巻はランク3に妥当するだろう。しかし何故こんな大きさの魔法が発動出来たのか、何しろ魔法を発動した俺自身が一番驚いている。
そしてもっと馬鹿なのは発生した竜巻に驚いて──風弾と言っていいのか分からないが──制御する為の魔法式の構築を放棄してしまったことだ。そのせいで、扉に掛かっている錠の鍵を壊すことが出来なかったばかりか、小学生でも知っているだろう火のついた線香を酸素の中に入れると激しく燃えるという事を······つまりさらに火の手を強めてしまった。隙間風が酷い分酸素の入れ替えにはなったかもしれない······言い訳にも限度があるか。
「······はぁ、やっぱり駄目なのか?」
思わず扉に体を任せため息を付く。······ん?
扉が開く······?いや完全には開かないものの、竜巻の発動の反動で鍵が壊れたのかもしれない。薄く開いた扉から確認すると壊れた錠が引っかかっていた。
「楼透!あと少し耐えてくれ!!」
隅で壁にもたれ掛かっている楼透に声をかけるが楼透の反応は無い。もう呪いに呑み込まれたのか···?いや、手遅れなら楼透と話した前のように黒い手が俺が逃げないように捕まえようとするはずだ。······楼透を信じるしかない。
ガンガンと扉にタックルし続けた。徐々に風の威力もおさまりつつある。これで錠さえ外れれば外に出られる······外に出たらまずは火事から避難出来れば······!!
《ガガガ········イクナ······イクナァ···!!》
「ガハッ······!!させ、ない!!」
呪いの声と楼透の苦しげに掠れた声。
楼透が戦ってくれている······そう思ったら扉に体当たりしながら涙が出てきた。本当に説得しに来た時の突き放した態度とは大違いだ···。
もう何が何でも絶対に楼透と一緒に家に帰ってやる······!!
ガチッン!!
「開いた······!」
錠が外れて地面に落ちる音。
鍵が開いたことの嬉しさと、ようやく見えた希望に声が震えた。
やっと外に出られる······!早く助けを呼ばな──。
「──ッ律花様!!」
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