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本編

43.作戦決行

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「良いですか、呉々も小屋の近くになるまで声を上げてはいけませんよ?大きな声を出すと術は解けてしまいます。楼透君に会っても術の解けない程度の声量を心掛けて下さい」
「分かった。······でもさ···いや、何でもない」

こんな状況だ。
一々細かいことに口を挟んでいても仕方がない。
俺は一度自分の姿を姿見で確認してから禅羽さんの肩に飛び乗った。···自分で言うのも抵抗があるが、姿見に映った青褐色のカメレオンの小型バージョンとも言えるトカゲに鳥肌を覚える。嘆いていても仕方がない。これが今の俺の姿だ。


楼透説得作戦として禅羽さんと一緒に考えた作戦がこうだ。

楼透の居る小屋は外側から南京錠が掛けられていて一日二回、多分食事を運ぶ人が入るくらいで他に入口はない。つまり、南京錠を開ける鍵が無ければ人間が入ることは不可能だ。鍵を拝借するにもその鍵を持った人間が常に違うらしく見当が付けられない。又、近くに見張りの人や巡回の人がいるような状況で迂闊に近づけない。

そこで第一に俺が禅羽さんの術によって“トカゲ”に変身する。小屋の扉には小さなトカゲであれば入り込める隙間はあるらしい。禅羽さんに爬虫類は好きかと問われた意味がこれだ。···嫌な予感はしてたけどこれしか忍び込める策が無いと言われたらやるしかない。爬虫類?苦手なんて言ってる場合か。

そのため禅羽さんには酷く迷惑を掛けることになる。作戦中には俺が不在とバレないようにする術と俺に掛けられた術を継続する為に魔力を供給する術、共にエネルギー消費が激しいらしいのに自ら申し出てくれた。

「私も楼透君の帰りを待っている人間の一人ですので」

そう微笑む禅羽さんに俺は感謝しか言えないけど、そんな禅羽さんの為にも絶対に楼透を説得して何かしらそんな監禁状態の小屋から救い出す方法を見つけなくてはならない。







周囲に気を張りつつ、静かに部屋から出る禅羽さんの肩の上は全然揺れなくてこんな風に言っていいか分からんけどめっちゃ乗り心地抜群だ。多分このまま寝れる。

しかし寝ていられないのが現状だ。いつ俺の姿が看破されるか分からないし、そんな事になれば言い訳なんて通用する訳ない。つまりジッエンド······Dead or Aliveとはまさに今この瞬間を指す。だから口では寝れるとか言えるけど、こんな緊迫した状況下で寝れるやつ居たら一度会ってみたいよな。

とか何とか言いつつ正面から人来てるし!!


「···おや?禅羽さんでは無いですか。主様の元を離れて何処へ?」
「律花様のご命令です。···昼間戦闘の際に着いてきてしまったようで、お優しい主様の事です。このお屋敷にいるのは危ないのではと危惧なされて···」
「成程、噂に聞き及んでましたが美園のご子息は悪魔と天使と評されると聞く。天使様の方へ仕えられるとは貴方も幸運だ」

······悪魔と天使って。
これ絶対兄貴と俺の事だよな?兄貴が悪魔ってのは分かるよ。弟の俺だって兄貴の事は鬼とか悪魔の類に見える時がある。でも俺が天使って呼ばれんのはまた違う気がするけどなぁ。俺、そこまで優等生じゃないし。

おっと······いつの間にかその場を切り抜けていた禅羽さんが歩き出す。少し表情が不機嫌になってる気もするが気のせいか?


ここまで一言も発さずに屋敷を出て、昼間ベアウルフ達と戦った辺りまで来た。そろそろだな···、余り小屋に近づいては確実にバレる。だから、禅羽さんには言われてたけど連れてって貰えるのは小屋付近までだ。

···ぶるるっ、今になって武者震いが···。決して安全じゃないことは分かってたけどトカゲの目線って···目的地がめちゃ遠いよ······。


「·······律花様、申し訳ございません。この辺りで精一杯です、ここから先はお一人でお願い致します」


そう言って肩から降ろされる。
まぁ、仕方がないよな···。遠いとは言えもう直ぐ目の前、一直線に小屋がある。よくここまで連れて来てくれたと思う。俺は優しく降ろしてくれた禅羽さんの手にぺたりと小さな手で触れる。気色悪かったらごめんな、ここまでありがとう。


「いいえ、律花様の手はどのようになっても美しいです。又一時間後にお迎えに参ります、何か有りましたら直ぐにお呼び下さい、術が反応します。······それでは、ご武運を」

と、周囲を見渡すと行ってしまった。
暗い森にポツンと俺。いつまで寂しがってんだこのチキン野郎!······よ、よーしっ!気合いだ!気合いだ!気合いだーーーっ!!

心の中でそう叫び気合いを入れ直すとぺたぺたと歩き出した。
















ってな感じでこの小屋まで来て、固く閉じられた扉のカビ臭い僅かな隙間から入り込んだは良いものの·······。



「·······ハァ、ハァ······?······バカですね、、入り、込んで·····出られなく、なった···と言った所、、でしょうか···。ハァ······ッ、早く、、ここから、去り、なさッ···い······」


体調の悪そうな楼透は遠慮無く扉の隙間にグリグリとトカゲの俺の体を押し付ける。


「·······早く、、逃げなさい」


それこそ爬虫類の如く床に額をついて地を這うようにしか動けない楼透。いつもと変わらない棘のある言葉なのに声に全く覇気がない。このまま、その隙間へ体を差し込めばこの場からは逃げられるのは分かってる。けど、今したい事はそうじゃない。

もう二度と楼透に会うチャンスが無くなるかもしれない。
それは嫌だ······!!




『楼透の馬鹿たれっっっ!!』

「ッ···!?」




ぼふんっっっ!!
あ、やば·······そう思った時にはもう遅かった。


「··········律花様?」

「···あ、は、はぁーい?」



問題です。喧嘩別れした主と従者、再開の場は古い小屋の中で従者がトカゲと思ってた生き物が突然主(全裸)に変身しました。さて、従者の反応は?

A.「はっ、律花様がお体を壊されては大変だ!私の羽織を直ぐにお召になって下さいっ。何故私の為にこのような···そんなにまで私の事を心配して·······!」





「······何をお考えになっているか分かりませんが、何故ここまでいらしたんです?お爺様には帰るように言われたでしょう?バカなんですか?あぁ、そうでした、貴方はバカなんでした」

ブッブー。正解はこれ↑でした。
刺々しい口調でそう吐き捨てると自分の羽織っていた上着を俺に投げつけるように放る。楼透の私服初めて見たわ、の前に楼透の着物姿に驚く。顔が良いだけに中々様になってるじゃないか。

······それより、お前色々と酷くなってないか?
まずは全裸の俺を心配しようよ。口では言わないものの投げつけた上着を早く着ろと俺に目が訴えかけている。体調悪そうだったから折角人が心配していれば······俺の心配を返せ。
禅羽さんに決行前にも言われたのに大声を出した俺が悪いが確かに楼透の前で全裸はヤバい。手は出されていないとは言え(口は出された)一度こいつにも襲われている事に違いはない。俺も遠慮無く楼透の上着をさっ、と着込んだ。

改めて小屋の中を注視すると、何も無い。
窓もない暗い部屋に蝋燭の明かりが一つ。暖炉と思わしき石は灰にまみれていて使っているようには見えない。床は木屑や木の破片が沢山落ちていてこの小屋は外見よりも遥かに内部は老朽化が進んでいる様子だ。······普通、体調悪いやつをこんなとこに監禁するか?そう思うと苛立って仕方がない。


「···私は、貴方の事が嫌いだと言ったはずです······。早く、ここから、、去りなさい!」
「···全然説得力ないけどな」
「·····貴方が、納得、しようがしまいが、関係ない······。貴方が、何を言っても···今は早く、早く、ここから········ッ」

ぐっ、と胸を押さえて苦しそうに呻く楼透。俺にこんな状態の奴をほっとけって事か?
そんなの無理に決まってる。

「俺がそんな体調悪そうなお前をこんなとこに放置しておけると思うか?」
「···思いませんね。だから、、今直ぐに俺から離れろと言っている」
「·······楼透?」


「·········フゥー、フゥー」

突然変わった口調といい、荒々しくなった呼吸といい、楼透の体調は悪くなる一方なのは目に見えている。俺か?俺がここに居るのが悪いのか?


「楼透、分かったから!お前の都合を確認しなくてごめん。俺は諦めないけど······今日の所は一旦引き下がるから、取り敢えず横になれ···」


そんな楼透を見てられなくて布団も無い小屋の床。せめて隙間風から遠くへと引っ張ってって無理矢理寝かせる。楼透の体温はこれが人の体温かと思う程冷たい。低体温にも程がある。無理矢理ついでだ、少しでも体温が上がるようにと頭を俺の膝に乗せると抱え込むようにして背中や肩を摩る。···余計出直せなくなったじゃないか。


「······楼透、?」

摩ってるうちに楼透の着物がはだけて、俺とそんなに変わらない体躯の首筋が露わになった。慌てて直そうとしたがそれが目に入る。黒い鎖のような痣······。

夢に見た、黒い、鎖──。




「そんなに、俺から離れるのが嫌なら、、······一緒に壊れて下さいよ」


ガシッ!!
何かに首を掴まれてそのまま壁に打ち据えられる。つま先がようやく着く位の高さに締め付けられている首が痛い。両手で俺の首を掴む何かを引き剥がそうとするが上手く掴めない。

息苦しさから頬へ涙が伝う······定まらない視界がやっと捉えたその手は“真っ黒の手”だった。よく見れば床にも天井にも、俺が磔にされている壁にも、この小屋内部に巣食うように蔓延りうようよと蠢いている。



「·······だから、言ったのに」

「ろ、、と···?」

「本当に憎らしいいとしい人だ」



フラリと立ち上がった楼透は爛々と紅く光る目・・・・・で磔にされた俺を見て唇を舐めた。
······お前、何言ってんの?
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