悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?

紡月しおん

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45.呪いの正体

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『楼透、ここから動いてはいけないよ』


父に背負われて歩く山道。
ここがどこかは分からなかったけど僕はゆっくりと静かに頷いた。

父の大きな背中から降ろされて苔の覆う冷たい岩の上に座ったまま、父の言葉の通りに動かなかった。父が離れていく気配がしたけど言われた事を守る必要があったから、僕は何も言わず動かず静かに座ったままでいる。

朝の冷たい空気、鳥の囀り、ふわりと吹く風、指先や足元で動く虫、木々の匂い、風でパラパラと落ちてくる木の葉、夏の終わりの匂いがする······。


目隠しをされた目では何も見えないけど。


静かな森の奥深く。

ここより少し遠くに聞こえる音は鳥の鳴く声と、小さな虫の羽音と、少し遠くで水の流れる音もする·······たぶんここから二里程先。その先にベアウルフの群れがいる、あぁベアバードを狙っているのかな。目隠しをされた目では当然見えるわけなくて、まぁ目隠しが無くても見える訳がないのだけれど、修行によって研ぎ澄まされた神経は更にその先まで感じる事が出来る。


だんだん空気が冷たくなって、日が沈んできているのか目隠しから薄っすらと感じられていた光がもっと弱くなっていく。


この修行はいつ終わるのか分からない。
蓮の修行は楽しくていつも一番だけど、この修行はつまらない。いつも一人で何もしないでずっと何処か知らないところで座ってるだけ······。お迎えの人が来てくれるまで動いちゃいけない。だからつまらない。


父も母も兄達も、僕を見ると目を逸らす。
お爺ちゃんは僕とお話もしてくれないけど、お手伝いの人は言ってた。僕はとっても弱いから、“この力”は強いけど呑まれてしまえば僕は僕で無くなって、僕じゃない僕は凄く強いけど、蓮家の為には良くない事なんだって。



『坊、待たせたね······おや?泣いておるのか』

「···ちがいます。かふんしょうだから」

『花粉の時期はまだだがなぁ』



今回はお迎えの人が来るの凄く早かった。最初は僕が1歳の時、あの時はお昼くらいの時に一人にされて次の日の朝に来てくれた。毎回日を追う事に早くお迎えに来てくれる。


「···しゅぎょう······おわる?」
『···どうかな。私には分からぬ』
「じゃあ、なんではやくなったのです?···おむかえくるの」
『ん、·······可哀想だけど私とのえにしが深まった証だね。でも、それは坊にとっては喜ばしいことではないかもしれないけれど』
「?」
『まだ坊には難しいね。先月三つになったばかりだろう』


大人はいつも難しいことを言う。


『私と良い意味で同調出来たならば、坊は最強だろうね』
『···しかし今の蓮ではそれは無理な話だろうからな』


「?」
『さて、帰ろうかね。学友が待っておるよ』
「ぜんう!?」
『さてな』

顔も見えないお迎えの人。
名前も知らない。多分蓮家の人じゃないかもしれない。

「ねー」
『ん?』
「なまえ、なに?」
『······私に名前は無い。好きに呼んだらいい』
「ぅー······わかんないです」
『何でもいいぞ』
「······おじさん?」
『······』
「···んー、こくよう···とか?」
『黒曜石からか?』
「そです!······だめ?」
「···いや、良い名だ。気に入った」


コクヨウはそう言うとふんわりと僕を抱っこした。宙に浮いてるみたいなふわふわしたこの感じが僕は好きだ。お爺ちゃん達の事は苦手だし一人の修行は嫌いだけど、コクヨウは好き。あとぜんうも好き!

そろそろ里が近づいてきたのかコクヨウの腕が緩んだ。


『目を開けるでないぞ。とお数えてからだ』


そう言ってコクヨウの腕から降ろされた。僕は静かに頷く。何度この約束を破ろうかと思ったか、どんな人なのかコクヨウの姿を見てみたい、何度もそう思ったけどコクヨウが居なくなってしまう気がして一度も実行したことは無い。だって、禅羽は分家の子だから毎年9月の終わりには帰ってしまうし、コクヨウが居なくなったら僕はもっと一人になっちゃうから、それは絶対に嫌だから。


『坊、男は泣くな』
「んっ!分かってますっ!」
『うむ。それではな』


僕はちゃんと十数えてから目を開けた。直ぐ目の前はククリの温泉があって、ここからなら僕だって一人で家まで行ける。





───────────────────────────








『さてと、もう一つ昔話をしようか』









───────────────────────────




『多々良』

『どうした、──?』

『好きだ』

『そうか。私も──の事が好きだよ』


湖の畔で静かに本を読んでいた師父に私はそう言った。
すると、師父も細く柔らかい目をさらに緩ませそう言った。
確かにこの頃はまだ私も幼く、師父も私の事を実の弟のように可愛がってくれていた。それでも私の好きと師父の好きが違う事なんて自分で気づいていて、それがとても苦しかった。


長い年月が経ち、あの頃とは比べる事が出来ない程に私の体躯も大きくなっていつしか背も師父より──いや多々良より高くなり、視線の下にいる多々良は凄く細く感じるようになった。

師父はその種族故か歳を取らない。老いの鱗片も見せず出会った時と変わらない、その姿は優しく凛として美しいままだ。

それでも年月が経てば勿論周りの環境も変わって、私の弟弟子も増えて、大きくなった私には自らで考え行動する力が必要だと言った多々良は私との距離を置くようになった。

多々良が凄く遠く感じる。



『多々良···好きだ·······!!』

『私も好きですよ。──は昔から甘えん坊ですね』



一向に変わらない“好き”の意味。



『違う!!俺は多々良が好きなんだ!!』

『俺じゃ駄目なのか!?』

『──、落ち着いて』

『······俺は、ずっと、言ってただろ!!何で、答えてくれない···?』



多々良は何も言わない。
なんて言ったら良いのか困ったように、眉を下げて微笑んでいるだけ。



『そうだ、昨日はユイも文字を書けるようになりましてね。そろそろ皆に魔法を教えても良い頃でないかと思うのですが──はどう思いますか?出来れば皆に魔法を教えるのは──にお願いしたくて』

『影火にも聞きたいと思っていたのですが、私とした事がお使いを頼んでいたのを忘れていました。貴方の事はとても頼りにしています』

『······私の可愛い息子ですから』





········あぁ、煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い!!


一度や二度の事じゃない。
何で、俺じゃ駄目なのか。何で何も言ってくれないのか。
聞いてもそうやって笑って誤魔化して話を逸らして···!!



『··········もう、いい』



俺は多々良に背を向けて走り出した。



あれは·········そう、春の訪れを感じる柔らかな季節だった。


それから少しして彼は見てしまった。子供達の寝静まった夜更けに家を抜け出して、自分の想い慕っていた人と肩を寄せ合い親しげに話す幼い頃からの友人の姿を······。

でも心の隅では分かってはいた。多々良と影火がいつの間にか恋仲になっている事なんて、私が見ないふりをしていただけで皆知っていたのだから·······。



それを見た私は狂った。

愛しいと思う気持ちが私を狂わせた。



───────────────────────────


『彼は走って、家に戻って·········自我も忘れて、寝ていた自らの弟弟子達を惨殺した。彼の弟子と言うだけで、いつかは彼らが多々良を私から奪うのではと恐れた結果だった。日頃思っていた事がその瞬間タガが外れて暴走した······その狂気が終わった時·······血に塗れた手を見て笑い狂った私を、帰って来て目撃した二人の悲しそうな笑みが今でも脳裏に過る······その笑みが憐れみの意だったのか、他に意味があったのかは知らん······気がつけば、私は、私の想い人も私の友人も、皆殺しにしていた』

『しかし、結果は全て消した筈なのに一つだけ生きていた』

『唯の友人と信じていた、私を裏切った男だけ生きていた。だから狂った私は自らの死と引き換えに奴を呪った·······怒り狂った私は奴の子孫が私のように苦しい恋に落ちた時、同じように人生を狂わせるようにと憎しみを込めて呪いを掛けた·············そしてその呪いは何千年と引き継がれ私と共に今に在る訳でね』






『·······それが《鴉の呪い》の正体だ』










「······それと私に何の関係が?」


全く、冷たいのは昔と同じか。
宵闇の如く耀くその髪が私を裏切った友人を彷彿させる。


『···その話にはまだ続きがある、何千と時が過ぎる間にいつしか私の心も自らの呪縛から解放されて······私は二つに分かれた。片や己が魂、片や呪禁······それを受け継ぐ者が生まれる度に私も片割れを追うように目覚める』

「·······何が言いたいのです?」

『ここまで言えば聡く賢い君なら分かるだろう?』

「片割れは楼透君、ですね」


はぁ、と一つため息を落とす。


「そんな事よりも、昼間律花様を脅かしたのは貴方ですね」
『···ほぅ、私を恐れぬのか』
「主に害を成す者を恐れていてどうしますか」


うむ······?論点が違う気もするが···。


「私は楼透君が大嫌いなので」


清々しい程の笑顔でそう言う。
·······確かに彼奴もよく私に言っていた。


『勘違いしない事だ。私はリカの一大事を知らせに来たのだけどね?』
「···何ですって」
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