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本編
42.悪夢
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その夜、夢を見た。
プツリと切れた糸の先。
手を伸ばす父と母の姿。
俺も必死に両親へと手を伸ばしたけど。
俺は深く深く底の見えない闇に落ちていく···。
何処まで沈んだのか、どれ位の時が経ったのか。
まだ落ちて、堕ちて、墜ちて······。
息が出来なくなって、苦しくなって。
涙が溢れてきて、溢れた涙で視界が余計遮られて。
そこへ一羽の烏が目の前を過ぎった。
思わず俺は目を閉じて息を止めた。
そしたら、急に体が軽くなって苦しかった呼吸も楽になって。
次に目を開けたら──。
『不安か』
『委ねろ』
『漲る』
『堕ちて行け』
『全てはお前の為だ』
『安寧の為···』
『犠牲』
『恐れは片時よ』
『血の濃さ故に』
『消せ』
『痛み』
『憐れな』
『いらない』
『必要無い』
『無用だ』
『無意味だ』
『不憫』
『心許無い』
『染まれ』
『怯えるな』
『消えろ』
──────────────────────────
「律花様·······?」
余りの恐怖に叫び、飛び起きた俺は禅羽さんが寝る前に喉が乾いた時用にと用意してくれていた枕元の水筒に飛びつくように手に取ると中の冷水を一気に飲みほした。冷たい液体が喉を潤し、頭が冷えていく。
俺は空になった水筒を握りしめて宙を睨む。
·······あぁ、そうだ。俺は夢を見てたんだ······。
暗くて、深い闇に囚われて······目を開けたら──。
「···どうかなさいましたか?」
隣の布団の中から心配そうな禅羽さんの声が聞こえる。恥ずかしい話だが、禅羽さんに今日は一緒に寝てくれないかと頼んでしまった。それが災いしたな···また迷惑を掛けてしまった。
「·······でっかいゴキに追っかけられる夢を見た」
「·······成程。それは確かに叫んでしまいますね」
何とか誤魔化せた様だ。「もう大丈夫だ」そう一言いってから、俺も布団に潜り込む。右に体を傾けると禅羽さんと目が合った。中々に気まずい。
「···そう言えば俺、禅羽さんの事名前で呼んでたけど大丈夫?」
「主が私を何と呼ぼうと私に拒否権はありませんよ」
「···いやそうじゃなくてさ、禅羽さんは嫌?」
「·······いえ特には」
時々禅羽さんも楼透と同じように何処か一線引いたような反応をする。やっぱり主と従者の関係って大切何だろうか······俺は何も分かってないんだろうけどやっぱり寂しいと思う。
「そっか、じゃこれからも禅羽さんって呼ぶから。宜しくな」
「······承知しました」
おやすみなさい、とそう一言いってまた俺は目を閉じる。
···多分寝れないだろうけど、閉じておくだけ。
さっき見てた夢の続き。
小さな子供が、真っ黒なローブを被った大人たちに嫌な言葉を掛けられながら黒い鎖で縛られていく夢·······雁字搦めにその鎖が子供の体を覆い尽くして、最後にその子の唇は確かに『たすけて』と動いた。
その悍ましい光景に俺は叫び声を上げた。
その子供が誰なのかは分からない。手を伸ばそうと気づいた時にはもう禍々しい程に黒い鎖の繭が出来上がっていた。怖かった·······今までが感じた恐怖に比べ物にならないくらい。勿論、視力のない状態で凌辱された時も千秋に監禁された時怖かったけど同等以上に怖くて仕方が無かった。
·······禅羽さんに言えない。
怖くて、まるで口に出せない。
トラウマって、こう言うのをいうんだよな。
結局あれから一睡も出来ずに寝返りを打ってばかりだった。禅羽さんの方を向いたら俺が怖がってるのがバレそうだし、目を閉じたらまたあの夢を見そうで閉じられなくなって、でも開けたままだと暗闇があの夢と重なって見えて怖くて·······必死に広い草原の柵を飛び越えてくメーメ達(前世で言う羊に似た魔物)を想像し、いつの間にか冊を飛び越えてくのが兄貴と千秋に変わって俺を追っかけ始めた頃に夜が明け出した。
結局悪夢しか見なかったという事だ。
ギャーギャー、ギャーギャー、と外でククリコッコの鳴く声がする。······昨日も思ったがやっぱりコケコッコーじゃないんだな。見た目だけならデカい鶏なんだけど。
「律花様、おはようございます」
「あ、れ?禅羽さん起きてた?」
「はい、少し前に。朝食にと卵粥を作ってきました···作戦の為とは言え質素な物で申し訳御座いません。しかし昨夜の事もありますから消化に良い物をと思いまして」
そう言っていつの間にか無くなっていた禅羽さんの布団があった所に、つまり布団で未だに横になってる俺の前に持ってきた朝食の膳を置いた。ふわりと温かい湯気に混じって出汁の良い匂いがする。
「昨夜も申し上げましたが、本日律花様は心労の為に寝込んでしまっている事になっております。ですので、お暇でしょうが本日は決行の時間までこちらのお部屋に居て下さい」
「分かった。色々と有難うな」
「いいえ、礼を言われるようなことは何もしておりませんので。ご入用の物があれば言って下さい、直ぐに持って参ります」
「じゃあ、トランプしよ」
「カードゲームですね。···手加減はしませんよ?」
「望むところだ」
「その前に朝食をしっかり食べて下さいね」
早速トランプの箱を持ってきたカバンから取り出そうと腕を伸ばすとその手に匙を握らされる。あ、そっか。トランプに気を取られて折角温かい卵粥を忘れる所だった。トランプ、急いで準備してたからお泊まり道具一式に入ってたんだよな···骨折り損だったが。
禅羽さんはまたクスクスと笑うと粥の入った一人前用の鍋の蓋を開ける。むわりとさっきまでとは全然違う勢いの湯気と優しい出汁の香りが胃を刺激する······めっちゃお腹空いてる。「···頂きます」と慌てて手を合わせて、お椀に移された粥を一掬いふーふーと冷ましつつゆっくり口に運ぶと眼前でもう······美味い。出汁·······ふわふわの卵······アクセントのミツバ·······誰だ!?こんな美味い粥を作ったのは!?
「お味は大丈夫でしたか?本家の料理人は早朝早くに山菜を取りに行ったらしく不在だったので私が作らせて頂いたのですが·······」
ここに居た······天才料理人···ここに居た········!!
「美味いです、めちゃくちゃ美味いです···!都築さんに引けを取らない美味さだ······!!」
「そうですか、それは良かったです」
敬語に戻ってますよ、と言う禅羽さんの声にハッと我に返りつついくら腹が減っていたとは言え止まらない匙に自分でも驚いている。······やばい。また太りそうな気がする···。一人前用とは言え、鍋だ。粥とは言え、鍋に入ってたんだぞ···?それをこの短時間で食べきろうとしてるなんて······。
「·······禅羽さん、家に帰ったらダイエット付き合ってくれません?」
「何を仰います。律花様はもう少し肉を付けられても良いと思いますよ」
「···何を根拠に?」
そこからは禅羽さんが力説しだしたので諦めることにした。人生諦めちゃいけない事と諦めないと先に進まないことがある。これは後者だ。
でもホントどうしよう······俺結構ぷよぷよだぞ?このままじゃ、どのルートへ行ってもヒモになりそうで自分の将来が怖いわ。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした。お口にあったようで何よりです」
音の一つも立てずに食膳を片付けていく禅羽さん。こんな人の事を器用な人って言うんだよな。俺も余り甘えてられない。
「よし!神経衰弱やろっ」
「···成程、鍛錬が足りないと言うことですね。私が不甲斐ないばかりに律花様にまで気を使って頂いて·······精進します」
「いや違うから。2人じゃババ抜きしてもつまんないからだから」
なんて言いつつトランプを切る。
······ほんとに小さい頃だけど、俺と父さんと母さんと兄貴と楼透でトランプして遊んだっけな。その時も楼透は困った顔して連行される宇宙人みたいに父さんと母さんに捕まってた。主と従者ってのが嫌いなのは俺だけじゃなかったんだよな。 本当に色々と強引で自分勝手で心配性で親バカで·······大好きな両親だった。
父さんも母さんも楼透のことは結構気にかけて可愛がってたと思う。···正直な話、何度かそんな楼透に嫉妬して八つ当たりしては父さんと喧嘩した。理由は恥ずかしくて正直に言えなかったし、楼透は親友で弟みたいなものだったから余計に言えなかった。
楼透を連れ戻すのは俺の為でもあるし、俺たちの今後の為でもある。せめて葬式にはちゃんと楼透にも出てもらいたい。じゃなきゃ、俺だって諦められない。
修行の為?楼透への罰?そんなん知らない。
俺が許すか許さないかで、楼透が俺の目を見て謝るか謝らないかだ。
取り戻してやる。
絶対に。楼透に帰って来てもらう。
······とか、何とか意気込んでた奴どこ行った···?
「·······ハァ······?······バカですね、、入り、込んで·····出られなく、なった···と言った所、、でしょうか···。ハァ······ッ、早く、、ここから、去り、なさッ···い······」
目の前には顔色が悪く、息も絶え絶えに俺へと手を伸ばす楼透の姿だった。ハァハァと荒く弱々しい呼吸に心配になる。···ん?待て、今コイツ俺の事バカって言わなかった?言ったよな!?ふざけんな──っ、きゅぅ!
ぎゅむ。っと片手に握りこまれた“俺”は身動ぎも出来ずにただ体を強ばらせただけだ。残念ながら今の俺の体のサイズではどうしようもない。
···くそぅっ。
掴まれたのが“しっぽ”だったら切り離して逃げてやるのに!!
「·······早く、、逃げなさい」
体を引き摺るように動かす楼透はそう言ってこの密室の扉の僅かな隙間へ俺を差し出す。このまま、その隙間へ体を差し込めばこの場からは逃げられるだろう······でもそうしたらもう二度と楼透に会うチャンスが無くなるかもしれない。
それは嫌だ······!!
『楼透の馬鹿たれっっっ!!』
「ッ···!?」
プツリと切れた糸の先。
手を伸ばす父と母の姿。
俺も必死に両親へと手を伸ばしたけど。
俺は深く深く底の見えない闇に落ちていく···。
何処まで沈んだのか、どれ位の時が経ったのか。
まだ落ちて、堕ちて、墜ちて······。
息が出来なくなって、苦しくなって。
涙が溢れてきて、溢れた涙で視界が余計遮られて。
そこへ一羽の烏が目の前を過ぎった。
思わず俺は目を閉じて息を止めた。
そしたら、急に体が軽くなって苦しかった呼吸も楽になって。
次に目を開けたら──。
『不安か』
『委ねろ』
『漲る』
『堕ちて行け』
『全てはお前の為だ』
『安寧の為···』
『犠牲』
『恐れは片時よ』
『血の濃さ故に』
『消せ』
『痛み』
『憐れな』
『いらない』
『必要無い』
『無用だ』
『無意味だ』
『不憫』
『心許無い』
『染まれ』
『怯えるな』
『消えろ』
──────────────────────────
「律花様·······?」
余りの恐怖に叫び、飛び起きた俺は禅羽さんが寝る前に喉が乾いた時用にと用意してくれていた枕元の水筒に飛びつくように手に取ると中の冷水を一気に飲みほした。冷たい液体が喉を潤し、頭が冷えていく。
俺は空になった水筒を握りしめて宙を睨む。
·······あぁ、そうだ。俺は夢を見てたんだ······。
暗くて、深い闇に囚われて······目を開けたら──。
「···どうかなさいましたか?」
隣の布団の中から心配そうな禅羽さんの声が聞こえる。恥ずかしい話だが、禅羽さんに今日は一緒に寝てくれないかと頼んでしまった。それが災いしたな···また迷惑を掛けてしまった。
「·······でっかいゴキに追っかけられる夢を見た」
「·······成程。それは確かに叫んでしまいますね」
何とか誤魔化せた様だ。「もう大丈夫だ」そう一言いってから、俺も布団に潜り込む。右に体を傾けると禅羽さんと目が合った。中々に気まずい。
「···そう言えば俺、禅羽さんの事名前で呼んでたけど大丈夫?」
「主が私を何と呼ぼうと私に拒否権はありませんよ」
「···いやそうじゃなくてさ、禅羽さんは嫌?」
「·······いえ特には」
時々禅羽さんも楼透と同じように何処か一線引いたような反応をする。やっぱり主と従者の関係って大切何だろうか······俺は何も分かってないんだろうけどやっぱり寂しいと思う。
「そっか、じゃこれからも禅羽さんって呼ぶから。宜しくな」
「······承知しました」
おやすみなさい、とそう一言いってまた俺は目を閉じる。
···多分寝れないだろうけど、閉じておくだけ。
さっき見てた夢の続き。
小さな子供が、真っ黒なローブを被った大人たちに嫌な言葉を掛けられながら黒い鎖で縛られていく夢·······雁字搦めにその鎖が子供の体を覆い尽くして、最後にその子の唇は確かに『たすけて』と動いた。
その悍ましい光景に俺は叫び声を上げた。
その子供が誰なのかは分からない。手を伸ばそうと気づいた時にはもう禍々しい程に黒い鎖の繭が出来上がっていた。怖かった·······今までが感じた恐怖に比べ物にならないくらい。勿論、視力のない状態で凌辱された時も千秋に監禁された時怖かったけど同等以上に怖くて仕方が無かった。
·······禅羽さんに言えない。
怖くて、まるで口に出せない。
トラウマって、こう言うのをいうんだよな。
結局あれから一睡も出来ずに寝返りを打ってばかりだった。禅羽さんの方を向いたら俺が怖がってるのがバレそうだし、目を閉じたらまたあの夢を見そうで閉じられなくなって、でも開けたままだと暗闇があの夢と重なって見えて怖くて·······必死に広い草原の柵を飛び越えてくメーメ達(前世で言う羊に似た魔物)を想像し、いつの間にか冊を飛び越えてくのが兄貴と千秋に変わって俺を追っかけ始めた頃に夜が明け出した。
結局悪夢しか見なかったという事だ。
ギャーギャー、ギャーギャー、と外でククリコッコの鳴く声がする。······昨日も思ったがやっぱりコケコッコーじゃないんだな。見た目だけならデカい鶏なんだけど。
「律花様、おはようございます」
「あ、れ?禅羽さん起きてた?」
「はい、少し前に。朝食にと卵粥を作ってきました···作戦の為とは言え質素な物で申し訳御座いません。しかし昨夜の事もありますから消化に良い物をと思いまして」
そう言っていつの間にか無くなっていた禅羽さんの布団があった所に、つまり布団で未だに横になってる俺の前に持ってきた朝食の膳を置いた。ふわりと温かい湯気に混じって出汁の良い匂いがする。
「昨夜も申し上げましたが、本日律花様は心労の為に寝込んでしまっている事になっております。ですので、お暇でしょうが本日は決行の時間までこちらのお部屋に居て下さい」
「分かった。色々と有難うな」
「いいえ、礼を言われるようなことは何もしておりませんので。ご入用の物があれば言って下さい、直ぐに持って参ります」
「じゃあ、トランプしよ」
「カードゲームですね。···手加減はしませんよ?」
「望むところだ」
「その前に朝食をしっかり食べて下さいね」
早速トランプの箱を持ってきたカバンから取り出そうと腕を伸ばすとその手に匙を握らされる。あ、そっか。トランプに気を取られて折角温かい卵粥を忘れる所だった。トランプ、急いで準備してたからお泊まり道具一式に入ってたんだよな···骨折り損だったが。
禅羽さんはまたクスクスと笑うと粥の入った一人前用の鍋の蓋を開ける。むわりとさっきまでとは全然違う勢いの湯気と優しい出汁の香りが胃を刺激する······めっちゃお腹空いてる。「···頂きます」と慌てて手を合わせて、お椀に移された粥を一掬いふーふーと冷ましつつゆっくり口に運ぶと眼前でもう······美味い。出汁·······ふわふわの卵······アクセントのミツバ·······誰だ!?こんな美味い粥を作ったのは!?
「お味は大丈夫でしたか?本家の料理人は早朝早くに山菜を取りに行ったらしく不在だったので私が作らせて頂いたのですが·······」
ここに居た······天才料理人···ここに居た········!!
「美味いです、めちゃくちゃ美味いです···!都築さんに引けを取らない美味さだ······!!」
「そうですか、それは良かったです」
敬語に戻ってますよ、と言う禅羽さんの声にハッと我に返りつついくら腹が減っていたとは言え止まらない匙に自分でも驚いている。······やばい。また太りそうな気がする···。一人前用とは言え、鍋だ。粥とは言え、鍋に入ってたんだぞ···?それをこの短時間で食べきろうとしてるなんて······。
「·······禅羽さん、家に帰ったらダイエット付き合ってくれません?」
「何を仰います。律花様はもう少し肉を付けられても良いと思いますよ」
「···何を根拠に?」
そこからは禅羽さんが力説しだしたので諦めることにした。人生諦めちゃいけない事と諦めないと先に進まないことがある。これは後者だ。
でもホントどうしよう······俺結構ぷよぷよだぞ?このままじゃ、どのルートへ行ってもヒモになりそうで自分の将来が怖いわ。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした。お口にあったようで何よりです」
音の一つも立てずに食膳を片付けていく禅羽さん。こんな人の事を器用な人って言うんだよな。俺も余り甘えてられない。
「よし!神経衰弱やろっ」
「···成程、鍛錬が足りないと言うことですね。私が不甲斐ないばかりに律花様にまで気を使って頂いて·······精進します」
「いや違うから。2人じゃババ抜きしてもつまんないからだから」
なんて言いつつトランプを切る。
······ほんとに小さい頃だけど、俺と父さんと母さんと兄貴と楼透でトランプして遊んだっけな。その時も楼透は困った顔して連行される宇宙人みたいに父さんと母さんに捕まってた。主と従者ってのが嫌いなのは俺だけじゃなかったんだよな。 本当に色々と強引で自分勝手で心配性で親バカで·······大好きな両親だった。
父さんも母さんも楼透のことは結構気にかけて可愛がってたと思う。···正直な話、何度かそんな楼透に嫉妬して八つ当たりしては父さんと喧嘩した。理由は恥ずかしくて正直に言えなかったし、楼透は親友で弟みたいなものだったから余計に言えなかった。
楼透を連れ戻すのは俺の為でもあるし、俺たちの今後の為でもある。せめて葬式にはちゃんと楼透にも出てもらいたい。じゃなきゃ、俺だって諦められない。
修行の為?楼透への罰?そんなん知らない。
俺が許すか許さないかで、楼透が俺の目を見て謝るか謝らないかだ。
取り戻してやる。
絶対に。楼透に帰って来てもらう。
······とか、何とか意気込んでた奴どこ行った···?
「·······ハァ······?······バカですね、、入り、込んで·····出られなく、なった···と言った所、、でしょうか···。ハァ······ッ、早く、、ここから、去り、なさッ···い······」
目の前には顔色が悪く、息も絶え絶えに俺へと手を伸ばす楼透の姿だった。ハァハァと荒く弱々しい呼吸に心配になる。···ん?待て、今コイツ俺の事バカって言わなかった?言ったよな!?ふざけんな──っ、きゅぅ!
ぎゅむ。っと片手に握りこまれた“俺”は身動ぎも出来ずにただ体を強ばらせただけだ。残念ながら今の俺の体のサイズではどうしようもない。
···くそぅっ。
掴まれたのが“しっぽ”だったら切り離して逃げてやるのに!!
「·······早く、、逃げなさい」
体を引き摺るように動かす楼透はそう言ってこの密室の扉の僅かな隙間へ俺を差し出す。このまま、その隙間へ体を差し込めばこの場からは逃げられるだろう······でもそうしたらもう二度と楼透に会うチャンスが無くなるかもしれない。
それは嫌だ······!!
『楼透の馬鹿たれっっっ!!』
「ッ···!?」
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